No.048

News 91-12(通巻48号)

News

1991年12月25日発行

都内ホールの利用状況

この一年間の都内ホールのクラシックコンサートの利用状況をお知らせする。大小ホールで年間2900回を越える利用である。

1991年都内大ホール演奏会 1063回
1991年都内大ホール演奏会 1063回
1991年都内小ホール演奏会 1864回
1991年都内小ホール演奏会 1864回

(音楽の友:1991年1-12月、CONCERTS GUIDEより)

 今年はサントリーホールが5周年、津田ホールが3周年を迎え、記念のコンサートが行われた。東京芸術劇場が後半から定常的な活動に入り、都内オーケストラの定期公演がサントリーホール、オーチャードホール、東京芸術劇場の3館に移った。当分はこの3ホールが東京のクラシックコンサートの主要な受け皿となるであろう。

1985年都内大ホール演奏会 608回
1985年都内大ホール演奏会 608回
1985年都内小ホール演奏会 1034回
1985年都内小ホール演奏会 1034回

(音楽の友:1985年1-12月、CONCERTS GUIDEより)

 これらの大ホールとは別に、カザルスホール、津田ホールなどの小ホールも限界に近い利用である。来年の秋には新橋に浜離宮朝日ホールが、銀座に王子ホール(仮称)がオープンするから、小ホールへの客の流れはまた変わるであろう。

ところで、前々からサントリーホール誕生以前のホール事情がどうだったのか興味があり、まず、サントリーホールのオープン一年前の1985年度の調査を行った。結果は前ページのとおりである。1985年と1986年の一年間で、都内のコンサートの数は80%近い増加であり、東京のクラシックコンサートに対しての潜在的なポテンシャルがいかに大きかったかを物語っている。しかし、この勢いがどこまで延びるのかは今後の新しいホール計画の大きな関心事といってよいであろう。

今年のホール界、音楽界の話題

今年はモーツァルトに沸いた一年であった。教会ソナタの楽譜の発見など音楽史上の話題もあり、国立音楽大学では国際モーツァルトシンポジゥムが開催された。巷の書店やレコードショップにはモーツァルトコーナーが登場し、コンサートだけではなく、CDに書籍にモーツァルト一色の一年であった。このモーツァルトイヤーも12月5日のレクエムの演奏で終焉した感があり、恒例の第九の季節にはいった。まず、モーツァルトを聴いて熟成する酒の話しから始めよう。

酵母はモーツァルトを聴いて増殖し、芳醇な香りを醸し出す

これは、スピーカーのBOSE社発行のBOSE BUDDY CLUB通信’91/10に紹介された福島県喜多方市の小原酒造店の酒作りの話である。記事によると、専務の小原公助氏はこれまでも酵母に光をあてたり、超音波を聴かせたりいろいろな試みをしてきたが、モーツァルトの音楽がもっとも効果があることを発見した。彼は技術屋だけあって、効果の評価を1ccあたりの酵母の数で行っている。普通の状態ではどんなにに多くても3億くらいの酵母が、モーツァルトを聞かせると4億ぐらいまで増えるという。音楽によって増殖の速度が高まるという発見である。次の段階としてこの酵母をいじめる、つまり、低音で眠らせると酵母は芳醇な香りを発生するとのこと。しかし、人間と同じで連続して聞かせると効果がなく、一時間ほど聴かせて一時間休ませるのがよく、曲目は交響曲40番、41番、ピアノコンチェルトの20番、23番、27番だそうである。この音楽浴を利用する製造法は目下特許出願中とのこと、興味ある方は喜多方市の小原酒店をお訪ねいただきたい。

各地でコンサートホールの建設がすすめられている今日、その企画、運営の重要性がやっと認識されるようになった。とくに中小ホールが中心の地方のホールでは、この問題は深刻である。このような時ホール間のネットワーク化の動きが進められている。

全国音楽ホールネットワーク協議会の設立(日経新聞12月3日、文化往来)

1989年には広島県瀬戸田町の町長の音頭で「全国音楽ホールシンポジゥム」が開催され、全国ホールのネットワーク化の必要性がアピールされたが、その勢いを受けて今年の10月、宝塚市のベガ・ホールにおいて第2回のシンポジゥムが開催された。その結果、全国11の中小ホールが中心となって、「全国音楽ホールネットワーク協議会」(会長:正司泰一郎宝塚市長)が発足した。協議会は「ホール間の情報交換」、「企画の交流」、「独自の企画の実施」、「海外ホールとの連携」などを目標として活動をすすめてゆく。

メセナといわれる企業の文化活動の支援が進行していることはご存じの通りである。いよいよ自治体もソフトの支援に動き始めている。以下にこれらに関連する記事をいくつか紹介する。

「芸術と自治体」シンポジゥム(日経新聞11月22日、文化往来)

企業のメセナ(文化支援活動)に呼応して、地方自治体の文化、芸術の振興の姿勢が着目されており、「芸術と自治体」をテーマとしたシンポジゥムが12月7日横浜シンポジアで開催された。水戸方式を打ち出した佐川一信水戸市長、芸術は都市の公共資産であるという神奈川県長洲一二知事らの文化振興策の話しがあったが、現場からは、文化振興に必要なのは官僚主義にとらわれない情熱的な人間であるというアピールがあった。

以上のような地方自治団体の動きとは別に、自治省も文化施設のソフトへの支援について腰を上げたようである。しかし、12月12日の朝日新聞で日本舞台芸術振興会の佐々木忠治氏が訴えておられるように、500億の基金で発足した「芸術文化基金」が蓋を開けてみると、これまで文化庁からは助成を受けてきた「世界バレエ・フェスティバル」が理由なく却下されたとのことに大変なお怒りである。しょせん、文化と役所の論理はかみあわないところがあると思う。お役所の文化支援は簡単な問題ではない。

バブル消え企業協賛の文化事業減少(日経新聞11月7日、文化往来)

協賛事業のタイトルに企業吊などをいれる「冠」の割合は17.8%とのことであるが、冠があるのにチケットはいっこうに安くならない、というのが一般聴衆の率直な感想ではないかと思う。文化活動の宣伝のために経費が使われているとか、いや、音楽事務所のマージンが多すぎるからだなど、いろいろな噂が飛び交っている。しかし、表記の論評は企業の文化支援活動もバブル経済の崩壊であえなく衰退しているという情報紙「ぴあ」の調査結果を報じている。

メセナは悪税制の落とし子(日経新聞12月21日、斜論)

冠コンサートでの不快な体験は本誌31号でも紹介したが、この記事は「いまの企業の文化支援はビジネスをしているだけで、あれを社会的責任を果たしている会社だと思われては迷惑だ、身銭を切ることのない文化支援は、基本的にいかがわしいのではないか」という激しい論評である。身銭を切るという言葉の意味は重い。

東京芸術劇場に対しての批判

ホールに関する話題として昨年池袋にオープンした東京芸術劇場に対して、毎日、朝日新聞が執拗な批判をかきたてたことも関係者の一人として忘れ得ない出来事である。大きな問題は中ホールの舞台設備であり、大ホールの音響まで対象となっている。公共貸し館劇場の設計のあり方は設計側でも反省すべき点は多々あり、私の見解は本NEWSの91-10号に示した。大ホールの音響については、オルガン工事のおくれから最終の音響測定、反射板の調整などもまだ実施してない段階であり、われわれもまだ最終の音響状態の確認は終わっていない。音響については各ホールでの例もあり、もう少し使い込まないと本来の姿は見えてこない。いずれにしても、工期があと半年余裕があったならば今日のような問題は避けえた筈である。

本の紹介

『ドキュメント サントリーホールの誕生』 石井清司 著  ばる出版 91年12月発行

今年5周年を迎えたサントリーホールであるが、やっとこのホールの誕生のドラマを綴った本が石井清司さんの手によって出版された。著者みずから、この5年間かけて集めたデータをもとに構成しているだけあって、文章は具体的で迫力がある。1970年、電通の松村氏とサントリーの若林氏の出会いから、オープニングまでの社内、社外の様々な人々の活躍を石井さんはいきいとした文章で語っている。筆者もまったく知らなかった舞台裏の話しも多々ある。一民間企業がホールに挑戦することがどんなに大変なことなのか、また、施主の一貫した姿勢と情熱がいかに大事であるかを思わせる本である。

新版『建築の音響設計』 永田穂 著  オーム社 91年9月発行

1974年に出版した拙著「建築の音響設計」の改訂版である。ホールの音響設計の現場から音響設計の考え方、手法、データを中心にとりまとめたつもりである。設計各論としては、コンサートホール、多目的ホール、劇場とオペラハウス、多目的体育館と大型イベント空間など13のタイプの室について、音響設計の着目点をまとめてある。

『サウンドシステムデザイン』 The Bose Sound Group 著(永田穂 訳)オーム社 91年11月発行

電気音響設備の設計にはいろいろなアプローチがある。本書はボーズ社で開発したスピーカーの選定と配置設計のマニアルの邦訳である。第1部は音響心理、スピーカー、室内音響、設計目標などの基礎事項を、第2部はホールのタイプ別の設計の進め方を実例をいれて解説している。設計についてアメリカ流の割り切り方が参考になる。

NEWSアラカルト

平成3年度第29回レコード・アカデミー賞

本賞は音楽之友社発行の雑誌「レコード芸術」において毎年発表しているクラシック関係のディスク賞である。

【レコードアカデミー大賞】

<音楽史部門>聖母マリアの夕べの祈り(モンテヴェルディ)
ジョン・エリオット・ガーディナー指揮イギリス・バロック管弦楽団
モンテヴェルディ合唱団、他
(アルヒーフ POCA1008~9)ポリドール

【レコードアカデミー賞】

<交響曲部門>ファウスト交響曲(リスト)
リッカルド・ムーティ指揮フィラデルフィア管弦楽団
(EMIクラシックス TOCE7395) 東芝EMI

<管弦楽部門>弦楽器・打楽器とチェレスタのための音楽/管弦楽のための協奏曲(バルトーク)
ジェームズ・レヴァイン指揮シカゴ交響楽団
(グラモフォン POCG1416) ポリドール

<協奏曲部門>チェロ協奏曲(エルガー)/ロココ風の主題による変奏曲(チャイコフスキー)
ミッシャ・マイスキー(vc)、
ジュゼッペ・シノーポリ指揮フィルハーモニア管弦楽団
(グラモフォン POCG1417) ポリドール

<室内楽曲部門>弦楽五重奏曲第5番/同第6番(モーツアルト)
ファルッリ(va)、メロス弦楽四重奏団
(グラモフォン POCG1081) ポリドール

<器楽曲部門>ピアノ作品集(ヤナーチェク)
ルドルフ・フィルクスニー(P)
(RCA BVCC53) BMGビクター

<オペラ部門>《ホヴァンシチナ》(ムソルグスキー)
クラウディオ・アバド指揮ウィーン国立歌劇場管弦楽団・合唱団、
リポヴシェク(Ms)、アトラントフ(T)他
(グラモフォン POCG1087~89) ポリドール

<声楽曲部門>オラトリオ《サウル》(ヘンデル)
ジョン・エリオット・ガーディナー指揮イギリスバロック管弦楽団
モンテヴェルディ合唱団 ドーソン(S)他
(フィリップス PHCP252~4) 日本フォノグラム

<現代曲部門>ミゼレーレ/フェスティナ・レンテ/サラは90歳だった(ペルト)
ポール・ヒリアー指揮ザ・ヒリヤード・アンサンブル他
(ECM POCJ1050) ポリドール

<特別部門/日本人作品>チェロ協奏曲/永遠なる混沌の中へ(西村朗)
ワルター・ノータス(vc)
エッシャー指揮リンツ・ブルックナー管弦楽団
(カメラータ 32CM199) カメラータ・トウキョウ

<特別部門/日本人演奏>ノヴェンバー・ステップス/エクリプス/
ア・ストリング・アラウンド・オータム(武満徹)
横山勝也(尺八)、鶴田錦史(琵琶)、今井信子(va)
小澤征爾指揮サイトウ・キネン・オーケストラ
(フィリップス PHCP160) 日本フォノグラム

<特別部門/全集・選集・企画>ミュンシュ/フランス音楽名演集
シャルル・ミュンシュ指揮ボストン交響楽団他
(RCA BVCC7059~67) BMGビクター

<特別部門/録音>組曲《惑星》(ホルスト)
ジェイムス・レヴァイン指揮シカゴ交響楽団・合唱団
(グラモフォン POCG1063) ポリドール

<特別部門/ビデオディスク部門>聖母マリアの夕べの祈り(モンテヴェルディ)
ジョン・エリオット・ガーディナー指揮イギリス・バロック管弦楽団
モンテヴェルディ合唱団、他
(アルヒーフ POLG1018)ポリドール

今年も残り少なくなりました。皆様、どうぞよいお年をお迎え下さい。