No.105

News 96-9(通巻105号)

News

1996年09月15日発行
コンサートホールの内観

シンフォニア岩国

─基地近くに建ったコンサートホール─

 山口県岩国市、日本三奇橋の一つ、世界最大の木造アーチ橋として有名な錦帯橋と米軍基地のある県東部の都市である。ここに、コンサートホール(1205席)、多目的ホール( 374席)、企画展示ホールをはじめ、リハーサル室、練習室、会議室等からなる総合文化施設の山口県民文化ホール“シンフォニア岩国”と県の出先機関となる山口県岩国総合庁舎の二つからなる複合施設が完成した。この施設、東部地域の行政・文化の拠点としての役割と期待を担って一体的に整備、計画されたものである。地域に馴染ませるという設計の大谷幸夫先生/大谷研究室のお考えにより、周辺の建物のスケールと合わせ、小さな単位、機能の集合とした施設構成になっており、総合庁舎とコンサートホール、多目的ホールを会議棟が連結するような配置計画である。また、大屋根の形状、屋根・外壁タイルの色合い等が独特な雰囲気を醸し出している。

断 面 図
コンサートホールの内観

 中心となるコンサートホールは、国際的な講演会、会議にも対応できる施設として計画されているものの、多目的な利用にも十分対応できるように舞台天井反射板の舞台背面への格納、前舞台兼用オーケストラピット等、舞台設備も充実している。なお、多目的ホールは、小規模ながら様々な利用形態を想定した可動舞台と天井の照明、吊り物用の格子状キャットウォークが特徴である。

 この施設の音響設計では、岩国基地周辺という特殊な敷地条件に伴う外部騒音の遮断、複合施設に求められる同時使用を考慮した室間の遮音および室内音響に関して、比較的大きな舞台を持つコンサートホールの形状とこれを補う舞台機構による工夫等について検討してきたが、以下に騒音防止計画についてご紹介する。

左:屋根の防振構造 右:外壁の防振構造
コンサートホールの残響時間

 敷地はJR山陽本線に隣接し、鉄道騒音・振動、岩国基地の航空機騒音および高架橋を含む都市計画道路の交通騒音等の影響が懸念される条件であった。敷地近くの航空機騒音の定点観測点における騒音測定結果によると、騒音レベルの月平均が87dB(A)/約12500 ~16000 飛行回数/年で、その最高値は104 ~109dB(A)にも達するという最悪の環境条件であった。この航空機騒音を遮断するための必要減音量は75dB(500Hz) 以上という結果となった。このため、鉄道側に駐車場、道路側に緑地帯を配置するとともに、航空機騒音に対しては、内壁の浮き構造の採用も検討したが、複雑な機構を持つ舞台部の施工精度等も考慮し、RC造の躯体外側にPC板(150・) および現場打ちコンクリートを防振支持する構造を採用した。これにより航空機騒音に対してNC-20程度の静けさが確保されている。また、コンサートホールと多目的ホール、リハーサル室、練習室間の同時使用に対応するための室間の遮音性能の確保については、コンサートホールと多目的ホール間にEXP.J.を採用するとともに、隣接配置関係にある多目的ホール、練習室、リハーサル室に対して浮き構造を採用した。その結果、各室間、95dB(500Hz) 以上の遮音性能が得られている。なお、コンサートホールの反射板設置状態の残響時間(500Hz) は、空席時 2.3秒、満席時 2.1秒であり、シーリング、サイドスポットの開閉により 0.2秒程度変化する。舞台幕設置状態では空席時 1.5秒、満席時 1.4秒である。

 1996年6 月30日、竣工式典の後、N響によるオープニングコンサートがあった。その時、シューボックスホールとしてはこれまでになく、良く鳴るホールとの印象を持った。ただオーケストラとホールの音という意味では調和はなく、残念であった。やはり時間のかかるかかることを感じた。なお、当日のスケジュールの関係から、式典もコンサート仕様のステージで行うこととなったため、かなり心配であったが、音質、明瞭度も良好であり、ほっとする場面もあった。(池田 覚 記)

苫小牧市白鳥アリーナの完成

 北海道苫小牧市は「スケートの街」として知られ、このたびスポーツ都市宣言30周年の記念事業として、国際規格のアイスホッケーリンクを備えた「苫小牧市白鳥アリーナ」を完成させた。施設は市の中心街に位置し、約26,000m2の広大な敷地に、2階建て、延べ床面積約9,900m2と、かなり大規模なものとなっているが、市の鳥である白鳥の飛翔をイメージし、緩やかな曲線で構成されたアルミ屋根の外観は美しく、威圧感なく周囲の景観に溶け込んでいる。

アイスアリーナの内観
アイスアリーナの残響時間周波数特性

一方、内部は、30m ×60m のスケートリンクを、立ち見を含め 4,000人の観客席がすり鉢状に取り囲んでいるが、迫力あるアイスホッケーの試合や、華麗なフィギュアスケートの演技を間近に感じられるように観客席が1 階から設けられており、臨場感を重視したデザインとなっている。設計・監理は久米設計・王子不動産共同体、施工は建築主体工事の戸田建設・岩倉建設・菱中建設JV他である。10月の竣工式に先立ち、完成を記念して、8 月29日から9 月1 日にかけて、ロシアとスウェーデンのチームが招かれ、国内の社会人チーム新王子製紙およびコクドの4 チームによるアイスホッケーの国際親善大会が開かれた。また、伊藤みどりさんと、渡部絵美さんによるフィギュアスケートのエキジビションが試合前に行われ、親善大会に華を添えた。

 アリーナの音響設計としては、残響過多の抑制とアイスホッケーとフィギュアスケートの競技における電気音響設備を用いた拡声に主眼を置いた。つまり、競技中の場内アナウンスやBGMが、競技者、競技関係者および観客に対して、良好な音質と、十分な音量でサービスされることを目標として設計した。

メインスピーカ

まず建築音響では、明瞭度を阻害する残響をできるだけ抑え、また曲面で構成された壁や天井面に起因する音の集中を防ぐ目的で天井面の中央部、観客席上部の巨大なドーナツ状の浮き天井および観客席周囲の壁を吸音構造とした。空席時の残響時間の測定結果は500Hz において 2.0秒となり、室容積約88,000m3もある大空間における値としては、かなり短くすることができた。残響時間は上図の通り、まるでコンサートホールのような特性が得られたが、大空間なので聴感上の印象としては「シーン」としている。次に、電気音響設備は、アリーナ中央上部の天井トラス内に、EV社製の18台の定指向性ホーンと10台のウーハで構成される集中クラスタを設置し、メインスピーカとした。また、補助スピーカとして、観客席上部の浮き天井の隙間に、14台の2WAYワンボックススピーカを分散配置とし、メインスピーカからの遅れ時間をディレイ装置によって調整した。

 筆者は、大会初日の伊藤みどりさんのエキジビションとアイスホッケーの試合を観ることができ、フィギュアスケートのBGMと試合中のアナウンスは、かなり明瞭度の高いことが確認できた。残響を抑え、質・量ともに十分なスピーカを適切に設置すれば、大空間でも明瞭度の高い拡声が実現できることが分かった。また、アイスホッケーの試合中は、判の笛が鳴って試合が中断されるたびに、エレクトーンの生演奏が行われ、電気音響設備を通して場内に流れたが、これも良好であった。アイスホッケーの本格的な試合を実際に観るのは初めてだったが、かなりエキサイティングな、ほとんど格闘技のようなゲームを楽しむことができた。
 このほか、施設の特長として、1 年中使用されるスケートリンクとしては全国で初めて、観客席に電気ヒータが組み込まれている。これは、氷のリンクが張ってあるために場内は放っておくと当然寒くなるため、観客が快適に観戦できるように考えられたのだが、大会初日は場内の温度がやや上がり過ぎ、氷のメンテナンスに関係者は苦労されていた。(菰田基生 記)

全国音楽祭サミットin草津

 去る8 月31日~9 月1 日の2日間にわたって、草津において全国音楽祭サミットが開催された。このサミットは、全国各地で行われている音楽祭の関係者が一同に集まり、共通に抱える問題を話し合ったりお互いの親睦を深めることを目的に年に1度開かれているもので、今年で7回目を数える。今年は「第17回草津夏期国際音楽アカデミー&フェスティバル」 (8 月17~31日) の最終日に合わせる形で開催され、北海道から九州までの全国にわたる26団体から85名が参加した。

 今年のテーマは「音楽祭が育てる聴衆」。雑喉潤氏による「音楽祭が育てる聴衆」、遠山一行氏による「私の聴衆論」などの基調講演やパネラー6名と出席者らによるシンポジウム等の企画があった。また、初日の夕方には草津音楽祭の最終コンサートとフェアウェルパーティにも共に参加し、出席者が音楽祭の一部を楽しめるようにも配慮されていた。

 雑喉氏は、音楽ジャーナリストという客観的な立場から、これまでのわが国の音楽祭活動の歴史的な流れを紹介され、現状における良いプロデューサーの不足の認識と、この良いプロデューサーの発掘、育成を成功の鍵として訴えられた。一方、遠山氏は、音楽評論家としてよりもむしろ草津音楽祭の音楽監督としての主観的な立場から草津音楽祭における考え方を紹介され、各々の音楽祭で各々のやり方、考え方があってよいと主張された。最後のパネリストを交えたシンポジウムは、各地の音楽祭の実状を紹介する程度の内容に留まり時間不足の感もあったが、今回のテーマは音楽祭の根幹に関わる重要な問題ということで、来年も引続き同じテーマで札幌にて開催されることになった。

 聴衆の問題は、音楽祭に限らずあらゆるコンサートにおける共通のテーマである。サミットへの参加は基本的にオープンであり (今年の参加費: 一般\6000-) 、共通の悩み、興味をお持ちの方々は、是非参加されるとよい。
問合せ先は、全国音楽祭団体連絡協議会 (事務局: 高崎市役所文化課 Tel:0273-23-5511,Fax:0273-28-5473) まで。(豊田泰久 記)

第1回日本オペラフォーラムに参加して

 全国の市民オペラ関係者の情報交換を目的として、第1回日本オペラフォーラムが茨城県日立市および日立市民オペラを育てる会の主催により、7 月20日から23日の3 日間にわたって日立シビックセンターで開催された。プログラムは、佐藤克明氏による基調講演「全国オペラ調査に見る地方オペラの現状」、各地のオペラ活動報告、オペラ夢トーク「まちと市民とオペラの語らい」、池辺晋一郎氏による記念講演「オペラをつくる」、オペラコンサート、全国オペラ会議、という多彩な内容で、全国から100名を越える参加者により熱のこもった質疑・討論が展開された。各地でオペラを推進している方々の活動状況に感銘を受けるとともに主催者の温かいもてなしが印象的だった。(中村秀夫 記)

 今回は「日本フィル・ヨーロッパ公演随行記(その2)」を特別増頁版として掲載します。

日本フィル・ヨーロッパ公演随行記(その2)

960426:マンチェスター・ブリッジウォーター・コンサートホール建設現場訪問

マンチェスター・ブリッジウォーター・コンサートホール
  • ちょっと足をのばしてマンチェスターまで行ってきました。バーミンガムから電車で2時間弱のところで、ケント・ナガノ率いるハレ管弦楽団の本拠地です。今ここではこのハレ管のための新しいコンサートホールが建設中で、今年の9月にオープンの予定です。当日はちょうど定期会員の人達のための見学会があり、一緒に入って自由にホールの中を見てまわることができました。
  • 現在、内装工事がほぼ終了しかかった状態です。客席数は2360席で、シューボックス型とアリーナ型をミックスしたような形状でかなりモダンなデザインです。ステージ周辺の客席配分はちょうど京都のコンサートホール位で、京都の躯型をくずして客席方向にやや開いたようなプロポーションです。バルコニーは2層。天井がとても高く、22~3mは確実にあるのではないかと思います。その代わりでしょうか、ステージ上には9枚の音響反射板が吊るしてありました。反射板1枚の大きさはサントリーのものよりやや大きめで、透明でその上に舞台照明の器具が付いていました。天井、壁などはほとんど反射性で、コンクリート、プラスター、石などです。1F席の側壁はミガキ大理石でした。
  • 運営のことについて少し聞きました。基本的には財団が政府や市からの援助を受けて建設し、それをハレ管が借りて使うという形です。ハレ管の本拠地として練習時間の確保など優先権は与えられているそうですが、決して専用ということではなく他の色々なオーケストラやアンサンブルも招聘するそうです。オープニングの柿落しはもちろんハレ管ですが、その後はシカゴ響などの大物がずらっとならんでいます。そういう意味では日本の大都市におけるコンサートホールと似たような状況ですが、基本的に地元オーケストラの本拠地という意識と練習に対する優先権など認識の違いが根底にありそうです。

960427:バーミンガム市交響楽団公演@バーミンガム・シンフォニーホール:バルコニー上手サイド後方
     シアン・エドワーズ(指揮)+イングリッド・アトロット(Sp)+アラン・オーピー(Bass)+CBSO+CBSC
     プーランク:グローリア、
     フォーレ:レクィエム、他

  • ひとつのオーケストラで色々なホールを聞くのと、そのホールのフランチャイズオーケストラを聞くのと両方ができれば理想です。その意味では今回のは理想的な聞き方といえるでしょう。ところが今回のバーミンガム市交響楽団(CBSO)による演奏会は、結果的には今一歩でした。指揮者が音楽監督のサイモン・ラトルでなかったせいもあるかもしれません。アンサンブルは悪くはないのですが、とても硬質な音で聞いていて疲れる程です。日本フィルの時もそのような傾向にありましたが、それが一段と強調されて聞こえました。特にブラスがうるさくて耳には刺激的です。響きがタイトなのは悪くはないのですが、それが強調されると耳につきます。
  • フォーレのレクィエムの時は、オーケストラそのものが中低音中心の柔らかい音の楽器ばかりで構成されており、曲の性格からして刺激的な音は全くなりをひそめ、快適そのものでした。秀逸なのはこの合唱団で、CBSCという多分アマチュアの、主としてこのオーケストラの合唱付きのプロの時に出演することを目的に編成された合唱団と思われますが、とても綺麗な濁りのないハーモニーで、先日のパリ管日本公演の時の京都エコーという合唱団を思い出しました。

960428:日本フィル@アムステルダム・コンセルトヘボウ:2F正面バルコニー下手コーナー
     吉松隆: 鳥たちの時代、
     ラロ:スペイン交響曲(Vn:渡辺玲子) 、
     ファリャ: 三角帽子

アムステルダム・コンセルトヘボウ
  • やはり偉大なホールだと思いました。第一印象はとにかく音がメロウで、柔らかく暖かいこと、低音の量感が圧倒的に大きいことです。リハーサルの時にあちこち動きまわって聞きましたが、1Fはやや音がダンゴ気味でクリアーさが今ひとつですし、中央から前寄りの席では、特にヴァイオリンは生っぽく聞こえます。あらゆる意味で良いのは2Fバルコニの特に正面です。柔らかくてしかもクリアで、まさにホール全体がひとつの楽器という感じがします。
  • アムステルダムを聞くとバーミンガムの音がタイトで硬質だということを痛感します。バーミンガムはオケがトゥッティのフォルティシモの時のみホール全体が鳴っているのを実感しましたが、アムステルダムはもっと小さな音でもホール全体に響きわたっているという感じがします。ホールの空間的な鳴りざまという意味では、サントリーホールはどちらかというとアムステルダムに近いと思います。
  • 特にコントラバスの鳴り方は圧巻で、ブーミーにもならずグングン音が出てくるというイメージです。同様に低音に量感があってもバーミンガムとアムステルダムでは大分印象が違っていて、アムステルダムの方が音に芯があって力強さを感じました。
  • 何年か前にアムステルダムに来た時は、たしかロッテルダム・フィルのしかもリハーサルを聞くことができただけでした。その時はメロウで柔らかいという音の印象だけは残っているのですが、今回のように音に力強さはあまり感じなかったように覚えています。オーケストラの違いでしょうか。
  • バーミンガムではステージのまわりにもバルコニーによる庇が壁面に多くあり、いかにもステージに有効な初期反射音が返ってきそうでしたが、アムステルダムではそのような庇は一切ありません。ステージ上には反射板も吊ってないし、これで楽員の反応が悪くなかったら、ステージの音響をどの様に考えるべきでしょうか。

960429:日本フィル @ミュンヘン・ガシュタイク:中央部上手寄り
     ベートーベン: 交響曲第1番、
     ラフマニノフ:パガニーニ・ラプソディ (P: アンドレイ・ガブリーロフ )、
     ファリャ: 三角帽子(Sp:坂本朱)

ミュンヘン・ガシュタイク
  • ・アムステルダムで聴いた日本フィルの音はどこへ行ったのかと思うほどステージの音が遠くて、ホールそのものが鳴っていないのがよく分かります。しかし、ロンドンのロイヤルフェスのようにドライなのかというと、そういう訳でもありません。余韻が残っているのもちゃんと聞こえます。でもホール空間に音が満たされているという感じがしません。
  • ・以前には無かったステージ上部の反射板が10枚設置されています。そのせいかどうか、日本フィルの団員は「5年前に来た時は音響が貧弱だったのを覚えているので覚悟してきたけれど、今回来てみてそれほどではなかった。以前ほどステージの上が寂しくない、少し良くなっている。」とのことでした。
  • ・客席で聞く印象は日本の多目的ホールによく似ています。比較的良いのはステージから遠い席です。中途半端に近いところが最もステージから遠い感じがします。
  • ・このミュンヘンとアムステルダムでの日本フィルを比べると、アムステルダムの音響がいかにオーケストラの音をサポートしていたかがよく分かります。
  • ・館長のハインツ氏も前日の公演がアムステルダムだったことを聞いて、残念だけれどアムステルダムと比べると音響は劣るとはっきり言っておられました。

960502:日本フィル@ベルリン・フィルハーモニー:中央部前寄り上手寄り→中央部後寄り上手寄り
     吉松隆: 鳥たちの時代、
     ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第2番(P:ガブリーロフ)、
     ファリャ: 三角帽子(Sp:坂本朱)

ベルリン・フィルハーモニー
  • ひとことで言って、やはりサントリーホールと似た所の多いホールです。1F正面の前寄りの席はオケの生っぽい音がそのまま聞こえて、少なくとも好みではありません。ちょっと後ろに行くと俄然バランスの良い音になります。これはサイドやオーケストラの背後席でも同様です。
  • 日本フィルの音はサントリーで聞くバランスに近く聞き慣れた感じです。ただし弦がもう少し弱く、基本的に弦の鳴りにくいホールのようです。ホール全体の鳴りもおとなしくて空席状態で丁度良い感じ、聴衆が入ると明らかにもう少し鳴って欲しいというところです。ここの空席とサントリーの満席が似た感じです。
  • ここで以前にベルリン・フィルを聞いた時の印象とはちょっと違います。ベルリン・フィルの弦楽器の音は、もっと柔らかくて太くて、少なくとも管楽器に隠れて聞こえにくいということはなかったように記憶しています。
  • やはり他のホール以上にオーケストラとホールの密接な関係が必要なホールのようです。この点ではバーミンガムやアムステルダムとは大きく違うのではないかと思います。
  • 日本フィルの楽員からは演奏しやすいというコメントが多く聞かれました。と同時にあこがれのベルリン・フィルのホールで演奏できるだけでも、といったニュアンスが多かったことも確かです。記念写真を撮る楽員の多かったことがその感激ぶりを物語っていました。

960503:ベルリン・ドイツ交響楽団ベルリン・フィルハーモニー:中央下手寄り最後列
     マーラー: 交響曲第9番 (指揮: アシュケナージ)

  • ベルリン・ドイツ交響楽団というのは旧ベルリン放送交響楽団の名称が変わったもので、放送局の中に専用練習所を持ち定期公演をこのフィルハーモニーで行っているオーケストラです。音楽監督はピアニストのアシュケナージです。
  • 日本フィルと続けて同じホールで聞くだけに、大変興味深いコンサートです。一言でいってオーケストラの違い、特に弦の厚み、力強さの違いをまざまざと聞かされました。管楽器はレベルの点でほとんど差がないように思われますが、弦楽器の差は歴然です。トゥッティでもちゃんと弦が聞こえますし、しかも柔らかくて厚みがあります。特にチェロ、バスの低弦の差が大きいと感じました。
  • ホールの鳴り方についての印象は日本フィルで聞いた時とほぼ同様です。すなわちサントリーに比べるとやや鳴りはおとなしく、もう少しクリアです。特に客が入るとその傾向が強くなります。・客が入った時のこのホールの雰囲気はやはり圧巻です。空間的なダイナミックさ、客席とステージ、客席どうしの親密さなど、これ以上はないという感じです。
  • リハーサルの後でほんの数分、アシュケナージにいろいろ聞くことができました。彼はこのベルリン・フィルハーモニーが大変気に入っています。音がクリアーで観客との距離が近くてコミュニケーションがとりやすいのが良いのだそうです。シューボックス型は客席が遠くになってあまり好みではないとのこと。サントリーはとても好きで、特にオーケストラの時に良い。しかし、ピアノのソロリサイタルの時は少し響き過ぎるとのことです。
  • 本公演の客の入りは90%位で、ほぼ満席の印象でした。

以下、次号に続く。(豊田泰久 記)