No.125

News 98-5(通巻125号)

News

1998年05月25日発行
函館市芸術ホール 外観

函館市芸術ホール“ハーモニー五稜郭”の開館

 函館といえば、函館山とそこからの美しい夜景、特別史跡「五稜郭」等々、道南の観光スポットを思い浮かべられる方も少なくない。この函館の代名詞、緑と自然豊かな五稜郭に隣接する文化ゾーンに5月9日、函館市芸術ホール(愛称:ハーモニー五稜郭)が開館した。道立函館美術館、直結する北洋資料館の間に位置するこの芸術ホールは美術館、資料館とともに函館の新たな文化拠点となった。

函館市芸術ホール 外観

 この施設は函館市が平成3年に建設計画に着手し、市民の意見、要望を踏まえ、平成5年に基本構想をまとめ、これに基づき建設されたものである。基本構想によると、ホールは、600~800席の音楽を中心とした演劇などの様々な舞台芸術に対応できる多目的ホールとして位置づけられ、リハーサル室、練習室、展示スペースなどを併設するものとしている。また、建物と合わせコミュニティー広場などを配し、美術館、資料館を含めた敷地全体で、自然豊かな開放的な空間づくりとするとあり、五稜郭周辺地区整備計画の一環として文化ゾーンの新たな構築を目指したものである。当初、コンサートホール、否、市民会館大ホールと同様の中規模の多目的ホールという話もあったが、市民の活発な意見を反映して、先のような構想に落ち着いた。
 設計・監理は佐藤総合計画+函館建築設計監理事業協同組合、施工は建築主体の清水建設ほかの共同企業体をはじめ、16の各種工事企業体等である。

 芸術ホールは両隣の既存施設との調和、ホール形状等から淡土色に彩られた円形の外観を持つ建物である。五稜郭側のときわ通りに面したエントランスホールからアクセスすると右手にカフェ、左手にトンネル風の北洋資料館の入口があり、その正面にモールがある。そこから地下に降りるとオープンギャラリーに面した半面ガラス張りの開放感あるリハーサル室、半円形の比較的広いギャラリーと高性能の遮音性能を有する練習スタジオ2室が配置されている。

前舞台を使用するコンサート形式

 一方、モールの右手はホール入口、ホールロビーとつながる。ホールの中は、一見して、こぢんまりとした印象のバルコニー席を持つプロセニアム型の多目的ホールのように見えるが、コンサート用の音楽専用舞台を設定すると、一体感のあるコンサートホールに仕上がる。張り出した前舞台とプロセニアム近くに設置する舞台反射板、側壁の工夫によりオープンステージ型のコンサートホールとなるよう計画されているからである。このコンサートタイプに設定された状態を最初にみられた方は、これがどのようにプロセニアム型の多目的ホールに変身するのか不思議なようである。基本的な考え方は、オープンステージ形式のコンサートホールにプロセニアムと充実した舞台名物を収納できるフライタワーを併設するというものである。

舞台幕を使用する多目的形式

 このタイプのホールでは、前舞台を使用するということから、客席数の減少、客席からの可視線確保が課題となるが、コンサートホールの持つ音響効果とその一体感のある雰囲気が得られること、また、舞台内の名物機構の充実化という観点から、客席を収納できる昇降式の前舞台、開閉する舞台袖壁、客席配置等の工夫を前提にこのタイプを提案し、採用された。円形の外観に五稜郭を彷彿させるような多角形を内接したホール形状であるが、初期反射音確保にとって有効な平断面形状を採用した。音響的に配慮された客席側壁の形状からか、客席からみる限りとても図面でみるような正多角形の空間には思えない。また、舞台と客席の壁面は、適度な音の拡散を意図した形状で木質系で仕上げ、落ち着いた雰囲気を醸し出している。このように、このホールは室形状、余裕のある空間、雰囲気等できるだけコンサートホールの建築条件を追求するとともに、多目的利用にも十分対応できるよう計画されている。プロセニアム型ホールを音楽専用ホールに転換するこの方式は、東京文化会館大ホールに代表されるようにいくつかみられるが、より積極的に取り組んだもののひとつと言えよう。

 コンサート仕様の音楽専用舞台の場合、712席、プロセニアム舞台の場合、前舞台の部分130席が増え842席となる。矩形に近い形状にまとめられた主階席に、一層のバルコニー席が3方取り巻く形に配置されている。舞台に近い客席配置と、客席に張り出した舞台が演奏者と聴衆を一層近づけ、しかも見やすく、視覚的、音響的に親密感、臨場感あふれる空間を作り出している。なお、ホールの残響時間は、音楽専用舞台、反射板設置状態で空席時が1.9秒、プロセニアム舞台、幕設置状態で空席時が1.5秒(500Hz)と響きの点でも十分多目的に対応できるホールとなっている。

2階平面図
1階平面図

 このほか、音響設計ではリハーサル室、練習室との十分な遮音、コンサートホールとしての静けさの実現、また、電気音響設備計画では各形式の舞台に対応したスピーカ配置等の検討を実施した。
 記念式典における三番叟と地元出身演奏家のピアノとヴァイオリンの二重奏、つづいて”国内著名ソリストとオーケストラ主席奏者による室内楽コンサート”と題したピアノ、弦楽および木管アンサンブルのオープニングコンサート等の数少ない催し物に接したにすぎないが、多目的/コンサートホールとしての素質にとりあえず安心したところである。 今後も各種催し物が続々と企画されている。運営は大型多目的ホールである函館市民会館と同じ(財)函館市文化・スポーツ振興財団が行っている。このため、芸術ホールと市民会館大ホールとの一体となった運営ができ、市民文化団体の一層の活用が期待される。
 専用ホールまで特化せず、多機能ホールと位置付けたこのホールが芸術文化の鑑賞、創造の拠点となるとともに、市民のふれあいの場となることに期待したい。当事務所もこれまで函館山のイベントホール「クレモナ」、”FMいるか”がコンサートを中継するカフェ「ペルラ」、倉庫街の「金森ホール」から函館市民会館、体育館の電気音響設備の改修まで函館の文化施設と縁が深いだけに、今後の各施設の活動を見守っていきたい。(池田 覺記)
〔函館市芸術ホール:函館市五稜郭町37-8 TEL:0138-55-3521〕

5周年を迎えたフィリアホール

 東急田園都市線青葉台駅前(横浜市)の東急百貨店内にあるフィリアホールが、今月オープン5周年を迎えた。1993年のオープンの時に本ニュースでも紹介したが、このホールは、東急百貨店が運営する500席の音楽ホールで、プロセニアムのないシューボックス形状と14.5mという高い天井、それに一席あたり12m3という余裕のある空間をもつ室内楽用の本格的なコンサートホールとして誕生した。オープン以来、アットホームな雰囲気と音の良さがファンに愛され、いまや、しっかりとこの地に定着している。

 ところで、このホールがファンにとってなくてはならない存在になったのは、雰囲気や音の良さとともに、質の高い自主企画をあげる人は多い。このことは地域的に離れた音楽関係者や音楽愛好者にも結構知られていて、よく話題になるほど高く評価されている。例えば「女神(ミューズ)との出逢い」シリーズは、オープン時から続けられている企画で、ベテラン、若手を問わず“質”にこだわってプログラムが組まれてきた。出演者も一般のコンサートではできないリサイタルや数年にわたる全曲演奏などの意欲的なプログラムをここで挑戦する、というような真剣な試みがファンや関係者の高い支持を得ている。

クリスマス・コンサート97

 この5年間といえば、現在を含め経済環境はきわめて厳しい状況にあり、文化施設の運営にもその影響は決して小さくないことは容易に想像される。そのなかで、200公演を越える独自性に富んだこのような企画を質を落とすことなく続けてこられたのは運営スタッフの熱意と努力の賜物であろう。結局、このような積み重ねがホールの“格”を形成するのだと思う。ある出演者がこのホールに“輝いている”という感想を述べられたそうだが、ホールとそのスタッフにはもとより利用者にも最高の賛辞だと思う。聴衆としてもやはり“輝いている”ホールで音楽を聴きたいと願うのは自然であろう。全国にたくさんのホールができたが、我が町のホールが“輝いている”と自信を持って言えるのは、はたしてどの位あるのだろうか。

 オープン5周年にあたり、今年は通常にも増して魅力的な記念プログラムが組まれているので、このホールのコンサートを体験していただくにはよい機会だと思う。遠いと思われている方もあるかもしれないが、渋谷から急行で24分、駅前なので歩く時間はほんの僅かである。

 フィリアホールは、騒音の低さ、響きの良さが評価されて、CDのレコーディングにもよく利用されており、すでに25レーベルを越える作品がこのホールから生まれている。ホールの催物とあわせて興味ある方は下記にお問い合わせください。(中村秀夫記)
〔フィリアホール:TEL045-985-8555 写真提供:フィリアホール〕

新刊紹介:日本建築学会編「建築物の遮音性能と設計基準」[第二版]

新刊紹介:日本建築学会編「建築物の遮音性能と設計基準」[第二版] 我々、遮音(騒音)対策の実務に携わる者が、かねてから遮音設計のハンドブックとして活用している「建築物の遮音性能基準と設計指針」が、内容を新たにして1997年12月に発行された。大きな変更点は、日本建築学会が提唱してきた遮音等級(D値、L値、N値、S値等)が下記のように変更されたことである。

* D値(音圧レベル差の遮音等級)の呼び方…D-30’、30″がD-30-Ⅰ、Ⅱに変更
* N値(室内騒音の騒音等級)の基準特性…すべて完全な逆A特性となった
* S値(外部騒音の騒音等級)…廃止された(一般的な騒音の評価方法を用いる)

 次に各建物に適用される等級についても若干の変更がなされた。例としてホテルにおける適用等級は各ランクともD値で「5」ずつ評価が厳しくなり、以前はD-50が「特級」であったところが、D-55に変更になった。このほか室内騒音に関しても、「特級、1級、2級」とランク分けされていたものがN値はそのままに呼称が「1級、2級、3級」と厳しくなった。これらの変更は遮音対策の要ともいえる評価に関してであり、重要な点である。

 また、本書には多くの遮音構造例、データ集が掲載されており、第一版の発行から20年近い間のノウハウの蓄積が感じられ、さらに有用な書となっている。(横瀬鈴代記)
〔日本建築学会編「建築物の遮音性能と設計基準」技報堂出版 定価8,000円+税〕