No.136

News 99-4(通巻136号)

News

1999年04月25日発行
プロセニアムステージ

伊丹市立文化会館”いたみホール”

 阪神淡路大震災からの復興が進む兵庫県伊丹市で、市立文化会館の改築工事が完了し、新生”いたみホール”として1998年11月3日にオープンした。敷地は古くからの町や酒蔵の残る中心市街地で阪急伊丹駅に近い”宮ノ前”地区にある。ホールには1202席の大ホールを中心として、リハーサル室を兼ねる多目的ホール、練習室、会議室、和室などが限られた敷地にコンパクトに納められている。旧文化会館(1053席の大ホール他)は、1963年のオープン以来文化活動の中心として市民に親しまれてきた。しかし、築30年を経て利用形態や技術面からの新しい要望をふまえて、機能的により充実した会館への改築に向けての検討が進められていた。そんな折に起きた大震災で、旧文化会館は大きな損傷を受けてその役割を終えた。改築計画は、市街地復興の核の一つとしてほとんど中断することなく継続され、1996年6月に着工した。設計・監理:伊丹市都市住宅部営繕課、㈱佐藤総合計画、劇場コンサルタント:㈱シアターワークショップ、施工:㈱鴻池組、である。

プロセニアムステージ
コンサートステージ

 伊丹市にはすでに、”アイフォニックホール”と”AI・HALL”という、それぞれ音楽と演劇専用の施設が整備されている。それぞれが備えている練習スペースでは日常的に市民の文化活動が行われ、ホールではプロデューサを中心として個性的で質の高い催し物が提供されている。また大阪をはじめ尼崎・西宮・宝塚など周辺地域にも、ハードあるいはソフトの面で特徴的な施設が多い。このような周辺環境をふまえて、大ホールには音楽と演劇を融合した音楽劇のための空間”音楽劇場”というコンセプトが掲げられた。

 ”音楽劇場”としての大ホールは、前舞台と音響反射板の組み合わせによるプロセニアム形式からコンサート形式への転換と、いわゆる”雨宿り席”と言われるバルコニー下の客席が無いのが特徴である。プロセニアム形式では、最前部の客席5列がオーケストラピットとなる(椅子は床下に収納)。コンサート形式では、このオーケストラピット床を迫り上げて舞台とし、走行式音響反射板をプロセニアム位置にセットすることで舞台空間が形成される。走行式反射板は1段なので反射板と客席空間がスムースに繋がり、一体的なコンサート空間が生まれている。また、客席に向かって開いているために通常は反射面としてあまり期待できない脇花道の壁も、舞台側壁となるので演奏者および客席前部への有効な反射面となる。

パース

 前舞台を使うコンサート形式で舞台鼻先まで見えるようにするために、必然的に客席勾配が急になっている。また客席奥行きの中間からバルコニー席が始まり、その下には音響・照明調整室が設けられている。音響的には客席の前と後で、善し悪しではなく響きの印象の違いが大きい。オープン前の試奏会では、客席前部では空間の広がりが強く感じられ、バルコニー席では音の近さ・大きさの印象が強かった。このバルコニー席前部から舞台の眺めは迫力があり、視覚的にも音響的にも近さが感じられる。

 11月3日の開館式典では式辞、挨拶に続いて、三番叟、コーラス、吹奏楽などが披露された。また当日夜には加藤莞二指揮、伊丹シティフィルハーモニー他で、カール・オルフのカルミナ・ブラーナが演奏された。多彩なオープニングのすべてが市民の手になる番組で、しかも見る者・聴く者を十分に楽しませるレベルで上演されたのが率直な驚きであった。特に滅多に聞くことのできないカルミナ・ブラーナは、感動的な名演として記憶に残っている。いたみホール+アイフォニックホール+AI・HALLの連携で、独創的な市民文化活動が繰り広げられることを期待したい。(小口恵司 記)

コンサートホールの内装材料と拡散

<内装材料>

 コンサートホール内部の仕上材料は、建築家の持つデザインイメージや機能性、経済性、安全性のみならず、観客を感動させるための音響性能を創り出すことも考慮して選択する必要がある。かといって材料として特別なものを使うわけではない。通常使われる材料はごく一般的なボード、石、木などで、最近はガラスを使った例も多い。ただし、目に見える材料の表面ばかりでなく、その厚さ、工法、下地への取り付け方など、物理的な音の作用に対し注意を払う必要がある。

 わが国のホールの多くは、壁・天井にボード張を採用している。理由は主として経済性だが、形状が比較的自由になるという施工性も考えられる。ボード類はその板振動により低音の吸収が過剰になる傾向にあり、ホールに使われる場合には剛性を高めるために下地のピッチを狭めたり、あるいは多層張とすることが多い。また床は、コンクリート下地のフローリング貼が一般的である。これらの内装を音響的にみれば、床はコンクリート下地で「剛」な仕上げであり、壁・天井は多層張りであるにせよ軽鉄下地の「柔」な仕上げとなっている。一方、ヨーロッパの伝統あるコンサートホールの内装を見ると、次頁の表でもわかるように、壁・天井にはプラスターを使っているところが多く、その天井下地には木か金属、壁にはレンガを使っている。また床についてはほとんど板張だが、19世紀までの建築ではコンクリート下地ではなく木軸組下地(床下に空洞がある)が多く、壁・天井が「剛」に対して床が「柔」という内装条件となっている。こういった床構造が低弦楽器を重厚に響かせ、壁・天井が確実に音を反射・拡散させることで伝統あるコンサートホールの響きを作り上げているとも言われている。

 当事務所で音響設計を担当した京都コンサートホール、紀尾井ホールでも床にこのような木軸組下地を採用し、壁・天井にコンクリート系の剛性の高い材料を使っている。低弦楽器の響きがコンクリート下地の床と比べて重厚かどうか耳で確かめられたい。

ホール名天井竣工年
ウィーン・ムジークフェラインスザール(G)板張 木軸組下地プラスターレンガ下地バルコニー:木下地プラスタースプルス下地砂敷の上レンガ敷き1870
ウィーン・ムジークフェラインスザール(B)板張 木軸組下地プラスタープラスター1870
アムステルダム・コンセルトヘボウ(大)板張南洋桜22mm木軸組下地床下砂敷きプラスター下部:レンガ下地上部:ラス下地プラスターラス下地38.1mm1888
ウィーン・コンツェルトハウス(G)板張 木軸組下地プラスタープラスター1913
ベルリン・フィルハーモニー(大)板張合板プラスター1963
ライプツィヒ・ゲバントハウス(大)板張板張り鉄板などの複合下地プラスター1981
ベルリン・シャウシュピールハウス(大)板張PCプラスターPCプラスター1984(1821)
ミュンヘン・ガスタイク板張オークオーク1985
ヨーロッパの代表的コンサートホールの基本的内装仕上

 <拡散>

 上記のように内装材とその下地構造は、空間の響きあるいは反射音の周波数特性を決め、形状は初期反射音到達および音場の拡散に影響する。音場の拡散とは室内で発せられた音が内装で反射し、あらゆる方向にいり交じっている状態を言い、ホール空間ではできるだけ拡散されている状態、すなわち音に包まれている、浸っているというような状態が好ましいとされている。こういった音場をホールで実現するためには、室形状を不整形にしたり、あるいは壁・天井を拡散形状にすることが必要である。

京都コンサートホールの天井拡散体

 19世紀頃までに生まれた建築空間では、その”様式”による刳り型や列柱などの装飾により音が乱反射し、特に音響効果を意図しなくても、望ましい拡散効果が得られた。加えて室形は一般的に直方形、今で言うシューボックスであり、その寸法および寸法比が音響上好ましければ優れたコンサートホールとなった。20世紀に入り、近代の建築はル・コルビュジェの「非装飾性こそ新しい造形の方向性」という概念にも代表されるように、機能主義へと進み装飾を廃していった。それと同時に建物の規模も次第に大きいものが要求されるようになり、ホールの音響条件としては不利な方向へと進んだ。そのためか、20世紀前半に建てられたホールには優れたものが少ない。戦後になり、拡散体の効果や壁・天井からの初期反射音の重要性がわかってきたことにより、それらを考慮した音響の優れたコンサートホールが誕生してきた。

 現代のコンサートホールには、単なる装飾ではない機能としての拡散体(形状)が不可欠であり、いかにインテリアデザインに消化できるかがコンサートホールの音響を決める。上の写真は京都コンサートホールの天井に設けた拡散体の例だが、一つ一つに照明が組み込まれ、音響条件を巧みにデザインに利用している。新たなホールを訪れた時、その建築家が音響条件を満たしながら創り出した壁、天井のかたちに注目するのも面白いのではないか。(小野 朗 記)

`99 JBL USツアー同行記

 2月13日から1週間、ヒビノ(株)が主催した`99 JBL USツアーに同行し、ロサンゼルス近郊の各種施設の音響設備を見聞する機会を得た。また、JBL本社を訪問し、工場見学、シーリングスピーカや固定設備向けの新シリーズについて試聴や意見交換を行った。

 店舗やレストラン、オフィスなどでよく使われるシーリングスピーカは耐久性重視の小口径フルレンジユニットを用いたものが多く、音質を云々するようなものではない。ところが、近年アメリカでは商業施設においてもクォリティの高い音が要求されるようになったため、JBL社では音質や指向性を改善した2Way同軸型のスピーカを新開発したそうである。さらに8inchのサブウーハも用意されており3Way型のスピーカ構成にもできるとは?!驚異的である。音質は非常にクリアでダイナミックレンジも十分あり、そのクォリティの高さが確認できた。

 施設では、ハリウッドのアカデミーシアター(Goldwyn Theater)と”House of Blues”というライブハウスが印象深い。アカデミーシアターの音声再生システムについてはアカデミー会員でもありこのシアターの設備を設計・設置されたJohn Eargle氏本人から直接解説していただいた。メインスピーカは大型3Way型で中音用、高音用が各々ホーン型、そして15inch×4台のウーハから構成されておりスクリーンバックの壁に埋め込まれている。壁とスピーカの間にはウレタンのような緩衝・遮音材が詰めてあったり、ウーハが防振設置されるなどきめこまかい配慮が見られた。サラウンド用スピーカは音像がウォールスピーカのみに集中するのを防ぐためシーリングスピーカも設置されている。

 ちょうどアカデミー会員に対する上映があり視聴したが、今までの映画館の音とは違ってかなり輪郭のはっきりした音の割にはうるさくなく、また効果音がリアルに聞こえた。私個人としては映画館の原点…型にはまったものではなく音声トラックのディジタル化や、スピーカシステムの刷新を計るなど、いかに映画が面白くなるか…ということにハリウッドでは今もチャレンジしつづけているという点が大変興味深かった。

 ”House of Blues”というライブハウス(レストランシアター)では、サウンドシステムを見学し、『ドラマティックス』というグループのコンサートを聴いた。ここも、ライブハウスの原点であるいかに音楽を楽しむかということを徹底して追及している。ステージは小さいがその前が100㎡ぐらいの平土間になっており聴衆が立ったり踊ったりしながらコンサートを聴けるようになっている。その周囲にバーカウンターやディナーテーブル、BOX席などがあり2フロアー構成となっている。2階席の奥にはガラスで仕切られたラウンジがあり、ロスの夜景を見ながらコンサート中でも食事ができるようになっている。人々は7時ごろに来て食事をとり、9時からコンサートが始まり夜中の12時ごろお開きになるという楽しみ方である。4Way型のメインスピーカはサブウーハが3種類もあり充実した低音を再生しているところがライブの音楽にマッチしてパワフル&ファンキーでよかった。 最後に、お世話になったJBL ProのG. Tam女史、ヒビノ(株)の成岡AVC販売事業部長、宮本PA事業部長、小林、西尾、滝の各氏に感謝の意を表します。(稲生 眞 記)