オルガンのための響きの改善
News1997-09号でお知らせした松山教会に引き続き、宮崎市の新城眼科医院研修室と宮崎ルーテル教会の礼拝堂においてオルガン設置にあたっての響きの改修を行った。
その経緯は、1996年以降、新城眼科でオルガンの指導をされているオルガニストの西尾純子さんからの斡旋による。院長の新城歌子先生は病院3階の研修室を舞台に合唱をはじめ、リードオルガンや電子オルガンを使ってオルガン教室を主催されている音楽のパトロンである。研修室にぜひパイプオルガンを、という先生の願いが西尾さんの推薦で実現することとなり、急遽研修室の改修となったのである。先生の要請で私がこの研修室を訪れたのは1996年の11月であった。研修室は一面がゆるい円弧状のガラス面をもった天井高さ2.4mの多目的室で、壁は腰から上が有孔板による吸音仕上げ、天井は岩綿吸音板というデッドな仕上げであった。対策としては天井ボードを撤去してコンクリートを露出、壁のパネルも石膏ボード12mm2層張りとする、という単純な工事を指示、工事は昨年の3月に完了した。西尾さんが選定されたオルガンはオランダのKlop氏製作の11ストップのオルガンで、その特色は全パイプが木管であること、音色は優しいが、合唱の伴奏となるとやや力不足を感じる典型的なハウスオルガンである。
新城医院の工事が終わって間もなく、先生が所属されている宮崎ルーテル教会へのオルガン導入も先生のお骨折りで実現することとなり、これも西尾さんの指示でスイスのEdskes氏の7ストップのオルガンに決定した。この宮崎ルーテル教会は戦後の木造モルタル建築で傷みもひどく、牧師館の増改築と礼拝堂の改築が計画されていた。たまたま、オルガンが急に決まったため、オルガンのための改築となったのである。ここでは、床から天井、壁まで全面的な改修となった。仕上げは天井、壁とも石膏ボード12mm2層張りである。
改修工事は終了したが、 Edskesさんのオルガンは今年の秋という予定。新しくなった礼拝堂で、オルガンのあるクリスマスを迎えたいという教会関係者の切なる願いで、その間のオルガン(レンタル)を探すことになった。たまたま、マナオルゲルバウ(東京町田市)に1台組立前の状態で眠っている格好のオルガンがあることを知り、これを約1年間リースすることで決着した。現在、このマナオルガンは礼拝やコンサートに使用されている。以上が、南の町、宮崎市の二つのオルガンを巡っての出来事である。
なお、昨年の暮れに上記2室の残響時間の測定を行った。いずれも空室で1秒、平均吸音率で13%という響く空間である。(永田 穂 記)
ケルン・フィルハーモニー
今月はドイツ・ケルン市のケルン・フィルハーモニーを紹介する。敷地はケルン大聖堂とライン河に挟まれたレベル差のある地区で、建物には2つの美術館とコンサートホールが収容されている。コンサートホールそのものは地下に計画されており、外からは2,000席の大ホールが収容されているようにはとても見えない。エントランスから入ってまず驚くのは、ホワイエがゆったりとられていることである。さらに、寒い冬に厚手のコートを預ける必要からであろうか、クロークも各階に十分なスペースがとられている。
ホール平面は円形で、指揮者位置を中心として同心円状に客席が配置されている。客席勾配はかなりきつく、前から4列目の席にしてすでにステージとほぼ同レベルである。ギリシャの円形劇場を意識したとの説明を受けた。またステージ背面にも3層の客席が積み重ねられている。幅60mにもおよぶ客席は大きく3分割され、左右を高く配置することで客席内に反射壁面を創り出している。ステージも円形で、同心円状にオーケストラ迫りが配置されている。このステージと隣のライン河床がほぼ同じレベルにある。ステージ背後の壁とその上の客席前面は、音の集中を避けて正面客席へ音を返すために分割された凸面で構成されている。客席天井はフラットで大屋根を支える鉄骨が放射状に露出しているが、下向きの客席照明と天井を照らす青い間接照明で美しくみせているのが印象的である。ステージ上部も反射板を兼ねたガラスの光天井がオレンジ色に灯って美しい。
このホールを本拠とするオーケストラは日本でも人気の高いケルン放送交響楽団を含めて3つあり、客演も含めて年間400回の演奏会が開催されているという。この日はその一つ、ケルン・フィルハーモニー(Koln Philharmoniker)の定期演奏会を聞くことができた。なじみのないオーケストラであったが、オーボエに水戸室内管弦楽団のメンバーでもあるHolch氏の顔が見受けられた。前半は上手4列目で聴いた。客席勾配が急なので、見通しは非常によいが音の見通し(バランス)は今一つであった。弦の音色が硬質でコントラバスがややブーミーに聴こえた。前日ウィーン楽友協会で聴いたばかりで、特に音色の違いにとまどった。とはいってもウィーンもかぶりつきの席で、バランスは悪かったのだが。後半は中央後部に移動してホルストの『惑星』を聴いた。ここでは、見た目より音が遠く弦が弱い、響きが長いことはわかるが(残響時間は満席で約2秒)包まれた感じはあまりない、という印象を持った。天井以外に初期反射音の期待できる壁面の少ないことが、やはりこうした印象につながるのであろう。(小口恵司 記)
ホール電気音響設備の改修計画と事例シリーズ(4)音響機器室
数年前までは、商業劇場・大型ホールを除いて一般の公共多目的ホールのほとんどが音響設備機器をすべて音響調整室に設置していた。しかし、近年のマルチアンプ駆動方式のスピーカの普及によるスピーカ専用プロセッサなど出力系機器の多様化と増大により機器収納ラックの本数が著しく増え、これらをすべて調整室内に設置することが難しくなってきた。そこで最近は、チャンネルディバイダやパワーアンプなどの常時調整を必要としない出力系機器を音響調整室とは別に設けた音響機器室に収納することが多くなってきている。
ホールの改修にあたっては、音響設備の更新により増えた機器ラックの収納をどうするかという問題に直面する。音響調整室に余裕があるケースは希である。そこで、新たに音響機器室あるいは設置スペースを探すこととなる。設置場所の選定にあたっては、トラブル時にはスタッフが駆付けなければならないことや、配線経路・距離をできるだけ短くするために調整室と舞台を結ぶ最短経路上が望ましい。一般的な大臣柱に続く側壁が扇型に開いた形状のホールでは、幸いにその側壁裏の上部に使われていない三角形あるいは台形の空間がある例が多い。この空間を利用するのは比較的実現性の高い方法である。また、客席側壁の裏側にスタッフ用の幅の広い通路があれば、増加した機器ラックを設置するに適した場所となる。
音響機器室の配置に関しては、パワーアンプからスピーカまでの配線距離をできるだけ短くしたほうが音がよくなるという主張があるが、一方で最近のパワーアンプの性能は良いので、むしろ調整室のできるだけ近くに音響機器室を設置した方が機器の運用・管理が楽であるという意見もある。ただ、調整室直下に音響機器室を設置する場合は、音響機器用の電源主幹配線から電磁誘導により直上の音響調整卓にハムノイズとして障害をおよぼした例があるので注意が必要である。音響電源にかぎらず、照明や空調、電気設備、インバータ機器などの配線から十分に離す配慮も必要である。
[事例]
●K劇場コンサートホール
狭い音響調整室内にすべての機器を収納していたが設備の更新を機に電力増幅器架を舞台袖上部の空きスペースに移設した。
●K、S市民会館
両会館ともそんなに狭くはない音響調整室であったがスピーカのマルチチャンネル化と専用プロセッサ、出力調整機器の増加でこれらの設備機器を別室に設置することになった。K市民会館は音響調整室が上手袖2Fにあるので同3Fの投光室奥の空きスペースに音響機器室を新設した。新設にあたって、専用電源キュービクルの新設、煙感知器、スプリンクラーの増設等を行った。一番困ったのがエアコンの設置に伴う冷媒パイプ長の制限とドレンパイプの水勾配である。機器室が外壁に面している本会館でもこの条件を満たすのは大変であったが、外壁に面していないS市民会館の場合は天井内でドレン排水のポンプアップまで行ったことがある。このS市民会館音響機器室の新設は音響調整室近くにある放送室(当時は倉庫で使用)を当てることとした。したがって、空調と、電源の増設以外は全く手をつけずに済んでいる。(電気音響開発グループ 記)
音響調整用CD “Pro Audio/Acoustics Technical CD”の完成
(社)劇場演出空間技術協会 技術委員会 音響部会に参画し、制作してきた劇場やホールにおける音響測定・調整・試聴用のCDが”Pro Audio/Acoustics Technical CD”というタイトルでこの3月に発売になる。このCDは、プロオーディオや各種音響計測の現場で、音響設備の動作チェック・調整・設定、建築音響分野の測定・実験・実習などに用いることを目的として(財)放送文化基金の助成を得て制作されたものである。これは、日本音響コンサルタント協会で10年以上前に制作したテストCDの改訂版ともいえるもので、前半が音響測定用信号、後半が試聴用プログラムという同じ構成となっている。
ただし、現場での使用経験から測定用信号は信号音の構成や長さ、配列などを見直し、試聴用プログラムはその種類を大幅に整理し、鬼太鼓座の太鼓以外はすべて新たに収録し直されている。音響測定用信号は、遮音性能、室内音響特性の測定、また、音響設備の調整・検査・測定など実際の測定目的や測定作業の内容を考慮して選定されているのが特徴で、信号音の種類は、正弦波、ホワイト/ピンクノイズ、バンドノイズ、トーンバーストなどの基本的なものである。試聴用プログラムは室の響きが比較的多い場所で再生することから、音質に違和感のない限りドライな音で収録してある。
プログラムは日本語/英語/中国語/韓国語のナレーション、ジャズ、ポップス、ピアノ、オーケストラ、邦楽、太鼓、効果音からなり、効果音は、音響部会長の本間 明氏が制作された5分近い力作で、雷や雨、水琴窟、川、ジェット機、ヘリコプターなどがドラマチックに収録されている。このCDを今後さまざまな現場で活用していただければ幸いです。(稲生 眞 記)
お問い合わせは、劇場演出空間技術協会:TEL:03-3360-6134、または永田音響設計まで
雑誌紹介:ホール・スタジオ音響
JAS journal vol.38 No.2 1998
JAS journalは(社)日本オーディオ協会の機関誌で、年4回最近の音響各部門の技術の紹介を臨時増刊特集号として発行している。永田はその編集委員を担当しており、今回、久しぶりにホール、スタジオ特集を企画した。目次は別図のとおりである。
今回の内容は、冒頭に、今、話題を呼んでいる文化施設の運用の問題を取り上げた。著者の雑喉潤氏は長年朝日新聞で音楽関係の論説を担当されてこられた方、その辛口の論説は的確に現在の文化施設運用の姿勢を切っている。続いては昨年オープンしたわが国最初のオペラ劇場として誕生した新国立劇場の音響設計の紹介である。その他、目次からお分かりのようにホール音響の話題を取り上げている。スタジオに関する記事は豊島氏の1編であるが、戦後から現在までの録音スタジオの設計コンセプトの流れを周辺機器の変遷とともに解説している。貴重な記事である。一読をお薦めしたい。(永田 穂 記)
本誌の問い合わせは、(社)日本オーディオ協会:Tel 03-3546-1206 まで