関東学院大学 横浜・関内キャンパス(テンネー記念ホール)
関東学院大学横浜・関内キャンパスは、JR京浜東北・根岸線の「関内駅南口」西側駅前に位置し、テンネー記念ホールを中心とした新たな関東学院大学の教育・研究施設として今年の4月にオープンした。
この敷地にはかつて前川國男設計の横浜市教育文化センターがあった。打ち放しコンクリートと煉瓦タイルといった重厚な前川建築の特徴をもつ建物で、これまで横浜市の教育文化を発信し貢献してきた有名建築でもあった。この施設の老朽化に伴い、横浜市によるこの敷地の活用事業者の選定プロポーザルが行われた。大学の教育方針やまちの文化醸成が評価を得たということで、旧教育文化センターの役割を引き継ぐ提案として、教育と文化を発信する大学施設はこの跡地にふさわしい施設と言えよう。
施設概要
本施設の設計・監理は(株)東畑建築事務所、施工は(株)フジタである。永田音響設計は、設計段階から音響検査測定までのホールに関わる一貫した音響コンサルティング業務を行った。
この施設の2階に、関東学院設立者であるチャールズ・B・テンネー氏の名を冠した「テンネー記念ホール」(654席)がある(以下:ホール)。4階には大通公園や関内駅側に面した開放感のあるコワーキングスペースが、5階にはデジタル図書室がある。この1階から5階までは一般の方の利用も可能である。地下1階から1階にかけての低層部にはエントランスホール、サンクンガーデンおよびカフェを配置した開放的な空間デザインで、地域に開かれた場を提供しており、人を引き付ける施設とするための工夫がなされている。
地下鉄振動騒音対策とホールの遮音計画
本敷地に沿った大通公園の地下には横浜市営地下鉄ブルーラインの軌道が通っており、またJR側の前面道路地下には首都高速道路が走っている。それらの騒音、振動の建物への影響が懸念された。本施設の計画段階において、旧施設が解体されるさなか、地下鉄軌道に近い地下の部屋において振動の測定を行った。その結果、予想される列車通過のピーク時の室内騒音は、NC値でいうとNC-60程度となった。そこでこの対策として2つの方法を採用することとした。まず地中の構造躯体と地盤との間に緩衝材(フォームポリスチレン板)を挟み込む地中防振工法である。旧施設の既存地下躯体を一部再利用する計画もあり、(株)フジタのエンジニアリングセンターおよび技術部の方々ともその範囲や施工方法などを協議し、杭と一部の地中梁以外の既存躯体および地中の地盤と新築耐圧盤との間に緩衝材を挟み込んだ。この対策は建物全体に効果が期待できる。もう一つはホールへの影響を低減させるために、ホールを防振遮音構造(いわゆるボックスインボックス)の遮音構造とした。これらの対策により、ホール内での地下鉄騒音はNC-25~30程度と予測された。竣工時の測定値はNC-25程度であり、予測値どおりに低減できたことを確認した。
ホールの室内音響計画
ホールの利用内容としては、大学で想定される式典、講演会、シンポジウム、学園祭などの使われ方はもとより、一般の方々への貸し出しも予定されており、クラシック音楽のコンサートや発表会なども想定されている。舞台内は固定の壁・天井で、ワンボックスのコンサートホールとして音響計画をおこなっている。式典や講演会などの利用の際にはバトンに幕類を設置することで、それらに相応しい舞台構成とするとともに,音響条件としても好ましい響きを提供することを目指した。客席の側壁上部から2階後壁にかけては縦のルーバー(断面30mm×100mm)が、そのピッチと角度を変えて配置されている。そこに間接照明を当てることで角度を変えたルーバーにより光の変化が生まれ、美しい平面と曲面の壁面となっており、ホールに入った時の独特な高揚感を生み出している。ルーバー背後の壁は音響的に好ましい形状の反射面としていて、そこからの反射音が的確に客席内に到達するようにその大きさや角度等を入念に調整している。その結果、どの席においても適度なバランスの良い反射音が届けられている。また、そのピッチと角度をかえたルーバー自体も音の拡散などにより、好ましい空間の響きに寄与している。
舞台幕のないコンサートホールの状態での残響時間は2.0秒/500 Hz、舞台幕を設置した状態での残響時間は1.4秒/500 Hzである。(いずれも空席状態)
今後の地域活性化
このエリアは横浜市の「関内・関外地区」と呼ばれている。現在のJR京浜東北・根岸線の線路、堀下の首都高速道路を挟んで、海側が関内、陸地側が関外地域で、海側に設けられた外国人居留地の関所を境にその名がつけられたそうだ。本施設の地域は関外地区となる。ちなみに「関内」は現在の地名にはない。この関内地域においては、開港以来の歴史と文化、個性豊かな商店街など、独自の魅力を有しており、近年みなとみらい21地区への企業の移転などにより商業や業務機能の低下が進んでいるとはいえ、その賑わいは今も変わらない。それに比べ関外地域側のとくに大通公園近辺には、これまで札幌の大通り公園のような活気はなかった。今後この大通り公園は、約3,300人の学生規模をもつキャンパスと一体となって、学生や市民の交流による賑わいの場を創出し、地域全体を活性化されることになろう。(小野朗記)
横浜・関内キャンパス |関東学院大学 (kanto-gakuin.ac.jp)