名取市文化会館、今秋10月1日オープン
仙台の南、仙台空港の位置する名取市に、来たる10月1 日、文化会館がオープンする。この施設、株式会社 槇総合計画事務所が「文化の森のパビリオン」というコンセプトをもとに、公園の中のパビリオンという位置付けで、文化会館を周辺環境の整備とともに計画してきたものである。市役所、体育館などのある公共ゾーンの一角ではあるが、緑の多い公園的な雰囲気の中にガラスとソリッドな壁面のアンサンブルが浮かび上がるような外観構成が印象的な建物となっている。また、文化会館のあり方を「みる」から「する」という従来の鑑賞型の施設から参加型への施設、これまでの文化会館にみられるような受動的な体質からの脱皮がはかれるようロビー、ホワイエなどのパブリックスペースをより豊かな空間とし、その積極的な活用により市民のふれあいの場所となるよう考えられてあるこれらのスペースを介し、ホールと独立したゾーンに音楽・演劇練習室群のワークショップ、リハーサル室が配置されており、市民が「いこう」から「する」、「みる」といった一連の日常的な文化活動を促進し、より積極的に利用できるような計画である。
メインとなるホールは、ホールの形式、収容人数の多様性から音楽を主体とした多機能ホールという設定の1350席の大ホール、室内楽を中心とした音楽専用の450 席の中ホール多用途イベントホールとしてスタジオ風、平土間形式の小ホールの三つである。オープンに先立ち、以下に、各ホールをご紹介する。
大ホールは951 席の矩形に近い主階席を包み込むように、399 席のバルコニー席が配置された形状である。この客席形状と、独特な天井形状により主階席でのより良い室内音響条件を確保するとともに、劇場の持つ雰囲気と親密感のある空間が作り出されている。また、この高い側壁によって構成される二層の客席配分は、大中ホールの使用目的、形式、収容人数から大中ホールの間を埋める第4 のホールとして、客席可変機構を持つことなしに主階席のみの利用による中規模ホールをも意図したものであった。プロセニアム形式の舞台に設置された走行式の音響反射板は、その形状が客席天井、側壁と連続一体となるような形状を採用している。
音楽専用の中ホールは、オープンステーシ゛形式のホールである。やや非対称のシューボックス型の平面形を基本に、単純な箱型とはしたくないという設計者の意図から新しい天井形状を創出したものである。コンピュータ・シミュレーションの活用も手伝って、高い天井はきれいな曲線の舟底型断面の形状となった。両側壁にも特徴がある。左右の側壁はそれぞれ異なり、拡散を意図した凹凸形状を木質の仕上げとモザイクタイルで仕上げた落ちついた雰囲気のホールである。天井の高い、コンパクトな、しかも美しいホールの誕生といえよう。響きも弦楽アンサンブルに向いているように思う。
可動席約200 席の小ホールも特徴のあるホールといえる。仕上げはスタジオ的にパンチングメタルの吸音構造の分散処理。テクニカルギャラリーを上部に設けた平土間のイベントスペースではあるが、小ホールとホワイエを挟んで反対側にある演劇用のワークショップの大きな可動の遮音扉を開けることで、一体的な使用を可能にして中ホール内部いる。また、外壁面に大きな開口がとられ、なかなか開放的な空間でもある。小規模な演劇から展示会等、幅広い使用形態のとれるホールである。
なお、このプロジェクト、プロポーザル時に槇総合計画事務所に協力して以来、計画から設計、監理、検査・測定までの音響設計業務を名取市より受託し実施してきた。また、劇場計画、音楽家、舞台監督、舞台照明、舞台音響の専門家と我々音響コンサルタントより構成される専門アドバイザー会議を市が組織し、配置計画から舞台設備まできめ細かい検討と、市、建築設計者等との調整機能的役割等、実質的な会議が行われたのもこのプロジェクトの特徴であった。ハードに関してみれば、計画段階から実に多くの専門家が参加したことになる。しかし、オープニングプログラムをみる限りソフトに関しては、これら専門家の方々のご助力の成果はまだまだ生かされてないような気がする。アートプロデュースコースや裏方コースなどの舞台芸術の企画、制作をテーマにした“舞台芸術未来工房”を先生方にお願いするような計画はあるようだが、ソフトあってのハードと考えると、何とも、もったいないような話である。(池田 覚 記)
主催事業の一部をご紹介すると、
10月1 日 大ホール:プラハ交響楽団 イルジー・ピエロフラーヴェク指揮
10月10日 中ホール:ヨセフ・スーク&仲道郁代
10月13日 大ホール:劇団四季ミュージカル「エビータ」
10月18日 大ホール:都はるみリサイタル
10月24日 中ホール:米良美一&佐藤淳一 声楽コンサート
11月12日 大ホール:さだまさしリサイタル
11月16日 大ホール:中国吉林省京劇団公演
12月21日 前田憲男&仙台フィルシンフォニックポップス
このホールに関するお問い合せ先:(財)名取市文化振興財団 シーパインズ事務局
〒981-12 宮城県名取市増田字柳田520 番地 名取市文化会館内 022-384-8900
オルガンのための響きの改善
ここ2 〜3 年、オルガン設置にともなう響きの改善をいくつか行っている。その端緒は松山教会(松山市)で、オルガンビルダ−のG.K.Taylor氏の要請で音響調査を行い、その結果に基づいて一昨年設計を終え、昨年の春に改修工事を終えた。オルガンが完成したのは昨年の秋である。同じく、Taylor氏の要請で東京三鷹台の立教女学院マーガレット礼拝堂の改修工事を終了し、現在、オルガン受入れに伴う雑工事に入っている。また、昨年の末、オルガニストの西尾純子さんの紹介で、宮崎市の新城眼科医院の集会室、および院長の新城先生が関係されておられる宮崎ル−テル教会の改修に取り掛っている。
ところで、オルガンのための響きの改修とはどのような内容なのか、簡単に説明したい室内で音を出したときの音の強さ(定常音の)は室の残響時間に比例し、容積に反比例する。とくに、持続音が多いオルガンでは残響の影響は顕著であり、同じパイプでも残響時間によって音量が違ってくる。Taylor氏が目指す歴史的なオルガンは厚い石や煉瓦の壁で囲まれ、低音域が豊かな残響の空間で生まれ、育ってきた楽器である。同じオルガンをわが国の教会空間に設置したらどうなるだろうか。
最近の内装の特徴として、塗りの仕上げは少なくなり、ボード張りが多くなっている。その結果、板振動による音の吸収が顕著になり、低音域の残響が中音域に比べ短くなりがちである。また、説教の明瞭度を確保するという観点から安易な吸音処理が行われている残響の不足はオルガンの設計にとっても大きな問題で、その不足をパイプで補足しようとすると、風圧をあげるかパイプの径を大きくするしかない。しかし、いずれも音色の問題が出てくる。室内側としては吸音面を減らすとともに、さらに、低音域の響きを増す対策を行い、すこしでもオルガンパイプの設計を楽にすることを考えなければならない。具体的な対策としては吸音面と薄いボードの面を撤去するのである。
松山教会でも、マーガレット礼拝堂でも、スーパーウーファーを持ち込んで、天井、壁の振動を計測、振動しやすい部位を検出し、撤去できる箇所は撤去、できない箇所にはボードの裏打ちなどを行って補強した。といっても、戦前の記念建造物であるマーガレット礼拝堂の場合、パネルの木彫はそのままで、剛な壁への変更というのは簡単ではなかった既存のパネルを丹念に外し、補強を行ってまた復元するという家具職人のレベルの工事となった。一方、新城眼科の集会室では吸音壁の撤去だけではなく、思い切って、天井ボードを取り外し、コンクリートスラブむきだしの空間とした。
この種の変更工事に付随する問題として、空調と換気機能の拡充とその騒音対策、オルガンに対しての照明、さらに、宮崎の教会では隣戸に対しての遮音の問題まであった。オルガンは特殊な楽器であるだけに、最初の音響計画が大事である。(永田 穂 記)
秋吉台国際芸術村オープニング・プレ・イベント
巨大な鍾乳洞で有名な山口県秋芳町、その秋芳洞から車で数分の山間の地に現在、秋吉台国際芸術村を建設中である。完成は来年夏前の予定で施主は山口県、設計は磯崎新氏である。県によると、この芸術村は21世紀に向けた国際的な芸術文化の創造・発信の拠点とするもので、宿泊施設も充実し日本では初めての滞在型の芸術創造活動を支援する施設となるそうだ。当社も磯崎氏からの依頼により、設計段階より音響コンサルティングを実施している。
そもそも、この芸術村を造るきっかけとなったのは作曲家の細川俊夫氏が音楽監督として主宰する「秋吉台国際20世紀音楽セミナー&フェスティバル」である。このフェスティバルは、1989年に第1 回が秋芳町で開かれ、その後、山口県の支援を受けるようになり現在は山口市内で開催されている。今年の第9 回は、来年の新芸術村で予定される第10回を前にしたプレ・イベントとして位置づけられ、8 月23日から29日まで山口県教育会館で開催され、そのオープニングコンサートを聴く機会を得た。
コンサートは夕方6 時から10時前まで2 回の休憩をはさんで3 時間近くとなり、J.ブラームス作曲の“間奏曲”(1892)から時代を追って、A.シェーンベルク、A.ベルク、A.ウェーベルンらの代表的な作品を時代とともに並べ、細川氏作曲の“旅I”(1997)など計14曲が演奏された。演奏者も野平一郎、漆原朝子、宮田まゆみをはじめ、M.スヴォボダ、S.フッソング、ヨーロッパを代表する現代音楽アンサンブルの一つであるクラングフォールム・ウィーンなどいずれも第一人者ばかりである。曲や演奏者を紹介する島根大学の川添先生の平明でユーモラスな司会にも支えられ、内容の濃いほんとうにピュアなコンサートで磯崎新アトリエの設計監理担当の小形氏、平林氏とともに感動を分かち合った。
細川氏はあいさつのなかで、19世紀音楽にその当時のコンサートホールがふさわしく、20世紀音楽にはまた、それにふさわしい場所が必要であり、磯崎氏による芸術村に大いに期待していると述べた。来年の夏、第10回フェスティバルではルイジ・ノーノ作曲のオペラ“プロメテオ”が本邦初演される。コンピュータや音響機器も演奏に用いるため、舞台音響設備も様々な工夫をしているので、来年の上演が楽しみである。(稲生 眞 記)