小野市うるおい交流館 ─ 愛称”エクラ”─
兵庫県小野市が、市民活動の拠点施設として建設を進めていた小野市うるおい交流館が2005年3月にオープンを迎えた。小野市は、神戸市の北東内陸部に位置する東播磨地域の中心都市で、特産のそろばんや家庭刃物が有名である。うるおい交流館は、市立の総合体育館や図書館が整備されている文化・スポーツゾーンの一角に建ち、隣接するショッピングセンターと合わせた市民の交流の場の中核施設としての役割を負っている。
愛称”エクラ”
”エクラ”は、フランス語の輝く(=eclat)をヒントにしたうるおい交流館の愛称で、一般公募により選ばれた。”市民が集い、交流し、輝く”場所、Excellent / Creative / Landscapeのカタカナ頭文字:すばらしい価値あるものを創造するところ、転じて可能性のある場所 、関西弁で良い蔵”ええくら”:蔵の中から価値あるものが飛び出す、という複数の意味・意識が込められている。
NPO(特定非営利活動)法人による管理・運営
平成15年に地方自治法の一部が改正され、公共の文化施設やスポーツ施設の管理方法が「管理委託制度」から「指定管理者制度」に移行された。これらの施設の管理はこれまで公共団体の出資法人や公共団体が組織した団体だけにしか委託できなかったのが、この改正で民間の事業者、NPO法人、ボランティア団体などに委託することが可能になった。うるおい交流館は、この指定管理者制度によりNPO法人北播磨市民活動支援センターに管理・運営が委託されている。市民が主体となって、施設の維持管理だけでなく企画運営も行うということで全国の注目を集めている。同センターは施設の設計段階から設計チームとの協議を頻繁に行い、また新しく購入されたピアノ(スタインウェイ)の選定や上記愛称募集でも中心的役割を果たした。
うるおい交流館の概要
うるおい交流館は地下1階・地上2階の複合施設で、エクラホール、ハートフルサロン、スタジオと呼ばれる練習室、会議室、サークル室ほかで構成されている。設計監理:(株)佐藤総合計画、劇場コンサルタント:ATネットワーク、施工:(株)鴻池組である。当社は、施設全体の音響設計監理を担当した。
エクラホール
エクラホールはうるおい交流館の中心施設で、客席数502席の音楽主体の多目的ホールである。ホールの平面は楕円の一部を切り抜いた形状で、音響反射板を組んだ状態の天井ラインは、ステージから客席にかけて滑らかに繋がるすっきりとしたデザインである。この形状は、本ニュースでも紹介した同じく佐藤総合計画の設計による大阪・和泉市の弥生の風ホールと似ている。同ホールを見学したうるおい交流館建設関係者との協議の中で、相似形状の採用が決まったとのことである。両ホールは形状の点で姉妹ホールと言えよう。
空席時・中音域の残響時間は、音響反射板を設置したコンサート形式1.7秒、舞台幕設備をセットした講演会形式1.3秒である。残響時間の変化幅0.4秒は舞台設備の転換のみによるもで、様々な用途に適した響きのホールである。
ハートフルサロン
うるおい交流館のシンボルがハートフルサロンである。2階吹き抜けの円筒形空間(直径28m)で、壁面の大部分はガラス張りである。極端な音の集中を防ぐために天井中央部分は下向きの凸面となっている。床面のカーペット仕上げと円形天井周縁のトップライト壁面の吸音材張りにより空間の響きの調整を行った。空室時の残響時間は2.5秒で、音の集中もほとんど感じられない。展示・レセプション・ミニコンサートなど多目的に利用され、 喫茶コーナー、ITコーナーも併設されて気軽に集える交流スペースとなっている。
ホールの響き
残念ながら実際の催し物に接する機会はまだないが、オープニングシリーズの1つで、新規購入ピアノの選定者でもある梯剛之氏のリサイタルはすばらしい演奏会であったという。梯氏にもホール・ステージの響きを気に入っていただけ、今後のリサイタルツアーのスタートかフィナーレは是非エクラホールで行いたいという、うれしいコメントをいただいた。市民が主体という新しい方法で管理・運営されるうるおい交流館の今後の活躍に期待する。 (小口恵司記)
うるおい交流館 http://www.eclat-hall.com/index_flash.html
指定管理者制度 http://www.zenkoubun.jp/siteikanri/pdf/arts_2005_50.pdf
リブが鳴く?―リブからの反射音群による音響現象―
リブが鳴く?と言っても、今さら真夏の怪談話ではなく、今回の話題は日光東照宮の“鳴き竜”のような音響現象の話である。鳴き竜も竜の絵の下では一興だが、ホールや講堂など音響が重視されるスペースでは、障害となることもあり、おもしろいとばかり言ってもいられない。
ニュース 掲載No. | タイトル |
---|---|
13 , 140 | 東京文化会館大ホール |
75 | 高崎シティホール市民ホール |
85 | 那須野が原ハーモニーホール |
94 | 札幌芸術の森アートホール |
95 | 京都コンサートホール |
96 | 棚倉町文化センター |
137 | アミュゼ柏 |
156 | トッパンホール |
158 | 知立市文化会館 |
160 | 徳島文理大学むらさきホール |
161 | 山形勤労者総合福祉センター |
174 | 大泉学園ゆめりあホール |
179 | 室蘭市市民会館 |
180 | めぐろ区民キャンパス |
186 | 戸畑市民会館 |
187 | 札幌コンベンションセンター |
188 | 朱鷺メッセ |
190 | 和泉シティプラザ |
199 | 明治大学アカデミーコモン |
205 | 行徳文化センター |
210 | 軽井沢大賀ホール |
Opinions” Articles that Mention
Ribbed Wall Treatments
ここで言うリブとは、例えば京都の町屋に見られるような格子、細い材料が同じ形状・同じ間隔で連続して配置されるような形態をイメージして欲しい。整然と均等に並ぶ姿が美しい“リブ”だが、長い距離に渡って配置された場合、その空間に足を踏み入れた途端、足音に呼応して“ピュイッ”と特異な音を聞くことがある。このようなリブの特異音に起因する音響的な障害としては、衝撃的な打楽器音などの音源に対して「特異な響きが付いて楽器の音色が変わる」、一部の周波数の残響音だけが強調され「拡声音が聞き取りにくくなる」などがある。また変な音がするということ自体への違和感もある。本紙でも、表に示すように、内装にリブが用いられた施設の報告があるが、そのどれも鳴かせないための工夫がコメントされている。
「リブが鳴く」メカニズム
リブによる特異音のメカニズムについては、最近の音響学会や建築学会においても実験結果等の報告がある。均等に並ぶリブ一本一本に当たって受音点に戻ってくる反射音は、リブの間隔に応じた経路差=時間差を持って連続する反射音群となる。同じ大きさのリブが均等に並び、かつその面全体が一直線あるいはなだらかなカーブの面であると、その反射音群の時間構造は、何らかの規則性を持つことになる。前述のように、手を叩く、足音をコツンと響かせるというような短い衝撃的な音に対して、リブの規則性に起因した特定の周波数が強調されて、その結果 “ヒュイッ”とか”ピュイッ”などという音として聴こえる。反射音群の長さが長くなると、すなわちリブの配置が長くなると、その現象はより際だち、聴感的にも認められやすくなると考えられる。
鳴き竜の現象は、床と天井の大きな反射面間で往復反射音が生じ、一定の時間間隔で集中して反射音が到来するために“ブルルーン”といった音が聞こえる現象だが、リブの場合には反射音が到来する時間間隔が、規則的に変化するために生じる特異現象である。
音響的なリブの使用例
音響的なリブの使用例としては、まず吸音面の意匠的な保護材としての用途があげられよう。手が届くホール後壁などで強度的に弱いグラスウール吸音材の前面に、音を吸音材まで通過させながら直に吸音材に手が触れないように設置される。寸法は30~50mm□程度の角材を、幅と隙間の寸法が等しい「小間返し」で均等に配置することが多い。また吸音カーテンや、グラスウールボードなどの吸音材が設置・収納される音響調整スペースの音響透過面としてリブが使用されることも多い。例えばステージ廻りの壁で、デザイン的にリブの壁を変えずに、その背後の空間で吸音と反射の音響特性を変化させることができる。
また、ここで話題とするリブは、細い同じ形状のものが同間隔で並ぶということであるから、高音域の反射音を拡散し和らげるため反射面に取り付けられた凹凸なども同間隔で並ぶとこれにあてはまる。よく鉄板やスレート板などで見かけるような一様で細かい寸法の波板や、目地の深いカマボコ状のタイルなどもそうである。
Example of arrangement of random lattices
(Kyoto Concert Hall, Kyoto, JAPAN)
Example of arrangement of lattices to irregular surface of a wall
(Hibiki Hall, Kitakyushu, JAPAN)
Example of arrangement of random lattices on a reflective surface for diffusion
(Muza Kawasaki Symphony Hall, Kawasaki, JAPAN)
リブを導入するにあたって
基本はリブからの反射音群が“規則的な反射音列にならないように崩す”ことで次のような方針が考えられる。
◎ リブをランダムに配置し、配置間隔の規則性をなくす。
◎ リブの形状を変化させ、リブ一本一本の反射特性を変える。
◎ リブが配置される壁・天井面の基本的な形状を一様な連続した長い面としない。
しかし、今まで多くのホール後壁面の吸音保護材として使用されても音響障害となっていないように、物理現象として反射音群は生じても、リブの設置位置(音源位置との関係)・リブの並ぶ長さ・リブ間隔などにより、その空間用途に対して支障とならない場合もある。このような特異音生成のメカニズムがわかってきても、それが聴感的に認められるかどうか、また支障となるかどうかの判断は一概には難しい。どの程度規則性を崩せばよいか?リブの連続する長さはどの程度までなら支障ないか?など、今までの経験則が重要な判断材料となっている。より柔軟な意匠計画が可能となるように、判断指針についてのさらなる検討が今後の課題と考えている。 (石渡智秋記)
[訂正とお詫び]
前月NEWS8月号:逗子文化プラザホールの記事においてピアニスト小山実稚恵さんのお名前に誤りがありました。訂正しお詫び申し上げます。(誤:美稚恵→正:実稚恵)
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