No.410

News 22-08(通巻410号)

News

2022年08月25日発行
大ホール舞台側(改修前)

パルテノン多摩 リニューアルオープン

 多摩市立複合施設(以下、パルテノン多摩)は、1987年の開館以来、様々な文化・芸術を発信するとともに、市民の文化活動を支え、多摩地区を代表する文化施設として長らく市民から愛されてきた。しかしながら、開館から30年が経過したことで、老朽化による建築や各種設備の劣化が進み、さらには耐震性の観点からも、今後も長く継続的に安全なサービスが提供できるように、大規模改修工事が実施された。

 大規模改修工事の基本理念では、市民が豊かな文化芸術を鑑賞し、ともに創造する楽しさに触れることで、多摩地区のさらなる活性化に繋げることが掲げられた。そのため、施設の改修は単なる劣化改修だけでなく、施設機能の改善や、時代とともに生まれた新しい市民ニーズに応えるよう、従来になかった機能も追加された。具体的には、エレベータや段差解消機の新設によるバリアフリー動線の追加、多目的トイレや授乳室・ロッカーが整備されることで、使い勝手が大幅に改善した。また、大・小ホールのホワイエと共用ロビー間の区画は撤去され、開放的なロビー空間となり、子ども広場やカフェ・ライブラリースペースなども新設され、子育て世代にも気軽に立ち寄りやすい施設となった。大規模改修工事の設計は、ナスカ・東畑・森村設計共同企業体、施工は、鹿島・朝倉・中村建設共同企業体である。永田音響設計は、大・小ホールを中心とした音響コンサルティング業務と、改修工事前後の音響測定を担当した。

大ホール舞台側(改修前)
大ホール舞台側(改修前)
大ホール客席側(改修前)
大ホール客席側(改修前)

大ホール

 大ホールは、1スロープの客席をもつ1,154席(改修後)の多目的ホールである。改修前の大ホールは、多目的ホールでありながら、シューボックス型のコンサートホールの考え方を踏襲した天井の高いホールであり、クラシックコンサートでの生音の音響性能が良いホールとして、一定の評価を得てきた。今回の改修工事では、クラシックコンサートはもちろん、ポップスコンサートやミュージカル、演劇など、多様な演目でより使いやすいホールになるように計画された。

 舞台設備(舞台機構、舞台照明、舞台音響)はすべて最新設備に更新され、舞台の吊り物については、これまで手引きだったものが、すべて電動の吊り機構に更新された。とくに、舞台反射板については、形状・仕上げともに新しくなった。

 客席の床は、より舞台を見やすくするために、床が嵩上げされ客席勾配が急になり、さらに客席椅子を千鳥配置とすることでサイトラインがかなり改善された。客席天井は、地震時の脱落防止のため天井を耐震化して復旧することが難しいこともあり、既存の格天井を撤去する工法を採用した。これにより、天井裏の空間も音響的に一体の空間として室容積を確保し、客席床を嵩上げしたことによる室容積の減少を補い、結果的には室容積は多少増えることとなった。客席前方の舞台側の天井や、シーリングスポット・テクニカルギャラリーの下面、天井裏のスラブ面には、適切な角度をつけた反射天井を設け、天井からの反射音が客席にスムースに到達するようにした。

 客席の側壁については、張り出していたサイドスポット室や丸柱を撤去し、袖壁のコンクリート面も含めて、ホール側に折板形状の側壁を新設した。また、クラシックコンサートのみならず、拡声設備を使用した際にも自然な音質となるよう、側壁にはランダムなピッチの横リブ材を設けることで、側壁からの反射音を適度に散乱させる計画とした。なお、ホールの室容積が多少大きくなることで、残響時間が長くなりすぎないように、天井裏の空間の壁面の一部にはグラスウール50mmを設置した。

 残響時間は、舞台反射板設置時:改修前2.0秒、改修後2.1秒、舞台幕設置時:改修前1.7秒、改修後1.7秒(いずれも500 Hz、空席時)であり、中音域の残響時間は改修前後でほとんど変わっていないが、反射板設置時の生音の自然な響き、舞台幕設置時の拡声設備のクリアな音を確認している。

大ホール舞台反射板設置時(改修後)
大ホール舞台反射板設置時(改修後)
大ホール舞台幕設置時(改修後)
大ホール舞台幕設置時(改修後)
大ホール客席側(改修後)
大ホール客席側(改修後)
大ホール客席側(改修後) ©ASAKAWA TOSHIYA
大ホール客席側(改修後)
©ASAKAWA TOSHIYA

小ホール

 小ホールは269席(改修後)の多目的ホールである。全体のコストバランスによる理由で、内装仕上げ等は大きく変更していない。ただし、改修前は舞台側方反射板と客席壁の間に大きな開口面があったものを、反射板側からパネル面を持ち出すことで、できるだけ開口面を小さくした。改修後の音響測定では、そのパネル面が初期反射音の確保に有効に寄与していることが確認された。

遮音性能の改善

 小ホールと近接している第2練習室は、遮音の問題により同時使用ができないなどの運用上の支障がでていた。そこで、室間の遮音性能を改善し利用しやすくするため、第2練習室に防振遮音構造(Box in Box)を採用した。また、練習室の利用が多いことから、既存の収蔵庫を第3練習室とし、こちらも防振遮音構造とした。

 室間の遮音性能は、小ホール~第2練習室間で、改修前73 dBから改修後92 dB以上と大幅に改善した。小ホール~第3練習室間は、改修後89 dB以上である。(遮音性能は、いずれも500 Hz)

小ホール舞台側(改修後)
小ホール舞台側(改修後)
小ホール客席側(改修後) ©ASAKAWA TOSHIYA
小ホール客席側(改修後)
©ASAKAWA TOSHIYA

オープンニングコンサート

 パルテノン多摩は、7月1日に待望のリニューアルオープンを迎えた。大ホールでのオープニングコンサートは、井上道義さん指揮、服部百音さんのヴァイオリンで、読売日本交響楽団の特別演奏会で幕を開けた。前半のメンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲では、服部さんの美しいヴァイオリンの旋律がホールに響き、後半のムソルグスキー(ラヴェル編曲)の展覧会の絵では、迫力ある音から、繊細な弱音まで、存分に堪能することができた。井上さんからは、響きの柔らかさと、大音量で飽和しない余裕のある響き、弱音も支えのなくならない響きであると、大ホールの音響性能に最大の賛辞をいただくことができた。

 オープニングシリーズでは、引き続き、大ホールでは小曽根真さんによるソロコンサート、サンリオファミリーによるミュージカル、小ホールではダンスコレクションや、音楽朗読劇など、多様で充実したラインナップが並んでいる。生まれ変わったパルテノン多摩が、これからも長く市民に愛される施設となることを願っている。(酒巻文彰記)

パルテノン多摩 公式サイト:https://www.parthenon.or.jp/