No.436

News 25-03(通巻436号)

News

2025年03月25日発行
客席側を臨む

京都市立芸術大学 新キャンパスで初めての大学院オペラ公演

 一昨年の秋から供用が開始された京都市立芸術大学新キャンパス。施設の遮音計画や堀場信吉記念ホールについては、本ニュース425号(2023年12月号)で紹介した。ホール開館から一年余りが経ち、その音響は好評をいただいている。先月下旬、このホールで想定されているプログラムの一つであった、年に一度のオペラ公演(大学院オペラ)が初めて開催されたので、その様子を紹介したい。

堀場信吉記念ホール コンサート形式

 オペラのキャストの中心は大学院音楽研究科修士課程の学生である。オーケストラや照明、衣装、パンフレットデザインなども学生が担当している。演目はモーツァルト作曲の「ドン・ジョヴァンニ」。

プロセニアム形式
プロセニアム形式

 ドン・ジョヴァンニは2幕で構成されるオペラで、大まかなあらすじは次の通りである。放蕩者の貴族ドン・ジョヴァンニが、婚約者のいる女性の部屋に忍び込んだり、かつて捨てた恋人に追いかけられたり、新婚の若い女性を誘惑したりする。そうする中で、ドン・ジョヴァンニは多くの人から恨みや怒りを買い集めて、最終的に地獄に落とされてしまう。人間の欲望や傲慢さが強烈に描かれ、道徳観や階級社会への風刺、コミカルさと緊張感、悲劇性が入り混じった作品である。

 以前にも紹介した通り、このホールはコンサートが主体の仕様で計画された。今回のような公演で必要なプロセニアムアーチは、サイドバルコニー席部分の仕切りも含めて舞台幕で構成する。客席前方に備える迫機構は、オーケストラピットとしてセットされた。ピット内は右の写真のように、レチタティーヴォの伴奏に使われるチェンバロが一段高く配置されていた。字幕は試行錯誤の末に調整室内のプロジェクターからプロセニアム上部への投影となったそうである。2階席からは照明バトンで重なって見えない位置に投影されたため、一般に売り出されたチケットは全て1階席で、2階席は学内関係者用となっていた。筆者の席は1階席中程の上手側であった。

オーケストラピット
手前のチェンバロが一段高い床に配置されている

 プロセニアムアーチや文字幕、袖幕等により、筆者が座った席からは舞台下手内部が想定通り見切れないこと、また舞台幕の隙間から客席側への光漏れもなく、公演中は額縁舞台の中に集中することができた。個人的には、プロセニアムが幕であることや内装が明るい色であることは全く気にならなかった。

舞台側面のサイドバルコニーを塞ぐ幕の裏側

 あらすじにある通り、場面は様々な場所に変わっていく。演出上、舞台は基本的に照明の色で転換するようになっていた。舞台セットは舞台袖の開口の大きさや袖自体に大きさの制限があるため、あまり大掛かりなものはなかった。

舞台袖につながる回転扉

 演奏は、とても聴きやすかったと思う。歌手ごとの声量のばらつきが少なく、オーケストラとのバランスも良かった。歌、楽器とも明瞭性が高く、適度な響きを伴っていて、ささやくような歌も、大勢の合唱と共に歌い上げる場面も、どれも気持ちよく聴くことができた。

 これまで筆者のオペラ観劇は新国立劇場、ウィーンの国立歌劇場やニューヨークのメトロポリタン歌劇場など、大劇場がほとんどで、少なくとも1100~1200席程度はある日生劇場や市民会館が最小の会場であった。1000席未満の会場でのオペラは、今回が初めてのことであった。コンパクトなホールでのオペラは演者との距離感がより近く感じられ、音にハリがあるように感じられた。大劇場の舞台近くの席よりも、劇場全体の親密感を強く感じ、古典といえども、身近な演劇を観ているような気持になった。奇しくも、「ドン・ジョヴァンニ」が初演されたプラハのエステート劇場もあまり大きくはなく、当時の舞台の見え方や音の聴こえ方も似たようなものだったのだろうか、と思いを馳せながら楽しんだ。

ホール内ホワイエに設置された座席表と字幕操作ブース

 堀場信吉記念ホールでは、学外に開かれた催し物も増えてきている。色々なコンサートが開催されているので、ぜひまた訪れたいと思う。(鈴木航輔記)