No.116

News 97-8(通巻116号)

News

1997年08月25日発行
栄区民文化センター(仮称)音楽ホール

地球市民かながわプラザ(仮称)及び栄区民文化センター(仮称)竣工

 JR根岸線本郷台駅(横浜市栄区)前に本年6月末、2つのホールを持つ複合施設が竣工した。1998年2月1日全館一斉オープン予定で、まだ正式名称は決定していない。
 本施設の平面形状はほぼ円形で、円の中心部分は高さ30m強のアトリウムとなっている。そして、このまわりを「地球市民かながわプラザ(仮称)」、「自治総合研究センター・市町村研修センター」、「栄区民文化センター(仮称)」の3施設がぐるりと取り囲んでいる。前2者が神奈川県、後者が横浜市の施設となっている。設計・監理は(株)松本陽一設計事務所である。
 まず、地球市民かながわプラザ側には「多目的ホール」がある。この客席は椅子を格納した昇降床になっており、この床ユニットの組み合わせにより平土間から370席のエンドステージ形式まで、実に10種類余りもの床パターンが可能である。また平土間への転換は、各床ユニットを下げて揃えるのではなく、最後列の2階レベルまで全床ユニットを上げて揃えるため、段床形式の時に比べて室容積が大幅に減少、主たる吸音体である椅子が収納されても、残響時間が長くなりすぎないという利点がある。ただし、そのために昇降床の支持材脚は最大で7mにも及び、小さな振れが大きなズレを生じさせる。我々が最終音響測定を行った6月末もまだ、昇降床の調整は延々と続いていた。

地球市民かながわプラザ(仮称)平面図

 アトリウムを介して多目的ホールとは反対側の栄区民文化センター側に「音楽ホール」がある。こちらは約300席のクラシック主目的のホールであり、やや変形したシューボックスである。というのも、このホールの断面形状は客席勾配の大きさが際だち(約25度)平面形状は長方形の長辺の真ん中をつまんで引っ張った、つまりは長六角形となっているからである(以前、アメリカの建築設計者がこれに似た平面形状を「coffin(=棺桶)スタイル」と呼んでいたが、どうもあまり使って気持ちのいい呼び方ではない)。

栄区民文化センター(仮称)音楽ホール

 まだこのホールでの生演奏を聞いていないが、音響測定時の印象としては、「すっきりした」響きを持つホールに仕上がっているように思う。このホールの斜め下にはリハーサル室と練習室(2室)があり、地元の音楽愛好家達の練習の場として待ち望まれている施設である。そのために周囲に気兼ねなく利用できることを目標として、各室ともコンクリート躯体の中に防振ゴム支持によるボード積層貼の遮音層を設けた。とくにリハーサル室は一部が上階の音楽ホールと重なるため、防振遮音層を2層設けている。測定の結果は良好で、和太鼓や低音のビートの強い音楽を除けば同時使用は問題ないレベルと判断している。

 多目的ホールの舞台側の外壁は、約20mの距離をJR根岸線の軌道が走っている(盛土ため設計段階で振動測定を行ったが、振動加速度レベルは小さく、ホール内で予想される騒音も低音が微かに聞こえる程度、もしくは空調騒音にマスクされて聞こえないレベルであろうと予測された。このため地盤と建物駆体との絶縁等の大がかりな処置は特に施さず排煙口その他の開口部からの空気伝搬音の対策を行った。結果は予想どおりで、ホール内が静かな時に低音が僅かに聞こえる程度であった。ただ、言われないと気づかない人が多いのもまた確かであり、実用上問題のないレベルと判断している。

 筆者はここ数年、駅前再開発物件を数件担当している。そのいずれもが複合施設でありこれらの施設は必ずしもホールが主役というわけではなく、用途の異なる様々な部屋が、目的意識を異にした利用者によって使用されるため、音響設計もホール中心というわけにはいかないことを痛感している。本施設も音楽ホールの隣にはレストランの厨房、下階には練習室、多目的ホールの上階には展示室がある。さきの練習室を除けば、どれも遮音対策が十分だったとは言い切れない。決められた予算の工事の中で、必ずしもホールの優先順位が高くないことを思い知る場面も多々あり、音響設計を進めるにあたって、施設全体を見渡すバランス感覚を問われたプロジェクトであったように思う。(横瀬鈴代記)

宝積寺テラノホール

 横浜市磯子区根岸にある明王山宝積寺の境内に148席の音楽ホール“テラノホール”が誕生した。昔、お寺が町や村の文化の中心であったように、みんなで集まって、音楽や落語を聴いたり、語り合ったり……お寺をそんな場にしたい、という住職の高梨氏は、長年にわたり本堂での音楽会や講演会などの地域住民と深く関わり合った文化的活動を精力的に推進してこられた。そして、より良い環境で芸術を観賞できるように、という長年の夢を“テラノホール”に実現された。テラノという名は、“お寺のホール”ということの他にラテン語で大地、地球の意味にちなんで命名されたものである。設計・監理は磯子区内に事務所を構える・像建築設計事務所である。

宝積寺テラノホール

 演目はクラシック音楽から邦楽、落語までと幅広く、また集会などにも使われるこのホールは多目的な設定が無難なのだが、なによりもクラシック音楽が良く響くホールにしたいという住職の思い入れを受けてシューボックス形を採用した。敷地および建築的な条件から天井高の確保に制約があったものの、椅子以外の吸音面を排したホールは770m3の容積に対して空席時の残響時間1.3秒(平均吸音率0.15)と良く響く。催物によっては響きを抑えるためステージにカーテンを設置できるようにしているが、明瞭度は十分でカーテンをとくに必要としない。これは148席という規模にもよるのであろう。この規模のコンサートホールは少なく、また、提唱されている最適残響時間の適用には容積が小さすぎるので、残響時間の設定には大きなホールとはまた違う難しさがある。

 このホールにはめずらしいピアノが2台ある。1台は1860年作の英国製ブロードウッドで、長い間、英国の倉庫に眠っていたのをこのホールのために日本に運びオーバーホールされよみがえったものである。6月7日にはこのピアノに興味を持った来日中のイョルク・デームスさんが訪れ満員の聴衆の前で気合いの入った演奏を披露している。もう1台はドイツ製のグロトリアンである。このピアノは日本ではあまり馴染みがないがスタインウェイと血縁にあたる優れたピアノとしてヨーロッパで評価が高いという。

 このホールの音響設計の業務は、実施設計が完了し施工が始まった段階からの参画であったが、住職をはじめ設計者、ボランティアの方々の熱意と音響設計に対する理解をいただいてクラシックコンサートに相応しい音響のホールができたと思っている。

 今後のコンサートは、近隣にお住まいの東京音楽大学教授でテノール歌手の篠崎義昭氏が音楽監督として企画をサポートされることになっている。コンサートの他にも多彩なプログラムが計画されているのでお出かけいただければ幸である。

問い合わせ:〒235横浜市磯子区上町7-13宝積寺TEL:045(751)4300(中村秀夫記)

YES-fm長堀ステーションが開局

 大阪にまた一つ大きな地下街が誕生した。その昔は水路で、現在は埋め立てられて道路となっている長堀通の、四ツ橋筋と堺筋の間が地下街・駐車場として開発された。地下4階は地下鉄鶴見緑地線の構築で、8月には大阪ドームのある大正駅までの営業運転が始まっている。その西端・四ツ橋筋側に、吉本興業が運営するFM局“YES-fm、78.1Mz”の長堀サテライト・スタジオが開局した。10mのDJスタジオと8mのスタンバイルームからなるコンパクトなスタジオであるが、”街角の放送局”として、気の効いた音楽と地元大阪のローカルな情報を発信している。

YES-fm長堀ステーション

 音響設計の課題は、同じ躯体内を走る地下鉄振動・騒音の遮断と、窓で接するスタジオ前広場(サテスタ広場)との遮音であった。特に静けさが要求されるDJスタジオについては、防振ゴムによるコンクリート浮き床の上に躯体から独立した鉄骨フレームを建て、その鉄骨の外側に押出成形セメント板の遮音層を設けた。外側の躯体から内装までの仕上げ代は約40cmを要した。ガラス3枚で隔てられたサテスタ広場とDJスタジオの間はD-75の遮音性能が実現できた。試運転中ではあったが、地下鉄についてもまったく聞こえないことを確認している。(小口恵司記)

全国音楽祭サミット in 札幌

 毎年、全国各地の音楽祭持ち回りで開催されている全国音楽祭サミットが、今年は第8回としてPMF(PacificMusicFestival)の地元の札幌で開催された。PMFのコンサート会場である札幌コンサートホール(Kitara)が今回オープンした(本News7月号参照)のを機にこの新しいホールを会場として行われたものである。

 全国各地から20団体77名が集まって、去る7月24日、25日の2日間の日程で開催された1日目は国立音楽大学学園長の海老沢敏氏による基調講演「聴衆とともに歩む音楽祭」と夜のPMF公演(札幌交響楽団演奏会)そして懇親会、2日目が西巻正史(社会工学研究所)、海老沢敏(国立音大)、児玉真(カザルスホール)、鈴木武昭(女満別町)、ハリー・クラウト(PMF)の各氏をパネリストとしたシンポジウムというプログラムであった。今年のテーマ「聴衆とともに歩む音楽祭」は昨年に引き続いてのもので、どのように聴衆を集め育てるか、聴衆にとっての音楽祭の在り方など、如何にこのテーマが各音楽祭にとって共通、かつ本質的な問題かということが伺い知れる。なかでは、ハリー・クラウト氏による「様々な工夫、新しい試みを常に打ち出すことによって聴衆を引き留め、増やすことが可能」という、経験と実績に基づいた積極的な提案が印象的であり、勇気づけられた思いがした。

 来年の第9回は、栃木県栃木市の「蔵の街」音楽祭において開催される予定である。
問い合わせ:全国音楽祭団体連絡協議会(高崎市役所文化課内TEL:0273-23-5511内215)(豊田泰久記)

日本音響学会特別企画「コンサートホールの音響」

 来る9月17日~19日の3日間、札幌市の北大で開催される1997年秋季研究発表会に合わせて、札幌コンサートホール(Kitara)の大ホールにおいて音響学会主催の特別企画が予定されています。(9月17日:開場18:00、開演19:00、入場無料)

第1部:コンサートホールの音響(橘秀樹東大教授他)
第2部:パイプオルガン独奏(山田悦子)、ピアノ独奏(谷本聡子)、
    アンサンブル(札幌交響楽団員有志によるモーツァルト:交響曲第40番)
問合せ、参加申込みは日本音響学会(TEL:03-3379-1200)まで。