No.430

News 24-06(通巻430号)

News

2024年06月25日発行
施設外観

四万十市総合文化センター 「しまんとぴあ」のオープン!!

 高知県四万十市は、「土佐中村」としても知られ、京都一条家の荘園として開かれた旧中村市と西土佐村が合併して2005年に誕生した。「日本最後の清流」として名高い四万十川や沈下橋、雄大な山々など風光明媚な観光地も魅力的な四万十市に、4月29日、新たな文化施設「四万十市総合文化センター しまんとぴあ」がオープンした。

施設外観
施設外観

施設概要

 しまんとぴあの計画が始まる以前の四万十市の文化拠点は、800席のホールを有する「四万十市立文化センター」、300席のホールと会議室・研修室からなる「四万十市立中央公民館」、会議室・講習室からなる「四万十市立働く婦人の家」であった。いずれも、文化芸術活動、生涯学習等の場として、市民に愛されながら利用されてきたが、どれも築40~50 年が経過しており、施設・設備の老朽化が懸念されていた。また、市民からも質の高い芸術を鑑賞する機会や、幅広い文化芸術活動に参加し、活動を発表できる場が求められていたことから、本施設はこれらの機能を集約した施設として計画された。

 本施設には、1階にしまんとホール(大ホール)・りぐるホール(小ホール)と音楽練習スタジオ、市民の作品展示が可能なアートスペースが、2階に、創作スタジオやキッチンスタジオ、ミーティングルームや和室が配置されている。これらの室は、交流ロビーを中心として、来館者を隅々まで導くような配置計画となっており、各種スタジオは、ガラス窓により内部の活動が見える(必要に応じてロールスクリーンや障子で目隠しも可能)。また、比較的奥まったところにラウンジスペースとしても使えるしまんとホールのホワイエやキッズコーナーが配置されており、施設の賑わいが感じられるとともに日常的にも気軽に立ち寄りやすい計画となっている。

 設計は東畑建築事務所、施工は竹中工務店。永田音響設計は設計段階から竣工時の音響検査測定までの一連の音響コンサルティング業務を担当した。

1階平面図
1階平面図
2階平面図
2階平面図

しまんとホール

 しまんとホール(805席)は、クラシックからジャズ/ポップスなどの音楽利用や、演劇、式典、講演会などの利用が想定されている。室形状は、六角形平面のメインフロアと一層のバルコニー席からなるプロセニアム型ホールである。舞台からやや室幅が広がった箇所の客席側方部分には、メインフロアよりも一段高いサイドバルコニー席が配置されている。また、一般的に客席後部に配置される親子室が、本ホールではこのサイドバルコニー席の下部に配置されており、客席全体がコンパクトに納まっている。

 本ホールの天井高は舞台上で12m、客席側は最高部で15mである。この天井高を活かして広い範囲に反射音を供給するため、天井反射板や客席天井を下向きの凸曲面とした。平面形は、メインフロア後部席やバルコニー席に側方からの反射音が十分届くよう、舞台に近い側壁は中心軸とほぼ平行に、その奥の側壁は舞台にほぼ正対する角度に調整した。また、サイドバルコニー下部の壁面からの反射音が有効に客席に到達するように同壁面を内傾させた。さらに、後壁面を凹凸形状とし、その前面に音響的な拡散要素となる四万十産ヒノキのルーバーを配することで、ホール内の吸音面を極力なくし豊かな響きが得られる計画とした。

 竣工時に測定した残響時間(満席時推定値、500 Hz)は舞台反射板設置時で1.8秒、舞台幕設置時で1.3秒である。

しまんとホール内観1
しまんとホール内観2
しまんとホール内観
側壁面および後壁面の形状
側壁面および後壁面の形状

りぐるホール

 りぐるホールは最大360席の移動椅子を設置できる平土間のホールである。舞台幕の収納/設置により、音楽利用から展示、ワークショップ、講演会等の利用が想定されている。「りぐる」というのは、本施設がある高知県の中村地区の方言だそうで、「ちょっとおめかしをした様子」を表している。室形状は幅17m×奥行18m×高さ10mの直方体である。2段あるギャラリーの前面には、しまんとホール同様の四万十産ヒノキで格子が組まれている。1階レベルの交流ロビー側コーナー部は移動間仕切り壁が設置されており、これを開放することで、りぐるホールと交流ロビーの一体利用が可能である。また、第1ギャラリーは立見席としての利用も可能である。

 室内音響計画では様々な利用形態に対応して、室全体でなるべく均一な響きが得られるように、第1ギャラリー上部を折面として反射音を散乱させつつ、吸音面を分散配置した。また、1階レベルには舞台側を除く三方に吸音カーテンを設け、響きの調整を可能とした。舞台幕の設置/収納、吸音カーテンの設置/収納により、残響時間(満席時推定値、500 Hz)は、約0.6~1.0秒に調整できる。

りぐるホール内観1
りぐるホール内観2
りぐるホール内観3
りぐるホール内観

遮音計画

 しまんとホール、りぐるホールおよび各種スタジオの活発な同時利用を可能とするための遮音計画の検討を行った。まず、各ホール間での遮音性能を高めるため、りぐるホール周囲の基礎から構造的なエキスパンション・ジョイントを設けて、固体音伝搬低減を図った。さらにスタジオ1と3には防振遮音構造を採用することで、各室相互間の遮音性能の向上を図った。その結果、しまんとホールとりぐるホール間ではDr-80以上、二つのホールと各スタジオ相互間でDr-75~85の遮音性能が確認できており、想定される演目では、ほぼ同時利用が可能である。

オープニングイベント

 しまんとぴあでは、2023年11月以降、プレオープン/オープニングイベントとして、様々な催し物が開催されている。筆者はこのうち、しまんとホールでのクラシックコンサートに参加し、サイドバルコニー席やメインフロア中央部、バルコニー席での響きを確認できた。その印象は、視覚的にも音響的にも舞台と客席が近く、充実した反射音が感じられ、音に包まれた印象を抱かせるものであった。

 また、筆者は参加できなかったが、りぐるホールではオープニングイベントの一環として、早速第一ギャラリーを活用した餅投げイベントが開催された。当日は、りぐるホールをいっぱいにする来場者が訪れたそうで、たいそう活気あるオープニングとなったようである。

中村交響楽団と四万十国際音楽祭

 四万十市は古くからクラシック音楽の演奏会が盛んな土地柄であり、戦後まもなく「中村交響楽団」が発足してその活動を続けている。1994年からは、このオーケストラと市民有志、行政が一体となって四万十国際音楽祭が催されてきた。過去には元ウィーンフィル コンサートマスターのライナーキュッヒル氏などの世界的に有名なアーティストも参加した音楽祭である。これまで、その会場は旧市立文化センターであったが、今後は本施設がその拠点となるであろう。四万十が誇る豊かな自然や質の高い文化活動に触れ、カツオのたたきなどのおいしい海の幸をいただく旅を計画されてはいかがだろうか。(和田竜一記)