金沢美術工芸大学 新キャンパスに移転
2023年秋、金沢美術工芸大学の新キャンパスが供用を開始した。新しいキャンパスは、金沢市中心部の兼六園や金沢21世紀美術館などがあるエリアから南東約3 qの小立野台地の一角、金沢大学工学部の跡地に建設された。向かい側には石川県立図書館が2022年に開館しており、本大学の移転によって金沢市の新たな文化芸術ゾーンが形成された。設計は、 SALHAUS、カワグチテイ建築計画、仲建築設計スタジオ、施工は真柄・トーケン・兼六・北川・鈴木特定建設工事共同企業体である。
新キャンパスの構成
新キャンパスは、7つの棟、5つの庭から構成されている。石川県立図書館側の道路沿いには管理部門の1号館、美術館・図書館の2号館が配置され、この1号館と2号館の間には、奥に向かって通り抜けできるアートプロムナードと呼ばれる小径が設けられている。このアートプロムナードは、途中で雁行しており、そこが広場になっている。これは、設計者曰く、金沢市でよくみられる広見(曲がりくねった道の中の広いスペース)を模しているそうである。また、部分的にガラス屋根が設けられていて、雨や雪の日でも憩える空間が作られている。このアートプロムナードに沿って両側に3号館、4号館、5号館が、そして一番奥にメディアセンター(6号館)、体育館(7号館)が配置されている。 各棟は2階レベルでは屋内通路で繋がっており、天気によらず快適な移動が可能である。各施設の周辺には五ヵ所に庭が配されている。敷地南側の辰巳用水に接している”運動の庭”は地域に開かれた気持ちの良い広場になっている。一方、”創作の庭”は4号館の共通工房に囲まれた中庭のような空間で、学生が作品製作に集中できるように外部から閉ざされた場が作られている。
新キャンパスのコンセプト
新しいキャンパスのコンセプトは、「開かれた美と創造のコミュニティ」である。キャンパス周辺には塀などは全くなく、誰でも外と内を自由に行き来できる。アートプロムナードに面して配された大小のアートコモンズは学生たちの作品展示の場でもあり、さらに学外の人たちにも見てもらえるような仕組みが作られている。加えて各棟、各科の様々な場所にもアートコモンズが配され、展示を通して他の科の学生たちとのコミュニケーションが生まれる場にもなっている。
音響設計の内容
美術工芸大学なので、音響設計の対象になりそうな内容はそれほど多くなかったが、設計から施工段階において、主に6号館のメディアセンター内に設置された50席弱のシアターや録音室、7号館の体育館を対象に、遮音や室内の響き、設備騒音低減などの検討を行った。その他、”創作の庭”周辺の共通工房には石や金属、木などの加工室といった大きな騒音が発生する室があるので、それらの室の遮音や内装仕上げなども提案した。さらに講義室をはじめとする諸室については、大学機能として必要な音響性能確保の観点から内装仕上げなどのアドバイスを必要に応じて行った。
シアターや録音室は、周辺諸室や屋外との遮音確保のために防振遮音構造を採用し、天井や壁はグラスウールの吸音仕上げとして残響を抑えた。また設備騒音については、必要個数の消音エルボを設置して静けさを確保した。小さな空間だが、密度の濃い工事が行われシアターや録音室に適した音響性能が十分得られている。
体育館はキャンパスの南東側に配置されており住宅街に近接している。体育競技の他に講堂としての利用も計画されており、 大学行事ではスピーカの利用も十分考えられたので、周辺との遮音を考慮する必要があった。ガラス面の多いデザインだったので、住宅に面する側には厚さの異なるガラスを2重に設置した。響きについては講堂や体育競技に対して、天井の他、壁も部分的に吸音処理した。
移転後の11月中旬に見学会が行われた。因みに、設計を担当された3社の方々は、以前、山本理顕設計工場に在籍されていた。それぞれのチームカラーはあるものの基本的な言語は同じということだろうか、各棟で設計チームを決めるのではなく、様々に相互乗り入れするような形で設計を進めたそうである。キャンパス全体としてのまとまり感は十分感じられるが各棟で少しずつ個性が見え隠れして、見学していても楽しさがあった。 使われ始めてからの見学だったので、すでに廊下などに様々なものが置かれたりしていたが、それによってなおのこと建物が活き活きとしているように感じられた。ここから多くのアーチストが世界に飛び出すことを願っている。
最後になりましたが、この度の「令和6年能登半島地震」で被災されました方々に、心からお見舞い申し上げます。
因みに、金沢美術工芸大学では、多少ものが落ちたりした程度で建物自体に損傷はなく、授業も通常通り行われているとのことです。(福地智子記)
金沢美術工芸大学ホームページ:https://www.kanazawa-bidai.ac.jp/