永田音響設計News 01-4号(通巻160号)
発行:2001年4月25日





徳島文理大学むらさきホール
−音楽を志す学生に本格的なコンサートホール体験を−

 徳島文理大学は7学部21学科を有する総合大学で、徳島市と香川県志度町にキャンパスを整備している。ここに紹介する“むらさきホール”は、母体である学校法人村崎学園の創立110周年を記念して計画・建設された施設で、2000年12月に同大第43会定期演奏会でオープンした。建築設計:葛ウ育施設研究所、音響設計:渇i田音響設計、施工:[建築]:西松建設梶A[設備]:且l電工である。

 大学にはこれまでに、村崎サイメモリアルホール(860席、香川キャンパス)とアカンサスホール(407席、徳島キャンパス)という2つの多目的ホールが建設され、コンサートにも利用されてきた。むらさきホールの建設計画は、音楽学部棟の改築に合わせて、“音楽を志す学生が本格的なコンサートホールを体験できる環境を整備したい”という村崎正人理事長の発案でスタートした。計画を進めるにあたって、コンサートホールとしての要件やイメージについて共通の認識を持つために、関係者で国内外の著名なコンサートホールの視察・試聴に出かけた。特に、文理大で以前英語講師を務めていた方からの紹介で訪れたブリティシュ・コロンビア大学のチャン・センター・コンサートホール(1400席、カナダ・バンクーバー)は、規模や同大音楽コースの様々なアンサンブルのホームであることなど我々の計画に非常に近い内容の施設で、新ホールのイメージ作りに大いに役立った。同ホールの基本形態はシューボックス型で、両端が円形に閉じたメインフロアーを2層のバルコニーが取り巻き、天井はかなり高い。ステージ上に可動の大型のキャノピーが吊り込まれているのが特徴である。(関連記事News 98-2号)

断面図
 むらさきホールは客席数1,314席、ステージと客席の間に仕切りのないワンボックス型コンサートホールで、つぎのような特徴を持っている。

・ コンサートホールに最も相応しい室形状の一つであるシューボックス型
・ 演奏者へ反射音を返す役割を担う大型ステージキャノピー
・ オーケストラを立体的に配置できる電動昇降式オーケストラ迫り
・講演会等への対応を考慮した残響可変装置

■シューボックス型コンサートホール
 ホールの基本的な室形状はシューボックス型である。メインフロアは、伝統的なシューボックス型の原型に従ってできるだけ緩い傾斜とし、またメインフロア両サイドに一段高いボックス席を設けた。ホールの基本的な寸法は、幅:21.5m、奥行:41.5m、天井高:17mである。

■ステージ
 ステージ上部には、演奏者や前方客席へ反射音を返す役割を担う重量のある大型ステージキャノピーを導入した。その形状は、ステージを含む広い範囲に反射音を供給できるように、下に凸のお碗型(直径10.5m)である。最高位置にセットした場合の高さは、ステージからキャノピー下端まで13.5mである。また、キャノピーにはステージ照明やスピーチ拡声のためのスピーカシステムも組み込まれている。

 ステージ床には、弦楽器も含めてオーケストラ全体を立体的に配置できる電動迫り機構を導入した。このオーケストラ迫りには、緩やかなスロープの客席からもオーケストラ全体が見渡せることで弦楽器の音の厚みが増すとともに、迫りの段差が奏者に近い反射面となることでアンサンブルの形成にも役立つ、という効果がある。(関連記事:News 98-8号)

 さらに、正面壁の間隔を少しずつ変えた竪リブ(音響的に透明)の裏側に人の入れる空間を設けた。ここに拡散体や吸音体を持ち込むことで、客席からの見え方を変えずにステージ空間の音響微調整が可能である。また、音響的にはリブ背後の躯体が境界面となるので、視覚的な半円形壁を維持しながら音響集中が回避できている。

むらさきホール
■内装仕上げ
 床は束立て木床、壁の中・下段はコンクリートブロック・モルタル塗り下地に木質系直貼、壁上段のGRC(ガラス繊維強化セメント)と天井の積層ボードがペンキ仕上げである。音響的にはすべて反射性で、客席椅子を除いて吸音材は使用していない。

 壁上段のGRCパネルは回転式でコンサート時は閉じて反射性であるが、このパネルを開けると吸音面が露出して、講演会などを開催する場合に響きを短くすることができる。回転できるパネル面積は約120uあり、閉→開で残響時間は2.0秒→1.6秒に変化する。

 昨年夏の竣工後、大学オーケストラと合唱団の総合練習が繰り返し行われ、年末の定期演奏会でこけら落としを迎えた。当日はワーグナー:楽劇マイスタージンガー前奏曲、ハイドン:メサイア、ドヴォルザーク:交響曲第9番新世界というプログラム(指揮:外山滋文理大音楽学部長、ヘルヴィッヒ・ライター・ウィーン国立音大教授)で、曲目によって、管・打楽器のみを正面雛壇に乗せる通常配置とオーケストラ全体を雛段に乗せる立体的配置の両方を聴くことができた。また、3月24日にはNHK交響楽団によるモーツァルト:フルート協奏曲と、マーラー:交響曲1番(指揮:ヤコフ・クライツベルク、フルートソロ:エマニュエル・パユ)の演奏会が行われた。同じ演奏はサントリーホールでも聴くことができた。どちらも密度の濃い良い演奏会であったが、響きにアリーナ型の空間の拡がりを感じたサントリーホールに対して、むらさきホールではシューボックスの特徴であるタイトな響きを聴くことができ、両ホールの対比が興味深かった。

 オープン以来、むらさきホールでの演奏会はまだ少ないが、様々な演奏形態による練習で連日のように使われている。弦楽器群を含めてオーケストラ全体を階段状に配置する効果は、サントリーホールにおける試聴実験や演奏会体験を通して確認されていたのであるが、同時に「慣れること」がステージ上の音響においてとても重要な要因の一つであることもわかっている。様々なアンサンブル・オーケストラのホームグラウンドとして使えることは「慣れる」という意味で最高の環境にあり、コンサートホールとしての機能が最大限に活用されてゆくことを期待して見守りたい。(小口恵司記)
【徳島文理大学ホームページ】http://www.bunri-u.ac.jp/point/index.html


フィリアホールの近況

 渋谷駅から東急田園都市線で約30分の青葉台駅前にある500席のコンサートホール“フィリアホール”は、1993年にオープン以来、年間40近い自主プログラムを中心とした運営で着実にファンの輪を広げてきた。ところが、昨年、このフィリアホールが入っている駅前の東急百貨店が営業をやめることになり、ホールを愛する音楽ファンを心配させる事態になった。幸いなことに、運営母体である東急電鉄のホール運営継続の方針には変更がなく、百貨店が閉鎖されたビルの中で、最上階のホールのフロアだけは華やかな雰囲気が何ら変わることはなかった。そして、この3月、百貨店のあとに入るテナントがすべて開業し、再びビル全体に明るさと賑わいが戻っている。

 このようなホールを取り巻く環境の激変の中で、フィリアホールがこれまでと変わることなく活動を続けられているのは、オーナーである東急電鉄の文化支援に対する理解によるものだが、それに加えて、このホールの運営が集客面で順調にいっていることがあるのではないかと思う。ホール事業は一部の商業劇場を除いて本質的に収益をあげられるものではないことは常識だし、まして、百貨店を閉めなくてはならないほどだから財政面の厳しさは想像に難くない。それだけに集客率はホール運営の重要な要件になるが、多くの公共ホールが “閑古鳥が鳴いている”と揶揄される事例が少なくない中で、フィリアホールのこの快調な運営の秘訣は何なのであろうか?そこで、ホールに企画担当の田中玲子さんを訪ね、お話を伺った。

 田中さんは、ホールがオープンしたころは大学生で、当時アルバイトでホールを手伝われたのが縁で今の仕事をされている。お目にかかってまず印象的だったのは田中さんの生き生きとした明るい表情である。田中さんのお話から、その理由はすぐに理解できた。自主公演の年間収支が連続して黒字なのである。ここでいう黒字とは、入場料収入に対する出演者のギャラ、プログラム制作費、広告宣伝費等の支出である。職員の人件費やホールの管理費は別としての話であるが、それにしてもこの収支状況は、ホールは聴衆や出演者だけではなくスタッフや運営組織の皆がハッピーにならなければ、という田中さんを力づけるだろうし、オーナーの理解を得るための大きな要因になっているものと思われる。黒字を続けるには、客席数に対して高い率の有料入場者の確保が前提になるが、平均85%の目標に対して昨年4月〜9月は87%に達し、自主企画の半数はチケットを完売しているという。催物のPRは、ホールで前売りチケットを購入したお客さんに氏名、住所を記入してもらい、その後は購入希望の返信用ハガキを同封した催物案内を郵送する方式である。これまでに蓄積された顧客データは20,000人以上に達し、毎回10,000人に催物案内を発送しているという。“友の会”方式のような会員割引はないが、会費が不要で、自宅にいながら優先的にチケットを購入できる点が受け入れられている。ホールとしては郵送費がかかるものの、顧客のチケット購入の利便性を第一に考えれば、この方式のメリットは大きい。ただし、プログラムによっては発売と同時に1,000通を越える申し込みがあることがあり、そのような場合にはお断りの連絡の手間と費用が大変になる。しかし、これは企画担当者には、まさにうれしい悲鳴というべきであろう。催物案内の送付先はもちろん近隣が中心であるが、近隣以外も30%位あり、なかには仙台や広島にお住まいのリピーターがいるというから驚く。

 ところで、驚くことがもう一つあった。それは自主企画のすべてを田中さんがお一人で担当されていることである。田中さんの判断だけで決められるから決定は早い。今の時代に企画というホールにとって一番重要なことが合議制ではなく個人に任されているというのはほとんど例がない。民営だからこその体制といえるが、企画面でこのホールが高い評価を得ているのは、この辺にヒントがあるように思う。一方で、まだ若い田中さんには、なにしろ結果がチケットの売れ行きにはっきり出てしまうのだから大変なプレッシャーに違いない。お客の入りだけを考えた企画は容易だろうが、目指すところは、クラシック専用コンサートホールとしての格調を維持しつつ、いかに多くの人にホールに足を運んでもらうか、だろう。これに対して田中さんが心がけていることは、自分の好みを抑えて、ここでも顧客第一に徹することだという。仲道郁代さんの4年に亘るベートーヴェンのピアノソナタ全曲演奏、海外著名音楽コンクール受賞者の帰国早々の演奏会など、聴衆の関心の動向やホットニュースを的確に捉えた催物は、このホールの運営体制だからこそできる企画で、音楽関係者や耳の肥えたファンにも高く評価されている。もちろんプログラムの中心はクラシックだが、タンゴ、雅楽、いま人気の三味線デュオなど、クラシックの枠にとらわれない演目にも目を配られているし、テルミンやオンド・マルトゥノという珍しい楽器も登場している。

 フィリアホールの運営は東急電鉄(実務は子会社)が行っているが、年間の半分は横浜市の委託を受けて青葉区民文化センターとして運用されている。区民文化センターとしての利用はこのグレードのホールとしては格安の料金で市民利用に供されており、土日・祝日は申し込み受付と同時に予約で埋まるという状況である。したがって、休館日を除いてホールに人気(ひとけ)が絶えることがほとんどない。フィリアホールが官民共同利用のホールとしてもうまく運営されているのは、官があまり出しゃばらないで民にまかせていること、その民も運営の一番大事な企画を若いスタッフにまかせていることがポイントのように思う。おそらく田中さんの笑顔の裏には人には分からない苦労やストレスがあるにちがいない。でも、出演者の賛辞やお客さんの笑顔が苦労を消してくれる、というお話には実感がこもっていた。ホールの評判のよい理由として音響の良さをあげていただき、これは音響設計担当としてはうれしいことであるが、なによりも多くのファンが運営と企画の良さを評価していること、そしてホールがこれからも輝き続けてほしいと願っていることをオーナーやスタッフの皆さんに知っておいてもらいたいものである。(中村秀夫記)
【問い合わせ】フィリアホール Tel:045-985-8555


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