みかぼみらい館のオープン
群馬県藤岡市に建設が進められていた群馬県みかぼみらい館がこの昨年9月に完成し、本年2月にオープンした。設計は佐藤総合計画、施工は清水建設他2社JVが担当した。みかぼみらい館という名前は、この地域の人々に古くから象徴の山として親しまれてきた「御荷鉾(みかぼ)山」、それに将来を担う若者や子供達が優れた音楽や芸術文化に親しむことにより「未来の夢」を創造してほしいと願いを込めて付けられたとのことである。
本施設はエントランス棟、大ホール棟、小ホール棟、ギャラリー棟、プラネタリウム棟の5つのブロックで構成されている複合施設である。この建物は藤岡の市街から少し外れた国道254号線バイパス沿線の高台に建てられており、大ホールホワイエ、ギャラリーからは「あかぎのひろば」を通して赤城山を、エントランスロビーからは「みかぼのひろば」を通して御荷鉾山を遠く望むことができる。
大ホールは1,100席のクラシック音楽を主体とした多目的ホールで、クラシックコンサートの時には舞台と客席で一体とした空間が構成されるよう走行式反射板を採用し、質の高いコンサートホールを目指している。また、天井から側壁を経由した初期反射音がなるべく多く1階客席中央部へ到達するように、天井を内側に凸曲面をもったシリンダー形状とした。内装の壁には藤岡市の名産である藤岡瓦を使い、荘厳で落ち着きのある雰囲気を醸し出している。1階席入り口の壁にはその藤岡瓦の「鬼瓦」が掛けられており、入る客を怖い(ひょうきんな?)顔で睨み付けている。
一方、小ホールは406席の多目的ホールであり、室内楽、ピアノリサイタル等に相応しい空間を求め、高い天井を確保し豊かで余裕のある響きを目指した。内装仕上げは木質系を主として、大ホールと変わって暖かみのある空間となっている。
また、ギャラリー棟には展示スペースとしてのギャラリー、研修室、茶室などがある。ギャラリー、研修室は上下で重なっており、しかも音楽のリハーサル、コンサート、練習などへの利用を前提として計画された。そこで、これら2室の同時使用を考慮して研修室には浮き遮音構造を採用した。
本施設の竣工時に音響測定を行い残響時間等音響性能のデータを採取したが、その後、ホール側の企画により地域の中学校のブラスバンド演奏会が行われ、大ホール満席状態の室内音響特性の測定も行った。大ホールの残響時間測定値は右図に示すとおりである。500Hzの残響時間の差は0.6秒程度であった。
2月10日には落成記念式典が行われ、当日柿落としとして山本直純氏指揮による群馬交響楽団の演奏会が行われた。ゲストの島田祐子氏の拡声設備を使った歌や、山本直純氏の解説付きのマーチ集などは明るい雰囲気で落成記念式典のコンサートとして相応しかったが、ホールの音響特性や性能を探るには物足りないように感じた。
群馬交響楽団は日本でもトップレベルのオーケストラであり、こういったオーケストラがこのホールで練習し、盛んにコンサートを開いてこのホールの響きにあった演奏をしていただくことがホールのレベルを高めていくことにも繋がると思う。是非とも群馬交響楽団の定期演奏会をここで演っていただきたい。それはこのホールの計画段階からの我々の考えである。
現在、このホールの運営スタッフはホール計画段階から携わってこられた建設室の方々が引き続き携わっている。これまでの設計の経緯や考え方については熟知されている方ばかりなので使い方などについてはとくにトラブルもなく、また、今後の自主企画についても熱心に取り組んでおられる。これからの盛んな企画運営に期待したい。
○問い合わせ先:群馬県みかぼみらい館 Tel:0274-22-5511(小野 朗 記)
“オペラハウスとコンサートホールの音響”シンポジウム
去る2月10日~12日の3日間、ロンドンで“オペラハウスとコンサートホールの音響”に関するシンポジウムが開催され、これに参加する機会を得た。英国の音響学会(United Kingdom Institute of Acoustics)の建築音響グループにより企画・計画されたもので、3 年前にバーミンガムで同様のシンポジウムが開かれて以来、今回が2度目である。バーミンガムの時は、バーミンガム・シンフォニーホールのオープンに合わせてホールの見学会やコンサートなどを織り込んだ形でのシンポジウムであったが、今回はロンドン郊外のグラインドボーンのオペラハウスの完成に焦点を合わせたシンポジウムとなったものである。新オペラハウスのオープンに合わせたシンポジウムだけに、通常の学会等と異なって研究発表のテーマはコンサートホールやオペラハウスの音響に関するものが中心となり、内容も概論的なもの、レビュー的なものが多く、この分野に特に興味のある人だけが集まったといった感じであった。今回は合計90数名の参加者があり、地元イギリスからの参加の他にアメリカや他のヨーロッパ諸国からの参加も結構多かった。前回は研究発表も含めて数人の日本からの参加者があったが、今回の日本からの参加は筆者だけであった。
シンポジウムはロンドンのヒースロー国際空港ではないもう一つのガトウィック空港内のホテルで開催された。周囲に何もない環境にあることから、朝から夕方までのシンポジウムの他、ランチや夜10過ぎまで続くディナーまですべてパックで用意され、ほとんどホテル内に缶詰といった状態で行われた。しかしながら、他の参加者と情報を交換したり親睦を深めたりできるという意味ではこの上ない環境といってよい。特にアメリカからの参加は音響コンサルタントが多く、誰が事務所を移ったり新しく設けたりといった消息の話題も賑やかであった。
シンポジウムのハイライトであるグラインドボーンのオペラハウスの見学は2 日目に行われ、現地で音響コンサルタント(Arup Acoustics)と劇場コンサルタント(Theatre Projects Consultants)からの報告と数人の歌手によるアリアの演奏デモストレーションがあった。
グラインドボーンはロンドンの南方郊外の村で、ロンドンから電車で1時間半程の所にある。このオペラハウスは全くのプライベートの施設で、クリスティー家がそのオーナーである。もともと1932年に300席(後に592席にまで拡張)のオペラハウスを建設し、特定の期間にフェスティバルとして歌手や演奏家を集めてオペラを上演し続けてきたものである。観客は主にロンドンから正装して集まり1日かけてオペラを楽しむという、いかにもイギリスの上流社会らしい趣向である。
新オペラハウスは、旧オペラハウスの老朽化により1991年秋から約2年の月日と約2300万ポンド(約37億円)をかけて建設されたもので、一回り大きく約1200人収容可能(立見席含む)である。伝統的な馬蹄形の客席配置をさらにコンパクトにしたような形状であり、内装材として木をふんだんに使ったインテリアは視覚的にも音響的にも親密感(Intimacy)が最重要視された設計となっている。見学当日行われたアリアのデモ演奏においてもステージがあらゆる客席から非常に近く、これら親密感を実感できた。是非、実際のオペラの上演を観てみたい。常時上演されていないのが残念である。(豊田泰久 記)
Newsアラカルト
阪神大震災救援チャリティ・オルガンコンサートのご案内
日本オルガニスト協会の主催により、3月26日(日)、27日(月)の二日間、19:00より東京芸術劇場大ホールでチャリティ・コンサートが行われる。ガルニエ・オルガンのルネサンス、バロック、モダンの三面を使用して、それぞれの時代のオルガン曲が4 人のオルガニストによって演奏される。入場料はA席3,000円、B席2,000円、詳細はコンサートイマジン Tel:03-3235-3777まで、ご協力をお願いします。
阪神大震災被災地の皆様に贈る歌(カラオケテープ)
今回の震災で被災された方々が音楽によって少しでも心に明るさをとりもどしていただきたいと、音楽評論家の相沢昭八郎氏が中心となって、カラオケテープが制作された。内容は、「春よ来い」「ぞうさん」「肩たたき」などのピアノ伴奏による童謡10曲、被災地への有効な配布方法を探っておられます。テープは無料、これはと思われる配布先がありましたらお教え下さい。詳細は“相沢昭八郎、Tel:O422-44-2525”まで。
第9回サウンド大賞受賞製品の紹介
オーディオ界はまだ低迷が続いており、業界の大黒柱であったオーディオ協会はハイビジョンやマルチ・メディアに明け暮れしているのが現状である。しかし、よい音への関心、探求は心あるところで確実に続いている。現在、純粋オーディオへの活動はいくつかの拠点に分散し、それぞれ独自の活動をしている感がある。
小学館発行のオーディオ誌のヤング読者層によるオーディオ圏もいく度かの変動をへて最近では定着しているようである。9万件を越す投票によって選ばれた人気製品の発表が3月9日に行われた。今回のグランプリは、ソニーのCDプレーヤCDP-XA5ES 、98,000円である。その他の受賞製品は3月20日発売のサウンド・レコパル誌を参考されたい。
エキスパンド・ブック“響きのプロムナード”発行
先月号でお知らせした“響きのプロムナード”の第一号(フロッピー2枚)が猫の事務所から発行された。定価1500円(送料別)、申込は永田技研 Fax:03-3371-3350まで。
本の紹介
『続「超」整理法・時間編』タイム・マネジメントの新技法 野口悠紀雄 著 中公新書
分類せずに押し出しファイルによって時間軸で整理する、という画期的な方法を提案された野口氏の著書、「超」整理法(中公新書、NEWS1994年1月号で紹介)の第二弾で今回は副題が示すように、時間管理のノウ・ハウを説いた書である。
容赦なしに掛かってくる電話によって仕事が中断されるといった経験はどなたもお持ちであろう。本書はこのような日常繰り返されている時間のロスに対して具体的な対策を示している。飛び込みの仕事があることを前提としたスケジューリングの技術、複数の業務の処理方法、時間を空間として把握するための新しい手帳の提案、時間の無駄を無くす技術、時間を増やす技術、ファックスの活用法、押し出しファイリングのQ&Aまで、これまでの時間管理の本とは全く違った観点からのノウ・ハウが紹介されている。時間に追われておられる方に一読をお薦めしたい。
囲み記事として、モーツァルトの時間とべートーベンの時間など、一朊するに相応しい19編の記事も楽しく読める。中でも官公庁作文技術の真髄は、文書として内容をいかに曖昧にするか、これはかなりの高等技術であるとして、官公庁の公式見解の原則が紹介されている。終りに著者は今後の電子メール、データ通信など情報手段の限りない発達に対して、その運用のモラル、節度の確立の必要性を説いている。
この著書はわれわれにとっては身につまされる内容であるが、2月26日付け朝日新聞のベストセラー診断では、本書に対して『そもそも、時間を節約して、いったい何をやろうというのか』というやや批判的とも思える評が寄せられている。評を寄せられたのはロシア・ポーランド文学者の方である。(永田 穂 記)