No.086

News 95-2(通巻86号)

News

1995年02月15日発行
ティアラこうとうの外観

ティアラこうとう(新・江東公会堂)のオープン

 ティアラとは宝石を飾った頭飾[宝冠]のことで、この新・江東公会堂に対して芸術・文化の宝冠として光輝くようにという意味合いで、一般公募でこの名が付けられた。

ティアラこうとうの外観

 旧・江東公会堂は、故佐藤武夫先生の設計で、旧文京公会堂や日比谷公会堂などと並んで東京の公会堂建築の草分け的存在であり、江東区民はもとより多くの音楽家や文化人に親しまれ、また現在多く建てられている多目的ホールの形式のベースを築いてきた歴史的な建造物であった。しかし、建物の老朽化に伴い、江東区民の新たな文化活動の中心施設として新しいホールの建設が要望され、改築計画が進められた。そして1994年9月にこのティアラこうとう(新・江東公会堂)が竣工したのである。新公会堂の建築計画・設計は (株) 久米設計、施工は鹿島建設他4社の共同企業体が担当した。

 この施設は、都営地下鉄新宿線住吉駅より歩いて約5分、新大橋通り沿線の交通至便な場所に建てられている。敷地は猿江恩賜公園内に位置し、野球グランドと川に挟まれ、裏と道路の反対側が猿江公園という都内では珍しくゆったりとしたのどかな環境に建てられている。建物は敷地前面道路からセットバックして建てられており、道路からアプローチ広場を通って自然に建物に入っていく。建物の印象はすっきりとして洗練されたデザインで、明るいイメージを持っている。

 建物の構成は、施設の核となる大ホール(1,300席)、小ホール(140席)、それに付属する5室の練習室、リハーサル室、企画展示室、会議施設などからなる複合施設である。

 大ホールは基本室形状をシューボックス型とし、舞台上走行反射板を備えたクラシック音楽を主体とした多目的ホールで、質の高い適度な響きを備えた空間を目指している。天井高は客席前部で約17m、ホール幅は全体に約21mである。また本ホールは、将来パイプオルガンの設置を前提としているため正面反射板は固定とし、オルガンの吸音を想定してスリットによる吸音面としている。残響時間は反射板設置時:2.2秒(500Hz / 空席時)、舞台幕設置時:1.5 秒(500Hz / 空席時)である。

 一方、小ホールは基本室形状を扇型として舞台を取り囲むように構成された一体感を持つ空間で、ピアノリサイタルといった生音楽、とくに音楽発表会など区民の利用を主として考えられた多目的ホールである。残響時間は1.0秒(500Hz / 空席時)である。

小ホールの内観

 この施設の特徴の一つとして5室の練習室とリハーサル室がある。既設の公共ホールでホールのみの施設では、催し物のある夜の7時から9時の間だけ人の出入りが多く活気があるが、それ以外の時間には人が少なく閑散としているということも多く見受けられる。施設を一般区民に盛んに利用されるようにするために、この施設では音楽練習室をできるだけ多く設けることを計画した。地下に設けられたそれらの室には、工事の経済性と機能性を考慮し、1室おきにコンクリート浮き床と石膏ボード(12 mmX3)による浮き遮音構造を採用し、残りの室については、躯体と重量コンクリートブロックによる2重遮音壁としている。各練習室相互間は、それぞれの浮き構造を採用した室としていない室の隣接室間で90~98dB(500Hz)の遮音性能が得られており、練習室同志の同時使用も可能である。また、大ホール、小ホールと浮き構造を採用した各練習室との遮音は測定ができない程の性能が得られており同時使用は十分可能である。

 地上ののどかさとは打って変わって、本施設の前面道路には地下鉄が通っており、地下に大きい騒音源が存在している。軌道と敷地境界線の距離は近い所で8m程度、大ホールの躯体までの距離は約50mで建設前の敷地における騒音振動予測調査では、防振対策を講じなければ地下鉄通過時の大ホール内での騒音は NC-25~30程度、すなわち注意していなくても良く聞こえるレベルになると予測された。そこで、この対策として敷地の全面道路側に厚さ約1mの地中連続壁を設置し、建物の躯体との間に空間を設け、地中連続壁と躯体との接触面には防振ゴムを界し振動を絶縁している。深さは約35mで硬質の東京礫層まで到達させている。また、全面道路から見た側方の地中壁には、ソイルセメント壁と躯体との間にフォームポリスチレン板100mmを挟み込んでいる。

 竣工後の大ホール内での地下鉄走行音測定結果はピークで NC-10~23であり、データとしては防振対策の効果が現れている。上下線が同時に通過したときに最も大きい値(NC-23) を示しているが、音の質としては63Hzが卓越した低周波音であり、静かな状態でその音に関心をもって聞かなければ意識することはない。もし、コンサートで曲の合間に微かに走行音を感じたとすれば、それはいかに音楽に集中していないということである。

 気になる今後のホール運営だが、オープニングシリーズなどの自主企画公演に加えて、東京シティ・フィルおよび東京シティバレエ団と江東区が提携を結び、本ホールを練習会場として使うとともに、定期的に両団体の公演が開催される予定になっている。いつも同じ環境で練習を続け、そこでコンサートを開くことがオーケストラにとって一定したアンサンブル、音色を保つために、あるいは向上させるためには理想であるということはいうまでもない。今後の両団体の活躍が期待される。また、小ホールは区民の利用を主として考えられているが、2 /25(金)にはホールの主催で往年のジャズピアニスト、レイ・ブライアントのソロコンサートが予定されている。生演奏で舞台と客席に一体感を持つこの音響空間にぴったりの嬉しい粋な企画である。

是非一度、足をお運びいただきたい。(小野 朗 記)

世界劇場会議国際フォーラム´95に出席して

 世界劇場会議国際フォーラム、International Theatre Conferenceは1993年の7月、愛知芸術劇場において開催され、その状況についてはNEWS 93-09号でも紹介した。今回の会議はそのときの大会宣言に基づいて開催されたものである。

 前回は期間も4日間、参加者約1800名、8セッションにわたる大規模な大会であったが、今回は期間は2日間、参加者も300名前後、海外からの講演者による特別セッションの他に、観客開発、人材育成、舞台芸術総合センターの提案という、絞られた内容の地味な会議であった。それだけに前回の総花的な雰囲気とは違って、絞られた課題についてそれぞれの立場から主張が述べられ、問題点が明らかとなったことは大きな成果であった。

 内容として迫力があったのは初日のスーザン・メダック氏の観客開発に関する基調講演と特別セッションにおけるジョン・クラーク氏の演劇界の人材育成に関する講演であった。また、公立ホールと民間ホールにおけるホール運営の報告も、技術面からとは違った側面からの内容であり参考となった。

 スーザン・メダックさんはバークレー・レパートリー劇場(アメリカ)のマネージングディレクター、観客層の変化、多様化を常に追跡し、催物の内容の検討からチケット制度の変更など、劇場運営の第一線で観客開発に当っておられる。PRについてもあらゆるメディアを利用。ときには来場者に直接電話するなど、アメリカの小都市における草の根運動ともいうべき活動の紹介であった。このような劇場経営に対しての熱烈な使命感はどこから生まれるのであろうか。公共団体に、あるいは大企業にすがる事ばかりを考えているわが国のホール界の風潮、文化意識との格差を強く感じた。

 ジョン・クラーク氏はNIDA(The National Institute of Dramatic Art);オーストラリア国立演劇学院の院長で、講演は学院の規模、構成などの紹介に続いて、創造力の育成を第一におく演劇人の教育についての報告であった。この学院はオーストラリア政府によって設立された演劇人養成の専門機関で、演劇に関わるあらゆる分野を総合した教育施設であり、4劇場、7リハーサル室をもっている。といっても、大学とは完全に一線を画しており、教師は演劇の現場に関わっている第一線の専門家が1年~3年契約で担当しているとのことであった。入学者の選定には教官が二日間付きっきりで適性を判断して決めるなど、徹底した専門家教育体制を貫いている。

 本会議のセッションとして、人づくりと舞台芸術総合センターの提案に関する発表があったが、わが国での問題は教育者ではないだろうか。現在の大学、および劇場界の現状を考えると、そんな不安がまず浮かんできた。

 今回、提示された問題、なかでも平和が続き趣味が多様化している今日において、聴衆や観客の開発という課題は簡単ではないであろう。本会議は来年も引き続いて開催されるとのこと、劇場界の発展に連なる新しい流れが生まれることを期待している。

NEWSアラカルト

シーザー・ペリ展の開催と記念講演会

 シーザー・ペリは1926年アルゼンチン生まれ。1977年よりアメリカに移住、現代建築を代表する建築家の一人である。わが国では、NTT 新宿本社ビルなどがある。今年の1月より、彼の代表作品の展示会が東京千駄ヶ谷のフジタ・ヴァンテで3月13日まで開催されている。模型、モックアップ、ドローイング、写真など340 点あまりが展示されている。そのなかには、オハイオ舞台芸術センターの2700席のオペラハウスの模型、部分のスケッチなど、ホール関係者にとっても興味ある作品の紹介がある。

 この展示会を記念しての講演会が1月19日、津田ホールで開催された。題目は”Architecture of responce”。その意味は、建築は建築家の様式や主張を押しとおすのではなく、環境に応答(responce)しながら創造すべきだ、という彼の基本的な理念を表した言葉である。「私には様式は重要ではない」、ということを繰り返していた。確かに、展示会でみる彼の作品からは、独自の様式は感じなかった。

 後半は槇文彦先生との対談という形式で進められた。作品へのアプローチのありかたなど、非常にわかりやすい内容の話しであった。(N)

エキスパンド・ブック(電子ブック) “響きのプロムナード”の発行のお知らせ 発行:猫の事務所  定価:1500円

 本NEWSの対象であるホールの響きをめぐる様々な話題を“響きのプロムナード”と題してまとめ、エキスパンド・ブック(電子ブック)として発行することにした。対象はホールに足を運ばれるクラシックファン。内容はこれまでのNEWSで取り上げてきたホールの音響、建築が中心で、一部永田が雑誌などに投稿した記事も加えてある。

 第一回はコンサートホールの音響設計の歩み、最近の音響設計技術の紹介、シューボックス型ホールとワインヤード型ホールの特色、コンサートホールの音風景、コンサートホール・ウォッチングとして椅子と内装について音響との関連を解説、そのほかに東京芸術劇場のエスカレーター、カザルスホールのスピーカ、サントリーホールの反射板などホールについてのいくつかのエピソードをとり上げてみた。

 なお、このエキスパンド・ブックはアメリカのボイジャー社が開発した電子出版のフォーマットで本と同じように1ページずつ読むこともできれば、飛ばし読み、拾い読み、メモの書き込みも自由である。電子出版ならではのメリットとしては、テキストの一部を目立たせる、付属のノートブックにテキストをコピーできる、検索ができる、ビデオ、サウンド、ピクチャーなどの情報も織り込めるなどで、ホールの紹介には格好のメディアといってよいであろう。将来は電子出版の特色をいかした内容にしたいと考えている。ただし、現在対応できるのはMacintoshのみであるが、近々
Windows版も予定している。本書は2月24日~26日に幕張メッセで行われるMACWORLD EXPO TOKYO にて発売を開始するが、その後の入手方法については永田技研までFax にて問い合わせいただきたい。Fax :03-3371-3350(N)