No.286

News 11-10(通巻286号)

News

2011年10月25日発行
施設外観

国立音楽大学 新1号館

 2011年5月、国立音楽大学の新1号館が竣工を迎え、9月から本格的な利用が開始された。国立音楽大学は、西武拝島線・多摩モノレール「玉川上水」駅から徒歩5分のところに広いキャンパスを構え、1号館から6号館までの校舎と講堂(大ホール、小ホール)がある。旧1号館の老朽化に伴い旧校舎の南側の敷地に新1号館が建設された。

 国立音楽大学では1号館の建替えにあたって、以前より音楽小空間形成プロジェクトという名のもと、各学科の先生方をプロジェクトメンバーとして、モックアップによるレッスン室の大きさ・響き等の検討、また、既存教室における遮音性能の聴感実験等、より良い新校舎建設のための取組みが実施され、永田音響設計もこのプロジェクトに参加してきた。それらの集大成として、この春待望の新校舎が誕生した。

施設外観
施設外観

 新1号館には、3つのスタジオ(オーケストラ、合唱、オペラ)、アンサンブル室が大小合わせて12室(打楽器演習室、電子オルガン演習室を含む)、そして南側には地下1階から地上4階まで合計108室のレッスン室が配置されている。屋上は北側に向けて階段状となっており、所々にある芝生とベンチはピアノの鍵盤をモチーフにデザインされ、学生の憩いの場となるよう計画されている。構造には免振が採用され、音楽大学ということでピアノ等の楽器に対する安全性についても配慮がなされている。設計・監理は松田平田設計、施工は清水建設である。永田音響設計は室内音響、騒音防止、スタジオの電気音響設備に関する音響コンサルティングを担当した。

施設平面図(1階)
施設平面図(1階)

遮音計画

 新1号館は南側にレッスン室、北側にスタジオ、アンサンブル室を配置し、音響的に重要な室同士が積層することをできるだけ避けた配置条件となっている。また、レッスン室は音楽小空間形成プロジェクトの結果から隣接レッスン室同士での遮音性能の目標値を60dB(500Hz)とし、その遮音構造として、隣接室間は固定遮音壁+防振遮音壁1層、上下室間はスラブ+グラスウール浮き床とした。屋上は耐水性高発泡浮床材による浮き床を採用し、屋上を学生が歩いた際の歩行音を防止している。

レッスン室の室内音響計画

 レッスン室は、その名のとおり、個人が使用する練習室とは違い、学生が先生にレッスンを受ける室である。床面積を約30m²、天井高を約3.5mとし余裕のある空間を実現している。また、音楽小空間形成プロジェクトから、従来のレッスン室よりも響きの長い室が望まれていること、天井と壁の拡散形状の必要性、低音域の吸音の重要性等が改めて認識、確認された。そのため、基本的に室の内装は反射性とし、天井と壁はそれぞれフラッターエコー防止のため角度を付け、音を拡散させる形状とした。低音域の吸音のため、天井脇には30cm厚のグラスウールをパンチングメタルの上に敷きつめた。壁の中段には、五線譜をイメージして付けられた5本のスチールのストライプで分割された有孔板を設け、その背後を吸音性または反射性とすることで室の響きの長さを調整している。この五線譜上に吸音パネル(合板にガラスクロスで巻いたグラスウールを取り付けたもの)をフックとマグネット併用で設置し、使用する学科(ピアノ、弦、管楽器、声楽、電子オルガン)によって室の響きを微調整できる計画とした。カラフルな吸音パネルは、意匠的にも白を基調とした内装壁にアクセントを与えている。

 施工段階において、地下に3室のモックアップを作り、遮音性能・残響時間の確認とともに、各学科ごとに実際に室内での演奏をお願いし、先生方にも確認していただいた。ちょうどいい響きだというご意見から、技量を習得する場としてはもう少し響きが短い方が良いというご意見まで様々な意見が集まり、先生方の好みの響きの傾向も知ることができた。それらの結果を踏まえて、当初の設計よりも予め設置する壁の吸音面積を少し増やし施工を進めることとなった。

 8月下旬から新校舎落成記念マスタークラスシリーズと題して、スタジオ、アンサンブル室において、海外からの著名な講師陣を招いての公開レッスンが開催された。外部からの聴講も可能で講師陣の熱心な指導を間近で見られるということで、たくさんの方が参加されていた。9月からは新校舎での授業も始まった。この新校舎が若い音楽家を育む場となることを期待している。(酒巻文彰記)

レッスン室
レッスン室
オーケストラスタジオ
オーケストラスタジオ

国立音楽大学: http://www.kunitachi.ac.jp/
(写真撮影:川澄建築写真事務所)

実践学園中学・高等学校に学びの館「自由学習館」完成

 実践学園中学・高等学校は、地下鉄、丸ノ内線、大江戸線の中野坂上駅から徒歩で5分程度のところに立地している、今年で建学から85年を迎える歴史のある学校である。現在は、中高一貫による先進的、革新的な教育カリキュラムを推し進めており、その方針に沿った特徴ある教育環境の整備にも取り組まれている。その一環としての学びの館「自由学習館」が、今年4月、新しく開館した。設計は早稲田大学教授の古谷誠章氏とSTUDIO NASCAである。

Freedom Hall
Freedom Hall

施設概要

 新設の自由学習館はキャンパスから徒歩で数分の場所に建てられている。西隣は区立宮前公園、北側は桃園川緑道に面しているものの、周辺は住宅に囲まれた敷地である。そのため、建物で最も大きな空間であるFreedom Hallと名付けられた350人収容のホールが一部半地下に配置されている。その上部の2階〜3階の吹き抜け空間には、”Learning Terrace”と呼ばれる図書スペースや学習スペース、教室タイプの”Study Room””Learning Room”が設けられており、生徒たちが自由に学習できる空間となっている。Freedom Hallは、遮音性能確保のために区画されているが、その他は柱のない空間にステップ状にオープンに配置されている。大きな柱がないこと、公園や緑道側の外壁にガラス面が広く取られていることで開放的な空間となっており、広さを感じることができる。外観は、建物の高さが抑えられており、大屋根がフワッと壁に乗った感じで、周辺民家に圧迫感を感じさせないようなデザインである。

Freedom Hall

 ホールは天井高さ約5m、移動観覧席が設置されたほぼ矩形の空間である。移動観覧席を収納した状態の平土間で合唱の練習を行ったり、設置して講演会等を行ったりと、多目的な利用が可能な空間となっている。側壁下部にはランダムリブを設置し、天井には傾斜のついた反射パネルと吸音用の有孔パネルが交互に配置されている。これらは、前方に多少広がった平面形状とともにフラッターエコーの防止を意図したもので、意匠デザインに音響的な要素を取り入れてもらった結果である。また、正面上部のコンクリート壁は、そこからの反射を多少和らげることを意図して、わずかではあるが凹凸をつけてもらった。コンクリート打設時の型枠を細工したということである。また、側壁上部は部分的にガラス面となっているが、近接した住宅への音漏れを避けるために、間隔を広く取った2重サッシとした。完成後の測定で十分な性能が確保されていることを確認したが、実際の利用においても支障のないことを聞いている。半地下に設置されたホールだが、このガラス面によって外光が降り注ぐ気持ちの良い空間になっている。5月14日、15日に完成披露式典が催され、近隣の方々にもお披露目された。生徒さんたちの人気も上々のようで、新たな活動の拠点として大いに利用されることだろう。(福地智子記)

正面壁
正面壁

実践学園中学・高等学校:http://www.jissengakuen-h.ed.jp/index.php

フェスティバルホールの1/10縮尺音響模型実験

 2013年春のオープンに向けて大阪中之島ではフェスティバルタワーの建設が進められている。このプロジェクトの目玉、リニューアルされるフェスティバルホールは、設計段階からコンピュータシミュレーションによって室形状等の検討を行ってきており、より詳細な確認を行うために昨年夏から約半年にわたって1/10縮尺の音響模型実験を実施した。

ホール概要

 新しいフェスティバルホールは、旧ホールを継承した2700席のプロセニアム型のホールで、クラシックコンサート、オペラ、ポピュラー音楽などを主体とした多目的ホールである。ホール内部は主要反射面(天井・壁)の上に旧ホールの特徴でもあった天井のリブや壁の拡散体などの意匠的、音響的な要素が加えられたデザインとなっている。また、舞台音響反射板、オーケストラピットに加え、新たに開閉・収納式の袖壁などの可変機構も備えている。設計は日建設計で、1/10縮尺模型の製作はこれまでに多くのホール模型を手掛けた海老原信之氏である。

舞台
舞台

実験概要

 主な実験目的は、実物と同様にホール模型内で音を出してインパルス応答を測定し、設計時のコンピュータシミュレーションでの検討課題の検証、反射音の到達状況の確認、試聴による有害なエコーの有無の確認とその対策検討を行うことである(本ニュース230号参照)。本ホールの場合、催し物によって舞台上の音響条件が変わる多目的ホールであることから、クラシックコンサート形式(舞台反射板・前舞台・袖壁を設置)や、オペラ形式(オーケストラピット設置、舞台反射板・袖壁を収納)、ポピュラー音楽形式(プロセニアムスピーカ等を音源とする)等の条件で実験を行った。また、音響的に重要な反射面である舞台反射板、天井、壁の形状と壁の拡散体に関しては、反射音がより多く、均一に分布するように設計段階から形状検討を重ねてきたこともあり、それらの効果を一つ一つ確認するため、ホールの仕上げ面が平滑な状態から、天井リブや拡散体が追加された状態へと段階的に内部仕上げを変化させて実験を行った。仕上げが平滑な状態ではいくつかの鋭い反射音が分離して聞こえていたが、壁面に拡散体が付くことで反射音が増加し、全体が一つの反射音としてまとまっていく変化が聴感的にも確認された。

客席
客席客席

 1/10縮尺模型といってもホール模型内部はかなり大きな空間で、2700席規模の新ホールの大きさを実感できる。さらに、3次元曲面の大天井から10cm角の拡散体、可動式の袖壁までとても精巧に作られており、音響実験だけでなく、意匠や細部の納まりの検討、客席から舞台への視線の確認にも活用されている。(服部暢彦記)

フェスティバルホール:http://www.festivalhall.jp/