No.179

News 02-11(通巻179号)

News

2002年11月25日発行
ホール内観

暮らしの広場として…室蘭市市民会館オープン

 今年7月、室蘭市輪西町に室蘭市市民会館がオープンした。約500席のホールを中心に、ホールのホワイエを兼ねた交流・展示ホール、リハーサル・視聴覚室、会議室、図書館分室等で構成されている。この市民会館は併設された商業施設と一体となった地域再開発の中核施設として、地元商業者で構成された民間事業者によって計画・建設されたところに特徴がある。

建設の経緯

 かつて鉄鋼業の企業城下町として栄えた輪西地区は、鉄鋼関連企業の合理化が始まった昭和50年頃を境に人口の流出が始まり、コミュニティースペースの閉鎖や旧市民会館(昭和35年開館)の老朽化、空き店舗の増加など都市環境の老朽化・空洞化が進んでいった。このような状況のなか、地元では平成6年に商業者が中心となって地域活性化の検討が始まり、住民の声を集めながらさまざまな議論が重ねられてきた。そして平成11年に市街中心部を「暮らしの広場」と位置づけ、商業施設と市民会館が一体となった本施設を中核とする再開発事業構想がまとめられた。行政側もこれに連携・協力し、地元の人々が主体となった公共施設を含むまちづくりが実現に向けてスタートした。事業主体は地元商業者が設立した(有)輪西開発で、事業コーディネートおよび施設設計・監理はI.N.A.・室蘭建築設計共同組合共同企業体、建設工事を始めとする業務代行者は新日鐵・太平工業・ニッテツ室蘭エンジニアリング・東海建設共同企業体である。平成13年5月に着工し、同年10月に商業施設棟が、今年5月に市民会館棟が完成した。

ホールの概要

 ホールはクラシック音楽を主体とした多演目対応ホールで、幅19m×奥行き30m×プロセニアム高さ11.5m、ワンスロープの客席をもつ。クラシック音楽に適した響きを得るため、1席当たりの室容積は約12m3と余裕ある空間を確保した。内装は折れ壁とリブによる大小の凹凸を組み合わせ、広い周波数範囲で音の拡散を意図した。舞台後壁下部のリブ背後にはカーテンを設置し、演目にあわせて舞台上の響きの微調整を可能とした。

 多演目への対応として、舞台先端の天井と側壁から舞台幕が引き出せるようになっており、回転式の舞台側壁の開放と併せて、簡単なプロセニアム形式の舞台に転換できるようになっている。その際には客席後方の側壁上部に収納されている吸音カーテンを設置することで響きを抑えられるようにし、短めの響きが好ましい集会やポピュラー音楽系の催し物にも対応可能とした。

 ホールの残響時間(500Hz)は舞台反射板+吸音カーテン収納時が空席時1.6秒/満席時1.4秒(推定値)、舞台幕+吸音カーテン設置時が空席時1.1秒/満席時1.0秒(推定値)である。また舞台に反射板設置の状態で吸音カーテンを設置した時の空席時の残響時間は1.4秒で、ちょうど吸音カーテンを収納した状態での満席時の残響時間と同じであるため、吸音カーテンを設置した状態でリハーサルを行い、本番では吸音カーテンを収納することで、本番に近い響きの長さでリハーサルを行うといった使い方も可能である。
 舞台音響設備は、プロセニアム中央とプロセニアムサイド、ステージフロントに設置した固定のスピーカを基本に、必要に応じて使用できる移動式のスピーカを備えた。また調整室とは別に舞台袖にも小型のミキサーと音源機器を設置し、専門の技術者でなくても簡単な拡声や音楽再生が行えるよう市民利用に配慮した。

ホールの残響時間周波数特性

騒音制御・遮音計画

 機械室がホールと隣接した3階部分に配置されているため、機械室床には浮き床を採用し、ホールならびに階下諸室への機械振動の伝搬防止を図った。また機械室のホール側の壁はコンクリートとブロックによる二重壁とした。ホールの空調騒音は舞台・客席ともにNC-20である。

 リハーサル・視聴覚室は、ホールと廊下を挟んで隣り合っている。また図書館と隣接し、上階が会議室であることから、リハーサル・視聴覚室にはグラスウール浮き床と石膏ボードの遮音層による防振遮音構造を採用した。リハーサル・視聴覚室→ホール間の遮音性能(500Hz)は94dBである。

施設運営

 市民会館の企画・運営は、事業主体メンバーを中心に室蘭文化連盟、室蘭文化協会などのメンバーで構成された市民会館運営委員会(NPO)が、室蘭市から委託を受け、おこなっている。利用者からの様々な要望に応えていきたいと、民間ならではの柔軟な対応に積極的である。施設の計画・建設・運営の全てにおいて民間が主体となった全国でも希なケースではないだろうか。

 ホールでは室蘭出身のピアニスト、田部京子さんによるオープニング・リサイタルを皮切りに、チェロやゴスペル、合唱、吹奏楽など様々なコンサートが行われ、7月23日にはPMFインターナショナルズによるアンサンブル演奏会も行われた。市民の利用申込みも順調とのことである。事業に携わった方々の思い通り、市民会館が商業施設と共に地域の「暮らしの広場」として、地域活性化の原動力となることを期待したい。(内田匡哉記)

問い合わせ:室蘭市市民会館:0143-44-1113

松尾楽器商会ショールームが日比谷に移転オープン

 株式会社松尾楽器商会のショールームが日比谷交差点角の朝日生命日比谷ビルB1階に10月11日オープンした。ショールームには、スタインウェイのフルコンサートグランドが演奏できるスタジオ3つと、ハープ用のスタジオが1つ併設されている。松尾楽器商会はご存じのとおり、スタインウェイをはじめとするピアノや、サルヴィ、ライオン&ヒーリーのハープなどの輸入販売を手掛ける老舗である。今年9月まではカザルスホール隣のお茶の水スクエア内で営業していたが、主婦の友社がカザルスホールを含めたお茶の水スクエアを売却し、それにともなう新規計画のため、移転することになった。

 設計は弊社のOBでホームシアターや練習室、ホールなどの実績の多いエイ・アンド・エイ・デザイン一級建築士事務所の山本剛史氏、施工は日東紡音響エンジニアリングである。永田音響設計は音響設計を担当した。

エントランス

ショールーム

 ショールームでは、スタインウェイの各種モデルやサルヴィ、ライオン&ヒーリーのハープが試弾可能な状態で展示されている。その一角には、防音扉で仕切られた調律スペースがある。ショールームの天井はグラスウールのクロス巻き貼りの吸音仕上げとし、床はフローリング、壁はガラスやボードというライブになりがちな空間の響きを抑えた。

ショールーム

スタジオA

 スタジオAはコンサート、発表会、研修会などにも使用される80席の客席が用意された空間である。階高が梁下約2.8mの既存オフィスビル内での計画であり、天井高が十分には確保できなかったため、梁型内の天井は下に凸のR形状として、できるだけ天井反射音を拡散させることを考慮した。また、側壁もリブとカーテンを分散して配置し、反射音の拡散を計っている。ステージには、楽器の種類・演奏形態、また演奏者の好みに応じて音響状態の調整が可能なように、ステージ奥両隅とステージ奥正面壁に音響調整箇所を設けた。ステージ奥両隅は扉を開くとグラスウール仕上げ面が現れる仕掛けとなっている。正面壁は50%開口の横リブの2重構造とし、裏側の横リブを上下させることによって、リブ間の開口を開閉することができる仕組みを考えた。正面壁はその背後にあるピアノ庫の扉も兼ねており、ピアノ庫内をグラスウール貼りの吸音仕上げにすることによって、リブ間を開口にした場合には正面壁は吸音仕様となる。これらの調整による残響時間の可変幅としては0.1秒程度だが、調整箇所がステージ周辺にあるため、聴感的には響きがかなり変わる。

スタジオB・C・H

 B・C・Hの3つのスタジオは主に練習用に使われるもので(床面積約5~16m2)、フルコンサートグランドがBには2台、Cには1台設置されている。Hはハープスタジオとして使われ、ハープ教室も行われている。それぞれのスタジオは楽器搬入後、楽器の音に合わせて室の響きの調整を行った。

スタジオB

地下鉄固体音と遮音対策

 地下鉄からの便利が良いということは、すなわち近くを地下鉄が走っているということで、ビルの2方に隣接して走る千代田線・日比谷線による固体音の影響が懸念された。計画段階で現地躯体の振動測定を行ったところ、その結果から予測される地下鉄走行時の固体音はNC-40程度にもなることがわかった。そこでスタジオについては室間の遮音性能の確保も兼ねて、すべて防振ゴム支持(固有振動数10Hz以下)による防振遮音構造を採用した。スタジオの入口扉については、通常防振遮音構造を採用する場合には、防振側と固定側に1枚ずつ合計2枚の防音建具を設置することが基本となるが、本計画では限られたスペースの中にスタジオが隣接して計画されたため扉を2枚設けることが難しく、ピアノの発生音量から検討した結果、40dB級の防音扉をすべて防振側に一枚ずつ設置した。

 竣工後の測定の結果、地下鉄走行時の固体音はNC-15~20程度であり、スタジオの空調設備動作時(NC-25)においては、走行音はまったくわからない状態である。また、各スタジオ間の遮音性能は500Hzで80dBが確保されている。
 各スタジオは基本的に貸しスタジオとして稼働しており、レッスン、コンサートにと予約が多数入っていると聞いている。また、お茶の水の時と同様に若手にステージ経験の場を提供していくことを目的に、スタジオAでは松尾楽器商会主催によるコンサートも行っていくとのことである。地下鉄日比谷駅に直結して交通至便なところにあり、仕事の帰り、銀座でのショッピングのついでに、専門楽器店ならではのメンテナンスが行き届いた楽器の音色を、コンサートで、また実際に弾いて、楽しんでいただきたい。 (石渡智秋記)

スタジオ問い合わせは0120-00-4331、コンサート情報はhttp://www.h-matsuo.co.jp/で。

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