明治大学アカデミーコモン・アカデミーホール
近頃、建築関係の雑誌に学校施設が多く掲載されている。今年4月から始まった法科大学院設置のための施設や、エクステンションセンターと呼ばれているような地域との共生を考え、住民への施設開放や生涯学習講座の設置を目的とする施設が多い。本報で紹介する明治大学アカデミーコモンもそのひとつと言えよう。神田駿河台地区に昔からある明治大学も、御茶ノ水駅前・明大通りに面する地区のキャンパス整備を順番に行ってきており、先に整備が済んだリバティータワーを中心とするA地区に続くB地区の要の建物としてアカデミーコモンが建設された。設計・監理は(株)久米設計である。永田音響設計は3~6階に計画されたアカデミーホールの音響設計・監理・測定を担当した。ホール計画のコンサルティングは(株)シアターワークショップが担当している。
ホールは講義・式典・講演会を主用途とし、さらに明治大学ならではの模擬法廷(舞台上に法廷を再現する)などの使用が想定された。用途や規模に応じて、前舞台迫りと浮雲状の客席天井を昇降させ、686席~1,200席までの客席数の変化とその席数にあわせた意匠上の空間ボリュームの変化が可能である。加えて施工途中にクラシックコンサートへの対応が要求されたため、舞台側壁を表裏の仕上げが反射と吸音で異なる180度回転可能なものに、また舞台正面には上下昇降する吸音壁を設置し、舞台上を吸音仕様から反射仕様へ可変できるようにした。
外観も主張を持ったスタイリッシュなガラスのファサードを持つ建物であるが、ホールも講堂としては天井が高く、側壁へのプロフィリットガラス(溝型ガラス)の多用や、ガラス前面や天井面への統一した木リブの配置など、意匠性の高い空間で、いかにその意匠と調和をとりつつ必要な音響性能を確保していくかが大きな課題であった。
講演を目的とする空間では短めの響きが望ましく、室容積が大きくなると吸音面積を多く必要とする。本ホールでは後壁および浮雲状の天井の上部にある本来の天井面全面、側壁ガラス下部など、吸音仕上げが可能な箇所はすべて吸音とした。残響時間は1,055席設定で1.1秒(500Hz:満席)、容積9,500m3に対して抑えた響きとなっている。舞台を反射仕様にした場合、残響時間は約0.2秒伸びる。
講演で重要な舞台音響設備は、場内アナウンスとスピーチ拡声の機能を基本として、メインスピーカは昇降バトンに吊り下げ、サイドスピーカは側壁のリブ壁に、共に露出設置とした。その他、ステージフロント、2階席補助、舞台天井反射板内、固定はね返りの各スピーカは、舞台および客席の変化に合わせて、必要なものを適宜選択して使用する。 ホールの区画としてガラスを使用した場合に気になることとして遮音性能がある。本施設ではホール階にはホールのみが配置されており、ホワイエはホールと連動した使われ方をすることから、一般的にホールとホワイエ間で必要とされる遮音性能よりは劣るが、会議室間でよく目標とされる値を参考に40dB(500Hz)と設定し、これをプロフィリットガラス2重で確保した。上下階との遮音では、日常行われる講演や授業での拡声・音楽の再生などでの同時使用に支障がないようにホールに防振遮音構造を採用した。2枚あるプロフィリットガラスのうちホール側のガラスは防振遮音層の構成の一部であり、受け材から防振ゴムを介して取り付けている。上下階との遮音性能は85dB以上(500Hz)確保できている。
最後にホールの大部分に計画されたリブであるが、音響的には「ピュイッ」というような異音発生が考えられるため、一般的には均等配置を避けるような対策が行われている。本ホールでは意匠設計の強い意向があり、実物大モックアップを作成し聴感的な確認も行い、リブの角度を施工後に変えられる余地を残して均等配置に踏み切った。結果として、本ホールでは使用にあたって支障となるような異音は発生していない。リブによる異音発生のメカニズムは学会報告などで明らかになってきてはいるが、最終的には聴覚との関係で異音が問題となるか否かの判定となるため、意匠で様々に考えられるリブに対して定量的な判断ができるような指針はまだない。これからの課題であると考える。(石渡智秋、菰田基生記)
「ウィング・ウィング高岡」生涯学習センター ホール
富山県高岡市は、加賀藩二代藩主・前田利長(としなが)公による高岡城の築城を機に発展した町で、富山湾や立山など多くの自然に囲まれた富山県西部の中核都市である。古くは「万葉集」の代表的な歌人である大伴家持(おおとものやかもち)が越中の国守(くにもり)として約5年間在任し、その時にこの地を詠んだ歌を多く残していることもあって「万葉」に因んだ催し物も多く行われている。また、高岡銅器、高岡漆器などの伝統工芸も盛んである。このように歴史や文化の町としてのイメージが強いが、その一方で、アルミ加工などの新しい産業も活発で、歴史的な町と工業都市の両面を併せ持つ町である。
ここで紹介する高岡市生涯学習センターのホールは、JR高岡駅正面に今年4月にオープンした「ウィング・ウィング高岡」公共棟の4~6階に設置されている403席のホールである。「ウィング・ウィング高岡」は、高岡駅前の再開発事業を目的に設立された高岡駅前西第一街区地区市街地再開発組合によって計画され、平成14年から工事が進められていた建物で、ホテルや商業施設が設置されている民間棟と高岡市の生涯学習施設(生涯学習センター、中央図書館、男女平等推進センター)と富山県の生涯学習校(県立志貴野高校)が含まれる公共棟の二棟から構成されている。名称の「ウィング・ウィング高岡」はこの二つの棟が隣あっている様を表したもので公募によって選ばれた。設計は梓設計・日建設計・創建築事務所実施設計共同企業体、建築工事は鹿島建設である。永田音響設計は、生涯学習センターのホールとスタジオ、映像・音楽体験室の音響設計を行った。
ホールは、客席椅子が設置された移動観覧席と客席迫りを収納あるいは設置することによって、平土間にも椅子が配置された劇場にもなる。舞台側も天井と側壁の可変でプロセニアムアーチの設置と反射板の設置が可能である。すなわち、平土間でのダンスの練習からプロセニアムアーチを設置しての芝居や講演会、反射板を使用するクラシックコンサートまで幅広い演目に対応できるホールである。残響時間は、平土間時:1.6秒、劇場タイプの舞台反射板設置時:1.2秒、舞台幕設置時:0.9秒(いずれも空席時)である。因みに、同様の形式は「静岡市東部勤労者福祉センター(清水テルサ)」のホールでも実施されているが、さらに使い勝手が良くなっている。いずれも梓設計の永池さんの設計によるものであるが、多様な催し物に手軽に対応できる新しいホールの形とも言えるだろう。
ホールの下階は中央図書館、上階は屋上庭園になっている。階下との遮音のためにホールには防振遮音構造を採用した。また、ホールのホワイエを挟んだ位置に4室のスタジオ、映像・音楽の体験室が各1室配置されており、いずれもいろいろな音楽の練習や鑑賞が想定されている。ホールとの同時使用と上下階への音漏れ防止に対して、これらの室には防振遮音構造を採用した。ホール~階下の室間、スタジオ~上下階間でいずれも80dB程度(500Hz)の遮音性能が得られており、それぞれの室の使用に大きな制限を設けなくても十分に同時使用が行えると考えている。
拡声は、反射板設置時には舞台正面に設置した高さ約6mのラインアレイスピーカを、舞台幕設置時には可動式の舞台天井反射板内に設置したスピーカをそれぞれメインとし、ともに客席天井に分散配置したシーリングスピーカと組み合わせて使用するようにした。
ホールは「大江千里トークライブコンサート」で幕を開けた。その後、ピアノリサイタルや講演会をはじめとして多くの催し物が行われているようであるが、残念ながらまだ聴く機会がない。駅前という立地の良さといろいろな施設が複合された建物内のホールということで、高い利用率が期待できるだろう。 (福地智子記)
ウィング・ウィング高岡ホームページ:http://www.city.takaoka.toyama.jp/
ASA 147th Meetingへの参加
5月24-28日にニューヨークで開かれたアメリカ音響学会(ASA)の第147回大会に、永田音響設計から4名(池田、豊田、小口、石渡)が参加した。ASAの75周年記念にもあたり、会期中に記念式典も行われた。
今回、私達の参加の目的は建築音響のセッションで行われた”Theaters for Drama Performance – Another Two Decades(1984-2004) “と題する、ここ20年間に建設された劇場についてのポスターセッションであった。2001年のシカゴでの大会で“音楽ホール版”が行われ、本ニュース04-03号(通巻195号)でこの時のポスターの縮小版が本にまとまったことを紹介しているが、今回の劇場についてのポスターも音楽ホールと同様に本としてまとめられることが計画されている。ポスターセッションには134件の登録があり、2日目の午前と午後にわけて行われた。永田音響設計からは表に示す8件を発表した。
劇場ということで100~500席規模のものも多くある一方、2000席規模のものまで様々であった。形式的には、箱形形状の実験劇場的なもの、シェークスピアのグローブ座を基とする円形形状のものが数多く見られた。アメリカのコンサルタントからはデコレーションのあるプロセニアムアーチを持つような歴史的建物の改修報告もあった。グローブ座を基にする劇場では、やはり円形壁からの反射音の集中について注意がはらわれており、円形壁部分を吸音とする、カーテンによって音響の調整を可能にするなどの対策が報告されていた。ポスター展示はホテルの宴会場で行われた。他のセッションも同時進行されているためか、ポスターは掲示されているものの展示者さえあまり会場にはおらず、ちょっと閑散とした雰囲気であった。筆者は来訪者からの質問に英語で答えられるだろうか?と内心はらはらしていたが、肩すかしを食らったような感じだった。
その他では、日本でも新国立劇場などの音響設計で知られるDr.Beranekの90歳を祝うスペシャルセッション“On the Occasion of His 90th Birthday : Special Session to Honor the Contributions of Leo L. Beranek to Acoustics and Teaching”があった。このセッションでは、建築音響のみならず様々な分野でのDr.Beranekの活躍や、氏も主宰した音響コンサルタント会社の草分け的な存在であるBolt, Beranek and Newman (BBN)の歴史などが、各分野のオーソリティから紹介された。近年の日本での仕事も竹中工務店の日高孝之氏から紹介があった。騒音・遮音・計測等の様々な研究発表のあるDr.Beranekの最近の興味が、“CONCERT HALLS AND OPERA HOUSES – Music, Acoustics, and Architecture”の著作などから伺えるようにホール音響にあることは、それだけにホール音響が各分野を複合した、奥深く、また研究の余地が大いにあることを示していると感じた。(石渡智秋記)
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