富山市芸術文化ホール(オーバードホール)
富山市は「劇場都市とやま」を旗印に市民レベルの芸術文化活動の活性化を狙い、既設の富山市民プラザ、能楽堂、そして先頃完成した桐朋学園富山キャンパスと一体となった芸術創造センターなどの諸施設を整備し、さらにその拠点ともなる中心施設としてこの富山市芸術文化ホールが計画された。そして平成5 年3 月提案競技の結果(株)久米設計案が選出され、今年6 月に竣工、そして9 月に「国民文化祭」のメイン会場として幕を開けた。劇場・音響技術については、富山市側の技術コンサルタントとして(財)NHKエンジニアリングサービス、(株)劇場工学研究所が、また、設計・監理者側の技術コンサルタントとして舞台関係を小谷喬之助日本大学教授、音響設計を(株)永田音響設計が担当した。施工は建築が佐藤工業他4 社の共同企業体、舞台機構・名物設備が森平舞台機構、舞台照明設備が松村電機製作所、舞台音響設備が松下電器産業/松下通信工業で、舞台連絡設備は松下電器産業のもとで日本無線が担当した。
〈建築音響設計〉 この施設は、オペラを主眼とした三面半の舞台と、用途に応じて客席を1650席から2200席まで変換できる可変機構を設けオペラ、クラシックコンサート、式典、歌謡ショー等、様々な催しに対応できる多機能ホールである。
このホールの大きな特徴である客席の可変機構は天井から降りる隔壁により第3 バルコニーを閉じる方式を採用している。各パターンと残響時間(500Hz)を右図に示す。オペラ、クラシックコンサートなどにはこの隔壁を閉じた状態で対応することを前提とし、室内音響計画ではこの状態で生音楽に最良となるように室形、内装条件等を設定している。また、2000人を越えるポピュラーコンサートや国際会議などについては第3 バルコニーを開けて使用することを前提としている。このホールのもう一つの特徴であるサイドに設けられた大きな4 層のバルコニーは、客席に一体感を創る視覚的な効果だけでなく側方反射音を1 階客席に与える反射板としての役割を持ち、各壁面は微妙に角度が調整されている。(小野 朗 記)
仙南芸術文化センターオープン
宮城県仙南圏域2 市7 町(白石市、角田市、蔵王町、七ケ宿町、大河原町、村田町、柴田町、川崎町、丸森町)の芸術文化の中核施設として宮城県が建設を進めていた仙南芸術文化センター、愛称“えずこホール”が完成し10月26日柿落としが盛大に行われた。愛称の“えずこ”とは、乳児を育てるのに使われていたワラ製のバスケットのことで、地域文化を創造するゆりかごに、との願いを込めて名付けられたのだという。写真に見られるように“えずこ”を逆さまにした形にデザインされたグリーンの大屋根が東北地方の伝統的な民家のかやぶき屋根をも連想させる。
設計・監理はコンペで最優秀に選ばれた(株)日立建設設計、施工は日本国土開発(株)他JV、舞台設備は(株)サンケンエンジニアリング、丸茂電機(株)、日本ビクター(株)である。
主な施設は802 席の大ホール、300 席の平土間ホール、300 席の野外劇場、練習室(4室)、会議室などで、広い敷地にゆったりと配置されている。大ホールは音楽を主目的とした多目的ホールであるが、多目的とすることによる音楽ホールとしての犠牲を極力避け、クラシックコンサートの音響効果を最優先するよう計画された。このために平面形は幅の狭い(最大20m)6 角形とし、天井高は最頂部で15m以上を確保して、ステージから客席までが一体となったホール空間を実現した。この条件のなかで舞台反射板を可動として、コンサート形式の音響を阻害しない範囲の名物、照明設備を設け多目的な利用に対応させている。残響時間は 2.0秒(空席時、500Hz)空調騒音はNC-20以下である。本施設の特記すべき点は、住民参加型の文化創造施設という目標を強く打ち出しており、それに対応する運営体制を整備していることである。この地域は旧くから郷土芸能が盛んで、また、様々な芸術文化活動が活発に展開されており、それを表現する場が身近にほしい、という住民の熱意がこのホールを実現させたといってよい。各地のホールで開館後の利用度の低さが話題となっている中で、本施設のこれからの使われ方が良い見本となることを期待したいものである。
柿落としの催物は昼過ぎから夜まで、すべてのプログラムが圏域住民および出身の方々の出演によるもので、観客と出演者がともに盛り上がり、今後の運営の意気込みを感じさせる内容であった。形式的な開館式典が多い中で、柿落としの終了後、東京まで距離はあるもののたいへん心温まる、楽しい気分で帰路についたのである。(中村秀夫記)
ホールを悩ます騒音源─携帯電話
10月20日、サントリーホール10周年記念フェスティバル公演の目玉の一つ、クラウディオ・アバド指揮のベルリンフィルハーモニーによるマーラーの「復活」の静かな楽章の最中に突然、携帯電話が鳴るという事件が起った。このことは、指揮者のアバドからも指摘があり、ホール側では早速、支配人からお客様へのお願いという形でポケベル・携帯電話の扱いについての注意の文書を作成、入り口で配布するチラシの一枚目にいれて、来場者に注意を促している。ホール側の防衛策としては、場内アナウンスに加えて、このチラシ作戦が精一杯というところであろう。しかし、この問題はまた別の方向に発展した。
12月1 日、日経新聞日曜版の連載記事、山根一真氏の<36.5℃の生活>に、ホールの電波防衛というタイトルで、音楽ホールは完璧な防音壁で外部からの音の波を遮断している、電波の波についても完璧な遮断対策を講じるべきでないか、という指摘があった。たしかに、電波無響室という存在は知っているが、これをホールにまで適応することはどうであろう。一般ビルで右翼の拡声音を遮断するのと同じように実用的には困難な対策だと思う。 騒音対策の基本は発生側で可能な限りの対策を講じること、それが不可能な場合に航空機騒音に対する防音住宅のように受け側の対策となる。携帯電話の場合はスイッチを切る、クロークに預けることで解消できる問題である。うっかりということもあるが、使用者側の心掛けで解決すべきだと考える。新幹線にはじまり、東京では東京急行電鉄車内でも携帯電話の使用は禁止されているし、新宿の中村屋の食堂でも使用を遠慮してほしいとの張紙がでている。禁煙がこれだけ普及している今日、携帯電話についての制約があって当然ではないだろうか。対策は技術より、心掛けに求めるべきである。(永田 穂 記)
職人 永 六輔 著 岩波新書 \ 650
この本は永六輔氏が職人さんとの付き合いの中から集められた職人さんの現場の声である。冒頭で永氏は職人というのは職業じゃなくて生き方であると語っているが、さらに付け加えると、本音の世界で生きている人々である。今の職場では言いたくても言えない言葉がこの世界では飛び交っている。
永氏も指摘しているように、職人の芸や技能というのは封建社会の産物かもしれない。新しい素材の開発、ロボットの登場などで職人さんの世界はどんどん狭くなっている。しかし、その心意気、仕事に対しての思いは技術屋としても秘めておくべきではないだろうか。今の世の中、あまりにも評論家、段取り屋が多い。彼等は簡単に文化論を展開する。
12月6 日の音の日の記念行事として、日オーディオ協会の主催でマイクロホンについてのシンポジウムがあった。パネラーは音響ミキサーからマイクロホンの設計者、製作者、すべて音の職人さ達、マルチメディアなど実態のない話題が行交っているこの世界、久し振りに骨のある話しであった。オーディオ協会の快挙であった。(永田 穂 記)