新しい磐田市民文化会館「かたりあ」のオープン
静岡県の西部に位置する磐田市は、サッカーJリーグ「ジュビロ磐田」の本拠地であり、最近では、東京オリンピック2020の卓球混合ダブルス金メダリストである伊藤美誠選手と水谷隼選手の出身地としてご存知の方も多いと思う。
1979年に完成した旧磐田市民文化会館は、1500席の多目的ホールを有し、音楽、舞踊、ミュージカル、演劇など、様々な文化芸術を通じて広く市民に親しまれてきた。特に、「しずおか文化の祭典’92 inいわた」を機に、市民文化会館を文化発信の拠点にし、将来の磐田の文化を担う子どもたちの育成につなげたいという思いから、「磐田こどもミュージカル」が設立され、これまで、旧市民文化会館を拠点に公演が行われてきた。
しかしながら、旧市民文化会館は開館から40年が経ち、建築・設備ともに経年劣化が進んでいたことから、新しい市民文化会館が新築されることとなり、2020年3月に多くの市民に惜しまれながら閉館を迎えた。
新しい市民文化会館の概要
新しい市民文化会館は、旧市民文化会館の機能を引き継ぐ施設として計画され、1508席の多目的ホール、リハーサル室、練習や会議など多目的に利用できる創造活動室等から構成されている。施設は、国道1号線沿いに計画され、往来する車の中からも施設の外観を見ることができる。また、隣接する既存の文化施設である「アミューズ豊田」との施設間連携が考慮され、屋根付きの通路で施設間を行き来できる計画となっている。施設の愛称の「かたりあ」は公募で選定され、「語り合う」とラテン語で”場所”を意味する「リア」を組み合わせ、文化を継承・創造・発展する新しい拠点として、人々が集い・語り合える施設となるような願いが込められている。
設計・監理は石本建築事務所、建築工事は大成・アキヤマ特定建設工事共同企業体である。永田音響設計は、基本設計から施工段階、および竣工時の音響検査測定までの一連の音響コンサルティング業務を担当した。
施設の遮音計画
ホールを囲むように、リハーサル室や創造活動室が配置されており、施設を円滑に利用するためにも、各室間の遮音性能の確保が課題の一つであった。ホールと周辺諸室はできる限り距離を離す平面計画とし、リハーサル室と創造活動室2~3については、防振遮音構造(Box in Box)を採用した。また、特に大音量の発生が想定されるリハーサル室と創造活動室2については、防振ゴム浮床の上に柱梁の鉄骨を組み、躯体壁やスラブからの支持を一切取らずに遮音層を設ける独立フレーム型の防振遮音構造とした。
各室間の遮音性能は、ホール~リハーサル室間、ホール~創造活動室間、創造活動室相互間において、いずれも90 dB(500 Hz)を超える性能が得られている。ホールと防振遮音構造を採用した周辺室については、ほとんどの催しに対して同時利用が可能な遮音性能が得られている。
ホール
1508席のホールは、可動の舞台音響反射板をもつ多目的ホールである。舞台音響反射板設置時から舞台幕に転換することで、クラシックコンサートから式典、講演会、ミュージカル、演劇、ポピュラーコンサートまで幅広い演目に対応可能である。客席の前方床下にはピットが設けられており、客席椅子と床を外すことで、オーケストラピットとすることも可能である。プロセニアム開口の幅は約18 m、高さは舞台床から約12 mであり、電動の可動プロセニアムにより舞台開口を絞ることができる。
客席は1層のバルコニー席をもち、舞台と客席をできるだけ近い距離に配置することで、観客と演者間の一体感や親密感を高める計画となっている。客席椅子は幅540 mmで千鳥配置とすることで、ゆとりのある客席配置となり、快適な座り心地とサイトラインを確保している。
天井については、舞台の天井反射板と客席天井、シーリングスポット下面の角度を調整することで、天井からの1次反射音を舞台・客席にスムースに到達させる計画とした。また、側壁については、舞台の側方反射板から客席側壁にかけて、連続した多面体で構成するという意匠コンセプトのもと、有効な反射面である下向きの面を組み込むことで、側壁を経由する2次反射音を有効に客席中央部に届ける計画とした。客席の後壁については、有孔板+グラスウールの吸音構造とし、ロングパスエコーを防止した。
ホールの残響時間は、舞台音響反射板設置時で空席時2.1秒/満席時1.7秒、舞台幕設置時で空席時1.7秒/満席時1.4秒(いずれも500 Hz)である。舞台音響反射板を設置したクラシックコンサートの際には長めの響きが、舞台幕設置時の講演会等ではクリアな響きが得られている。
リハーサル室
リハーサル室は、ホールの舞台と同規模の床面積を有し、床材についても、ホール舞台と同じヒノキ材が使われている。壁上部にはテクニカルギャラリーがぐるりと配置され、天井には固定のグリッドパイプが設けられ、照明や音響設備を設置することで、小規模な発表会や講演会などにも多目的に利用できる。
リハーサル室は基本的な平面形状が長方形であることから、フラッターエコーの防止のために、壁には内倒しの角度をつけ、ピッチをランダムにした木ルーバーの仕上げ壁の背後には、グラスウール50 mmを分散配置した。また、天井面にもグラスウール50 mm直貼り仕上げを分散配置した。
空室時の残響時間は1.1秒(500 Hz)であり、多目的に利用しやすい中庸な響きが得られている。
開館記念式典
7月30日、市民待望の開館記念式典がホールで催された。磐田市長と磐田北小学校太鼓部による盛大な祝いの太鼓から始まり、弦楽による室内楽や、メゾソプラノとピアノ・尺八・朗読による「磐田に伝わる二つの歌」、磐田こどもミュージカルのメンバーによる”かたりあ”へのメッセージなど、充実したプログラムであった。また、過去の映像の投影により、旧市民文化会館の思い出や、磐田こどもミュージカルの歴史が紹介され、旧市民文化会館が市民に親しまれてきた様子と新しい市民文化会館への期待が伝わってきた。式典の最後には、弦楽演奏を伴奏に、こどもミュージカルのメンバーが、舞台から1階客席、さらには2階バルコニーまで広がって、磐田市歌「ふるさといわた」を歌い、ホール全体にこどもたちの素直な歌声が響き渡り、大変感動的な記念式典であった。新しい磐田市民文化会館「かたりあ」のこれからが楽しみでならない。(酒巻文彰記)
磐田市民文化会館「かたりあ」ホームページ:https://www.kataria.jp/ 写真:磐田市提供