大阪成蹊学園の新キャンパスに「大阪成蹊学園蹊友会こみちホール」がオープン
学校法人 大阪成蹊学園は、その前身となる高等成蹊女学校が設立されてから、2023年4月で90周年を迎える。同学園は、記念すべきこの年、阪急電鉄京都線相川駅西口から徒歩2分の敷地に「駅前キャンパス」を新設した。
本施設の設計は類設計室、施工は清水建設・前田組JVである。永田音響設計は、ホール棟の建築音響計画を中心に設計から施工までの一連の音響コンサルティング業務を行った。
大阪成蹊学園とキャンパスの紹介
大阪成蹊学園は建学の精神として、司馬遷 史記の一節「桃李不言下自成蹊※」を掲げ「徳があり、人に慕われ、信頼される人を育てる」ことを教育目標としている。相川駅東口から徒歩5分の場所には、大阪成蹊女子高等学校、大阪成蹊短期大学、大阪成蹊大学の生徒、学生が通う「相川キャンパス」がある。同学園は他に、びわこ成蹊スポーツ大学、こみち幼稚園等もあり、北京オリンピックで活躍したアーティスティックスイミングの青木愛選手等を輩出している。
※:大阪成蹊学園ホームページ参照
「駅前キャンパス」は、ホール棟とSouth館の2つの建物で構成され、外観はいずれも相川キャンパスの建物に合わせてレンガ調のタイルで統一されている。ホール棟は切妻屋根の意匠が採用され、「大阪成蹊学園蹊友会こみちホール」と命名された。またSouth館は、講義室や図書館、実習室や研究室、食堂などが収容され、新設された看護学部とデータサイエンス学部の学生の学び舎となっている。
遮音計画
「駅前キャンパス」の名前が示す通り、本キャンパスには、敷地東側に近接して阪急電鉄が通っている。遮音計画では、鉄道走行時の騒音/振動がホールで支障にならず、ホール運用時の発生音がSouth館での授業等に影響がないよう検討を行った。
まず、講義室や研究室があるSouth館に比べて、より静かな環境が必要となるホール棟を鉄道からなるべく遠い位置に配置した。最も近い位置での離隔距離は約55mで、固体音対策としての地中防振やホールの防振遮音構造などは必要ないと判断した。また、ホールとSouth館の間に基礎から分けた構造的なエキスパンション・ジョイントを設けて両棟間の遮音性能の向上を図った。
竣工時に、ホール内で鉄道騒音を聴感的に確認した。その騒音はNC-25の空調設備騒音の下では感知できず、ホール運用には支障ない程度であった。また、ホールに最も近い教室との遮音性能は、Dr-85以上の性能が得られ、South館との同時使用には支障のないことを確認した。
ホールの室内音響計画
本ホールは比較的小規模なオーケストラ演奏や、コーラス、吹奏楽などの音楽利用を主目的としつつも、式典、講演会、シンポジウムなどにも利用される。ホールの計画にあたって、学園の石井茂理事長は、学生に一流の演奏を体験させ、学外にも開放するというビジョンをお持ちであった。我々はこの期待に沿えるよう、楽音の明瞭性と余裕のある響きがバランスすることを目標として、明瞭性に寄与する反射音の付与と十分な空間ボリュームの確保を意図して室形状の検討を行った。
本ホールは幅18m、奥行き20mのエンドステージ型で374席の客席を有し、天井面には外観の切妻屋根の形状が現れている。舞台上の天井高は最高部で約11.5mと十分なボリュームを確保した。そして、明瞭性に寄与する反射音が客席全体に到達するように、天井や側壁上部の傾斜角度を検討した。また、高音域を散乱させて柔らかい反射音を返すために客席に近い側壁下部は木リブ仕上げとした。
その他、式典など拡声設備を用いる場合の音響可変要素として、舞台周辺壁面に吸音バナーを設置した。拡声用マイクロホンの感度が高い方向からの反射音が減ることでハウリングに強い拡声系が実現されている。
竣工時に測定した残響時間(空席時,500Hz)は、クラシック音楽利用を想定したコンサート形式(舞台カーテン収納)で1.9秒、式典、講演会などの学園行事を想定した講堂形式(舞台カーテン設置)で1.6秒である。
竣工時の試演会
竣工測定に合わせて大阪成蹊女子高等学校のコーラス部による試演会が行われた。同部は、関西や大阪府の合唱コンクールで金賞などの成績を収めている、実力のある団体である。若々しいパワーの溢れるコーラスという第一印象であった。フレーズが明瞭に聴こえつつ、余韻も適度に残り、心地よい響きのホールができたように思う。部員の皆さんにとっては、初めての会場に戸惑いを感じたようであるが、一人一人の客席に響く歌声や表情からは、”楽しさ”が感じられた。コーラス部の皆さんのみならず、地域や学園の皆さんに愛され、ひとが集まる”こみち”のようなホールになって欲しいと思う。(和田竜一記)