◆よい響きの設計
よい響きとは何かについては"concert hall acoustics"というフィールドが国際的に認知されるほど、学界でもよい響きについての研究が集中している。また、コンサートホールの誕生とともに、演奏家やコンサートゴァーの響きについての嗜好も細かくなってきた。音響設計の立場からみた技術の現状、話題をまとめてみた。
響きの性質を表す尺度として、昔から残響時間が用いられてきた。残響時間とは音を停止したあと、室内のエネルギーが100万分の1になるまでの時間として定義されている。サントリーホールやオーチャードホールなど都内の大型コンサートホールの残響時間はほぼ2秒、カザルスホールや津田ホールなどの小ホールの残響時間は約1.6秒程度である。しかし、残響時間が同じでも、響きの質が異なるホールがあることが指摘されてきたが、結局、上に示す5つに集約できるのではないかというのが最近の定説である。これらのパラメータはいずれも、室内でパルスを出したとき、受音点では観測される音圧波形、つまり、インパルス・レスポンスから算出できる物理量である。
しかし、われわれがホールで実際の演奏を聴くときに感じるホールの響きとは何なのだろうか?実のところ、これらのパラメータのどのような組み合わせで、ホールの違いや、同じホールでも場所による違いを説明できるのかは、いまだ明らかではない。実際の演奏で感じるホールの響きの印象には、残響感一つとりあげてみても、楽器の種類と演奏の規模、演奏の仕方、など音源条件に関わってくることが多い。表に示したパラメータは直観的には紊得できる音響効果の要素ではあるが、まだ設計パラメータとして使用できるものではない。設計パラメータになるまでには、somethingが必要だと思っている。
アメリカの音響学者のBeranek先生は自らコンサートに足を運ばれ、音楽をお聴きになることでも有吊であるが、先生は音響効果の評価の方法として下表のような標準的な聴き方(organized listening)を提案されている。音響の諸先生方もぜひ―my own way of listening―を発表していただきたいと思う。この課題は別の機会に取り上げたい。