「ビーコンプラザ」コンベンションセンター
「ビーコンプラザ」は大分県内外、および、国際交流の拠点として、また地域の観光・文化・スポーツの振興と経済の活性化を図るため、温泉の町、別府市内の南部、別府公園に隣接して建設された複合施設である。大分県のコンベンションセンターと別府市の市民ホール、それに 125mの展望タワーがある。
コンベンションセンターは大規模集会、展示会、スポーツ、コンサート、各種イベントなど多目的に利用される最大 8,000人収容のコンベンションホール、平土間で1,000 人収容のレセプションホール、円卓会議ができる国際会議場、映像上映に適した中会議場と小会議場から構成されている。
別府市の市民ホールは「フィルハーモニアホール」と呼ばれ、約1,200 の固定席で3 層バルコニーをもつ馬蹄形状のホールである。このホールはマルタ・アルヘリッチ女史が名誉音楽監督に就任し地元からも大きな関心がよせられている。
コンベンションセンターのオープンは1995年3 月、建築主は大分県、設計監理は磯崎新アトリエ、施工は建築が清水建設・佐藤組・三光建設工業JV 、電気設備は九電工・河野電気・小堀電気JV 、舞台機構は森平舞台機構、舞台照明設備はRDS、舞台音響設備は不二音響が担当した。当社は計画・設計・監理から最終の検査・測定に至るまで一連の音響コンサルティングを担当した。ここではとくにコンベンションホールの音響設備の設計とその結果についての概要を紹介する。
電気音響設備設計
施設の性格と電気音響設備の形態は深い関係がある。施設の性格とは誰のために、何を(催物を)どのように行うかといった舞台設備設計の諸条件のことである。大型イベントスペースにはいろいろな建築形態があるため、一義的に電気音響設備の規模や構成を決めるわけにはいかない。大空間においては音声の明瞭さの確保も大きな課題となるが、その前に催物に対する設備の対応を明確にするために、施設を使う諸条件を整理することから設計が始まる。その条件は、設計時点では大まかなものになるのはやむを得ないところであろうが、舞台設備の設計にはさらに具体的な条件設定が必要となる。たとえば舞台の位置から美術バトン、照明バトン、メインスピーカの位置、客席範囲が決まるという関係があり、舞台の使い方、位置と広さ、催物の詳細、上演組織などの条件設定が設計の出発点となる。
コンベンションホールでは、施設の性格と予想される使われ方は建築形態が身を持って示しており、その発想の力が設備にも強く影響を与えるものとなっている。建築形態からみると、このホールはこれまで多く見られるアリーナを中央に配置したスポーツ中心のガーデン形式の大型イベント施設とはやや形態が異なっている。本ホールの使用目的は集会・式典・講演会、ポップコンサート、ミュージカル、マジックショーなどのエンドステージ形式の催物、アリーナ形式においては展示会、見本市、センターコート(ステージ)形式の各種スポーツ、コンサートであるが、ここではエンドステージ形式の催物を重視し、図-1に示すように大きな段床客席を設け拡大されたシューボックスタイルとする点が特徴である。また、天井には演出照明用バトンを吊り下げて任意に走行する約40mスパンのブリッジを1基備え、様々なステージ位置に対応することが考えられている。
このような大空間の設計においては、拡声音の明瞭さの確保という命題からスピーカシステムの最適設計が一番の悩みとなる。スピーカシステムの決定条件としては使用目的との整合性、催物との相性、能率・周波数特性・歪率などの性能、機種、数量とコスト、設置方法、建築意匠とのなじみ、建築構造上の制限、搬入工程、保守性、調整の容易さ、操作技術者の意向、業界の定評、さらに自分で結果がある程度予想できるかどうか…と並べると気が重くなってくる。それらの膨大な組み合わせの中から一つのシステムを選択しなければならないのである。日本ではとくにスピーカを意匠の中に隠すことが強く求められるため、音が聴衆にダイレクトに伝わらないという根本的な問題もある。また、合理性だけで割り切れない音楽性や芸術性が関係していることも感じられる。担当者によって少しずつシステムが異なるのもその辺に原因があるのであろう。しかしながら合理性を失うわけにはいかない。そこでコンピュータシミュレーションは伝統や前例にとらわれることなく、合理的でかつ発想を広げてくれる有効な手段となる。スピーカシステムの構成と配置案は自分で考えて決めなくてはならないが、コンピュータは音圧分布の計算などが素早くできるのでいろいろな考え方を試すことができ、慣習にとらわれないスピーカシステムを検討する場合には欠かせないものとなってきている。
ここでは、仮設ステージの位置によって客席が変化しても拡声音の音量、音質、明瞭さが良好で、エコーの返り方にも大きなバラツキがでないことを目標においた。つまり、図−1に示すようにスピーカから客席までの距離がほぼ均等に近くなる分散設置方式を採用した。アリーナ用には天井から真下向きに9 ヶ所×各2 台、エンドステージ形式用としては客席に対してやや斜めに向けて9 ヶ所×各2 台、ギャラリー席の天井に各2 台×38ヶ所設置した。分散方式は、持ち込み設備に対するサテライトスピーカとしても機能する。ただし、分散方式の場合に残響音成分を増やさないことや、遠くの席でエコーになるほどの音量にならないように指向性を制御したスピーカシステムを選定する必要がある。そのため中音域もホーンタイプのワンボックス3-way 型スピーカをメインに採用した。
明瞭さを確保するにはスピーカの音質、出力レベル、遅れ時間などを細かく調整し使用パターンに合わせて記憶再現する必要がある。そのため、パーソナルコンピュータで制御されるディジタル信号処理装置を採用した。使いやすさを考慮した専用のGUI (Graphical User Interface) を開発したが、今後は米ローンウルフ社のメディアリンクスのような汎用制御ソフトを統一的に採用すべきだと考えている。
電気音響設備動作特性と聞取り試験結果
竣工時に行った測定は目標を満足する結果が得られている。拡声音の音質はやや硬めであるがそれだけに明瞭である。実際に催物の中でアナウンスを聞いたがこのような大空間としては驚くほど明瞭であった。空席時でメインスピーカ動作時の音声の明瞭度指標(STI) はマイクで拡声した時 0.43 ~0.56という値が得られている。スピーカの動作状態を変えて測定したSTI と D50の値を比較して図−2に示す。
STI の主観評価と比較するとFairが D50で約40%以上、Goodが約70%以上に大まかに対応するといえる。これは興味のある結果である。50ms以上の時間遅れの音はエコーになりやすいが50ms以内に到達する音のエネルギーは明瞭性に寄与するということになる。50msの時間遅れにラインを引き有用か有害かの判断をすることは簡単である。図面の上で幾何的に分かる。集中か分散かという設置方式の議論ではなく50ms以内にエネルギーを集中し、そのエネルギー比率を高めるように50%前後かそれ以上になるようにスピーカを配置すればよいことになる。これについては、さらに数学的な説明がつくようにできるか、検討を進めて行きたい。(稲生 眞 記)
Newsアラカルト
新宿アイランドのパブリック・アート
新宿アイランドは住宅・都市整備公団東京支社が20年の歳月をかけて新宿副都心で行った再開発事業で今年完成した。ここには44階の超高層オフィス棟を中心に、地域冷暖房施設をふくめて7 棟の建築が配置されている。このプロジェクトの大きな特色はアーバンデザインという観点からパブリック・アート(野外のインスタレーション、一種の野外彫刻)を取り入れたことにある。このパブリック・アートの説明会が7 月2 日(日)の午後、現地において行われ、アート・コンサルタントの南條史生氏、プロジェクト・アーキテクトの日本設計、六鹿正治氏の両氏によって、その経緯、意味などから施工上の問題点まで説明があった。なお、この野外彫刻については6 月25日のNHK の日曜美術館でも紹介されたから、ご存じの方もいらっしゃると思う。
ここには世界各国から選ばれた邦人2 人を含む10人の現代彫刻家による10点の作品が設置されている。現地で体験すればわかるように、素材も、作品も様々あるが、冷たく無機質になりがちなビル街に、ゆとりと楽しさを与えている。
アメリカでは公共建築では建築総工費の1%をアートに当なければならないという法があるとのこと、このアイランドでは2200億という総事業費に対して、アートの費用は6 億、0.3%以下でこれだけの風景が生まれるという事実は今後わが国におけるパブリック・アート導入の大きな足掛かりとなるであろう。
この説明会が終って感じたことは、音環境のことである。環境音楽、音響彫刻などについてはわが国でも一部の方々によって叫ばれてはいるが、このようなスケールでの発想はまだ聞かない。車の騒音にあふれたこのビル街を楽しくできる音が果たして可能なのかどうか、大きな課題であろう。しかし、音環境という立場からも何かの仕掛けが欲しいというのが率直な感想である。(永田 穂 記)
京浜協同劇団、新稽古場落成のこけらおとし公演
京浜協同劇団は川崎市を中心に活躍しているアマチュアの劇団である。結成35周年を記念して、鉄筋3 階建ての新稽古場が幸区の古市場に完成した。建設の途中、響き過ぎるので診てほしいという要請があり、一度、工事中の稽古場を見に行った事がある。たしかにコンクリートで囲まれた稽古場はワンワンであったが、道具やカーテン、それに人が入れば問題はない、ただし、換気口や窓の遮音だけは強化したほうがよいという判断をした。この稽古場が完成、その柿落とし公演を観た。
公演は2 階の大稽古場(右図)で行われた。半分が舞台、半分が客席、出し物は東北の民話を題材とした「がんとり」、昔話の花咲爺さんのブラックユーモア版である。舞台にあたる箇所に粗末な床が組んであり、この周辺がすべて舞台となる。役者は脇に控え、時に歌い、時に効果音を担当する。全員の舞いもある。前方客席は座布団、その後に2 段のベンチ、簡素を極めた劇場である。
これまで、演劇には馴染みがなかった私でも、この芝居はおもしろかった。著名な演出家によるひねりまわした筋の演劇は好みではないが、今回のは理屈抜きに楽しかった。皆一生懸命演じているのが気持ちよかった。演劇の原点にふれた感があった。
最近のホール舞台装置の規模は拡大の一途をたどっている。四面舞台、二重すのこ、プロセニアムブリッジ、大小の迫り、コンピュータ制御の照明設備など舞台設備の規模の拡大は切りがない。しかし、このような舞台設備がどれだけ感動に結び付いているかというとこれは別問題である。
資料によれば、総工費1 億6000万の内、6000万が劇団の積立金と団員の分担金などの自己資金で、6000万が川崎市とまちづくり公社からの融資出、残りの4000万は市民有志で結成された「稽古場を支える100 人委員会」によるカンパでまかなったとのこと。公共機関や企業への甘えが当り前となっている今日、頭が下がる話しである。このような質素な劇場で、豊かな公演が行われていることをお知らせしたい。公演についてのお問い合わせは、京浜協同劇団 〒211 川崎市幸区古市場 2-109-13, Tel:044-511-4951 まで。(永田)
日本舞台音響事業協会の設立に思うこと
劇場の舞台音響関連のた企業が中心となって、表記の協会が設立され、6 月7 日東京新宿のホテル海洋において設立記念パーティが行われた。協会の代表者は俳優座の田村悳氏である。照明の業界ではすでに同じ性格の事業協会が設立されており、通産の社団法人として活躍している。私の知るかぎり、舞台音響界には数多くの協会があり、独自の活動を行っている。その設立にはそれなりの理由があるであろうが、舞台音響という狭い業界、一つになってその中の分科会で個々の課題を処理する、といった体制がとれないものだろうか。一つになれば強力な事務局を抱えることができるし、このような流動の激しい時代そのメリットは大きいのではないかと思う。それにもう一つ、野人の田村さんが初めから通産を向いている姿勢が気になる。その活動を見守りたい。(永田 穂 記)