藤沢リラホールのオープン
藤沢リラホールは東海道線藤沢駅前の“藤沢リラ”の5階にオープンした200席の小ホールである。オーナーの赤池さんはピアノの先生で、先生の長年の夢が“藤沢リラホール”として誕生した。オープニングセレモニーの11月2日には、舘野泉さんのピアノで、ショパン、グラナドス、ドビュッシー、グリンカの作品、それに、フィンランド、ブラジルの作曲家の小品が披露された。オープニングコンサートとして12月1日にベルギー国立オペラ座カルテット、12月15日に藤原由紀乃さんのピアノリサイタルが行われた。
このホールのことで赤池さんが事務所にみえたのはたしか1988年の秋であった。駅前の一等地のビルにホールを造るという計画については銀行筋の反対もあり、オーナーとしてはかなり迷われたようである。当初はバンケットやファッションショーを目的としたホテルの宴会場的なホールで、可動の反射板や可動のステージでコンサートに対応するといった構想であった。しかし、コンサートホールでは遮音、静けさ、響きについて基本的な藤沢リラホール条件が必要であり、これらの基本条件を確保した上で貸しホールへの対応を計るべきだという方針を施主側に納得いただき、また、建築設計を担当された洋建築企画の協力を得て、高さ7m、室容積1450m3という現在のコンサート空間が実現したのである。
本ホールの大きな特色は“ピアノ用のホールにしたい”という施主の明確な意図があったことである。響きが多い空間におけるピアノの難しさについては、カザルスホールや松本のハーモニーホールなどで経験してきた。また、本ホールでは室の平面形が正方形に近い小ホールであることもあって、響きの設計については次のような方針をとった。
*ライブエンドデッドエンド型からやや分散配置よりの吸音、反射の配置とした。
*一般のコンサートホールに比べてやや控え目な響きとし、満席時の平均吸音率で0.25、残響時間で約0.8秒程度を目標とした。なお、残響時間の周波数特性についてはほぼ平坦とし、高音域でやや減少する特性を目標とした。
*客席の床は木張りとし、吸音性の可動椅子を使用した。
*舞台一部に調整可能な吸音面を設けた。
残響時間の測定結果を次に示す。なお、階下の室との間の遮音を確保するため、ホールには浮き床構造を採用した。室間の遮音性能は500Hzで70dB、空調騒音はNC-20である。
本ホールは200席の小ホールであるが、オーナー側の明確な姿勢と運用体制によって、名実ともにコンサートホールとして歩み始めている。ホールプロデューサーとして音楽評論家の横溝亮一氏を迎え、充実した企画のなかで、演奏家と聴衆との対話のあるコンサートが企画されている。
藤沢というクラシック音楽の密度の高い街で、地区の音楽活動の一つの拠点となってゆくことを切望している。
都内ホールの利用状況
昨年に引き続いて都内ホールの利用状況をお知らせする。これはクラシックのコンサートの場合で、オペラ、バレエは除いてある。
(音楽の友:1990年1-12月、CONCERTS GUIDEより)
今年はサントリーホールが4周年、カザルスホールが3周年を迎え、オーチャードホールが定常的な活動に入り、10月には東京芸術劇場がオープンした。全体の利用回数は大小ホールとも昨年に比べて約10%増加した中で、東京文化会館大ホールの利用が昨年の半分となったことはなんとなく寂しい。しかし、都内でオーケストラの定期公演が行われる大ホールは5館となった。数年後にはさらに2~3館増える予定である。
小ホールではカザルス、東京文化会館、サントリー、津田、バリオ、音楽の友の各ホールが年間100回以上と盛況であるが、リサイタルホールの数はまだ不足している。室内楽ホールの計画も続いているが、2~3館の増では解消できない位の需要である。
永田穂建築音響設計事務所の一年
今年も特色あるホールの音響設計を担当できたことを感謝している。本NEWSでお知らせしたように2月には東京武道館(六角鬼丈計画工房)、3月には水戸芸術館(磯崎アトリエ)、8月には沖縄コンベンションセンター(大谷研究室)、10月には東京芸術劇場(芦原建築設計研究所)がオープンした。これらの施設は建築、音響面その他でいろいろな話題を提供している。
海外の施設では、今年の夏、黒川紀章建築都市設計事務所による日中青年交流センターが北京に竣工した。ロサンジェルスのウォルトディズニーホールが基本設計の最終段階にあり、来年早々1/10スケールモデルの製作に入る。韓国のクリスティアンセンターの大礼拝堂は施工の最終段階で、来年の春オープンの予定である。
小音楽ホールとしては、本号で紹介した藤沢リラホールの他に、4月、熊本の益城町文化会館(I.N.A.新建築研究所)に500席のホールがオープンした。このホールには熊本県立劇場に先立ってオルガンが設置される予定である。オルガンといえば、10月には昨年竣工した横浜のフェリス女学院礼拝堂のTaylor&Boody社のオルガン、12月には姫路市のパルナソスホールの須藤オルガンの披露演奏会が行われた。いずれも特色あるオルガンである。珍しい施設としては11月に国立音楽大学の電子音楽スタジオ(前川建築設計事務所)がオープンした。
来年の大きなプロジェクトは墨田区のホールで、1/10の模型実験に着手する。
NEWSアルカルト
シンポジウム「音楽ホールとはどういう空間か」
日本建築学会建築計画委員会主催で下記の研究会が開催される。
日 時:1991年1月19日(土)13時30分~17時
会 場:建築会館ホール
パネリスト:長友宗重(東北大)
芦原義信(芦原建築設計研究所)(予定)東京芸術劇場設計
三上祐三(MIDI総合設計研究所)オーチャードホール設計
佐野正一(安井建築設計事務所)(予定)サントリーホール設計
問合わせ:日本建築学会事務局(担当森田)TEL:03-3456-2057
なお、本シンポジウムに関連し今年の秋池袋にオープンした東京芸術劇場の見学会が同じく建築計画委員会の主催で1月12日(土)の10時~12時に行われる。集合場所は同会館のアトリウム、申し込みは往復はがきで東京芸術劇場と朱書して建築学会まで。
宗左近氏講演会「みんなの祈り」 主催:虹の会
日 時:1991年1月19日(土)13時30分~15時
会 場:津田ホール1F会議室
会 費:2000円
詩人の宗左近氏の二回目の講演会である。世話人代表の佐藤隆子さんはこのNEWSをとおしてのお付き合いである。佐藤さんの言葉を拝借してこの会のご案内をしたい。「・・都会に慌ただしく暮らす者にとって、時には日常から切り離された“時”をすごすことはとても貴重なことではないかとかねがね思っていました。・・・・今、世の中の流れに身を任せていますと、私達の周りから、失いたくないもの、なくしてはいけないものがどんどん消えていくように思われます。芸術作品までが消耗品のように、目新しいものばかり求められて・・・・まずは私達自身がすぐれた芸術作品にふれて感動してみたら、何もしないよりはすこしは意味のあることかもしれない・・・・」ご共鳴いただける方は世話人の佐藤さんまでご連絡いただきたい。
〒177 練馬区高野台5-3-4 佐藤隆子 TEL:03-3904-6939
今年のレコードアカデミー賞
レコード・アカデミー賞に今年からビデオディスク部門が新設された。平成2年度、第28回の受賞レコードを紹介する。
【レコードアカデミー大賞】
- <管弦楽部門>交響詩「海」/バレエ「遊戯」/交響的断章「聖セバスティアンの殉教」/牧神の午後への前奏曲(ドビュッシー)シャルル・デュトワ指揮モントリオール交響楽団(ロンドン POCL1044) ポリドール
【レコードアカデミー賞】
- <交響曲部門>劇的交響曲「ロメオとジュリエット」他(ベルリオーズ)ジェームス・レヴァイン指揮ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団他(グラモフォン POCG1036~7) ポリドール
- <協奏曲部門>ヴァイオリン協奏曲第1番/スペイン交響曲(ヴァイオリン協奏曲第2番)(ラロ)オーギュスタン・デュメイ(Vn)、ミシェエル・プラッソン指揮トゥールーズ・キャピトル劇場管弦楽団(エンジェル TOCE6431) 東芝EMI
- <室内楽曲部門>弦楽四重奏曲第15番(シューベルト)東京クワルテット(RCA BVCC7)BMGビクター
- <器楽曲部門>練習曲集第1巻/同第2巻(ドビュッシー)内田光子(P)(フィリップス PCD7014) 日本フォノグラム
- <オペラ部門>《どろぼうかささぎ》(ロッシーニ)ジャン・ルイージ・ジェルメッティ指揮トリノ放送交響楽団リッチャレルリ(S)、マッテウッツィ(T)、レイミー(Bs)他(ソニー・クラシカル CSCR8232~4)CBSソニー
- <声楽曲部門>歌曲集(シベリウス)アンネ=ゾフィー・フォン・オッター(Ms)フォシュベリ(P)(BIS ANF4007)ANFコーポレーション
- <音楽史部門>メアリー女王の誕生日のためのオード/聖セシリアのためのオード他(パーセル)トレヴァー・ピノック指揮イングリッシュ・コンサート他(アルヒーフ POCA1002) ポリドール
- <現代曲部門>合奏協奏曲第1番/クワジ・ウナ・ソナタ/モーツアルト・ア・ラ・ハイドン(シュニトケ)ギドン・クレーメル(Vn及び指揮)ヨーロッパ室内管弦楽団他(グラモフォン POCG1044) ポリドール
- <特別部門/日本人作品>交響と協奏(石井真木)石井真木指揮 東京都交響楽団(デンオン COCO6812) 日本コロンビア
- <特別部門/日本人演奏>歌曲集(リスト)白井光子(S)ヘル(T)(カプリッチョ NSC82) ミュージック東京
- <特別部門/全集・選集・企画>カンタータ大全集(J.S. バッハ)ニコラウス・アーノンクール、グスタフ・レオンハルト(指揮)ウィーン・コンツェントゥス・ムジクス他(テルデック 51P2-2501~502/589~590(分売)ワーナー・パイオニア
- <特別部門/録音>練習曲集第1巻/同第2巻(ドビュッシー)内田光子(P)(フィリップス PCD7014) 日本フォノグラム
- <特別部門/ビデオディスク部門>「バイロイト・セット 2―楽劇《トリスタンとイゾルデ》《ニュルンベルクのマイスタージンガー》《パルジファル》」(ワーグナー)ダニエル・バレンボイム指揮バイロイト祝祭劇場管弦楽団(フィリップス CDV509~17) 日本フォノグラム
今年のホール界は話題の多い年でした。ホールの運用のあり方に関心が集まり、メセナとよばれる企業の文化支援のあり方が問われています。また、市予算の1%をホールの運営費にあてるという方式で発足した水戸芸術館の行方には大きな関心が寄せられています。ホール運営の一つの模範になることを期待しています。私は4月水戸芸術館で聴いたイモージェン・クーパーのシューベルトが心に残っています。
今年はマーラーブームで、とくに年末のマーラーの競演にはさすがの第九も霞んだ感じてす。マーラー嫌いの私もいくつか聴きましたが、あまりにも語りが多すぎます。世紀末の悲しさは西武美術館でみたクリムトの絵の方が切々としみとおってくる感じです。来年はモーツァルト没後200年です。駅前の本屋にならんだモーツァルト全集からも異常な空気を感じています。津田ホールの“モーツァルトの四季”のちらしを都内近郊の方には同封致します。
この一年間、本NEWSをご愛読いただきありがとうございました。また、ご意見をいただきました方々にあつくお礼申し上げます。どうか、皆様、よいお年をお迎えください。