No.124

News 98-4(通巻124号)

News

1998年04月25日発行
佐川町立「桜座」の外観

佐川町立「桜座」オープン

 高知県佐川町は、JR高知駅から西方の須崎方面に特急で約30分程の所、土佐湾からおよそ15kmほど内陸に入った所にある、人口約15,000人の町である。ここに新しくできた佐川町立「桜座」は、この土地の桜が有名であることと、その昔町民に親しまれた映画館の名称「佐倉座」にちなんで命名されたものである。側壁にガラスを多用した約400席の多目的ホールと、その周囲に配置された三つの練習室から成っている。起工から完工まで約14ヶ月という短い工期を経て、今年 3月26日に竣工式を迎えた。設計・監理は(有)ワークステーション、施工は(株)フジタ四国支店である。

佐川町立「桜座」の外観

 ホールの3周を囲むホワイエは外壁側がすべてガラス張りで、日中は外光が燦燦と射し込む心地よい空間となっている。そして、その外光は内側のホールまで射し込んでくる。ホールの側壁上部が透明ガラス張りとなっているためである。この「外光の射し込むホール」は、計画当初から建築設計のコンセプトとして強く打ち出されたものであり、そのためにホールの内装にまでガラスを大々的に採用したことが本ホールの大きな特徴となっている。

佐川町立「桜座」平面図

 ホール客席は移動席が後部に収納される、いわゆるロールバックチェア方式で、席数は約400席である。内装は、側壁下部(客席1階部分)が内部にボード拡散壁を配置したパンチングメタル仕上げ、側壁最上部がボード下地のルーバー構造となっている。そのパンチングメタル壁とルーバー壁との間、高さ約3.7mの帯状の壁面が一面ガラス張りで、遮音を考慮した厚さの異なる二重ガラス構造である。この2枚のガラスの間に遮光用のカーテンが組み込まれており、必要に応じてホール内をほぼ完全に暗くすることが可能なようになっている。

 舞台はプロセニアム形式であるが、限られた予算のため、クラシック音楽系の演目に対して不可欠の舞台音響反射板を設置することが、設計当初段階においては困難な状況にあった。しかしながら、ピアノ等の音楽発表の場としての利用が多いことを考えると、何等かの音響反射板の設置は音響上不可欠である。音響反射板の設置を見送った同種の既存ホールにおいて、オープン後に反射板設置の対処を望む声が上がっている例はかなり多くある。本ホールにおいても、いずれ反射板を望む声が利用者側から上がるであろうことは、これまでの経験から容易に予想されたため、コストミニマム、最小限度の反射板を設計に組み込むことにした。結果的には、天井反射板と正面反射板は舞台機構で吊り下げ、側面反射板は製品化されている可搬型反射板を組み合わせて設置するという方法とした。6枚の可搬型側面反射板を設置するのに時間と手間が掛かるというのが難点であるが、建築コストとの引き換えなのでやむを得ないところである。後から天井反射板を舞台機構に組み込むことは不可能である。

ホール客席

 スピーカシステムは、プロセニアムスピーカ(2台)、ステージフロントスピーカ(5台)、固定はねかえりスピーカ(2台)、および側壁上部のルーバー奥に効果用スピーカを上手・下手各3台ずつ設置している。プロセニアムスピーカは露出吊下げ型とした。プロセニアムスピーカの設置方法については、意匠、電気音響設備、室内音響の各々の設計の立場から議論が集中するところである。一般的には、スピーカが目立つことを嫌い天井内に隠そうとする意匠設計の立場と、良好な音質確保のために露出設置を望む電気音響設計の立場、大切な反射面である舞台周辺の天井に穴を開けたくない室内音響設計の立場からの主張が錯綜するケースが多い。本ホールの場合は、プロセニアム開口周辺壁の配色(黒色)により、スピーカが露出配置ながら目立たず、すっきりと納まった例といえよう。

 2月末に行った音響測定の結果、ホールの残響時間は舞台反射板および客席椅子を設置した状態で約1.4秒(500Hz、空席時)であった。防振遮音構造を採用した練習スタジオからホールへの遮音性能(特定場所間音圧レベル差)は94dB以上(500Hz)であり、練習スタジオにおいてロック音楽等の大音量を発した場合でもホールでは全く聞こえないレベルの高い遮音性能が確保されている。また、ホールの空調設備騒音はいずれの客席においてもNC-20以下であり、非常に静かな空間が実現されている。

 「桜座」は、ホールを中心とした複合文化施設であるが、町民の日常の利用の中心はホールよりもむしろ3室の練習室となるであろう。いずれの練習室も夜間の貸し出しに対応するために、各々外部から専用の扉を利用してアクセスすることができるように配慮されている。さらに、各々の利用者に鍵を貸し出すシステムを採用することにより、仕事を終えた後の夜間でも地元の各サークルがより自由に、より積極的に練習を行うことが可能なようになっている。「桜座」の正式なオープンは 5月16日である。開館後1年間は町民への貸し出しを中心に運営を行い、その後プロの演奏家を招いた各種イベントの開催が予定されている。(横瀬鈴代 記)

シカゴ・オーケストラホールの改修

 シカゴ交響楽団といえば、ウィーン・フィルやベルリン・フィルと並んで世界最高のオーケストラのひとつにあげられる。このシカゴ交響楽団の本拠地であるシカゴ・オーケストラホールがその音響特性の改善のために全面的に改修されて、昨年の10月に新しくオープンした。先日、この新しいシカゴ・オーケストラホールを訪問する機会を得たのでその概要を報告する。

図−1 改修後のシカゴ・オーケストラホール

 シカゴ・オーケストラホールが建設されたのは1904年のことであるから、94年前のこと。ボストン・シンフォニーホールの1900年、ニューヨーク・カーネギーホールの1891年などと比較すると、その歴史の古さがよく分かる。しかしながらその音響は、オープン当初から芳しくなかったようで、今回の大改修が行われる前にも小規模な改修がしばしば行われて今日に至っている、いわば曰く因縁付きのホールである。

 今回の改修が計画されたのは1994年のことで、音響コンサルタントは地元シカゴのKirkegaard & Associates が担当した。実はこの改修設計の時に、我々もシカゴ交響楽団からの要請でセカンド・オピニオンとして微力ながら協力した。このセカンド・オピニオンという言葉は、我国では馴染みが薄いがアメリカではかなり一般的なようで、別のコンサルタントの意見も聞いてみようというものである。本来のコンサルタントとの信頼関係についても特に問題なく、結構日常的に行われているようである。

図−2 改修前後の比較

 改修はかつてない大がかりなもので、ほとんど新築のホールが建設できる程の費用が掛けられた。実際に地元では、既存のホールを改修するかあるいは新しいホールを建設するかで、かなり議論が沸騰したようである。結局、既存のホールのデザインに愛着を感じる人の意見がかなり強かったことから最終的には大々的な改修ということで決着し、既存ホールの意匠イメージはそのまま残して、音響的に抜本的な改修が実施されたのである。

 改修前は、その残響が極めて短く響きの潤いに欠けることと、ステージ上部の形状に起因したステージ上の音の集中、などが音響上の問題となっていた。したがって、残響時間を長めにして豊かな残響を実現することと、ステージ上の音響の欠点を解消するために、既存の内装天井は細かいメッシュの、音響的には透明に近い素材に変更され、その外側のコンクリート躯体は全面的に作り替えられた。とくに屋根スラブは音響的に十分なボリュームを確保するために、図−1に示すようにかなり高く設定された。同時にステージ上には新たに音響反射板が吊り下げられ、ステージ上の音響改善が図られている。また、従来ホールにおいてかなり狭かったステージは、これを機に大きく拡張され、ステージ周辺にも合唱団席兼用の客席が新たに設けられた(図−2参照)。ステージ側の隣地がこの改修のために新たに確保されたことにより、ステージ拡張と同時に楽屋や控室などのバックステージ諸室の充実とともに、新たに500席規模の室内楽ホールも新設されたのである。

 改修後に訪れたホールでは、定期公演を2度聴くことができた(1階席中央部と2階バルコニー席において同一プログラム:Segerstam指揮、シベリウス「フィンランディア」他)。以前に比べて、確かに残響感はかなり増加しており、シカゴ響の音はとても柔らかく暖かい。とくに2階バルコニー席における音の近さ、臨場感が際立っていた。そうでなくとも世界最高レベルのアンサンブルを誇るシカゴ響のサウンドが一層素晴らしいものに聴こえた。普通のオーケストラで聴いてみたいという妙な感想を持ったのも事実である。今回の音響改修の結果、音響的な親密感、拡がり感は以前に比べて圧倒的に改善されていることが確認できたが、残響が多く余韻の長い音響空間を期待した人にとっては、「期待したほどでは」という多少の不満も残ったかもしれない。それと、室内楽のような小編成の公演時の音響が今ひとつであることをザリン・メータ氏(指揮者ズビン・メータ氏の弟でシカゴ郊外のラヴィニア音楽祭事務局長)が指摘していたのが気になった。(豊田泰久 記)

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