岡山シンフォニーホール
岡山シンフォニーホールは、昨年秋、岡山の中心地である城下交差点に面した一角の市街地開発ビルの中に誕生した。このビルは典型的な雑居ビルで、1~2階が店舗、3階がイベントホール、和風ホール、スタジオ、4階~7階がシンフォニーホールで、それより上階が事務所スペースとなっている。
このホールは2,000席規模のホールで、設計当初は純粋なコンサートホールとして建築計画が進められていたようであるが、多目的利用にもある程度対応したいという市の要望から、舞台部分に特殊な可動反射板が設置され、また、照明、吊り物などの舞台設備も拡充されている。当初のコンサートホールの計画の名残りとして、舞台正面の拡散壁の背面に、将来オルガンが設置できるようにスペースが設けられている。
多目的対応のホールであるが、基本形状は舞台と客席が一体となったシューボックス型である。ただし、敷地の制約の中で、2,000席収容という建築計画上の厳しい条件のために、3層のバルコニーが設けられ、かぶりの席が多少ある。建築設計は、芦原建築設計研究所とアール・アイ・エーの設計・監理共同企業体で、当事務所は実施設計の段階から音響設計を担当した。
オープニングは昨年の9月23日、W.サヴァリッシュ指揮、NHK交響楽団による三善晃作曲の委嘱作品の演奏会で幕をあけ、今年1月25日、26日のなかにし礼作、三木稔作曲の5世紀の吉備と大和を題材にした委嘱オペラ“ワカヒメ”まで4か月にわたって各種の開館記念の催し物が行なわれた。
ホールの音響設計では、とくにつぎのような点を重視し、検討を行った。
- 再開発ビルということによる制約で複層する諸室、特に上下に隣接するホール~スタジオ~店舗各室間の遮音
- ホールの室形状と客席配分
- 多目的対応の範囲と必要とする設備
などである。
(1)については、各階の床を二重スラブとすることを基本とし、さらにホール直下のスタジオに対しては、大音量にも対応できるようにスタジオ側に浮きの遮音構造を採用した。スタジオ~ホール間の遮音性能は、500Hzで90dB以上の性能である。
(2)のホール室形については、収容規模と敷地条件から、ホールの基本的な形状はすでに決定しており、音響的な検討は、バルコニー席の割振り、舞台周辺、壁、天井の形状など内部の詳細の検討に限られた。収容人員の関係から、バルコニー下の席の音響など、割り切らなければならない場所もあったが、主要席では十分な初期反射音が得られるように1/50縮尺模型の光学実験とコンピュータシミュレーションにより反射音分布の確認を行ないながら詳細を検討した。
(3)の多目的利用に対しては、必要に応じて響きの量をコントロールし、側壁にカーテンが設置できるように計画した。また、プロセニアム中央に昇降式の大型のスピーカシステムを設置した。
残響時間は、舞台可動反射板設置時、すなわち、コンサートホールの条件で空席で2.5秒、満席で2.0秒(500Hz)であり、舞台幕を使用して反射板を格納した状態では、空席で1.9秒、さらに、側壁にカーテンを取り付けた時は、1.6秒である。また、コンサートホールでしばしば問題となるスピーチの明瞭度であるが、残響時間特性その指標としてのRASTIは0.51~0.63であり、多目的に十分対応できる結果であった。
このホールは幸いなことに、オープン以来明確な方針のもとに、また関係者の熱意にあふれた運用が行われていることを特記したい。多目的利用もあるが、基本的にはコンサートホールであるという理解の上で、企画・運用が行われており、これまでのコンサートホールの開館時に生じてきた問題をうまく処理しているように思える。
4か月間の催し物の内容も、オーケストラから、合唱、吹奏楽、カルテット、ピアノ、声楽のクラシックコンサート、オペラ、バレエ、邦楽、能・狂言、ポピュラーコンサート、さらにこれらの合間を縫って行われた医学会等の大会まで実に多種多様であった。数少ない演奏会からの印象ではあるが、シューボックス型のホールの持つしっかりとした響きと十分な音量感、それに音の近さを感じるホールという印象である。記念行事の企画の素晴らしさと、長い間待望したコンサートホールであるという岡山市民の期待もあって、満員盛況の連日であったとのことである。また、聴衆だけではなく、演奏者の反応もすこぶる良いことを聞いている。
今、コンサートホールは一つの流行であり、各地にいろいろな規模のコンサートホールがオープンしており、また、オープンを迎えているホールも少なくない。名演奏で華々しく開館したホールも、そのうち霞んでしまうケースもある。地道でもよい、充実した内容が持続することを期待したい。山陽道にお出掛けの方、一度、このホールの演奏をお楽しみいただきたい。(池田 覚 記)
NEWSアラカルト
NEWS発行50号記念の講演会と演奏会-渡辺先生の“文化史の中の劇場”から
3月21日の午後、NEWS発行50号記念の講演会と演奏会が上野学園石橋メモリアルホールで行われた。前半の渡辺先生の講演は、市民社会の中でのヨーロッパの劇場とわが国の劇場の位置付けについての比較論であった。名演奏、名曲の演奏の場としての位置付けにあるわが国のホールに対して、18~19世紀に始まったヨーロッパの劇場は貴族社会から市民が奪いとった文化の象徴であるという市民意識の中で守られた施設であること、また、最近わが国でもこのような地域の人々の文化活動の場として定着しつつある施設が誕生していること、などであった。
いま、わが国の文化施設が抱える問題はその運用であり、関心はいかに興味ある催し物を企画し、聴衆を集めるか、という点に尽きており、先生が指摘されるように、市民生活との結び付きという方向で歩みを続けている施設は限られている。なかには、市民の安易な利用を拒否している施設もある。
個人と文化との関わり合い方が大きく変化している今日、文化施設のあり方、活動の方向もいろいろあって当然であろう。期待の方向からずれてゆく施設もあり、ある偶然から思わぬ方向へ発展している施設もある。劇場の歩みも人間社会と同じである。
冷たい雨の中、約150名の方に参加いただいたことは主催者として大きな喜びであった。また、このような催し物でも、裏方さんの作業がいかに大変なものであるのかを知ったことも貴重な体験であった。上野学園の方々にたいへんお世話になったことをあらためて感謝いたします。
ホールの内装に木が使える
平成4年3月7日の建設省告示第549号によれば、これまでホールには使用できなかった木材が壁に関する限り、使用できるようになった。ただし、天井に不燃材、あるいは準不燃材が使用されている室の壁に限ることなどいろいろな制約の上での使用許可である。詳細は地区の関係省庁に問い合わせていただきたい。
コンサートホールの内装には木を使用すべきだという声は長年繰り返されてきた。しかし、厳然とした法規の壁はいかんともしがたく、不燃ボードの上に張った薄い木の箔で、木の感触を味わう以外になかった。もう諦めていたところこの告示である。デザインの面からだけではなく、音響的にも自由度がふえたことは喜ばしい限りである。
内装材としての木の特色は何よりその自然な感触にある。また、施工性に優れていることも他の素材にはない性質である。
音響的な特徴は次の二点にある。一つは、表面からの音の反射特性、もう一つは、板振動によるほどほどの低音の吸音特性である。ホールの音場に長年晒されることにより、振動特性が変化することは、弦楽器のエージングを例にいわれる方もあるが、そのメカニズムは現在の技術では説明できない。
“木を使ったホールは成功する”というジンクスがヨーロッパにはあるが、ヨーロッパで木を使ったコンサートホールは案外少ない。わが国では今後、しばらく木のホールが続くであろう。そして“木”のホールにもいろいろな響きがあることが体験できると思う。木の伝説がどのような道を辿るのか、これも一つの楽しみである。
スタインウェイとベーゼンドルファーの比較演奏
この興味ある演奏会が3月28日の6:00pmからサントリーの大ホールで行われた。一口にいえば、ピアノの“弾き比べ、聴き比べ”であるが、正確にいえば、(財)日本ピアノ調律師協会が平成3年度事業として行った“ピアノの響き”という催しで、これは演奏会というよりも、同協会のピアノ技術研究会が実施している“ピアノのタッチと音色と響き(Touch,Tone and Sonarity of Piano)シリーズの第6回の研究会であった。
演奏はウイーンで活躍されているアヴォ・クュムジャンという若手のピアニストと、美しい奥さんとのピアノデュオで演奏活動をされているザイラー夫妻であった。対象となったピアノはスタインウェイのDモデルとベーゼンドルファーのインペリアル各2台ずつ、計4台のピアノである。比較の方法は一台ずつの比較から、一台のピアノの4手による比較、2台のピアノの連弾まで、研究会らしい盛りたくさんの内容であった。
比較試聴の場合の大きな問題は曲目である。ブラームスの幻想曲、シューベルトのソナタ、リストの交響詩などの大曲が中心で、一部の曲はピアノを変えての演奏もあったから、聴く方も大変であった。研究会という性格からこのような曲が選ばれたと思うが、一般の人にとってはベートーベンやショパンなど馴染みのある曲が欲しかった。それに、デュオというのは比較試聴にはどうであろうか。しかし、それぞれのピアノの特色、われわれが感じている二つのピアノの特徴はよく感じとられたように思う。
ピアノの音色について日常感じているのは、演奏家による違いである。ピアノの音がこんなに違うのか、とはガラコンサートで体験した。それに、地方のホールでは調律のせいか、弾きこなされていないせいなのか、これが、あの. . . . . と思わされる音色にであうこともある。自らピアノを持ち込んで演奏会に臨まれるピアニスト、調律師を指定されるピアニストなど、量産楽器の代表であるピアノでも、人間的な要素が深く関わっていることは興味深い。これが楽器というものであろう。
聖路加国際病院チャペルのオルガンリサイタル
前回お知らせした東京築地の聖路加国際病院チャペルオルガンリサイタル、次は4月17日(金)7:00pmより、ルドルフ・イニッヒ氏の演奏会です。
二つの演奏会のご案内
知人の演奏会を二つご案内します。
―井形景紀(バスバリトン)によるバラードの夕べ―
4月10日(金)7:00pmルーテル市ヶ谷センターにて。シューマン、モーツァルトなどのバラードの演奏会です。お問い合わせはチケットぴあ 03-5237-9990まで。
―丸子寛子ピアノリサイタル―
4月21日(火)7:00pm津田ホールにて。曲目はショパン、シューベルト、シューマンなど、暖かいピアノです。お問い合わせは梶本音楽事務所 03-3289-9999まで。