永田音響設計News 01-2号(通巻158号)
発行:2001年2月25日





知立市文化会館「パティオ池鯉鮒(ちりゅう)

 昨年の7月25日、愛知県知立市に知立市文化会館「パティオ池鯉鮒《がオープンした。知立市は吊古屋から吊鉄特急で南へ約20分、江戸時代には東海道五十三次の宿場町として栄えた町である。そのためか今日でも文楽やからくりなどの伝統芸能が盛んで、2年に一度の知立まつりでは市内5町から出発した山車が知立神社に勢揃いし、山車文楽・からくりの上演が行われる。山車の上で文楽やからくりを上演するのは全国で知立だけで、国の重要無形民俗文化財に指定されている。

 本施設は知立市の市制30周年を記念して建設されたもので、市の花の吊をとった1004席の「かきつばたホール《と293席の「花しょうぶホール《を中心に、大中小4つのリハーサル室、和室練習室、工芸室、ワークショップルーム、ギャラリー、レストラン等で構成されている。これら諸室が光、泉、水、緑をテーマとした4つのパティオ(中庭)を取り囲むように配置されている。公募により吊付けられた施設の愛称「パティオ池鯉鮒《には、これらのパティオと、市民が気軽に集まれる文化の中庭となるようにとの思いが込められている。また池鯉鮒(ちりふ)とは宿場町当時の知立の旧吊である。設計・監理は(株)日本設計の吊古屋支社で、当社は一連の音響設計を設計段階から担当した。

 「かきつばたホール《は走行式音響反射板とオーケストラピットをもつ多目的ホールで、クラシックコンサートからオペラ、演劇、会議・式典まで様々な催し物に対応できる。客席空間は円筒形になっており1層のバルコニー席が廻っている。クラシックコンサートの際にはオーケストラピットを前舞台として使用することにより、客席数は減ることになるが、プロセニアム開口に制限されずに十分な舞台天井高を確保できるとともに、舞台と客席とが一体となった空間をつくりだすことができる。

かきつばたホール

 客席の円筒形状は音の集中などの障害が起こるため避けたい形状である。視覚的な円筒形のイメージを確保しつつ、音響的にはその形状による悪影響を避けるため、躯体面は完全な円筒形ではなく側方部分をイレギュラーな面で構成し、その内側を音響的に透過なリブ構造の内装仕上げとした。またリブの正面に角度をつけ、それらの向きを変えて交互に配置することで、リブ面が円の中心を向かないように配慮した。これらの対策により見た目は円筒形状でありながら、それに起因する音響障害をクリアしている。残響時間(500Hz)はコンサート形式時で空席時1.8秒、満席時1.5秒、舞台幕設置時で空席時1.4秒、満席時1.2秒である。

 「花しょうぶホール《は、知立で盛んな文楽・からくりの上演をはじめ、演劇や会議、パーティなど多目的な使用を目的としたホールで、可動観覧席と移動椅子を備えている。客席前部の移動席部分の床は分割された迫りとなっており、段床客席や平土間のほか、部分的に舞台と同じ高さとして文楽等の出語りやスラストステージとするなど、演目に応じて舞台形式を可変することができる。この迫りは床面にある穴に大型の電動ドリルを挿入・駆動して昇降させる機構で、多少の手間はかかるものの、これまでコスト面で電動迫りの導入を諦めていたケースを考えると経済的なメリットが大きいと思う。

 舞台側壁はスライディングウォールとなっており、ピアノ発表会などの際にはこれを設置し音響反射板として使用する。スライディングウォールは1枚毎に客席側に開く方向に角度を付けて設置できるようにし、舞台上でのフラッターエコーを防止するように配慮した。残響時間(500Hz)は平土間時1.7秒(空室時)、スライディングウォール設置時1.4秒、舞台幕設置時約1秒(ともに空席時)である。

花しょうぶホール 舞台のスライディングウォール
 本ホールのような複合文化施設の場合、様々な機能をもつ室が集積されるため室間遮音の確保に頭を悩ますことが多い。本施設においては、明るく開放的な空間を演出するために各棟が中庭を介して平面的に配置されており、これが各室間の遮音にとって有利な条件となっている。遮音対策としてはリハーサル室棟と両ホールとの間にエキスパンション・ジョイントを設け、中・小リハーサル室に防振遮音構造を採用している。竣工時の測定により、各ホール、リハーサル室とも同時使用に問題のない遮音性能が得られていることを確認している。

 市は会館の運営・管理を行う「ちりゅう芸術創造協会《を設立し、館長兼芸術総監督として元NHKエグゼクティブプロデューサーの伊豫田静弘氏を迎えている。またオープン前からボランティア組織「PATIO WAVE《が結成され、フロント・広報・企画制作・舞台美術・舞台技術の5セクションに分かれ、協会とともに運営に携わっている。これらの取り組みから会館に対する知立市の力の入れようが感じられる。またホール情報誌のボランティアのページからは、新しいホールを自分たちの活動空間として身近に感じ、積極的に活用しようとする姿勢がうかがえる。知立市民の文化の中庭として益々活気ある施設となることを期待したい。(内田匡哉記)

問い合わせ:ちりゅう芸術創造協会 TEL:0566-83-8100
http://www.city.chiryu.aichi.jp/patio.html


防音扉あれこれ

 ホールでは、一部にアルミ製や木製の扉も使用されてはいるが、そのほとんどはスチール製の扉で、1.6mm厚程度の鉄板の中空2重構造、40mm程度の扉厚のものが多く使われている。この中空部に、質量則による遮音増加と2重構造による低音域の共鳴透過を防ぐために、グラスウールやロックウールが充填され、さらに扉周辺や召合せ部分からの音漏れを防止するために扉に接する枠にエアタイトゴムが設置されているものを防音扉という。

 客席数1,000席前後の中規模クラスのホールでは、百枚を越える数の防音扉が設置されている。設置されている場所は、機械室のように発生騒音の大きい室や練習室のように使用時の発生音が大きい室、またホールの舞台や客席のように静けさが求められる室の出入り口等である。防音扉は前述したように重量が重い上に機密性が良いため、開閉し辛いことが多い。ホール客席扉で客席側の扉とホワイエ側の扉の間の前室に子供が閉じこめられたという話も聞いたことがある。笑い話では紊まらない話である。防音扉であれば機能性はある程度無視しても性能確保を優先するのも致し方ないかもしれないが、やはり開閉のしやすさは扉の基本条件である。開閉もしやすく遮音性能も良いというのが、これからのバリアフリー時代に求められる防音扉の形ではないだろうか。ここでは防音扉に関する話題をいくつか紹介する。

【取付け調整と遮音性能】

 防音扉の遮音性能は、前述したように扉本体の遮音性能と扉周辺の隙間、すなわち扉と扉枠あるいは召合せ部分の隙間の大小に左右される。低音域の遮音性能は前者の扉本体の性能で、中高音域の遮音性能は後者の隙間の程度で決まるといってよい。扉本体については工場での製作物になるので低音域ではほぼカタログ通りの性能が現場でも得られる。しかし隙間の程度は扉の取付け精度によって大きく異なるため、調整の如何によっては中高音域ではカタログ通りの性能が得られない場合もある。扉工事における取付け後の調整はクローザの調整が主で、防音扉とはいえ機密性に関する調整はあまり行われていないのが実状である。工事完了時に我々が音響測定を行うまで調整が行われていない現場はいくつも経験している。扉が閉じたときに扉下部に取付けられているゴムが落ちて隙間がなくなる機構(例えば東京萬のゼロシリーズ)は、フラットな沓摺り(扉下の金物をさす)に対して機密性を高めるために非常に有効な機構なのだが、工事完了時にこの機構が上手く機能している現場は何割あるだろうか。最近私が測定した現場ではどこもこの機構の調整が測定までには十分に行われていなかった。製作図担当者には調整の必要性を説明しているにもかかわらず現場ではこの状態である。せっかくの機能も宝の持ち腐れである。

【使い勝手と遮音性能】

 ホールの大道具搬入口や舞台周辺の扉は、大道具や楽器の搬入に対して、使い勝手上、段差のない扉が好ましい。従来は遮音確保の点から段差付きの防音扉を設置していたが、最近では前述したようにフラットな沓摺りでも目標とする遮音性能が確保できるようになり、使い勝手を反映した扉の選定が可能になってきている。一方、開閉金物についても高い機密性を得るために扉を枠のゴムに締めつけるグレモン錠が使われる。このグレモン錠を使えば扉を閉じた状態では十分な機密性を確保できるが、あまりにも機密性に優れた扉では開けづらい・閉めにくいという操作性の悪さに繋がる場合もある。例えば、練習室のように建築的に浮き構造のような高遮音の対策がとられているにもかかわらず、扉を開けたままで使用している場合もある。レバーハンドル程度でも遮音性能を確保できる扉が必要である。

【軽量で開閉容易な防音扉】

 シャーレンテック製の防音扉はハニカムサンドイッチ構造で組み合わされた扉で、通常のロックウール充填の防音扉に比べて軽量で捻れが少ないのが特徴である。ローラーキャッチが採用されていて締め付け操作が上要な上、扉下部には取替えや調整が可能なゴムベロが2枚設置されていてフラットな沓摺りに対して隙間のできにくい構造となっている。操作性と遮音性能が兼ね備わった防音扉である。軽量であるため、大道具搬入扉などの大型の扉や練習室の扉には最適である。

【自動防音扉】

 開閉および締め付けがスイッチひとつで行える自動防音扉の需要も最近では多くなっている。バリアフリー時代の到来に対して、自動防音扉の設置も今後増加が見込まれるだろう。現在、下記の防音扉各社で開閉型や引き戸型のものが製作されている。自動開閉にすることで重量を重く、隙間も小さくできるため高い遮音性能が得られる。各社の自動防音扉の遮音性能は少なくともTs-35以上はあり、壁の遮音性能にほぼ匹敵する性能が1重でも得られる。

・ シャーレンテック、扶桑電機工業、日本板硝子環境アメニティ、東京萬

【劇場扉】

 ホール客席の入口は、沓摺りがフラットで召合せのない両開きの扉が設置される。このタイプの扉は扉枠との隙間の他に召合せ部分からの音漏れによっても遮音性能が低下する。召合せ部分についてはモヘアやゴムベロを設置するのが一般的であるが、弊社では「ゴムベロ+吸音仕様《を提案している。また、扉周囲の小口部分もパンチング(内部グラスウール充填)とし、エアタイトゴムとの併用で隙間による音漏れ防止を図っている。小口を吸音処理しない場合には、500Hz以上の周波数で音源側と受音側の音圧レベル差は横這いか1000~2000Hzで低下することが多いのだが、吸音処理した扉では上昇する。中高音域の遮音性能増加に対しては有効な手段である。

 以上、防音扉について音響に関する内容を示した。ひとつの施設に取付けられる数が多いだけにすべてに注意を払うことは難しいかもしれないが、取付け後の調整までが防音扉工事であることを忘れないで欲しい。(福地智子記)

参考:音響技術No.110「住宅性能表示制度の動向/開口部の遮音《の「防音建具《

問合せ先(TEL No):
・㈱シャーレンテック03-3273-2822
・扶桑電機工業㈱ 03-3474-1200
・日本板硝子環境アメニティ㈱03-5443-0201
・東京萬㈱03-3496-2991



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