No.054

News 92-6(通巻54号)

News

1992年06月15日発行

ヨーロッパのホール研修ツアー報告その2

若手に続く第2陣として、中堅スタッフ4名が5月17日~26日の日程でバーミンガムの音響学会とベルリン、プラハの春音楽祭、ウィーン芸術週間を訪れるツアーを行った。次表のようにヨーロッパ滞在中は連日コンサートを聞く機会に恵まれた。特に、ベルリン・フィル、ウィーン・フィルのホームグラウンドでのコンサートやムジークフェラインザールでの3夜のコンサートは音響コンサルタントとして大変貴重で有意義な体験であった。

バーミンガム(音響会議とSymphony Hallのコンサート)

5月18日、19日の両日、Symphony Hallに隣接するRepertry Theatreで開かれた“Acoustics, Architecture & Auditoria”に参加した。会議には音響コンサルタント、建築家、研究者など100名を越す参加者があり、ホール、オペラハウスの紹介を中心とする比較的くだけた講演が行われた。参加者の興味はなんといってもバーミンガムのSymphony Hallの音響にあったようで、初日の最後の講演では同ホールの音響コンサルタントであるJohnson氏、建築家のGraham氏と参加者の間で白熱した議論が行われた。また、その夜のコンサートへも多数が参加していた。同ホールの概要については、本News1991年10月号の豊田の訪問記を参照されたい。

ベルリン

ベルリン・フィルハーモニーホール(大ホール)は、4~5年前に内装天井の一部が剥がれて落下するという事故があり、天井の全面張り替えという大工事のため、昨年から今年にかけてクローズしていた。今年の4月に再オープンしたホールの音を聞いてみるのが今回の大きな目標の一つであった。少なくとも一見した限りでは、落下事故や工事など何ごともなかったように元のとおりに修復されていた。不思議なくらい全く新しい感じはしないというのが見た目の、また、響きの第一印象であった。

プラハ

プラハでは、スメタナの命日である5月12日から6月1日までの間“プラハの春音楽祭”が行われる。我々はこの間5月21日、22日の2日、スメタナホールとドヴォルジャークホールでコンサートを聴いた。

スメタナホールは、アール・ヌーボーの影響を感じさせる椊物的な曲線で構成される重厚で風格のある建物である。全体的に音も重厚でしっかりとしていたが、ある特定の楽器の音が明確に聞こえたのが印象的だった。
ドヴォルジャークホールは、ネオ・ルネッサンス様式の建物でホール内のバルコニー席には太い円柱が立ち並ぶ。柱の後ろにも座席があり、そこに座ると舞台はほとんど見えないが誰も文句を言わない。2階側部バルコニー席で聞いた印象は音が遠く感じられ、下の方で何かやってるといった印象だった。2階最後部では側部に比べ全体にバランスは良く聞こえ、また1階は音が生々しくドライな感じがした。聞く場所によって音の感じが大きく違うホールという印象だった。

ウィーン

ウィーンでは芸術週間の期間中ということもあり、滞在した3日間にウィーン・フィルの本拠地であるムジークフェラインザールで、ウィーン・フィルに加えて演奏には定評のあるフィラデルフィア管、オルフェウス室内管のコンサートを聞くことができ、短期間にこのホールの響きの特色を実感するには絶好の機会であった。

3回のコンサートを通しての感想は、一般にいわれている世界一美しい響きは“ウィーン・フィル+ムジークフェラインザール”で現出されるものであるということであった。ウィーン・フィル以外のコンサートでも響きの美しさの片鱗は見えるのだが、それよりも編成や曲目が大きいときには圧倒されるような音量でうるさかったり、また弦の響きも多少硬かったりとウィーン・フィルの場合とは全く異質で、とても同じホールで演奏されているとは思えないほどだった。奏法や楽器の違いはあると思うがオーケストラとホールとの長い関わり合いの歩みを痛感した3日間であった。

これら4都市のコンサートの模様、印象などについては次号より詳しく報告する。(小口恵司、豊田泰久、小野朗、福地智子 記)

山形村ミラ・フード館のオープン

山形村は松本市の西南方約10km、梓側の左岸の丘陵が安曇野に接する地帯に拡がる農村である。道端の野菜でサラダができるというサラダ街道に接して、5月18日、このミラ・フード館がオープンした。
ミラとはくじら座の中の変光星、フードとは「食」と「風土」を表すという。屋上に400mmの天体望遠鏡を備えた天体観測室、2階には120インチのスクリーンをもつハイビジョンシアター、床面積280m2の平土間の多目的ホール、一階には軽食、喫茶コーナーと工作、料理、陶芸など自由にできる体験コーナー、外部には花時計、カリオン塔など、ユニークな遊びの施設である。

本体工事費約4億3千万円、天体望遠鏡、ハイビジョンシアターシステムなどの特殊設備工事費合計約8千万円という工事費の内容からみても、この施設のユニークさがおわかりであろう。設計管理は松本市の嶺建築設計事務所である。

葛飾区 シンフォニーヒルズのオープン

ウイーンの区長が訪日の途中、機内でみた映画「寅さん」が縁でウイーンと友好都市となった葛飾区に待望の文化施設「かつしかシンフォニーヒルズ」が5月23日オープンし、引き続き7月の末まで、多彩なオープニングシリーズ30公演が開催中である。

この施設は京成線青砥駅から徒歩5分、1318席のモーツァルトホール、298席のアイリスホールが中心で、コンサートを原点とした多目的対応施設である。建築設計監理は(株)佐藤総合計画、当事務所は基本計画の段階から参画した。オープニング前には、ピアノ演奏、オーケストラ演奏などのテスト演奏を利用して、聴衆収容時の音響測定も行なうことができた。音響設計、音響測定結果の詳細については次の機会に述べたい。

モーツァルトホール

1300席クラスのコンサートホールは都内では貴重な存在であり、他のホールにはない効果を期待している。まだ本ホールの音響効果を云々できる段階ではないが、シューボックスにもいろいろな響きがあることは事実であり、また、オーケストラ曲でも楽団によって響きの印象がかなり異なることも確認できた。

この施設は計画段階から企画・運営の組織が発足したことも公共ホールとしては異色であり、館の皆さんが一生懸命このホールの運営にあたっておられる。今後、葛飾という地域でこの文化施設がどのような道を切り開いてゆくかは興味がある。葛飾は新橋から直通で30分である。それに低料金のチケットは魅力である。ぜひ、中型シューボックスホールの響きを体験していただきたい。

全国音楽ホールシンポジウムの開催

6月3日の午後、埼玉県松伏町中央公民館田園ホール・エローラにおいて、昨年10月に結成された全国音楽ホールネットワーク協議会の第一回総会とシンポジウムが開催された。この協議会は、瀬戸内のコンサートホールとして有名になった広島県瀬戸田町ベルカント・ホール、宝塚市のベガ・ホールなど地方の中小コンサートホール関係者が発起人となり、ホール運営についての情報交換、共同企画などを目的として結成された音楽ホールのネットワークである。

当日は松伏町自慢の田園ホール・エローラにおいて、「地域の活性化とホールの役割」というテーマでパネルディスカッションが行われた。参加者は約150名、コーディネーターは音楽評論家の日下部吉彦氏。6名のパネリストから、各館の聴衆動員の工夫と実際、チケットの売り方など運営上の苦労話などが披露されたが、時間の都合で参加者との応答の時間がとれなかったことが残念であった。カザルスホールの萩元さんから指摘があった音楽事務所との関わり合いの問題などは、もう少し突っ込んだ議論がほしかった。ホールにとって運営の問題は切実な課題である。関心のある方はぜひ下記の事務局にお問い合わせいただきたい。

全国音楽ホールネットワーク協議会 宝塚市 ベガ・ホール
〒665 宝塚市荒神1-2-18  Tel:0797-84-6192

NEWSアラカルト

第23回サントリー音楽賞 尾高忠明氏受賞

今年のサントリー音楽賞は指揮者の尾高忠明氏が受賞され、6月8日(月)の午後、東京会館において受賞式とお祝いの会が開かれた。東京フィルハーモニー交響楽団、最近ではBBCウエールズ交響楽団での演奏活動が今回の受賞の理由であった。氏は作曲家尾高尚忠氏を父として1947年に生まれ、桐朋学園大学で指揮を斎藤秀雄氏に師事、NHK交響楽団、東京フィルハーモニー交響楽団、札幌交響楽団などで指揮をとられ、現在、読売日本交響楽団常任指揮者、東京フィルハーモニー交響楽団桂冠指揮者、BBCウエールズ交響楽団首席指揮者である。オーケストラは今日の音楽界の主役であり、中堅の指揮者の層が厚くなってゆくことはわが国のオーケストラにとって喜ばしいことである。一層のご活躍を期待したい。

オルガンレクチャーコンサートのご案内

サントリーホール

オープンの翌年から年3回の割合でレクチャーコンサートが続けられている。今年は「オルガン音楽のしくみ」というテーマで、菅野浩和氏がオルガン音楽の形式について話をされる。オルガンはリーガー社(オーストリア 74ストップ)である。入場料は1500円、問い合わせはサントリーホール・チケットセンターTel:03-3585-9999まで。チケットぴあ、チケットセゾンでも扱う。

第一回 6月14日11時より 「変奏曲」      演奏:早島万紀子
第二回 9月23日11時より 「フーガ」      演奏:ブライアン・アシュレー
第三回 11月3日11時より 「トッカータと即興」 演奏:鈴木雅明

新宿文化センター

(財)新宿文化振興会の主催でこれまで3回のセミナーが行われた。次回は馬淵久夫氏の演奏とお話しで次の内容で行われる。オルガンはケルン社(フランス70ストップ)、入場無料である。
7月25日(土)19時より、下記の内容のセミナーが行われる。
(1)パイプオルガンの仕組みと音色について
(2)新宿文化センターのオルガンの特色
問い合わせは(財)新宿文化振興会(新宿文化センター内)Tel:03-3350-1141まで。

水戸芸術館

7月13日(月)18時エントランスホールに設置されたマナ・オルゲルバウ社のオルガン(東京都町田市 46ストップ)を使って、広野嗣雄氏による解説と演奏がある。入場料は2000円、問い合わせは水戸芸術館チケットセンター Tel:0292-31-8000まで。