No.360

News 17-12(通巻360号)

News

2017年12月25日発行
写真手前から、蓮、桜並木、施設

上越市の高田公園内に「オーレンプラザ」がオープン

 今年の9月、新潟県上越市の高田公園内に、上越市市民交流施設「高田公園オーレンプラザ」がオープンした。

 施設が建てられた高田公園は、江戸時代に築城された高田城の跡地につくられた公園で、約50万m2の広い園内には、博物館、図書館、陸上競技場、野球場の他、中学校まで含まれている。高田公園というと、桜の名所としても全国的に有名で、青森の弘前公園、東京の上野恩賜公園と並んで日本三大夜桜の1つとされ、お花見シーズンには百数十万人の来場があるそうである。さらに、公園の外堀には蓮が一面に植えられて、春は桜、夏は蓮、と四季折々の自然が楽しめる。本施設の名称に使われている「オーレン」は、この高田公園を象徴する桜と蓮、それぞれを音読みにして繋げたものである。

写真手前から、蓮、桜並木、施設
写真手前から、蓮、桜並木、施設
平面図
平面図

施設の概要

 高田公園の外堀に面して建てられた本施設は、目の前が桜と蓮という高田公園ならではの贅沢な立地にある。景観に配慮して建物の高さが抑えられており、RC造3階建てのホール(600席)と、S造平屋建ての生涯学習施設とこどもセンターという3つのエリアで構成されている。施設の中央には開放的な中庭があり、その中庭を取り囲むようにこの3つのエリアが配置されている。生涯学習エリアには会議室、調理室、陶芸室、こどもセンターには室内でも存分に遊べるように遊具がいくつも備えられていて、ホールでイベントがないときでも市民が気軽に集まれるようなスペースが多数計画されている。設計は石本建築事務所、施工は植木・田中・久保田共同企業体で、永田音響設計は設計段階と施工段階での音響コンサルティングおよび完成後の音響測定を行った。

中庭
中庭
中庭に面した廊下
中庭に面した廊下

施設全体の遮音計画

 施設内には、ホールの他にリハーサル室としても利用出来る「スタジオ」と3室の「練習室」が、ホールの舞台に近接して配置されている。相互の遮音性能を高めるため、それら4室には防振遮音構造を採用している。ホール(RC造)とその他のエリア(S造)との間には、構造的なExp.J.が取られていたため、このExp.J.を練習室群とホール間の遮音構造としても利用している。また、ホールで展示会等のイベントを行う時に、ホールの入口をロビーに対して広く開放し、ホール・ロビー・中庭を連続した空間として使用するという想定があり、ホールとロビー間の壁の一部が移動間仕切り(約7 m幅)で構成されている。ここでは移動遮音間仕切りを2重とすることで、通常利用時のホールとロビー間の遮音性能を確保している。

ホールの室内音響計画

 本ホールは、生音の音楽演奏を重視して計画された多目的ホールで、プロによる公演に限らず、積極的な市民利用も想定されている。可動式の舞台音響反射板と移動観覧席を備え、移動観覧席を設置したホール形式では、音楽発表会、講演会、演劇が想定され、移動観覧席を収納した平土間形式では、展示会等の利用が想定されている。

 このホールで特に目をひくのは、大きな凹凸形状をもつ壁の内装仕上げである。これは桜、蓮と同様に上越を象徴する”雪”をイメージしたもので、雪の結晶のように六角形の断面形状をもった柱状の構造となっている。ホールの基本形状が直方体であるため、大きな凹凸や庇状の反射面が欲しいという音響的な要望に対して、設計者から提案されたもので、客席の壁面だけでなく、移動遮音間仕切りや舞台音響反射板にまで、この仕上げが取り入れられている。断面形状は同じであるが、長さが異なる仕上げ構造がランダムに積み重なるようにレイアウトされている。

 そして、この複雑な形状の内装仕上げは、なんと一つ一つ現場で施工されている。ユニット化が出来るような単純なパターンではないことも理由なのだが、LGS下地+3層のボード貼という構造が、設計図の通り、一つ一つ職人さんの手で施工されているのは驚きである。なかには、空調の吹出口や間接照明として利用されている箇所もあり、音響的に吸音が必要な箇所(後壁と一部の側壁)は、六角柱の側面のボードが有孔板+グラスウールの吸音面となっている。

 また、壁と同様に、客席の天井にも雪の結晶をイメージした六角形のデザインが取り入れられている。この仕上げはエキスパンドメタルで出来ており、音響的には透過とみなせる視覚的な天井となっている。実際には、この仕上げの上部に、音の反射に有効な角度に設定した折れ天井や、技術ギャラリーとして使用出来るキャットウォークが隠されており、なるべく高い天井高(約12 m)の確保にもつながっている。

ホール舞台
ホール舞台
ホール客席
ホール客席
ホール内装仕上げ
ホール内装仕上げ

オープニング

 9月末のオープニングイベントでは、ホールの開場前からお客さんが長い行列をつくって待っていた。ほとんどが地元のお客さんらしく、行列で待つ間に知り合いを見つけては話し込む様子が多く見られ、公演の休憩中にはホワイエに面した屋外テラスに出て、景色を見ながら談笑しているお客さんもいた。こどもセンターや中庭も早速こども達で賑わっていて、完成したばかりの新しい施設とは思えないほど市民の方が自然に施設を利用している印象を受けた。この施設が、市民が集まるきっかけとなり、また、市民に親しまれて使われてほしいという期待が膨らむオープニングであった。(服部暢彦記)

ホワイエ外部のテラス
ホワイエ外部のテラス

Zucker Hall (Charles Bronfman Auditorium, Tel Aviv) オープン

 Tel Avivの中心部Leonard Bernstein広場を通ってCharles Bronfman Auditorium (旧Mann Auditorium)へ行く時に見える、4年前に改築・新装されたその建築と目前のプールに映るその美しい姿は、心躍らせるものがある。しかしながらその広場の直下には、更に新しい施設があることを知る人はそう多くないだろう。2017年10月13日、Zucker Hallという400席の新しい室内楽ホールがCharles Bronfman Auditoriumに併設される形でオープンしたのである。新ホールは可動客席を収納してステージ・サイズを大きく確保することにより、フルサイズのオーケストラのリハーサル用途にも対応できるように設計されている。

Zucker Hall (室内楽コンサート形式)
Zucker Hall (室内楽コンサート形式)

プロジェクトの背景

 Charles Bronfman Auditorium (旧Mann Auditorium時代から数えて60周年を迎える、Israel Philharmonic Orchestra (IPO) の本拠地コンサートホール) がホールの音響改善のために内装の全面的な改修工事後、再オープンしたのは2013年5月のことである。その改修工事の背景には様々な困難を伴う長い歴史があった。最大の障害は、建物自体が歴史的保存の指定を受けてその変更が厳しく制限されたことである。永田音響設計が10年前から関わってきた音響改修のプロジェクトについては、本ニュース256号(2009年4月)307号(2013年7月)の2回にわたって紹介、報告してきたとおりである。

 ホール内部の音響改修から始まったプロジェクトは、ロビーや舞台裏も含む建物全体にわたる大がかりな改修工事となったが、レジデント・オーケストラであるIPOが必要とする機能や環境を整備するための困難は少なくなかった。改修後のホールにおいては、オーケストラのコンサートだけではなく、より幅広い演目の上演が可能なようにホール機能を拡大することも求められたのである。それにより懸念されたのが、オーケストラによるホールのリハーサル使用の制限であった。ホールの地下部分を拡張することにより新たに約5,000 m2の床面積を確保し、そこに室内楽ホールを新設するとともに、必要に応じてオーケストラのリハーサルも行えるようなスペースを設ける、というのがZucker Hallの実現の経緯である。

 地元イスラエルの建築事務所Kolker Kolker Epstein Architectsがその建築設計・監理を担当し、永田音響設計は新ホールの室内音響設計とその工事監理を担当した。設計は2013年に開始され、建設工事は2015年から2017年の約2年にわたって行われた。

Zucker Hallの設計

 Zucker Hallの平面形状は、約31 m × 約17 mの単純な矩形である。フルサイズのオーケストラのリハーサルを可能にするための音響的に最も重要なポイントは、如何に十分な天井高を確保するかということである。設計当初から、このホールにとって音響的に必要な約14 mという天井の高さを確保したうえで設計を進めていった。

 ホールは3層のレベルで構成されている。下階にはフラットなステージが設置され、ステージ裏のサービス部分等と繋がっている。中間階は聴衆が出入りするレベルで、室中央に位置するステージ両側バルコニー(長手断面図左右両側)に各4列の固定席が設置されている。上階にはテクニカル・ギャラリーがあり、ホールの四周を取り囲んでいる。

 ステージ床レベルは、Charles Bronfman Auditoriumのステージと同一レベルになるように設定された。リハーサル形式におけるステージ後方(平面図上側、短手断面図右側)には、聴衆用のギャラリーが奥行2.5 m分オーバーハングして設置されている。このオーバーハングした部分を除いたステージの寸法は、約20 m (W) × 約14.5 m (D) である。 ホールが室内楽コンサートに使用される場合には、このギャラリーの下部分を上手側(平面図右側、長手断面図右側)に収納された可動パネルで仕切ることによって、バックステージの通路とすることができる。ステージ上手側の固定客席ギャラリーの下には10列分の可動客席が格納されていて(長手断面図右側)、バルコニーの固定席と連続した客席となる。さらに必要に応じて最大5列分の移動客席をステージ床レベルに設置することが可能であり、最大400席の室内楽コンサート形式のホールが構成される。

 テクニカル・ギャラリーより上の、ホール大天井と壁面はコンクリートに黒の塗装仕上げである。天井には、客席に到達する反射音が均一に分布するように吹付セメントでシリンダー形状の凸面を設けた。テクニカル・ギャラリーの床の下側の面は、演奏者に必要な反射音を返す、音響反射面として有効である。その下の壁面は凸面形状の木パネルを並べたもので、フラッターエコーを防ぐとともに音の反射が過度に集中しないように工夫した。またステージ周囲の壁面と上部テクニカル・ギャラリー部分の壁面には吸音カーテンを設置できるよう計画し、音響設備を使用する催物の他、様々な演目により幅広く対応可能なようにした。

平面図(室内楽コンサート形式)
平面図(室内楽コンサート形式)
長手断面図(リハーサル形式)
長手断面図(リハーサル形式)
短手断面図
短手断面図

最初の音出しと調整、オープニング

 建設工事がほぼ終わりに近づいた2017年7月下旬、IPO(音楽監督:Zubin Mehta)による最初のリハーサルが行われた。コンサート形式にて客席椅子を設置した状態での小編成のアンサンブルは、美しく温かな音で、しかもクリアに聞こえた。しかしながら、リハーサル形式における大編成のオーケストラの音はあきらかに音量過多で、特に高音域の楽器においてその傾向が顕著であった。工事が完全には終了していない状況で、設計段階において計画していたカーテン等の音響調整部材が未だ設置されておらず、オーケストラは音響的に反射性の壁面で四周を囲まれた状態であった。この時点で、空席時に測定した残響時間は2.4秒(500 Hz)であった。

 オープニングの数日前に行われた2度目のリハーサルにおいては、吸音カーテンや仮設の吸音材が、指揮者背後側(弦楽器の前)や、オーバーハングしたギャラリー下部分(オーケストラ背後)に設置された。これらの効果はステージにおいても客席においても明らかで、クリアでバランスの良い、しかも豊かで温かい響きが確認された。マエストロからも他の奏者からも、各々の位置において自分たちの音がとてもよく聞こえるようになったという一致した評価が確認された。空席時に測定した残響時間は、リハーサル形式において1.8秒(500 Hz)、室内楽コンサート形式において1.7秒(500 Hz)であった。

 Charles Bronfman Auditoriumの60周年記念とコンサートの新シーズンの始まりを祝って、Zucker Hallは2017年10月13日にオープニングを迎えた。(原文英文、Marc Quiquerez記)