No.012

News 88-12(通巻12号)

News

1988年12月25日発行

都内ホールの利用状況

 今年もまた東京は多彩なコンサートでにぎわいました。都内のホールの今年一年間の利用状況を音楽雑誌から調べてみました。図は大・小ホール別の利用回数です。

1988年大ホール都内演奏会(1041回)
1988年大ホール都内演奏会(1041回)
1988年小ホール都内演奏会(1791回)
1988年小ホール都内演奏会(1791回)

(音楽の友:1988年1-12月、CONCERTS GUIDEより)

 図のように、東京で開催されるクラシックコンサートは年間約2,800回、一日平均8回というたいへんな頻度です。このような都市は世界でも珍しいのではないでしょうか?

 大ホールではオープン後一年余りのサントリーホールが、東京のコンサートホールの代表であった東京文化会館の利用回数を抜きました。来年度には定期公演を文化会館からサントリーホールヘ移行する楽団もあり、この差はさらに広がることが予想されます。

 小ホールでは東京文化会館の小ホールがトップですが、カザルスホールがこれに迫っています。なお東京文化会館では、小ホールの利用回数が大ホールを超えていることはこれまでにない現象です。やはり、大ホールの利用回数が減ったと見るべきでしょう。

 月別にみますと、やはりシーズンの10・11・12月が多く、月間300回を超えるコンサートが開催されています。これに対して8月はさすがに少なく、80回程度に落ち込んでいます。欧米ではシーズンオフの時節、わが国ではお盆の3日間だけがホールもお休みです。

 東京では東急文化村、東京都の芸術文化会館、墨田区のコンサートホールなどの建設が続いており、まだまだコンサートホールは増加の傾向にあります。いずれ頭打ちの時が訪れるでしょうから、ホールは選ぱれる時代に入ることは確実のように思われます。

永田事務所の一年と10大ニュース

 今年もいよいよ残り少なくなりました。都心としては静かな信濃町の通りでも、古い商店が壊され、新しいビルに変わりつつあります。大正時代といわれる慶応病院の木造の建物もいよいよ取り壊しが始まりました。この建築ブームの中で私どもの事務所も例年以上にあわただしい一年を送りましたが、その中から10大ニュースを紹介いたします。

1. カラヤン氏、サントリーホールの音響について所見を述べる

 今年の5月、ベルリン・フィルのサントリーホール二度目の公演は、待望のヘルベルト・フォン・カラヤン氏が棒を振りました。サントリーホールとカラヤン氏は計画時点からのいきさつがあり、巨匠がこのホールをどう受け止めるかは関係者一同の最大の関心事でしたが、5月5日その判決が下されました。

 “宝石箱のようなホールだ”というおほめの言葉とともに、大編成の時、後壁から一部の管楽器からの反射音が気になるという鋭いコンントもありました。

2. 第二国立劇場の電気音響設備の実施設計と欧米のオペラハウスの音響設備の調査

 いろいろ話題を呼んでいる第二国立劇場の電気音響設備ですが、いよいよ実施設計に入りました。オペラハウスの電気音響設備という課題に対して、昨年から世界の著名なオペラハウスの音響設備の調査を続けており、今年は担当の中村、浪花、稲生の3名がミラノ、ウイーン、ベルリン、ニューヨークなど欧米の7劇場の設備の調査と利用状況について関係者との打ち合わせをしました。音響設備の規模、利用の姿勢は劇場によって違いはありますが、われわれの想像以上に音響設備が活用されていることを確認しました。

3. Walt Disneyコンサートホールの音響設計コンペに参加

 昨年はフィラデルフィアのコンサートホールの音響設計の指名コンペに参加し、最終段階で涙をのみましたが、今年の秋にはロサンジェルスのWalt Disneyコンサートホールの音響設計の候補として選定され、11月に永田、豊田がプレゼンテーションに出席しました。参加した音響設計グループは6グループで発表は来春の予定です。

4. 津田ホールオープン(ニュース8号参照)

 今年の秋、JR千駄ケ谷駅前に500席の津田ホールがオープンしました。建築設計は槇文彦先生の事務所で、磯崎新氏の設計によるカザルスホールとは音響的にも違った質の響きを意図しました。規模が同じこの二つのホールからいろいろなことを学んでおります。

5. ステージ音響への試み

 サントリーホールでは都内楽団の協力を得て、ステージの電動迫りを試みております(ニュース6号参照)。またカザルスホールでは、ステージの吸音と演奏のしやすさの実験を続けております(ニュース9号参照)。
 ステージ空間の音響効果はわれわれが直接体験できない領域だけに、いろいろな意見に謙虚に耳をかたむけ、その中から何かを探りあてたいと考えております。今後の大きな課題の一つです。

6. 東京都芸術文化会館大ホールの音響模型実験開始

 1990年の秋のオープンを目指して建設中の東京都芸術文化会館の敷地の一角で、1887席の大ホールの1/10の音響模型実験を開始しました。ステージエンド型のこのホールは東京文化会館大ホールの響きの質を踏襲したホールとして、サントリーホールとは違った質の響きを狙っています。

7. ハワイにおける日米音響学会ジョイントミーティング参加(ニュース11号参照)

 11月14日から4日間ハワイで開催された日米音響学会のジョイントミーティングに当事務所から、永田、池田、豊田、小口の4名が参加しました。国際学会への参加というのは担当者にとってたいへんな負担ですが、大きな収穫があったことも確かです。

8. 東急青葉台区民文化センターの建築設計開始

 田園都市線青葉台駅前に1989年オープンを目指して東急青葉台ビルが計画されていますが、その5階に約500席のホールを中心とした緑区区民文化センターが予定されています。
 このホール階全体の建築設計を(株)東急設計コンサルタントから受注し、当事務所の山本が担当しています。建築デザインと音響との調和をどのレベルで実現できるか、大きな課題です。

9. オーケストラ・アンサンブル金沢、練習所の音響設計

 指揮者の岩城宏之さんの掛け声で誕生した金沢市のプロフェッショナル・オーケストラ、“オーケストラ・アンサンブル金沢”の練習所が、倉庫となっていたプラネタリウムを改造して生まれました。

 プラネタリウムという半球形のドームはコンサートには全く上向きな空間で、しかも予算もなく、天井の吸音と釣り下げ反射体でなんとか練習できる空間にまでたどりつきました。しかし、オーケストラ結成の時点で練習所が用意されたというのはわが国では画期的なことです。

10.永田事務所ニュースの発行

 最後にニュースを予定どおり発行できましたことを加えさせていただきます。

 次に永田事務所の活動の一つとして本年度の学会誌、専門誌への寄稿内容をご紹介します。

NEWSアラカルト

聖路加病院チャペルにガルニエのオルガン入る

 東京築地の聖路加国際病院のチャペルに待望のオルガンが入りました。ガルニエ氏製作によるわが国では珍しいリュックボジティブの3段鍵盤、30ストップでのオルガンで、今月の16日林佑子さんによる第一回の奉献記念演奏会が行われました。

 このチャペルはゴシック調の美しい空間ですが、残念ながら壁のブロックが吸音性で響きは十分ではありません。しかし、このドイツ・バロックスタイルのオルガンは繊細な中にも美しい輪郭と力強さをもっており、わが国ではもっともバランスのとれた美しいオルガンではないかと思います。演奏会は今後も定期的に計画されています。一度お聴きになることをお勧めします。

聖路加病院チャペル
聖路加病院チャペル

新年号予定、次回新年号からは所員、部外からの投稿記事を加え、常にホットな情報をお届けする予定です。皆様どうぞ佳いお年をお迎えください。