好きを極める! エンターテインメントに特化した「東急歌舞伎町タワー」誕生
今年の4月、”好きを極める”をコンセプトとしたエンターテインメント施設とホテルからなる「東急歌舞伎町タワー」が、東京都新宿区歌舞伎町にオープンした。西武新宿駅前に現れた高さ約225mの超高層ビルは、永山祐子氏による噴水をモチーフとした外装で、水の勢いが天まで伸びるようなイメージのデザインとなっている。歌舞伎町に新たなランドマークの誕生である。
東急歌舞伎町タワーは、低層階にエンターテインメント&レストラン、中層階に900席規模の劇場「THEATER MILANO-Za」、「109シネマズ」の新しいブランドとなる映画館「109シネマズプレミアム新宿」が積層し、地下にライブホール「Zepp Shinjuku (TOKYO)」が配置されている。高層階には2つのブランドのホテル:エンターテインメント施設・町と繋がるホテル「HOTEL GROOVE SHINJUKU,A PARKROYAL Hotel」と天空のラグジュアリーホテル「BELLUSTAR TOKYO, A Pan Pacific Hotel」が配置されており、ホテルからは眺望を楽しむことが出来る。東急歌舞伎町タワーと新宿東宝ビルとの間にあるシネシティ広場側の屋外には大画面の屋外ビジョンや屋外ステージが設けられて、広場と一体となった賑わいの場を形成する。
発注者は東急・東急レクリエーション、設計・監理者は久米設計・東急設計コンサルタント設計JV、施工者は清水・東急建設JVである。永田音響設計は設計・施工段階に劇場・映画館・ライブホールの遮音・騒音防止、劇場の室内音響およびホテルの遮音について音響コンサルティングを行った。
歌舞伎町の歴史
最初に、このプロジェクトの紹介資料を基に、歌舞伎町と東急歌舞伎町タワーが建てられたエリアの歴史を紹介したい。
原点となるのは、江戸時代に開かれた甲州街道の宿場町「内藤新宿」。江戸の行楽地としても日夜賑わいを見せ、幕府から風紀取り締まりも受けたという。時代は移り変わり、第二次世界大戦で焼け野原になった新宿東部エリアの戦災復興区画整理事業で、この地に劇場、映画館やダンスホールを建てて道義的な繁華街として生まれ変わらせようという計画が立ち上がった。「歌舞伎町」という名は、当時の計画に歌舞伎座の建設が含まれていたことに由来する。
高度経済成長期に盛んになったレジャー産業で、外国映画のロードショー上映館が賑わいを見せ、東急でも新宿・渋谷に東急文化会館を建設する構想が打ち出された。東急歌舞伎町タワーが建てられた敷地は、1956年にロードショー館「新宿ミラノ座」を含む新宿東急文化会館が開業した地である。その開業の翌月には、シネシティ広場を挟んだ向かい側に新宿コマ劇場が開館。その後も広場周辺に劇場や映画館がオープンし、歌舞伎町は映画の街となっていったという。「新宿ミラノ座」「新宿コマ劇場」と聞くと懐かしさを感じる方も多いのではないだろうか。
1996年、新宿東急文化会館は「新宿TOKYU MILANO」と名称を変え、映画に関する様々なイベントが繰り広げられてきたが、建物の老朽化等に伴い、映画ファンに惜しまれつつ2014年に閉館した。そして2023年、満を持して東急歌舞伎町タワーが誕生した。
このように歴史を紐解くと、このエリアに引き継がれてきた映画やエンターテインメントへの情熱が伝わってきて、そのエネルギーが東急歌舞伎町タワーを通して未来へと受け継がれていくのを確信する。
施設の遮音計画
本施設の音響計画のメインとなったのは、それぞれ大音量での公演・上映が想定された劇場・映画館・ライブホールの遮音計画である。その内、最も難題であったのが、劇場~映画館間の遮音性能の確保であった。
劇場の直上に映画館が積層する配置計画において、異なる運営者による両施設の同時使用を支障なく行うため、高い遮音性能の実現が求められた。遮音構造の基本的な考え方として、劇場~映画館間に2重スラブを計画し、劇場・映画館共に防振遮音構造を採用した。劇場・各シアターの浮床は、全て防振ゴム支持による浮床を採用した。(映画館内の各室をシアターと呼ぶ。)また、カーテンウォール内側には固定遮音壁としてALC壁を設置した。
これらの遮音構造により、最も配置条件の厳しいシアター1・2→直下の劇場3階席で65~71 dB/63 Hz、DP,r-85以上が得られた。(DP,rは音源室・受音室内の特定の場所の音圧レベルの差を示す。)
次に、映画館の各シアター間の遮音計画について紹介したい。計8室のシアターで構成される映画館は、下階・上階共に同一の配置で4室ずつ2層に積層されている。各シアター間の遮音性能を確保するために、全てのシアターに防振遮音構造を採用した。防振遮音壁・天井のボード複層貼りの仕様は、設計時点で最新であった109シネマズ二子玉川のIMAXシアターの仕様を参考に決めたものである。また、各シアターの観客入口はラウンジへの音洩れに配慮して、2重に防音扉を設置した。
ここで施工段階において新たな難題として持ち上がったのが、上階のシアター5~7の隔壁の上部スラブに構造上、大地震時及び強風時に上下方向に最大±70 mmの変位が生じることへの対応であった。隔壁の上部鉄骨梁~固定遮音壁間、及び、防振遮音天井~防振遮音壁間を構造的に縁を切る納まりとしながら、遮音性能を確保する必要が生じた。これに対し、上部構造の鉄骨梁から下方に向けて鉄板を固定し、その鉄板と固定遮音壁を重ねて上下にスライドする機構とした。更に、隙間からの高音域の音洩れへの対策として、その外側を余長を取ったRW巻き付け耐火被覆材で覆う納まりとした(劇場・映画館断面図内の右上の図を参照)。防振遮音天井と防振遮音壁間の縁切り部も同様の納まりである。
最後に、ライブホールの遮音計画である。地下1階~4階に配置されたライブホールは、演奏音が敷地境界線で風俗営業法による騒音規制値(50 dB)を越えないようにすると共に、1階の店舗やホテルエントランスへの演奏音の伝搬を低減させることが必要となった。遮音計画の基本的な考え方として、防振遮音構造を採用し、客席入口扉は防音建具を2重に設置した。
このライブホールは、施工者からの技術提案により、観客による縦ノリ対策として、防振ユニット(ばね部材+ダイナミックスクリュー+オイルダンパ−)による防振床が採用された。また、その上部への遮音用浮床設置の必要性と懸念事項についても検討が行われた。ライブホールで演奏される大音量の楽音を低減させるには、この防振床のみで十分な減衰量が見込めるという検証データが得られていなかったため、最終的に、縦ノリ対策用防振床の上に、遮音対策用の浮床を設置する仕様が採用された。2重防振となるため、縦ノリ対策用防振床の防振性能を現実的に損なわないように、遮音用浮床の固有振動数を設定した。
これらの遮音構造により、ライブホール→1Fホテルエントランスで77 dB/63 Hz、DP,r-85以上が得られた。また、実際のライブを模した楽音再生時(5%時間率音圧レベルL5:127 dB/ 63 Hz)に、敷地境界線で伝搬音が外部騒音に紛れて聞こえないことを確認した。(箱崎文子記)
劇場の室内音響計画
施設の中層階に位置する劇場「THEATER MILANO-Za」は、演劇・ミュージカルをはじめ、音響・映像設備を用いるイベント等、様々なライブエンターテインメントの発信地として計画された。
客席空間は、高さ約19mの水平な遮音天井の下に、メインフロアと複層のバルコニー席が積層し、客席天井反射板やキャットウォーク、シーリングスポットが露出して配置されている(右図)。様々な利用形態や演出への対応を想定して、メインフロアの客席椅子は着脱式で、客席レイアウトの自由度が高められている。また、舞台前方は組み立て床を外して客席を設置することで、プロセニアム開口よりも舞台側に入り込んだ客席エリアを作り出すこともできる(客席数:基本構成907席、最大1088席まで増設可)。
本劇場の室内音響計画では、出演者の台詞や効果音等の拡声音が明瞭に聞こえるように短めの響きとするだけでなく、初期反射音を重視して室形状や内装仕上げの検討を行った。一般的に、台詞の明瞭性を高めるには直接音からの遅れ時間が早い初期反射音(約50ms以内に届く反射音)が重要とされている。さらに、そこに拡声設備からの音を適切な遅れ時間・音量で加えることで、舞台上の音源(台詞を話す出演者等)の定位感を損なうことなく、十分な音量で明瞭性の高い聴取環境が実現できると考えた。
そのような初期反射音が得られるように、客席前方とシーリングスポット下に天井反射板を設け、最上部の遮音天井や3層のサイドバルコニー席下面の天井も反射面として利用した。一方で、意匠的に表しとなった高い位置の遮音天井と上階の側壁を経由する反射音がやや遅い遅れ時間で客席に届くため、キャットウォーク階の側壁は吸音仕上げとした。また、舞台へのロングパスエコーが懸念される客席後壁も吸音仕上げとした。
客席階の側壁は、音響的には凹凸のある反射性の仕上げで、意匠的には客席空間の演出性を高める要素として利用されている。写真のように内倒しの鉄板が上下に連続するデザインで、その小口面にはLED照明が仕込まれており、バルコニー席の手摺壁に仕込まれたLED照明と合わせて、客席空間全体をLED照明で演出することができる。客席空間は全体的に暗色で仕上げられているが、この照明によって紫色や赤色の照明をぼんやりと浮かべることで、非日常的な雰囲気に変えることができる(写真)。音響的には、この内倒し面でフラッターエコーを防止し、鉄板の鳴りやビリツキを防止するために鉄板の裏面に制振シートを貼り、緩衝材を介して固定した。
客席階の後壁は、グラスウール25mm、50mm、木毛セメント板の3種類の吸音仕上げが意匠的にランダムに配置されている。キャットウォーク階の後壁と側壁については、低音域の響きを抑えるためにグラスウール100mm厚の吸音仕上げとした。本劇場の残響時間は0.9秒(満席時推定値、500Hz)である。
おわりに
高層タワーとしては珍しく、オフィスフロアをもたないエンターテインメントタワーが誕生した。しかも、世界有数の繁華街である歌舞伎町に出来たとあって、今年4月の開業時には多くのメディアに取り上げられた。開業以来、劇場では話題性のある演劇公演が続いており、チケットが入手困難なほどである。また、映画館では連日のようにレイトショーが行われ、飲食店や遊戯施設には若者や外国人観光客が訪れ、深夜も明かりが消えないタワーは多くの人で賑わっている。本施設が東京の新たなランドマークとなり、多くの人を惹き付けていくことを期待している。(服部暢彦記)
東急歌舞伎町タワー:https://www.tokyu-kabukicho-tower.jp/