◆ハリス教授のホール音響についての講演会
元コロンビア大学の教授でアメリカ音響学会会長を歴任されたハリス教授が来日され、4月3日に音響学会建築音響研究委員会・騒音研究委員会主催で特別講演が開催された。演題は“Modern concert hall design and ancient openair theaters”という興味あるテーマであった。
ハリス先生の話はまず、古代ギリシャ、ローマの野外劇場の構造の特色、その音響効果の解明から始まった。客席面に沿っての音の伝搬の話、急な客席勾配の効果など現在の劇場と対比させながら分かりやすく説明された。しかし興味があったのはハリス先生の描く理想的なコンサートホール空間であった。先生の意図されるところは明確で、徹底した拡散音場である。天井も壁もいろいろなサイズの拡散壁を設けるべきだという主張である。このような拡散指向の考え方は、かつてマイヤー教授がボンのベートーヴェンホールで試みている。しかしこのホールの音響効果についてはあまり評判にならず、ヨーロッパにおいてはこの考え方は発展していない。しかしアメリカでは拡散指向の設計概念はくすぶっているようである。昨年サンフランシスコのデービスホールを見学したが、初期反射音にとって重要な面まで拡散しているのが意外であった。
アメリカには天井からのパネルで初期反射音を形成するというドクター・シュルツのパネルホールの考え方もある。さすがにおおらかな国である。
ハリス先生の拡散ホールの成否は別としても、設計に対して明確な理念を貫いておられることは、いかにもアメリカを代表する音響学者らしい姿勢である。非常に分かりやすい英語で講演されたことにも親しみを感じた。