No.407

News 22-05(通巻407号)

News

2022年05月25日発行
「みなくる」の外観

別海町(べつかいちょう)に生涯学習センター「みなくる」がプレオープン

 今年の4月、北海道東部のオホーツク海に面した町、別海町に生涯学習センター「みなくる」がプレオープンした。別海町の中心部へは、中標津空港から根室方面への空港連絡バスに乗って40分程の距離である。

 別海町と言えば乳製品が知られており、酪農が盛んな地という印象を持たれている方も多いことと思う。その通り、牛の数が人口の約8倍、生乳生産量が全国一という、名実ともに酪農王国である。オホーツク海側には日本最大の砂嘴(さし)で、野鳥の楽園となっている野付半島があり、野付半島・野付湾・風連湖・春国岱(しゅんくにたい)はラムサール条約湿地に登録されている。野付湾は海の恵みも豊富で、これからの季節、北海シマエビの伝統漁法である打瀬網漁が風物詩となっている。野付半島の先には北方領土が位置し、最も近い国後島までは16kmほどの距離である。町内には、別海駐屯地や国内最大規模の陸上自衛隊演習場である矢臼別(やうすべつ)演習場があり、別海町は防衛関連施設のある町としての顔も持っている。

矢臼別演習場周辺まちづくり構想と生涯学習センター建設計画

 別海町は国の補助事業「まちづくり構想策定支援事業」の採択を受け、平成27年度から、生涯学習センターや防災拠点施設等の整備を含むまちづくりの基本構想の策定が進められてきた。この補助事業は「防衛施設が存在するという地域の特徴を踏まえ、自衛隊員等と住民との文化の交流又は防災等の活動促進を企図したまちづくりを行う場合に、国がその費用の一部を補助」するものである。

 市町村として全国で9番目の広大な面積を有する別海町は、中央部の別海地区・西部内陸側の駐屯地のある地区・東部海岸側の地区と、市街地が3地区に分散し、中心的市街地の別海地区にあっても、にぎわいを実感しにくい状況であると共に、公共施設も老朽化が進んで防災機能が薄れていたという。

「みなくる」の外観
「みなくる」の外観

 このまちづくり構想の一環として、「つどい、ふれあい、つながり、まなびあい~人づくりまちづくりの交流連携拠点」として、築約50年の老朽化した中央公民館の機能を更新し、利便性の向上を図ると共に、町民が集い憩う交流拠点として生涯学習センターの建設が計画された。

生涯学習センター「みなくる」の施設概要

 「みなくる」は、別海地区中心部にあるバスターミナルと会議室等を備えた施設「交流館ぷらと」の近傍に建設された。アイヌ語で笑うという意味の「ミナ」が組み込まれた愛称「みなくる」には、別海町の「みんな」が「来る」施設になって欲しいという願いが込められている。

 「みなくる」は、住民同士の交流・住民と自衛隊との交流の場としての公民館機能、ボランティア活動や高齢者の活動・交流の場としての福祉関係機能、災害時の避難場所やボランティア活動拠点としての防災関係機能など、多機能が複合した施設である。600席規模のホール、大・小2室のリハーサル室、会議室をはじめ、陶芸室、木工美術室、調理実習室、和室・茶室、親子活動室やふれあいいきいきサロン(高齢者の交流スペース)、地域活動団体・サークルやボランティア活動のための団体活動室・ロッカー室等が備えられ、多世代にわたって様々な活動が行える施設となっている。

 設計・監理は石本・エス建築特定設計共同体、建築工事は島影・近藤・みどり特定共同企業体である。永田音響設計は設計・施工段階に室内音響・遮音・騒音防止について音響コンサルティングを行った。

施設のプラン
施設のプラン

遮音計画

 大ホール、リハーサル室2室と、会議室や各種活動室を備えたこの施設において、出来るだけ支障なく各室の同時使用を可能にするための遮音計画として、大ホールの近傍で、かつ会議室に接して配置されたリハーサル室(大)(小)に防振遮音構造を採用した。コンクリート浮床には発泡ポリオレフィン樹脂の防振材を用い、防振遮音壁・防振遮音天井は石膏ボード15mm×3枚貼りで構成した。

 これにより、遮音性能(500 Hz)は、大ホール~リハーサル(大)(小)室間で85dB以上、リハーサル室(大)~リハーサル室(小)間で90 dB以上の高い値が得られており、多くの催し物に対して同時使用が可能な状態となっている。また、リハーサル室(大)~隣接する会議室間は80 dB以上、リハーサル室(小)~直上の会議室間は75 dB以上の値が得られている。

リハーサル室(大)
リハーサル室(大)

大ホールの特徴と室内音響計画

 大ホールは、600席規模の多目的ホールである。客席は、前方のスタッキングチェア席・中央部の移動観覧席・後方の固定席で構成されている。これらの客席を設置する劇場形式で、舞台音響反射板設置時にはオーケストラ、ピアノ等のコンサート、舞台幕設置時には演劇や式典・講演会等にふさわしい鑑賞空間を実現する計画である。今まで中央公民館等で開催されてきた陸上自衛隊北部方面音楽隊の演奏会も、今後、大ホールでの開催が想定されている。また、スタッキングチェア席・移動観覧席を収納した平土間形式は、軽運動や作品の展示等、多目的スペースとして活用できるよう計画されている。

 このホールは、天井や壁面の赤松集成材を用いた木ルーバーが印象的な空間である。客席天井には、舞台照明等の演出機能を担う4列の技術ギャラリーが設置され、各ギャラリーの下面やギャラリー間に数種類の高さの集成材を組み合わせたルーバーを配置することで、視覚的な天井を構成している。音響的な反射面はルーバーから約2.5m上部に設けられている。舞台音響反射板設置時には、音響反射板とこの客席上部の反射面から、客席全体に一様に反射音が到達するように計画した。

 側壁には、2種類の奥行の集成材を交互に配置した木ルーバーが90cm間隔を開けて設置されている。このルーバーの80cm程度背後には音響的な反射面が設けられており、ルーバーと反射面との間に吸音カーテンが設置できるようになっている。この吸音カーテンは上手・下手合わせて約200m2あり、これにより、客席椅子を設置した劇場形式で、催し物に合わせて響きを調整すると共に、主要な吸音要素である椅子が収納された平土間形式において、残響過多を防止する計画である。吸音カーテンは3分割されていて、カーテンを用いない場合は木ルーバーの背後に収納される。カーテン溜まりとなる箇所のルーバーは、その背後にボードを貼ることで、カーテン溜まりの客席空間への露出を抑える仕様とした。

 劇場形式の残響時間(満席時・500 Hz)は、舞台音響反射板設置時に1.8秒(吸音カーテン収納)~1.6秒(吸音カーテン設置)、舞台幕設置時に1.4秒~1.2秒である。

舞台(舞台音響反射板設置時)
舞台(舞台音響反射板設置時)
客席(劇場形式)
客席(劇場形式)
客席(平土間形式)
客席(平土間形式)
側壁の吸音カーテン 大ホール
側壁の吸音カーテン
大ホール

今年10月に正式オープン

 生涯学習センター「みなくる」は、南側駐車場の工事やピアノの購入などの準備が進められ、今年10月に正式なオープンを迎える。それまでの約半年間も、プレオープンという形で限定的ではあるが利用が始められている。

 多世代交流拠点として整備された「みなくる」は別海町にとって待望の施設であり、今後は近隣の「交流館ぷらと」や「青少年プラザ(旧マルチメディア館)」と連携した運用が期待されている。町民の皆さんの活動を支援する施設として賑わいの絶えない場となると共に、町全体の活性化に寄与する施設となることを願っている。(箱崎文子記)