No.039

News 91-3(通巻39号)

News

1991年03月25日発行

音と環境フォーラム、ねりま・人・音・くらし’90より

2月23日(土)の午後2時から練馬区民会館小ホールにおいて表記のフォーラムが行われた。このフォーラムについては日経アーキテクチュア誌の「カレンダー」で知った。講師のお一人にサウンドスケープの鳥越けい子さんの名前があり、環境音楽のその後の様子が伺えるかな、というくらいの軽い期待で出席した。しかし予想に反して、4時間という長い時間を忘れさせるほど豊かな内容のフォーラムであった。フォーラムでは次の3つのプログラムが行われた。

Act-1「ねりま・人・音・暮らし’90」事業成果発表

「ねりまを聴く、し・ず・け・さ10選」の審査報告とスライドによる現地の紹介があった。選ばれた10のスポットを次に示す。

【ねりまを聴く、し・ず・け・さ10選】

  • 武蔵関公園上流側(関町北3-45)
  • 中大グラウンド跡地の銀杏並木(練馬2-29)
  • 武蔵関公園ボート公園池(関町北3-45)
  • 石神井公園三宝池(石神井公園内)
  • 光が丘公園芝生広場(光が丘公園内)
  • 石神井城址空堀(石神井公園内)
  • 清水山憩いの森(大泉町1-6)
  • 長命寺の境内(高野台3-10-3)
  • 武蔵大学構内濯川(豊玉上1-26)
  • どんぐり山憩いの森(北町7-12)

静けさという視点から環境をとらえた練馬区の試みは実にユニークであり、好感がもてる。幾つかの幹線道路が縦断しているとはいえ、練馬区は広く、石神井公園など湧水にも恵まれ、部分的ではあるがまだ多くの自然が残されている。私は練馬の隣の中野区の住人であるが、ここは新宿のにぎわいに引きずられている街で、静けさを求めるなどといった発想はここでは生まれない。福祉施設ばかりが建つ街である。

Act-2「地球の音のパフォーマンス」

越智義朗、義久兄弟によるパーカッションの演奏で、舞台空間一杯に置かれた石、木、金属から打楽器まで、たたけるものすべてを駆使した一時間たっぷりの演奏であった。いわゆる作り上げた音楽とはまったく違った次元の、音が音楽となった根源の響きの饗宴といったらよいであろうか、原始的な感動を呼び起こすパフォーマンスであった。このような音こそ子供達に聴かせたら、目が輝くのではないだろうか。貴重な体験であった。

地球と音のパフォーマンス

Act-3「対談・音と都市の文化」

わが国に“サウンドスケープ”という概念を導入された鳥越けい子さんと建築評論家の松葉一清氏の対談であった。空間と時間というお二人の視点の違いが対照的であった。

まず、松葉さんから近代建築の流れの紹介がスライドであった。コルビジェの近代建築からポストモダーンへ、それが最近では集落としての空間へと設計の関心が移ってきているという話は、門外の私にも面白かった。しかし、所詮、建築家というのはその視点は静的な空間でしかない。建築誌を飾っている写真が示すように、そこには生活や労働の営みや汗臭さの陰りもない。これに対して、鳥越さんの視点は音という時間軸で空間をとらえるという試みである。秋葉原の電気街の騒音、いまは消えてしまった神田湯島天神男坂下の巷の音など、音が街の風景の一駒であった、また、なければならないという考えである。お茶の水のニコライ堂の鐘の調査の発表もあった。しかしもうこの鐘は過去の風物詩でしかない。

サウンドスケープ、音響彫刻、サウンドインスタレーションなどの話題は最近学会でも特集記事として取り上げられるようになった。本誌でも1989年の10月号に栃木県立美術館の「音のある美術」を紹介したが、この種の試みはすべてくすぶったままで発展がない。やっている人だけが楽しんでいるという感じである。過去の風物詩はそれでよい。しかし、この騒音に満ちた都会の中のサウンドスケープとは何を目指すべきなのか、スピーカーから流れるいまはやりの“からくり時計”の安っぽい音、交差点の“とおりゃんせ“のメロディ、巷の音の改善はいろいろあると思うが、それだけではあまりにもさびしい。モーツァルトの曲を乳牛に聞かすとか、酒の醸造に効かすなどといったアイディアの方がまだ生活に密接しているように思う。機会があればこのあたりの話しをゆっくり伺って、本誌にも紹介したいと思っている。

資料によればこの練馬区の環境関連事業は平成元年度にスタートしている。先年度は石神井川を題材とした「水」がテーマであった。関心のある方は練馬区公害課に問い合わせていただくとよい。そこに“大野嘉章さん”という環境事業に熱心に取り組んでいる方がおられる。このような方の活動がなくてはこれだけのことはできなかったであろう。お役所の事業というのはお偉い先生方を引っ張り出して、理屈や理念だけがつっぱしり、内容が貧しいのが常である。この練馬区の活動がさりげなくたんたんとして続くことを期待して止まない。

問い合わせ:練馬区環境建築公害対策課 Tel:03-3993-1111

一年を迎えた水戸芸術館

市予算の1%をホール運営にあてるという“水戸方式”を打ち出してオープンした水戸芸術館が一年を迎えた。3月11日の室内オペラ「浅茅ケ原」を初日として、17日の堤剛氏のチェロ・リサイタル、24日園田高弘氏のピアノ・リサイタルと一周年記念番組が始まり、これは5月26日まで続く。今後のコンサートについては最終ページを参照されたい。

ホールの運営が真剣に取り上げられるようになった今日、この水戸芸術館の活動はホール界の注目の的である。吉田秀和氏という音楽界の大御所を館長に、音楽、演劇、美術に芸術総監督、芸術監督をおいた運営組織は最高レベルの文化施設運営組織である。さらに、これまでの公共ホールとは180度方向の違った、市民には使用させない、ひたすら、最高水準の芸術発信の基地とするという方針で出発したのである。ここに水戸方式のもう一つの重大な側面がある。予算処置だけではないのである。市民に開放しない形で、果たして公共施設の運営が可能なのだろうか?これは誰もが抱く率直な疑問である。茨城県民会館は申し込みが殺到し、市民はやむなく隣の町、勝田市の会館を利用しているとのことである。税金を払っている水戸市民にとって割り切れない気持ちが続くのは当然であろう。
このような心配をしていた矢先、日経エンタテインメント誌(1991.2.13)のCROSS OVER欄に「市民を取るか芸術を取るか。板挟みに苦しむ水戸芸術館」として、最近の機構改革と運営の基本姿勢の躓きが報じられた。市民利用と芸術を相容れないものとしてとらえている限り、この水戸のごだごたは続くように思う。

コンサートホールATMにはトップメンバーで構成される水戸室内管弦楽団、水戸カルテットが組織され、今年から小澤征爾氏の顧問が正式に決まった。しかしこれらは水戸という冠をいただいた管弦楽団であり、カルテットであって、水戸は活動の根拠地ではない。年に何度かの七夕楽団でしかないのである。この点がウイーンフィルやベルリンフィルと異なるところ、看板の裏に充実した内容がほしい。例えば、この芸術館にじっくり腰を据えて、マスコミにも目を向けず、遠い将来にむけて修練を積むような音楽集団のアカデミー、音楽講道館はできないだろうか。この施設の建設に関係しただけに、現状が心配である。全国ホールの模範となる運営を期待しているのである。

ホール運営方式から着目されているホールの一つに、礒山雅氏を音楽アドバイザーとして独特の企画を行っている大阪の“いずみホール”がある。ここでも大阪という独自の音楽風土の中で礒山美学がどのように受け止められ、どのように発展できるかは興味のあるところである。

本誌でも度々紹介している松本のハーモニーホールは、自主企画と市民への貸し館事業とを見事にバランスさせている珍しい例である。ものものしい理念を掲げることもなく、たんたんとして市民の中のホールとして定着しているところが見事であり、心地よい。このような運営もありうることをぜひ知って欲しいのである。

いま、多くのホールが企画段階にある。どのような運営形態、組織が望ましいかは、今後のホール計画の新しい課題である。本誌においても機会あるごとに、話題を提供し、問題点を掘り下げてゆきたいと考えている。

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ポール・ヒリアー指揮、聖母マリアの音楽

春の音楽シーズンたけなわの今日、連日、華やかなコンサートが続いているが、これらの影に路傍に咲く菫のようなコンサートもある。3月21日にはザ・ヒリアード・アンサンブルの指揮者、ポール・ヒリアー指揮による東京混声合唱団の定期公演として、「聖母マリアの音楽」が東京文化会館でおこなわれた。ルネッサンス時代と現代の作曲家による作品で、本来、修道院の中庭に流れくる音楽であろう。現代のポーランドの作曲家、ヘンリク・ミコワイ・グレッキイの<マリアよ、われらはすべて御身のもの>という現代曲がきわだっていたように思う。東混ものびのびと歌っていた。

コンサートのご案内

オリジナル楽器によるマタイ受難曲(礒山雅氏監修)

3月28日(木)18:30、石橋メモリアルホール、29日(金)18:30と30日(土)16:00大阪いずみホールにて行われる。指揮、オルガンは鈴木雅明氏である。
問い合わせ:日本文化財団 Tel:03-3580-0031

コーロ・ファヴォリート(Coro Favorito)による宗教曲、Cantare Amanitis Est

コーロ・ファヴォリートとは上記のポール・ヒリアー氏の指導によってた聖グレゴリオの家に結成された声楽アンサンブルである。下記の演奏会が行われる。

曲 目:J.S.Bachカンタータ131番「深き淵より、われ汝に呼ばわる」T.Tallisエレミアの哀歌ほか
日 時:4月14日(日)15:00開演
場 所:聖グレゴリオの家聖堂(東京都東久留米市氷川台2-7-12 Tel:0424-74-8915)

水戸芸術館の一周年記念コンサート

今後のコンサートをお知らせする。下記の他に中村紘子さんの公開レッスンもある。

なお、エントランスホールでは土曜、日曜の昼、オルガンのプロムナードコンサートが行われている。入場は無料です。
問い合わせ:水戸芸術館 Tel:0297-27-8118

リコーダー四重奏とヴィオラ・ダ・ガンバ四重奏によるコンソート音楽の邂逅

演 奏:ハンブルグ・リコーダー・アンサンブル
神戸愉樹美・ヴィオラ・ダ・ガンバ合奏団
日 時:4月12日(金)19:00
場 所:霊南坂教会 問い合わせ:アレグロミュージック Tel:03-3403-5871