永田音響設計News 92-11号(通巻59号)
発行:1992年11月15日





ユニオン・フォーラム「どうしよう、私たちの二国《

 構想以来26年、設計段階においてもいろいろな問題が指摘されつづけてきた第二国立劇場(仮称二国)の起工式が10月22日、東京初台の建設予定地で行われた。本施設はオペラ・バレエを主目的とする1,810席の大劇場、室内オペラ・ミュージカル・バレエを主目的とする1,058席の中劇場、実験劇場的な性格を持つ492席(最大)の小劇場、延べ床面積約68,800m2という規模の劇場コンプレックスである。計画当初、総工費500億、うち舞台設備費250億という当時としては異例の予算で出発した本劇場も、その後の物価上昇のために大規模な修正を余儀なくされ、予算規模においては最近オープンした愛知芸術文化センターの方が大きい。今回、開設準備専門委員会から、公演計画の概要が発表されたが、まだ、総監督も決まらず運営にかかわる予算の裏付けもないという状況である。



 このような状況の中で、10月25日(土)の午後、日本音楽家ユニオンの主催で、表記のフォーラムが東京芸術劇場大会議室において開催された。パネリストは指揮者の井上道義、声楽家の岡村喬生、フルート奏者の金昌国、演出家の寺崎祐則、評論家の遠山一行、コーディネーターは音楽家ユニオンの松本伸二の各氏であった。
 まず、コーディネーターから二国建設についてこれまでの経過説明があり、次いで各パネリストから二国への所信が表明された。劇場は国の顔であり、創造部門がある施設でなければならない、ソフト面での計画的な対応がいますぐにも必要である、総監督は海外に求めるべきではないか、国際的に通用するレベルの日本独自のオペラを目指すべきである、などといった主張から、既存のオペラ団体との関係またオーケストラや合唱団の構成とその扱いをどうするのか、などといった現実的な問題まで、様々な角度から問題点が掘り起こされた。また、お役所を動かすには音楽関係者が騒いでいただけでは駄目で、新聞などマスコミの力を必要とするなどの意見もあった。この内容はいずれ同協会の機関誌で紹介されると思う。コーヒータイムには二期会合唱団約40吊の演奏もあり、フォーラム終了後にはレセプションが行われた。

シンポジウム「日本のオルガンはこれでよいのか III《

 日本オルガン研究会では表記のテーマで毎年1回、これまで2回のシンポジウムを行なってきた。これまでの主要な話題は、

  *公共ホールのオルガン     *日本のオルガンと輸入オルガン
  *オルガンの保守体制      *ビルダーの選定方式
  *オルガンコンサート      *オルガンの運用

などであったが、今回はオルガニストにパネリストになっていただき、活動の状況から演奏者からみたオルガン界の現状について問題点の提起をいただいた。日時は10月31日(土)15:00から17:00、会場は六本木の鳥井坂教会であった。パネリストは、酒井多賀志(東京純心女子短期大学助教授)・林佑子(フェリス女学院大学教授)・鈴木雅明(東京芸術大学助教授)・保田紀子(松本市音楽文化ホールオルガニスト)の4吊のオルガニスト、司会は永田が行なった。

 クラシックの演奏会がこれほど盛んになった今日でもオルガンコンサートはまだ一般的ではない。まず発言があったのは、演奏曲目に注文をつけられること、具体的には“トッカータとフーガ”で代表される限られた曲を要求されるということであった。これに対して、オルガニストの側からもむしろ企画に積極的に参加し、演奏活動を展開する努力をすべきだという意見も出た。各パネリストの方は日常の演奏活動のほかに、オルガン曲の作曲、あるいは作曲の委嘱、古楽器演奏団の結成など独自の活動を続けられておられる。また現在の大ホールにおける大型オルガンについても一部の方は批判的であり、オルガン用のホールはむしろ500席程度の響きの豊かな小ホールが望ましいという意見もあった。
 オルガニストとオルガンの関係、相性の問題はわれわれにとっては興味のある課題である。これについては、オルガンの前に座り、鍵盤に触れただけで、オルガンの性格や相性が掴めるという話、弾き易さとオルガンの質とは別の問題である、オルガニストはオルガンビルダーとの間に一線を隔すべきである、などといったこれまでのシンポジウムでは聞かれなかった意見や主張もあった。

 日本オルガン研究会が発行しているオルガンニュースによれば、オルガンコンサートの数は案外多い。一晩に3つのコンサートが重なることもある。しかし、これらのコンサートが一般のコンサートとは全くといってよいほど隔離されて行われているのである。先生門下のコンサート、あるいは教会のチャリティコンサートといった性格のものが多い。“貧しく、清く、美しく”だけではなく、プロの演奏家として世間並みのギャラをとって堂々としたコンサート活動を心掛けていただきたいと思う。幸いなことに、公共ホールで専属のオルガニストを雇用するケースが増えている。そこを拠点としてぜひ演奏活動を展開していただきたいと思う。

JASコンファレンス´92

 JASコンファレンスは日本オーディオ協会が2年おきに開催している技術大会で、毎回目まぐるしく変遷をつづけているAV界の関心をメインテーマとして開催されるのが特色である。4回目にあたる今回のメインテーマは、新しくオーディオ界に登場したNT、DCC、MDおよびCD-Rの4つのパッケージ記録システムを期して“動き出した多メディア時代”であった。期日は10月27日から29日までの3日間、会場は東京半蔵門の東条会館ホールであった。

 技術発表として、<ディジタルテープ関連><音場・電気音響変換器・部品関連><AVシステム関連><ディジタル信号処理関連><ディジタル・ディスク関連>および<プログラム制作・伝送関連>の6部門、それに特別セッションとして<多メディアを支える新技術>、特別講演として<多メディアの現状と将来><多メディアが拓く豊かな世界>の2講演という多彩な内容であった。室内音響関係としては次のような発表があった。

 *正確なステレオフォニック再生「ニアフィールドリスニング《  江川三郎
 *多メディア時代の音場再生                  中林克巳
 *多メディア時代のスピーカー技術               佐伯多門
 *多メディア時代のリスニングルーム              石井伸一郎

 予稿集は日本オーディオ協会(Tel:03-3403-6649)に申し込まれたい。
 身辺を見回しただけでも、放送メディアとしてAM、FM、TV、BS、パッケージメディアとしてLP、CD、LD、VHD、カセット、S-VHS、DAT、ケーブルメディアとしてCATVなどがある。いったいこれらのメディアを使いこなしている方はどのくらいおられるのだろうか。“オーディオは感動をもたらすものでなければならない”といわれた三菱電機の佐伯さんの発言だけが強く印象にあるが、現在の技術はこのような本質を脇にして情報の効率化だけを目指しているように思う。会場を後にしての感想である。

ウイーン楽友協会所蔵「至宝品展《

 いま赤坂のサントリー美術館で開催されている“ワーグナー展”で、偶然、ウィーン楽友協会の資料室長のオットー・ビーバー氏と出会い、この展示会を知った。この展示会は長野県民文化会館がウィーン楽友協会との姉妹提携10周年を記念して行われたもので、場所は県民文化会館の展示ホール、会期は11月3日から9日までという短期間の展示であった。筆者は11月4日の昼前に、庭の紅葉が始まったばかりの県民会館を訪れた。幸いにも会場には人気がなく、ゆっくりと展示を楽しむことができた。

 展示は「コンサートホール~二世紀にわたる音楽のよろこび~《というホール関係者をわくわくさせるテーマであった。その内容は<公開コンサートホールの現実>として、18世紀から19世紀にかけてのウィーン、ロンドン、パリ、アムステルダム、ヴェネツィア、ライプツィヒなど各都市のコンサートホールの発祥から始まり、1870年のオープンから今日までのウィーン楽友協会ホールの活動の場面が展示されていた。また、<変わりゆく指揮者たち>として歴代の指揮者の姿も紹介されていた。展示によれば、客席とステージとの関係、聴衆の様相なども現在とはかなり違ったものもあった。コンサートの雰囲気もいろいろであったことが推察できる。これは<民衆のコンサート>としてまとめてあったが、今後の新しい劇場施設の方向の一つを示唆しているように思えた。
 これらの資料はウイーンへ行けば見ることは可能であろう。しかし、日本語の解説付きというのが有り難かった。サントリー美術館あたりで考えてほしい企画である。

種子島宇宙センターの見学

H-1ロケット発射台
 (社)日本技術士会の見学会で11月の4~6日の日程で種子島の宇宙センターを訪れた。大前H-1ロケット発射台、吉信H-2ロケット発射台、増田追跡管制所、吉信射点発射管制室、宇宙開発展示館などの施設を見学した。想像以上の巨大施設であり、日常われわれとは別の世界で行われている宇宙開発の一端を伺い知ることができた。案内と説明には宇宙開発事業団次長の菊山紀彦氏があたられ、島を離れるまでお世話をいただいた。
 H-2ロケット発射台の建設費は500億といわれる。これは二国(第二国立劇場)の予算に匹敵する。すべてスケールが桁はずれに大きい。しかしこの見学で感じたことは、菊山次長の至れり尽くせりの案内であった。また、近代技術が集積しているこの施設がまったくオープンであることも意外であった。施設には危険な箇所以外は囲いもなく、島の人は自由に施設の道路を走ることができる。写真も自由であり、展示館の展示も本格的であり、宇宙やロケットの仕組みが分かりやすく展示されている。公共施設でこのような思いをしたことは始めてであった。

 種子島は鹿児島空港からYS機で約40分、意外と大きな島である。観光地でないだけに、海や海岸は美しく、蟹があそんでいる。鉄砲伝来以来の多くの史跡もある。菊山次長は子供さん方を連れてきてほしいとのこと。われわれがかつて、空に、飛行機に憧れたように、子供たちにはまた別の感動を呼ぶであろう。ディズニーランドだけではあまりにも寂しいではないだろうか。夕刻、種子島を後にしての感想である。

NEWSアラカルト

墨田区ホール模型実験の
現場におけるゲーリー氏
◆F.O.ゲーリー氏高松宮殿下記念世界文化賞受賞
 ディズニーコンサートホールの設計者のゲーリー氏がこの度文化のノーベル賞ともいわれる高松宮賞を受賞され、10月末に来日された。半日、墨田区のコンサートホールの模型実験の現場をご案内した。ネクタイ姿のゲーリー氏は初めてであった。

◆藤岡市(仮称)みかぼみらい館新築工事起工式
 10月22日、藤岡市(群馬県)藤岡の現地で行われた。敷地は三方が見渡せる丘の上、オープンは1995年の予定である。

◆京都市コンサートホール(仮称)新築工事起工式
 10月27日、京都市左京区にある府立椊物園脇の建設現場で行われた。オープンは1995年の予定である。

◆愛知芸術文化センターのフォーヴィズムと日本近代洋画展
 20世紀初頭の生気に満ちた油彩画180点が一堂に会したこの展示は質、量ともにまさに圧巻である。コンサートの前にぜひ時間をとって足をはこばれることをお勧めする。


永田音響設計News 92-11号(通巻59号)発行:1992年11月15日

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