新潟市万代島にコンベンションセンター“朱鷺メッセ”オープン
今年の5月1日、信濃川のウォーターフロントに位置する新潟市万代島地区に“朱鷺メッセ”がオープンした。新潟港はアジア地域への外貨コンテナ航路が就航しており、環日本海圏における国際貿易港としての役割を果たしている。朱鷺メッセは新潟県の国際交流の拠点として、また貿易・産業の振興を促進する施設として建設された。
施設概要
朱鷺メッセは、新潟県の施設である<新潟コンベンションセンター>と民間施設の<万代島ビル>を主とするコンベンションコンプレックスである。コンベンションセンターは、大型展示ホールを持つ<国際展示場>、メインホール・国際会議室・中小会議室等からなる<国際会議場>、そして<アトリウム>の3棟で構成されている。また、万代島ビルはホテル日航新潟、県立万代島美術館、展望室などの施設から構成されている。このコンベンションセンターと万代島ビルは、これらの施設のメイン動線となる長さ約350mに及ぶエスプラナードで連結されている。全体計画およびコンベンションセンターの設計は槇総合計画事務所である。
コンベンションセンターの音響計画
本施設で室の響きや遮音について音響的な配慮が必要な室は、展示ホール、メインホール、国際会議室、中・小会議室等である。展示ホールには大型の展示会・大会・各種イベント会場としての機能とともに、大空間という性格上、大音量を伴う大規模な興業イベントへの対応も求められた。そのため、各ホール間の遮音性能の確保が重要な課題となり、メインホールに防振遮音構造を採用することで、隣接する展示ホール間および上階に位置する国際会議場間の遮音性能を同時に確保出来るよう計画した。展示ホールは可動遮音間仕切壁により2分割使用が可能になっており、展示ホールAで大音量を伴う催し物開催時には、会議場側の展示ホールBをホワイエ空間とするなど遮音の緩衝ゾーンとしても使用出来るよう考慮している。また、各施設がエスプラナードという開放的な空間で連結されているため、遮音区画は各室で完結させるよう計画した。
展示ホール“ウェーブマーケット”
展示ホールは長さ約130m、幅約60m、天井高平均約22mの大空間であり、ホール一体使用時には約10,000人を収容する。大空間であるため残響過多の抑制および有害なエコーの防止が音響上の課題で、響きの程度としては平均吸音率で0.30以上(中音域)を目標とした。壁面下部は展示施設としての強度を確保するためコンクリート打放しの反射面として残し、壁面上部および天井は吸音仕上げとして残響過多を抑制した。また、室形状が矩形であることから、壁面下部の対向面間でのフラッターエコーが懸念される音楽系イベント開催時には、壁面に吸音幕を設置出来るよう備品対応を計画した。
メインホール“スノーホール”
メインホールは長さ約38m、幅約30m、天井高7mの各種会議形式やパーティに対応した平床・移動椅子形式のホールであり、最大約1,000人(シアター形式)を収容する。同時通訳ブース6室を備え、2重の可動間仕切壁により2分割同時使用が可能となっている。会議室に適した響きの程度として、平均吸音率0.25~0.30程度(中音域)を目標とした。壁面下部は室形状が矩形であることから対向面間でのフラッターエコーを防止するために折壁形状とし、壁面上部はリブ+ロックウールの吸音構造を採用している。
国際会議室“マリンホール”
国際会議室は床面積約650m2の平床・移動椅子形式のホールで、最大約550人(シアター形式)を収容し、同時通訳ブース6室を備えている。響きの程度としてはメインホールと同様に平均吸音率0.25~0.30程度(中音域)を目標とした。また、平面形が円に近い形となっているため、下部壁面を凸面形状にするなど音の集中の軽減を図っている。壁面上部は折壁形状とし、リブ+ロックウールの吸音構造を採用している。(箱崎文子記)
コンベンションセンターの電気音響設備計画
メインホールのスピーカシステムは、大型の長方形の室で壁面が正対していることによるエコーの問題と意匠計画を考慮して分散配置方式を採用し、スピーカを天井に76台設置した。各スピーカは個別駆動とし、グループ別に数ミリ秒単位の遅延時間を与えることによって拡声音の明瞭さを確保するとともに、イコライザ等でこもり音の除去を行った。なお、移動用スピーカ使用時には客席後部の天井スピーカを併用することによりエコーの影響を軽減できるよう考慮した。音響調整卓等の調整系はデジタル方式とし、舞台位置、室の分割や移動スピーカの有無等、使用パターンに合わせた諸設定を一斉に切替えることが容易に出来るようにした。
国際会議室は円に近い平面形状を持ち、メインホールと同様の障害が予想されたためスピーカは天井分散配置とした。スピーチと映像音声の両方に対応するため2WAY型を24台、低音域拡張用ウーハを数台設置した。また、メインホールと同様に移動用大型スピーカ使用時に天井スピーカを併用するものとした。(現森本浪花音響計画 浪花克治記)
問い合わせ:万代島総合企画株式会社 Tel:025-246-8400
URL http://www.niigata-bandaijima.com
業界団体による教育・研修事業に参加して
今年になってから愛知県舞台技術者セミナー、劇場演出空間技術協会主催のホール見学会などの業界団体による教育・研修事業に参加した。教育・研修事業には文化行政部門、運営・管理者や現場の舞台技術者、ホール設計者、劇場コンサルタント、舞台設備機器メーカなどが多数参加し、それぞれの立場から意見を述べ合うことから、ホールに関する様々な知識や情報が広く得られ、またとない交流の機会となっている。たとえば舞台の電動昇降バトンにムービングライトやスピーカを安全に吊り込む方法など、分野をまたがる技術的な諸問題を共に検討し、実証する場でもある。
10年ほど前の話になるが、新国立劇場の建設中に演出、音楽、美術、舞台照明、舞台音響などの分野における30~40歳代の実際の現場で中心になっている人たちが集結し、新しい劇場をどのような仕組みにすべきかということについて熱い議論を戦わせた。それは詰まるところ何を創り、どのように上演するのかということであった。打合せに参加する一人一人が、分野や立場によっても、経験からも、個人的な発想にしてもそれぞれの主張を持っているため、衝突するなと言う方が難しい。たとえば、照明は客席側から舞台を向き、スピーカは舞台の前端部、プロセニアムから客席へ向く。さらにそこに室内音響上、反射面が必要となる。各設備機器の納まりや建築仕上げ・構造などが衝突するのである。
お互いの主張に耳をかたむけるうちに、それぞれの分野における目的や処理方法、困難な条件などがかなり理解されるようになった。後に照明デザイナーの朊部基(もとい)氏(あかり組)と一緒にホールのコンサルティングを行なう機会が多くなり、あるとき分野の異なる氏から「小屋は音響が命」と注文をつけられた時には、意外でもあり衝撃を感じた。氏のいわれる「音響」とは、建築音響上の諸問題がかなりのウェートを占めているようであった。
さらに最近、松本市民会館の改築工事他で舞台音響設備の監修を担当され、話をする機会が増えた世田谷パブリックシアターの市來邦比古氏からも、氏の劇場における経験から同様の指摘を受けている。それは、よく吸音処理された「デッドな」響きではなく、響きの良さ、響きの質が求められていると筆者は理解している。つまり、憶測の域でしかないが、劇場によっては初期反射音の遅れ時間や分布に問題があるのではなかろうか。市來氏はスピーカから放射された拡声音がどのように観客に届くかについて、非常に神経を使われている。以前、本間明氏(フリックプロ)にテストCD用に製作していただいた効果音をはじめて聴いたときも、川のせせらぎや風の音のその自然さに誰もが驚いた。また、市來氏は、効果音は聴衆にそれと気が付かれたらだめだということを再三、述べている。演劇においては、生の台詞(セリフ)に対する効果音の送出は実に繊細な作業なのである。
演劇効果音、音楽SR(Sound Reinforcement)の世界、録音、放送、映画、機器製造など音響設備機器に関係する分野は広い。ホールにはそれらのすべてが関係するといってもよい。しかし、すべての分野に共通することは「音のよさ」であり、それがどのような条件で成立するかということが異なるだけではないだろうか。その違いを理解するには、同じ釜の飯を食うというか、同じ地に立つというか、同じ音を聴き、それをどう感じるか、どのような音が好まれるのかということを話し合うことが出発点となる。聴衆の評価のみならず、設備機器を表現のための道具として使う人たちの、様々な評価を知ることも重要と考える。さらに我々がホールの音響設備をどのように考え、設計し設置しているかということをオープンにすることで、様々な立場からの意見や評価を得ることも可能となる。そこに、催物を見、聴くことやスピーカの試聴会、教育・研修事業へ積極的に参加する、また、講師として参加することの意義があると筆者は考える。そこで、いくつか感じたことを紹介したい。
世田谷パブリックシアターは最近、施主・設計部門から見学の要望がもっとも多い劇場である。遠くからわざわざ見学に来るほど惹かれるものはなにか。事業内容か、運営体制なのか、建築かそれとも設備なのか、発信する何かがあるのか。筆者は見学に何度も随行しているが、見学者の目はハードを追うばかりの様である。そばで説明している館の方の声はほんとうに耳に入っているのだろうか。耳には入っているには違いないが、その人を見ていないのではないか。筆者は世田谷パブリックシアターで何を見るべきかと問われれば、それはまず「人」であって、その人たちがハードを叩き直し、使いこなし、事業を計画し、資金を集め、上演しているわけだから、やはり「人」なのである。同じハードが手に入れば、同じような評価が得られるのか。それは、出発点としても無理がある。
世田谷パブリックシアターは各種の養成講座などの人材育成支援事業も盛んに行なっており、さらに外部に優秀な人材も輩出している。7月の初めに劇場演出空間技術協会(JATET)主催のホール見学会で訪問した北九州芸術劇場には舞台音響担当の豊口謙次氏、山口情報芸術センター(YCAM)には企画・運営担当の岸正人氏などである。11月に開館予定のYCAMは、ジャンルにとらわれないコンテンポラリーな複合芸術に関して、芸術性の高い、楽しめる作品を創り、上演することを目標としている。市民や芸術家を巻き込んだ活動はすでに1年以上続けられている。その事業紹介ビデオを見た見学者一同から、その確実な歩みに賞賛と感嘆の声があがった。これも岸氏らのゆるぎない活動の成果であろう。
劇場とは人とハード(道具)が一体となって成立するのではないかと筆者は考える。では公共ホールの場合はどうか。7月中旬に第10回愛知県舞台技術者セミナーに講師として参加した時にお会いした、愛知県舞台運営事業協同組合(愛舞協)副理事長の真野幸明氏は、公共ホールでは舞台、照明、音響の各部門に加えて劇場管理技術部門が必要だと力説される。「劇場管理技術」とはホールを借りる側とホールの技術部門との間に立ち、安全確保や法令内での自由な表現を可能とするための各種調整を行い、適切な対策を提案することとなっている。このように舞台技術者の職能と資格については最近、話題になることが多いが、それは会館数の増加や舞台設備規模の増大、複雑化に対して、舞台技術者の供給が追いつかず、技術者が慢性的に不足していることが要因と考えられている。平成13年に施行された『文化芸術振興基本法』や現在、日本芸能実演家団体協議会(芸団協)で研究中の劇場事業法(仮称)など今後、劇場に関する様々な法的整備が進められてゆく模様である。はたして、法令では優秀な人材や芸術面について、どのように規定するのであろうか。
ともかく、今まで裏方として陰になりがちであったホールの運営・運用関係者とのオープンで活発な交流が、実のある結果に結びつき始めたことだけは確かである。 (稲生 眞記)
ニュースのメール配信サービスのご案内
本ニュースのEメールによる配信サービスを希望される方は、(1)配信先のメールアドレス、(2)お名前、(3)所属 を記したメールをnewsmail_j@nagata.co.jpまでお送り下さい。