国立音楽大学附属中学校・高等学校 新2号館
国立音楽大学附属中学校・高等学校に新2号館が完成した。「音中・音高」と呼ばれ親しまれる同校は、JR国立駅から徒歩15分弱の場所にある。現在、国立音楽大学は立川市にキャンパスを持つが、中学・高校と小学校、幼稚園は、ともに国立駅にほど近い場所にある。中学には演奏・創作コースと総合表現コースの2コース、高校には普通科と音楽科があり、どれも音楽大学の附属という豊かな音楽環境の中で教育が行われている。
新校舎は今まで使われてきた2号館の老朽化に伴い計画されたもので、校庭の一部に建てられた。旧校舎はこれから解体される。
新校舎はRC造、4階建、免震構造である。設計・監理は株式会社エムアーキ(代表 宮原 亮)、施工は株式会社竹中工務店によるもので、永田音響設計は設計、施工段階に亘って協力を行った。
施設構成
新校舎は音楽教科での利用が想定されており、音楽教員とのレッスンが行われる演習室38室をはじめとして、オーケストラ演習等、多目的に使用される2層吹き抜けのスタジオ、ソルフェージュ等が行われる音楽室5室、普通教室3室、ラーニングコモンズ、実技試験室2室、また学生が集うコミュニケーションラウンジ、音楽教科職員室や楽器庫等がある。
広めの廊下を挟み、南側には演習室、北側にはそれより少し大きめの床面積を持つ各種の室が配置され、ほぼ同じようなレイアウトで4階まで計画されている。
音響計画
我々は国立音楽大学とその附属学校の施設建設にこれまで永年関わってきた。それらの過程で実験等も行い、学校、先生方と一緒に培ってきた遮音や室内の響きに関する考えの積み重ねを、今回の校舎建設にも反映させている。至近では国立音楽大学新1号館(本ニュース286号(2011年10月号))がある。
[遮音計画] 室間の界壁をはじめ各室の遮音区画には、まずコンクリート造を採用している。また、側路伝搬による遮音性能の低下を防ぐために、室の配置計画と構造計画を連動してもらい、右図の○印で示す室間をまたぐ外壁箇所に、構造上の柱をブロッキングマスとして設けていただいた。
側路伝搬音とは界壁を直接透過する以外の経路で伝わる音のことである。界壁の遮音性能が高くても側路伝搬音の影響で総合的な遮音性能が低下することがある。主な経路としては、窓やドアなどの開口部のほか、今回配慮をした外壁を経由した経路もそのひとつである。
その外壁経由で伝わる側路伝搬音に対して、ブロッキングマスは経路となる外壁に質量の変化(断面変化)を与える要素で、外壁を伝わる振動のエネルギーの一部がそこで反射し、隣室へ伝わりにくくする効果がある。
上記の基本的な遮音構造にくわえ、浮床や防振遮音壁などを組み合わせて採用し、室間の遮音性能を確保した。上下左右に隣接する演習室の遮音性能測定結果はDr-65以上である。また、サッシには敷地境界線上で東京都環境確保条例が守られる遮音性能を設定し、敷地内側に面する北側の大きな窓に比べ、南側は敷地境界線が近いため小さめの窓が採用されている。
[室内音響計画] 練習室等では対向した面が平行かつ反射同士にならないように、吸音と反射を市松配置にしている例がよく見られるが、その場合、壁の50%が吸音となり、吸音の量が多くなる。音楽学校の練習室はこれまでに比べて長めの響きが好まれてきており、吸音配置の自由度や吸音面積を減らしても音響障害が生じさせないために、ここでは平行面を避ける室形状を基本とした。また、これは音場の拡散性向上にも役立つ。
限られた面積の中で多くの室を作る必要がある中、建物外形にも傾斜した面を現すなど、設計者のデザインに音響のアドバイスがうまく取り入れられた。
響きの量や質については、大学の校舎から参考となる室を先生方に選んでいただくことで、先生方と目標を共有した。また今までの知見から、室の天井高(約3m程度)の確保や低音域の吸音構造の配置も計画に盛り込まれた。
演習室
演習室は、床面積約32m2、天井高約3mで、主に南側に積層して配置されている。それらの室は、有孔板+グラスウールの吸音構造が壁の中段に採用されている。仕上げ表面にはすべて有孔板が見えているが、施工途中の下地張りの写真で青色に塗られているのは、有孔板下に張られた下地張りであり音響的には反射面で、残りが吸音面になっている。また、天井の端の1辺には、低音の吸音を意図してパンチングメタル上にグラスウール32kを300mm厚重ねて載せた吸音構造を配置している。
大学の新1号館の演習室には、吸音の量を調整できるように着脱式吸音板が用意されている。その使い方を観察すると室によって吸音板の枚数が異なっている。今回の演習室にも、室の使い方に合わせて響きの微調整が可能なように、壁の1辺にカーテンレールが用意されており、吸音カーテンの設置ができる。
設計者のアイデアで前述の有孔板の下地板と、有孔板の目地には、各階で異なる色が施されている。写真ではわかりにくいが実際に見ると、無機質的に見えがちなボードペンキの仕上げに、はんなりとした色が加わって優しい雰囲気が醸し出されている。
スタジオ
スタジオは、オーケストラ演習やリトミック、オペラの練習に使われたり、また写真に見えるように椅子を設置して演奏会や式典などに利用される。床面積約330m2、天井高は3,4階吹き抜けで約6.5m、ほぼ直方体の空間である。敷地内側に面する大きな窓からの光が気持ちよい。
既存の3号館にも同規模のスタジオがあるが、竣工から年月が経つ中で、有孔板の上から板を張り吸音を少なくする改修が行われていた。この響きの状況を踏まえ、スタジオは舞台面の壁は外倒しにし、側壁面には折半形状を取り入れた平行面を避けた形状にデザインしてもらい、吸音は全体的に少なめかつ少量ずつ壁や天井に分散して配置した。空室状態で残響時間は1.5秒(500Hz)である。また、演奏楽器の違いや、収容人数、用途の違いなどに対応できるよう設けられた吸音カーテンが収納庫から室内に引き出して利用出来る。カーテンを設置した場合の残響時間は1.0秒(500Hz)である。
コミュニケーションラウンジ
1階、2階の吹き抜けで設けられたコミュニケーションラウンジは、学生が休み時間などを過ごす場所として計画されている。音響的には喧噪感抑制のために廊下からつながる天井の仕上げにロックウール化粧吸音板が採用されている。2層吹き抜けの空間の東西の大きなRC打ち放しの壁は、片側が外倒しになっており、平行が避けられている。天井高も高く開放的な空間は、響きも心地よく、現在、その一角にピアノが置かれている。
おわりに
1月に、竣工記念式典が行われた後、スタジオとコミュニケーションラウンジで、学長の武田忠善先生のクラリネット、校長の大友太郎先生のフルート、副校長の五十嵐稔先生のピアノによる演奏があり、私たちも聴かせていただいた。先生方からは「演奏するのが楽しい」と、まずは良い評価をいただけた。私たちも伸びやかな音を聴くことができひとまず安心した。できたてホヤホヤの空間であり、カーテンの利用や室の使い方、楽器位置をどうするかなど、試行錯誤も続くことだと思うが、新しくなった学び舎で素敵な音楽が生まれることが楽しみである。(石渡智秋記)