No.141

News 99-9(通巻141号)

News

1999年09月25日発行
阿波おどり会館全景

徳島市“阿波おどり会館”のオープン

“アー エライヤッチャ エライヤッチャ ヨイヨイヨイヨイ”―踊る阿呆に見る阿呆 同じ阿呆なら踊らな損損…先月8月12~15日、徳島では阿波おどりが行われ、150万人の人出とニュースが流れた。でもこれからは8月だけでなく“阿波おどり会館”で1年中本場の阿波おどりが楽しめる!

 徳島市の新たなる観光シンボルとして“阿波おどり会館”が阿波おどり本番を間近に控えた7月30日オープンした。場所は徳島駅より徒歩約10分、徳島を一望に見渡せる眉山の山麓である。建築設計・監理は㈱東畑建築事務所、施工は清水建設他JVである。施設構成を図-1に示す。ホールでは昼間は専属の連「阿波の風」による公演、夜はこれまで駅前のプラネタリウムで行われていた有名連の出演による「毎日おどる阿波おどり」の公演が行われる。(阿波おどりの「連」とは数十人単位の踊りのグループである。各連によって踊り方やお囃子にも独特な違いがある。)公演では、生演奏のお囃子に合わせ阿波おどりの実演と講習、最後には観客もいっしょに踊る時間が設けられている。また、3階には阿波おどりのすべてがわかるミュージアム、4階の練習室は鳴り物や踊りの教室と各連の練習に使用される。

 永田音響設計では、ホールおよび練習室の遮音、ホール室内音響、電気音響について担当した。阿波おどりのお囃子は音頭をとる鉦(かね)をはじめ、(おなかに抱える)大太鼓、締太鼓、笛、三味線で演奏される。太鼓は低音域が大きく「毎日おどる阿波おどり」の公演では、お囃子の人数は10名弱だが、演奏が盛り上がってきたときには室内の音量は110dB~120dBの大音量となる。近隣に住宅があるため外部にその音を漏らさないことと、会館内の室間の遮音が課題となった。そこでホールの屋根については鋼板+木毛セメント板野地板材で構成された乾式屋根構造に加えPB15t×2の防振遮音天井を追加し、壁については、RCとブロックの2重壁とした。また、階下との遮音を考慮しグラスウール湿式浮床を採用した。ホール内装は天井、壁ともに防振支持とし、練習室についても階下との遮音を考慮して湿式浮床を採用、外部に面する窓はエアタイトサッシを300mm以上の空気層を設けて2重に設置し、カーテンウォールに面する練習室には手前に可動間仕切を遮音層として設けた。遮音性能はホールと階下交流プラザ間、練習室と階下ミュージアム間ともに約70dB(500Hz)が確保された。

阿波おどり会館全景
5F眉山ロープウェイ山麓駅
4F 阿波おどり学校 練習室
3F 阿波おどりホール 阿波おどりミュージアム
2F 阿波おどりライブラリー
1F徳島県物産観光交流プラザ

 実際に阿波おどりのお囃子をホールと練習室で実演した結果、約8mの道路を挟んだ外部では暗騒音(55dBA程度)に隠れて聞こえず、ホール階下の交流プラザ、練習室階下のミュージアムでは、お囃子の低音域が若干聞こえる程度で、ともに人の出入りが多い空間なので実用上支障のないレベルとなっている。

阿波おどりの実演
(写真:清水建設 宮脇正信氏)

 ホールでは郷土文化である阿波浄瑠璃の上演も予定されている。ホールの響きについては明瞭度も考慮し中庸~ややデッドな響きを目指した。音の拡散を考慮し壁は折板形状とし、吸音構造は壁・天井に分散配置した。ホールの残響時間は150名収容で約0.6秒(室容積:1,200m3、平均吸音率0.3)である。

 徳島は本当に阿波おどりが好きな町である。もうすでに5月には、会社が終わる7時頃から市内のあちこちで練習がはじまり、街を歩いているとお囃子が聞こえてくる。本番のあの粋な踊りは年中を通しての練習の賜であろう。一度は8月の本番が見たいというのが当然だが、それでなくとも徳島へ行かれたら「阿波おどり会館」でぜひ本場の阿波おどりを体験していただきたい。ただし、病みつきになってもご勘弁を。(石渡智秋 記)
● お問い合わせ先 阿波おどり会館 TEL/FAX:088-611-1611/1612(徳島市新町橋2-20)

カザルスホール自主公演中止に思う

 カザルスホールが1987年のオープン以来、これまで提供してきた自主公演の数々は、そのユニークさ、質の高さなど、すでに業界内外において高く評価されている。今年の3月、そのカザルスホールが自主公演事業の打ち切りを発表した。正確にいえば、2000年3月までの今年度の自主公演をもって最後とし、来年度からは継続しないということである。今後は主に貸しホールとしての道を模索していくという。カザルスホールはこの種のホールのリーダー的な存在と考えられており、そこでの公演を他の類似した地方のホールでも持ち回りで行う事業を通じたホールネットワークの中心としての機能も果たしていた。それだけに今回の決定は関係者の間である種のショックともいうべき大きな話題となった。新聞によるとカザルスホールの親会社である主婦の友社のリストラのため、不採算部門であるホールの自主事業を整理しなければ銀行の理解が得られなかったということである。

 ホールの運営が黒字となることはない。基本的にホールの運営は、自治体による援助や寄付金など、何らかの財政的な援助が無くては成り立っていかないものである。公共ホールの建設の企画、計画の際、「黒字は出なくてもよいから、何とか収支トントンで運営出来るような計画にしたい。」などということをオーナーサイドからよく聞く。しかしながら、ホールの運営が収支ゼロで可能ならば、何も公共がホールを運営する必要はなく、多くの民間会社がその経営に乗り出すであろう。そもそもホールの運営は赤字が基本である。ホールを運営するということは文化の育成を意味し、すなわち、文化を育てるために必要な資金の問題でもある。お金が余ったから文化に回すのか、文化を育てるためにお金を使うのか、この点に関するはっきりした意志がないとホールの運営は立ち行かない。公共ホールの場合はこの意志というのは行政判断であり最終的には政治判断である。これが曖昧だと「箱モノ行政」といわれても仕方がない。

 バブル時代、全国各地でホール建設が進められていった。中には「バブルにより税金が集まって財政的な余裕ができた。ホールでも作ろうか。」といった感覚で計画、建設されたホールも少なくない。これらのホールは大抵オープン後の自主事業を含めたホール運営に必要な人員と予算措置が十分でない場合が多い。もちろん、この場合の人員というのは単なる人数のことではなく、必要な能力を備えた人の構成という意味である。かくしてホールは貸しホールとしてのみ使われ、その稼働率が低い場合にはマスコミ等の格好の攻撃材料となる。すなわち「閑古鳥が鳴くようなホールを作ったのは税金の無駄遣い。こんな立派なホールを作ってしまって、運営に金がかかり過ぎる。」といった具合である。

 特に最近は、どんな催し物にでも対応可能な、いわゆる多目的ホールではなく、音楽用コンサートホールなどの限られた演目に特定されたホールが計画、建設されることが多くなった。これまでより一段と高度な機能、性能が求められるようになってきている。これら専用ホールを単に貸しホールとして提供した場合、その稼働率が従来型の多目的ホールに比べて低いのは当然のことである。専用ホールを作るということは、その分野の文化に対してを特に力を入れよう、より大きく育てていこうということであるから、そのようなホールを単に貸しホールとしてのみ提供するのは明らかに片手落ちである。「貸しホールなら多目的ホール」「専用ホールなら自主事業の提供」というのが基本と思う。自主事業というのは、単にホールの稼働率を上げるという意味合いだけでなく、そのホールを作った意図を実際の公演を通じて提供していくという大きな意味を持っており、そこで実際に公演が繰り広げられてこそ、そのホールが価値を持つのである。

 出来上がったホールの「運営に対して金がかかり過ぎる」という批判は、まるで表面的なことしか見ない的はずれの批判である。この点に関しては、批判する側の一部のマスコミにも大きな責任があるといわざるを得ない。無駄を省かなければならないのは当然であるが、一網打尽的な運営経費に対する批判は、結果的に公共ホールの担当者の姿勢を及び腰にするだけである。実際に最近、特にこのような傾向が強い。財政当局に予算引き締めの格好の理由を与えているようなものである。結果としてホールそのものが、より無駄な存在になりかねない。使われなければ「タダの箱」なのである。

 バブルがはじけて、どこの自治体も緊縮財政を強いられている。このような時に、どこに予算をかけてどこの予算を削るか、これは政治的な判断である。余裕がある時はあらゆる所に潤沢な予算をかけることが出来るから苦労は少ない(誰がやっても同じ)。余裕の無い時こそ、それをどう使うかが知恵の出しどころである。「音楽だの文化だの、そんなものは余裕のある時のこと。今は食うことがまず先決なのだから・・・。」という声が氾濫している。では果たして、我が国ではかつての余裕のある時に、われわれにとって本当に必要な、生活に潤いを与えてくれる「文化」「芸術」を育むのに十分な努力をしてきたであろうか?単に余ったお金で「箱モノ」を作り続けて来ただけではないのだろうか?富める時にとにかく「箱モノ」を作りつづけて、不況になると「食うことが先決」では、いまだに「エコノミック・アニマル」といわれても仕方あるまい。不況といっても、我が国の現在は高度成長期以前における状況とは全く違うのである。何にお金をかけるべきかをじっくり考える絶好の機会といえるのではないだろうか。

 冒頭にご紹介したカザルスホールは、公共ホールではなく、主婦の友社が建設した純粋に民間のホールである。ホールの運営にお金がかかることはすでに述べたとおりである。サントリーホール、オーチャードホール、紀尾井ホール等々、これらのホールは、民間企業としての宣伝の要素も多少はあるにしても、その掛かる経費はとても宣伝費として割り切れるオーダーではない。その企業の社会的な貢献の意志なくしては成立しない事業である。

 今回のカザルスホールの件に関して思うことは、その自主事業の打ち切りが親会社のリストラのためにやむを得ないものだとしても、その必要な融資云々に関与している銀行筋は、主婦の友社のカザルスホールに対する社会貢献の意志をどのように考えているのであろうか。あらゆる企業の経営が銀行との関係なくして成り立たない以上、銀行にも社会貢献に対する理解の姿勢が問われるべきであろうし、まして公的資金の大量注入という事態を考えれば、その運用姿勢に対しては大きな社会的責任が生じるはずである。カザルスホールという文化価値を継続させるための大英断というのは、もう考えられないのであろうか。事はカザルスホールというある小さなホールの存続の問題だけではなく、日本という社会がこの文化価値を守っていけるかどうかが問われているのである。(豊田泰久 記)

新シリーズ〈今後のホール運営を考える〉を始めるにあたって

 長い景気の低迷による税収減で財政が火の車の自治体が続出する事態になって、利用率の低い文化ホールなどに対する批判が新聞等を賑わしている。マスコミの過敏すぎる批判には問題があるにしても、いつもホールに人気がないような状況では伸びない収入の中から税金として建設資金を出した地域住民にとっても不幸なことである。一方で、各地には生き生きと活動しているホールがある。この経済環境のなかでは運営資金に余裕のある施設はないに等しいだろうから、関係者や市民の熱意と工夫が決め手のように思う。私どもは数多くのホール建設のお手伝いをしてきたが、やはりホールはその地域の文化・芸術の拠点としていつも人の賑わいのある場になってほしい。そんな思いから、業務を通して知り得る範囲ではあるが、特色ある運営をされているホールなどにスポットを当てて運営面での工夫やご苦労されていること等お考えなどを、次号よりご紹介していきたい。それによりホール運営の情報交換的な役割が果たせればと考えている。(中村秀夫 記)

お詫び:ニュースのメール配信ご希望の方へ

 8月号にてご案内しましたように、ニュースを直接メールにてお届けする配信サービスを始めました。なお、先月ご案内した直後の数日間、申し込み先のメールアドレスの準備が間に合わず、お申し込みのメールが行き先不明になるという事態が発生しました。深くお詫び申し上げます。該当される方はお手数ですが、今一度(1)配信先のメールアドレス(2)お名前(3)所属を記されたメールを newsmail_j@nagata.co.jp までお送り下さい。