No.017

News 89-5(通巻17号)

News

1989年05月25日発行

NEC BSVAシアターオープン

 今年4月に120インチプロジェクターを備えた本格的AVルームとしてNEC・BSVAシアターが秋葉原にオープンし、マスコミ関係者および販売店などに披露された。このAVルームは当事務所が昨年秋にNECから建築設計・管理の依頼を受け、設計に3ヶ月、工事に3ヶ月をかけて完成した。

 最近、オーディオ、ビジュアル雑誌のみならず一般誌にも広くAVルーム、大画面、高画質などといった記事が見受けられるようになった。その背景としてはまず、ビデオ、レーザーディスク、衛星放送などの各種映像ソフトの充実、およびハード機能の性能向上、普及によって従来のオーディオとは異なり、音と映像が同時に楽しめる新しい分野が開かれたことが挙げられる。

NEC BSVAシアター

 また、テレビに対するユーザーの指向、メーカーの販売戦略が27-29インチ以上の大画面に向けられてきたこと、オペラブームや一方において住宅の大型化などもAVに対する関心を高める要因の一つとなっているように思われる。

 日本電気ホームエレクトロニクス(株)ではかねてより映像・音響機器市場のトレンドに対してBSVA(衛星放送・ビジュアルオーディオ)というコンセプトを打ち出してきた。その具体的な戦略の一つとして、一般ユーザーおよび販売店に積極的にアプローチする目的で、本格的なAV体験ができるスペースを開設することになったのである。

 当初の問題は場所の選定で、床面積、階高その他の条件を総合的に検討した結果、既に会議室として使用していたスペースを利用することとし、AVルームの設計を開始した。

 音響設計と建築設計上の課題と対応策を次に示す。

  1. 遮音構造:階高3.3m、梁下2.4mの制約の中で、コンクリート浮き床+石膏ボード防振遮音構造を設計した。なお梁型は壁・下がり天井と一体化した。
  2. 冷暖房および換気設備はできるだけ既存設備を使用し、ビル本体には手を加えないという条件で、既存ダクトはすべて撤去し消音エルボ付きダクトを新設した。
  3. オーディオ視聴からAVサラウンドまでの様々な使用条件に対して最適な音場を提供する目的で吸音可変方式を採用した。すなわち、側壁面に可動吸音用ブラインド、ステージ側に可動吸音パネルを設置した。
  4. 各種AV機器の視聴に対応できるスペースを確保するとともに、配管・配線・コンセント類を潤沢に設置した。
  5. 室内のインテリアとしてはリビングルームの落ち着きとショールームの華やかさ、さらには視覚ノイズのない映画館の雰囲気、これらを兼ね備えたホームシアターとしての快適なインテリア空間を意図した。
  6. エレベーターホールからロビー、シアターへ来場者を迎え入れるスムースな動線を確保するとともに、運用面における操作の機能性を考慮してスペースの設計を行った。

 全工事床面積は85m2、シアターの内法有効面積は約41m2(20帖)、天井の高さは2.05-2.65mであり、これは一般住宅のリビングルームの延長として考えられるサイズである。

 工事完成後の空室時における音響測定では良好な結果を確認している。(上下階:86dB/500Hz、空調騒音:NC-14、残響時間:着席時0.24-0.40秒/500Hz空席時からの計算値)

 なお、竣工後はまだ日が浅く、音場可変の効果を十分に確認するまでには至っていないが、ブラインドによるライブ・デッドの変化は聴感上も明らかで来場者の興味を集めている。また、空調騒音レベルおよびデッドな状態の残響時間はTHXシアターの基準を、余裕を持ってクリアーしている。

 本シアターのAV装置としては投写型プロジェクターおよび120インチスクリーン、46インチプロジェクションTV、ハイビジョンシステムをはじめエレクトロボイス、JBLスピーカ、マークレビンソンのアンプなど最高グレードの海外製品が備えられている。また、NECのパソコンを用いたPCソフト検索システム、照明およびブラインド制御システム等NECならではの工夫も凝らされている。

断面図
断面図
平面図
平面図


 このBSVAシアターは秋葉原から中央通りを上野に向かって徒歩約5分、末広町の交差点際(地下鉄銀座線では末広町駅下車0分)にある。利用には電話での申し込みが必要である。

 また、イベント会場としても開放される予定とのこと。是非一度大画面の迫力を体験されることをお勧めする。視聴の感想などをお聞かせいただければ幸いである。

視聴の申し込み:
NECクレフ秋葉原・BSVAホームシアター TEL:03-3837-4511(山本剛史)

コンサートホールとレストラン

 4本のマイクロホンをひっさげて、世界のコンサートホールを荒らしまわっている音響家がいる。早稲田大学の山崎芳男先生である。先生はマイクロホン出力をデジタル処理し、音場の特色を見事に視覚化される。雑誌“劇場芸術”の1988年12月号にもこの手法の解説があったが、その中に「コンサートホールで大事なのはこのような音響だけではない、誰と何を聴くかが最も大切であり、またクロークのサービス、幕間の酒のうまさなどが時には音響よりも重要である」と書いておられた。デジタルの鬼ともいえる先生の言葉だけに印象的であった。
 仕事上やお付き合いのコンサートは別として、チケットを求めコンサートに行くということは、非日常的な大事な時間である。そこで誰といくのか、コンサート前または後の食事はどこで何を食べるのかも、山崎先生のいわれるように大きな関心事になる。
 砂川しげひささんの本に、音楽会には音楽好きの仲間と連れだって行き、コンサートの後で“かんかんがくがく”やるのがまた楽しいという一文があったが、私などは感動したときには、そーっとそのまま感動を持ち続けたいとい思う。年齢とともにその感を強くしている。感動を共にするならば、あまり語らず、そのまま別れても気を遣わなくてもよい人がよい。関係ないおしゃべりと宴会だけは腹がたつ。メインイベントが食事であるのかコンサートであるのか、その分別のある人とゆくべきである。
 ホールに人が集まるのは音響や建築だけではない。お客さんを迎える何かが必要である。ビールやワインコーナーを設けたのはサントリーホールからであり、おかげでNHKホールでも東京文化会館でもワインが飲めるようになった。しかし東京文化会館の、ロビー脇の自動販売機と昭和30年代のメニューを続けている「精養軒」のメニューはいかにも寂しい。
 サントリーホールもカザルスホールも周りにはいろいろなレストランやバーがある。カザルスホール入り口脇の精養軒は東京文化会館の店とは全く対称的で高級感がある。サントリーホールの前の広場の一角には「メンフィス」というスタンドがある。コーヒー200円、ホットドッグも200円程度だが味がしっかりしているのがよい。ビールも牛乳もある。コンサート前のあわただしいときの腹ごしらえには最適である。ここは音楽会に来たという人が一人、二人で静かに食べている。ギンギラギンに着飾ったオバサマ族のおしゃべりがないのがよい。外国の方も結構入っている。私はこの雰囲気が好きである。
 さらに、サントリーホールの前には「カフェ・コンチェルト」、「ル・マエストロ」というきちんとしたレストランもある。「カフェ・コンチェルト」には“before consert”“after consert”のメニューが用意されているのは親切である。
 ホール付属のレストランとしては津田ホールの「ユーハイム」が好きである。メニューも豊富で、値段もころあいである。
 地方のホールにも味がよく、気持ちのよいレストランがある。松本のハーモニーホールのレストラン「あじさい」は私の推奨するレストランである。おやじさんが一生懸命つくっているというファミリーレストラン。カレーひとつにも季節の果物が添えてあるところなどがうれしい。コンサートの時間も気にしてくれる。この松本のホールはどこをとっても気に入っている。

NEWSアラカルト

永田穂建築音響設計事務所、ウォルト・ディズニー・コンサートホールの音響設計を受注

 昨年以来選考が続けられてきたウォルト・ディズニー・コンサートホールの音響設計の主コンサルタントとして永田事務所が選考された。

 この施設は2500席のコンサートホールと1000席の小ホールで構成され、完成後はロサンゼルス・フィルハーモニーの本拠地となる。

 なお建築設計は、今月プリッツカー賞を受賞した在ロサンゼルスの建築家、フランク・ゲーリー氏で、今月から室形状の検討に着手する。設計期間は1991年まで、完成は1993年の予定である。

前川国際シンポジウム

 神戸大学前川純一先生の退官を記念して今月の15日と16日、環境音響のテーマで国際シンポジウムが開催された。

 室内音響ではBeranek、Marshall、Gade、Kleiner各氏等の講演があり、参加者も百五十名を越えるという盛況であった。なおBeranek氏とGade氏は19日、東京においても音響学会の特別講演会で講演を行った。

 先月のHarris先生の講演ではホールには拡散が必要だという主張であったが、Beranek先生はinitial time delay gap(第一次反射音の時間の遅れ)を強調された。おもしろかったのは、現在の理想的なホールとして2000席クラスではボストン・シンフォニーホールを、3000席クラスではオレンジカウンティー・アートセンター(カリフォルニア州)のホールを、5000席クラスとしてタングルウッド(マサチューセッツ州)のホールを示されたこと、また、コンサートホールで何をどう聴くかについても考えを述べた点であった。建築音響界の大御所の貫禄を感じる話であった。

永田穂 建築学会賞受賞

 この度、永田穂はサントリーホール等の音響設計および音響コンサルタント業務の地位確立という成果が評価され、建築学会賞を受賞した。授賞式は30日に行われる。

」リーガー・オルガン社のグラッター・ゲッツ氏逝去

 戦後オルガン界のリーダーの一人として活躍されてきたオーストリア、リーガー社のグラッター・ゲッツ氏が5月1日逝去された。仕事はすでに二人の息子が受け継いでいるが、75才、まだ惜しまれる死であった。

 サントリーホールのオルガンはこのリーガー社のものである。昨21日、濃い緑に囲まれたICUのチャペルで、ゲッツおじさんの手になるリーガー・オルガンを吉田実先生の演奏で聴いた。チロリアンハットで終始にこにこしていたゲッツおじさんを偲びながらの一時を過ごした。ご冥福をお祈りする。