つくば国際会議場(エポカルつくば)オープン
茨城県つくば市の筑波研究学園都市に、茨城県と科学技術振興事業団によって計画された「つくば国際会議場(愛称:エポカルつくば)」が、1999年6月1日にオープンした。設計は設計競技で選出された坂倉建築研究所、施工は鴻池JV(建築)、きんでんJV(電気)、三機JV(空調)である。敷地は、東京駅からの高速バスが到着するバスターミナルのあるつくばセンターからペデストリアンデッキを通って南東方面に徒歩で10分ほどのところで、建物の北側は公園に、南側は電気店が並ぶ商店街に面している。
施設は、客席数1,258席の“大ホール”(1階席は1列おきに椅子の背を倒して机にでき、その時は808席)、200席の“中ホール200”、平土間で椅子・机の配置によっては200~300人収容可能な“中ホール300”と300~500人収容可能な“多目的ホール”、そして、20~500人収容の大中小の会議室15室から構成されている。敷地中央に既設の外国人用の居住施設があったため、これを取り囲むように大ホール、中ホール200、大中小の会議室が含まれる会議棟(4階建て)が配され、それぞれがアトリウムや通路で連結された配置となっている。大ホールを除く他の室はすべてアトリウムに面するように配置されていて、アトリウムから黄色い壁の中ホール200や各会議室を見渡すことができる。来館者は電気店側の正面入口からアトリウムを通過して各会議室にアクセスでき、初めての来館でも分かりやすい配置となっている。公園側の外壁と正面入口の外壁はガラスブロックあるいはガラスで、アトリウムやレストランは公園の緑と外光が溢れる開放的な気持ちのいい空間が作られている。
会議場に求められる音環境性能は、①隣接する室からの透過音が会議に支障とならないこと(遮音性能の確保)②明瞭度を阻害しない程度に響きが抑えられていること(響きの抑制)③設備騒音が会議に支障とならないこと(設備騒音の低減)である。これらの性能の中でも運用に最も関わるのが遮音性能で、同時使用の可否に影響する。同時使用ができないと運用効率に影響し、即収入のダウンに結びつく。同時使用を可能にすることは、多くの室が含まれる施設では必要不可欠な条件である。遮音性能については、とくに会議棟に対して、規模やグレードの異なる会議室やAV装置が設備されていて発生音が大きくなることが予想される会議室が隣接することから、D-50の遮音性能を目標値として設定した(建築学会の提案では、事務所会議室は特級のグレードでD-50)。室の響きについては平均吸音率で0.25前後を、設備騒音についてはNC-25~30を各々目標値として設定した。
本プロジェクトでは、前述したように大ホール、中ホール200が別棟に配置され、遮音の点では好条件が得られた。ただ、大中小の会議室が集中する会議棟については、床衝撃音防止と遮音確保の点から2,3階の会議室は浮き床とした。また、各会議室間の隔壁はボードによる乾式壁のため、目標のD-50の性能は現場で得られる数値として設定し、カタログデータや実験室でのデータが1ランク上のD-55の構造を採用した。遮音工事というと建築工事だけが対象と思われがちだが、遮音壁を貫通する空調ダクトや電気配管の貫通部回りのわずかな隙間が遮音性能の低下に結びつくことが多く、すべての工事が遮音性能に関係している。遮音確保に対して、工事はじめに遮音工事の注意事項を工事関係者に説明し、全工事が遮音性能に関係している意識を持ってもらうように指示した。また、施工状況の確認も月1~2回程度と頻繁に行い、性能の確保に努めた。その甲斐があり目標値を十分上回る性能(D-55~D-65)が得られた。このように良好な結果が得られたのは設計事務所のきめ細かい監理は勿論のこと、各工事担当者の協力によるものと考えている。
ところで、遮音性能に関係するもう一つの要素が防音扉である。防音扉については、開閉のしやすさと遮音性能の確保という相矛盾する課題をいつも抱えている。開閉のしやすさという機能面を重視すると隙間が大きくなって遮音性能の確保が難しく、また逆に遮音性能を重視しすぎると開閉しにくいということが往々にして起こる。扉の取付、調整がそれぞれに十分検討されなければ両立させることが難しい。本会議場では、使い勝手から劇場用の召し合わせのない一重タイプを採用することになったうえに、アトリウムに各会議室の入口が面している。そこで、扉の四周をゴムによるエアタイトの他に「パンチング+グラスウール」による吸音仕様とし、隙間によって生じる高音域での遮音性能の低下を防ぐ工夫を施した。
大ホールは平面形状が扇形、中ホールは卵形で、音の集中が起こりやすい形状である。大ホールについては円弧状の後壁を、また中ホールについては曲面の側壁から後壁をリブ形状の吸音仕上げとした。その結果、手を叩いてもエコー障害が生じることもなく、会議室として好ましい響きが得られている。なお、大ホールについては、ピアノ等ある程度のコンサートにも対応できるものにしたいという施主側の希望を受けて、舞台には音響反射板を設置した。
つくば国際会議場の初代館長にはノーベル物理学賞の江崎玲於奈氏が就任された。オープニングの際の話では、今年度の利用予定はほとんど埋まっているということである。つくばという土地柄、さらに日本の世界における役割の増大等、国際会議の需要は多いと予想される。また、県民・市民を対象とした企画も計画されているということで、地域に根付いた利用も検討されている。(福地智子 記)
問合せ: つくば国際会議場 〒305-0032 つくば市竹園2-20-3 TEL:0298-61-0001
久世町エスパスホールその後
久世町は、岡山県の岡山市から県北方向に津山線~姫新線と乗り継いで2時間近くかかる、失礼ながらお世辞にも交通の便が良いとは言い難い田舎町である。人口約12,000人のこの久世町に、エスパスホールという500席の音楽志向の多目的ホールがオープンしたのが2年前の1997年である(本ニュース113号(1997年5月発行)参照)。それ以来このホールは、稼働率約85%を誇る大変元気の良いホールとして今日に至っている。この数字は、岡山市の岡山シンフォニーホールに次いで岡山県下第2位という。ホールの立地条件、町の財政規模等を考慮に入れると、これは驚異的な数値である。
オープン後の活発な活動の秘密の一端を伺うべく、久世エスパス振興財団事務局長の氏平篤正さんをお訪ねした。財団は町が出資して設立したもので、ホール関係の職員は事務局長を含めて計6人、そのうち4人が町から派遣されている。
予算や事業規模などの数値の概要をご紹介すると、ホール関係の年間運営費が約1.7億円(併設されている図書館、CATV(地元有線テレビ放送)施設、旧小学校施設文化財の管理運営を含む)、そのうち、自主公演などのホールの事業費が約4000万円/年。これで約40本/年の自主事業を行うという。氏平さんの運営方針は「とにかくホールが町民に活発に使われて欲しい。久世町からの情報発信をしたい。そのための努力、工夫は惜しまない。」という。氏平さんは、このホールの計画、設計段階からずっと町の担当者として情熱を注いでこられ、引き続きこのホールの運営も担当してきておられる。
ホールは、基本的に多目的ホール(久世町ではCATV局との一体利用も含めて多機能ホールと呼んでいる)であるが、特にクラシック音楽向きの音響性能を重視したいということで、設計段階において色々工夫してきた経緯がある。最大の特長は、舞台プロセニアム開口部の天井を出来るだけ高くして、ホールの容積を大きく確保したことである。設計サイドとして町にお願いし続けてきたことは、設計段階では多目的ホールとしてあれもこれも欲張らず、音響重視の設計方針を貫き通して欲しいこと、ただし一旦、完成・オープンした後は、ホールの性格は念頭に置きながらもどんな催物に対しても積極的に使って欲しい、ということであった。
結果としてこれまでに行われてきた公演の数々は、映画、クラシック、ジャズ、歌謡ショー、等々、何でもありの非常にバラエティーに富んだものである。事業として使える予算は決して潤沢とはいえないが、目を見張るような大物公演もずらっと並んでいる。例を挙げると、鼓童、ウィーン・ピアノ・トリオ、N響メンバー室内楽、新日フィルメンバー室内楽、日野皓正、大西順子ジャズトリオ、北島三郎、速水けんたろう(だんご3兄弟)、渡辺貞夫、羽田健太郎、劇団四季「王様の秘密」・・・等々である。
自主公演事業のほとんどのチケットが完売に近いという実績が、これら数々の公演を可能にしてきている。もちろん、その背後にはチケットを完売にする努力があってのことである。まず、どの公演を取り上げるかについて、財団の6人の間で徹底的に議論、検証するという。財団の6人全員がプロデューサーとして自分の趣向なども組み込みながら、とにかく満席にして成功させなければならないことを大前提として、議論、プラニング、交渉などを行っていくという。そして一旦取り上げることが決定すると、6人のうちの誰かが担当となってその事業を進めていく。これは、その方面に少しでも興味のある者にとってはとても楽しくやり甲斐があることであろう。その代わり、6人でホールの表方から裏方まであらゆる雑用をこなさなければならない。またホールは、リクエストがあれば、朝でも夜中でも24時間開館する体制にある。何人かのボランティアの人達の応援を受けながらとはいえ、勤務が夜中になることもあるかなりきつい勤務である。しかしながら、やっている人達は皆、この仕事が楽しくてしようがないという。年40公演の自主事業というと、平均するとほぼ週に1度位の計算になるが、自主事業の無い週はむしろ物足りないという。町から派遣されてきている担当者も、忙しくて目が回りそうだけれども決して町役場に戻りたくない、どうすればこのホールに居続けることができるかを思案中とのことである。
これらを可能にしているのは、このホール事務局の「全員参加」という自由闊達なシステム、雰囲気であろう。誤解を恐れずに言えば、いわゆる「お役所的なもの」とは最もかけ離れたものである。氏平さんはもう一つの重要なポイントを語ってくれた。それは、財団の理事会のシステムである。一般的には、何か変更事があるとすぐ理事会を開いて承認を得る手続きを経なければならないが、久世エスパス振興財団の場合は、理事会の開催は年に3回のみで、基本的に予算、決算、ならびに事業方針の承認のみだそうで、それ以外については事務局が自由に決定できる裁量範囲が大変広い。実はこのことも「お役所的」でなく物事を進めていく事ができるということである。その代わり、氏平さん達は必死である。すなわち、失敗したら全てが自分達の責任ということである。理事会の決定のせいに出来ないし、いつでも辞表を提出する覚悟でいるという。
「オープン当初は何事も分からないことが多く自主事業も試行錯誤の連続であったが、3年近くを経過して最近ではどのような催物なら成功させることができるかがだんだんと分かってきた。面白いことに必ずしもチケット代が安ければよく売れるとは限らない。公演そのものに魅力がなければ決して成功しない。いいものは多少高くても売れる。そして、あとプラス1000万円の事業費があれば、このホールの活動を飛躍的に活発なものにできる自信がある。これまでの公演受け入れ、買付け型の事業に、久世町からの情報発信型の事業を加えて行きたい。」と氏平さんは語る。
すでに周辺の市町村からは「久世にエスパスホールあり」と注目されてきており、周辺からチケットを買って公演に来る人達も多いそうである。筆者が訪問した当日の夜は、地元のピアニスト2人に依る「ピアノ・デュオ」の公演があったが、チケット完売、立見が出る程の盛況であった。また、ホールが応援する地元久世中学校の吹奏楽が今年初めて全国大会出場を決めた祝い幕が、誇らしげに掲げられていたのも印象的であった。
ホールを計画・建設する時は、役所の担当者や議会の議員達など実に多くの人達が先達のホール見学に出かけるが、ホールがオープンした後、その運営についての視察という話はあまり聞かない。もっと計画、実施されてよいのではないかと思う。この久世のエスパスホールは第一に訪問をお薦めするホールである。(豊田泰久 記)
連絡先: 久世エスパス振興財団 TEL:0867-42-7000, FAX:0867-42-7202
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