No.074

News 94-2(通巻74号)

News

1994年02月15日発行

岩舟町文化会館(コスモスホール)

 都心を抜けて東北自動車道を約40分走り、佐野藤岡ICをおりて国道50号バイパスを小山方面へ向かう途中、巨大な三日月あるいは船の舳先を思わせる一風変わったオブジェが目に入ってくる。これが今年1 月にオープンした岩舟町文化会館(通称:コスモスホール)である。「コスモスホール」とは、岩舟町の花コスモスに因んだとのこと、コスモスが意味する「宇宙」、「まごころ」等の意味を含んでの命名だそうである。建物の一部が船の舳先のように見えるのも、岩舟町ゆかりの慈覚大師円仁が最後の遣唐使船で一行に加わったことと、同町の町名が岩「舟」町であることから船をイメージしてデザインされたのだと聞けば納得できる。

 本会館にはガラス張りの明るい雰囲気のエントランスロビーをはさんで大ホールと小ホールとがある。建築設計監理は(株)都市環境建築設計所、施工は大林組・落合建設共同企業体である。

コスモスホール
岩舟町文化会館

 大ホールは座席数704席、白を基調とした内装はロビー同様明るく透明感が感じられる。この大ホールはバルコニー席がメインフロアを取り囲んでいるシューボックス形のクラシック音楽専用ホールのようであるが、催し物に対する地元のニーズを考慮し、講演や歌謡ショー等多目的利用が考慮されている。すなわち、舞台天井には映写用スクリーン、幕用バトン、および絞り緞張などが設けられている。多目的利用に対しては音響面からも何らかの響きの調整が必要であるが、上述のバトンにバック幕を吊すことと、また舞台袖に設けた上・下3枚ずつの袖幕の開閉によって響きが調整できるようにした。幕の有無による残響時間の可変範囲は、全幕収納時で1.9秒(500Hz、空席時)が幕使用時で1.5秒(同)まで短くなる。ただし、この測定時にはバック幕がまだ搬入されておらず、代替として絞り緞張を下ろしての測定であった。このようにクラシックコンサートに対しても十分な響きが得られ、また講演等も幕の利用によって明瞭度も損なわれないことを確認している。

 室内を見回すと、全体的に壁・天井に凹凸─いわゆる拡散形状─が見受けられないことに気が付くが、これは設計者側から壁を平面的に仕上げたいという意匠上の強い要望があったためである。音響設計サイドとしては、フラッターエコーや鋭い音の反射をさけるために、少なくとも、舞台側壁は凹凸のある形状に仕上げること、バルコニー席には柱をデザインして設けてほしいこと、および、天井は緩やかに湾曲した形状にすることなどを要請した。

図 コスモスホールの残響時間周波数特性

 その結果、舞台からの音に対しては有害なエコーもなく、実際の演奏においても響きの鋭さは全くなかったことが確認されている。

 大ホールの電気音響については、このような響きの長い空間の講演会等において十分な明瞭度が確保できるかが課題であったが、音声の明瞭度指標(STI:Speech Transmission Index)は幕を収納した状態で0.47~0.53であり、その評価は“FAIR”と一般の市民会館なみの良好な結果であった。また、ハウリングに対する安定性も通常の多目的ホールと同程度の性能を確認している。

 小ホールは、ほぼ正方形の平土間床の一角に10m2強の小さな固定舞台が設けられ、小規模ながら各種発表会、展示会、映画会等に幅広く使用されることとなっている。本ホールも大ホールと同様、壁・天井を平面的に仕上げたいとの設計側の意向があったため、壁は吸音面と反射面の交互配置とし、また天井は緩やかに湾曲させた形状とすることでエコーを防止している。また舞台上部は天井が円形に高くなっており、そこに球面の一部が垂れ下がっているような形状になっている。この球面は舞台上の音を客席に有効に反射させるよう考慮して設置されたものであるが、まるで天井を突き破ってUFOが降りてきたかのような、そんな想像力を駆り立てられるデザインである。

 本会館のオープニング・シリーズは1月23日の読売日本交響楽団に始まり、2 月27日の歌謡ショーまで続くが、この間、町では開館記念町民招待事業として岩舟町内の各世帯に対し、1世帯につき1人ずつを招待している。これは町に忽然と現れた巨大オブジェのような建物に町民が親しんでほしいという町の意向である。プロセニアムのないシューボックス形状の大ホールは、コンサート以外の用途に使用される場合には観客側も出演者側も多少戸惑いを感じるかもしれないが、見方を変えれば新しいタイプの器を与えられることで新しい演出が生まれる可能性もあるのではないかという期待もある。

 本会館の最寄り駅は東武伊勢崎線の新大平下駅(浅草から快速で約70分)、またはJR両毛線の岩舟駅(小山駅より約20分、小山までは東北新幹線または東北本線利用)であり、いずれも駅からタクシーで 5~10分程度。また文頭に述べたように車でのアクセスも判りやすく便利である。(横瀬 鈴代 記)

NEWSアラカルト

クラシックコンサートの統計

 1988年から1992年までの都内ホールの利用状況については、雑誌「音楽之友」巻末のコンサートガイドからホールごとに利用回数をまとめて各年度末に発表してきたが、このコンサートガイドはすべてのコンサートを記載していないことが明らかになったため93年度から中止し、現在、正確なデータの収集法を考慮中である。バブルの崩壊が叫ばれるようになった昨年度も都内各ホールの演奏会は相変わらず行なわれていたが、著名なコンサートでも空席がめだつことを感じるようになった。それでも東京文化会館小ホールで行われる地道なコンサートは、世相に関係なく好きな聴衆の集いのなかで淡々と続けられていることがうれしかった。

 ところで、今年の「音楽之友」2 月号に1988年から1992年度までの演奏会の分析結果の記事がある。その概要の紹介と、そのデータからコンサート界の背景を探ってみた。

  1. 全国で開かれている演奏会の数は1988年度の6,116回から、1992年度で8,147回へと毎年着実に増加し続けてきた。これは、全国的にコンサートホールが増えてきたことが原因であろう。しかし、1991年から1992年度への増加の割合は急に鈊ってきている。都内のホールに限ってみても、ここ2~3 年間にコンサートホールの数は増えてはいるが、演奏会の回数はその割合では増えていない。これは東京の演奏会もそろそろ飽和状態に近付いていることを暗に示しているように思われる。
  2. シーズンはいうまでもなく、春と秋、中でも11月がピークで月1,000回という盛況である。ホールのオープニングもこの月が多く、日本全国で毎日30回を越すコンサートが行われているということになる。これに対して2 月、8 月は演奏会にとっても落ち込みの月で、ピークの11月の約1/3という状況である。この傾向はわが国独特の現象で、12月の第九のように定着している。
  3. ジャンル別でみると、回数が最も多いのはオーケストラ、次いでピアノに代表される鍵盤楽器、弦楽器・管楽器のリサイタル、室内楽、声楽、合唱、オペラという順になる。オペラの上演回数は年間300 回から400 回、ピークの11月では60回を越える上演が行われてあり、これは私個人の予想を越えている。第二国立劇場はすでに着工し、いくつかの都市でオペラハウスの建設が進められている今日であるが、新しいオペラハウスの出現によって、公演の回数ははたしてどこまで伸びるのだろうか、わが国の今後のオペラ人口の成長が興味ある課題である。
  4. 外国人演奏家の公演が邦人演奏家の活躍の場をせばめていることがアピールされているが、彼等にとって日本は魅力的な市場であることは、公演の約30%が外国人演奏家によることからも(回数にして88年度2,144回、91年度2,393回、92年度2,289回)明らかである。しかし、この過激なブームも今年からそろそろ沈静化に向かってゆくであろう。

 以上のデータはクラシックのコンサートである。しかし、舞台のパフォーマンスはポピュラーコンサート、演劇、邦楽、邦舞、芸能など多岐にわたっている。今後の生活、趣味の多用化の中で、これまでの舞台芸術、興行がどのような位置付けを占め、またどのように変化してゆくのだろうか、多目的ホールから専用ホールヘ、それに最近では大型のイベントスペースまで加わって、いよいよ飽和の兆しが見えているホール界にとって、その見通しは大きな関心事である。

1993年度レコードアカデミー賞

 昨年の12月に発表されたレコードアカデミー賞を紹介する。本賞は音楽之友社が毎年発表しているクラシック関係のディスク賞である。

【レコードアカデミー大賞】

  • <音楽史部門>歌劇《ウリッセの帰還》(モンテヴェルディ)
    ヤーコプス指揮コンチェルト・ヴォカーレ、プレガルディエン(T)他
    (ハルモニア・ムンディ・フランス KKCC-191~3) キングインターナショナル

【レコードアカデミー賞】

  • <交響曲部門>交響曲第6番イ短調《悲劇的》他(マーラー)
    クリストフ・フォン・ドホナーニ指揮クリーヴランド管弦楽団
    (ロンドン POCL-1258~9) ポリドール
  • <管弦楽部門>十字架上のキリストの最後の7つの言葉(ハイドン)
    リッカルド・ムーティ指揮ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
    (フィリップス PHCP5143) 日本フォノグラム
  • <協奏曲部門>ピアノ協奏曲第3番ニ短調(ラフマニノフ)
    エウゲニー・キーシン(P)、小澤征爾指揮ボストン交響楽団
    (RCA BVCC-633) BMGビクター
  • <室内楽曲部門>弦楽四重奏曲全集(ブラームス)
    アルバン・ベルク四重奏団
    (EMIクラシックス TOCE-8308~9) 東芝EMI
  • <器楽曲部門>パルティータ第1・2・3・5番(J・S・バッハ)
    クラウディオ・アラウ(P)
    (フィリップス PHCP1305~6) 日本フォノグラム
  • <オペラ部門>《シンデレラ》(ロッシーニ)
    リッカルド・シャイー指揮ボローニャ市立歌劇場管弦楽団・合唱団
    バルトリ(S)、マッテウッツィ(T)、コルベッリ(Bs)他
    (ロンドン POCL-1310~11) ポリドール
  • <声楽曲部門>ルートヴィヒ/フェアウェル・コンサート
    クリスタ・ルートヴィヒ(S)、スペンサー(P)
    (RCA BVCC-639) BMGビクター
  • <現代曲部門>《進むべき道はない、だが進まねばならない》他(ノーノ)
    ミヒャエル・ギーレン指揮南西ドイツ放送交響楽団
    (アストレ IDC 6004)
  • <特別部門/日本人作品>幻想的バレエの音楽《輝夜姫》(石井眞木)
    石井眞木指揮 芝祐靖(龍笛)、宮田まゆみ(笙)、サークル・パーカッション他
    (フォンテック FOCD-3173) フォンテック
  • <特別部門/日本人演奏>交響曲《大地の歌》(マーラー)
    伊原直子(A) 、田代誠(T)、若杉弘指揮 東京都交響楽団
    (フォンテック FOCD-9030) フォンテック
  • <特別部門/全集・選集・企画>モラーヌ/エラート録音集大成
    モラーヌ(Br)他
    (エラート WPCC3391~6) ワーナーミュージック・ジャパン
  • <特別部門/録音>水上の音楽(ヘンデル)
    J・E・ガーディナー指揮イギリス・バロック管弦楽団
    (フィリップス PHCP5115) 日本フォノグラム
  • <特別部門/ビデオディスク部門>《ニーベルングの指環》メイキング・オブ・レコーディング
    ゲオルグ・ショルティ指揮ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団、他
    (ロンドン POLL-1055) ポリドール

珠玉の世界四大ピアノの饗宴のお知らせ
カワイ、スタインウェイ、べーゼンドルファー、ヤマハ各社コンサートピアノの弾き比べ

 (社)日本ピアノ調律師協会では技術研究会「ピアノのタッチと音色と響き」の第6回の事業として、1992年3月、スタインウェイとベーゼンドルファーの弾き比べをサントリーホールで行った。その詳細はNEWS52号、1992年4月号に紹介してある。今回はその第2弾で、ヤマハ、カワイという国産2社が参加し、上記4社のコンサートピアノの弾き比べとなった。期日は3月5日の土曜日、19時よりサントリーホールで行われる。

 ピアニストは北田暁子さん、曲目の詳細は同封のチラシを参考にしていただきたい。チケットはチケットぴあ、チケットセゾンでも扱っているが、地方の方でチケットの購入が難しい方は下記の担当者に直接申し込んでいただきたい。

 伊東 力生氏 〒228 相模原市相南2-17-10 Tel: 0427-46-7017