No.406

News 22-04(通巻406号)

News

2022年04月25日発行
施設外観(公園から望む)

「ひらしん平塚文化芸術ホール」のオープン

 神奈川県平塚市に「ひらしん平塚文化芸術ホール」が完成し、今年の3月にオープンした。

 JR平塚駅からほど近い見附台(みつけだい)周辺地区は、多くの市民に親しまれてきた見附台公園や市民センターなどの公共施設が立地し、その公共施設はいずれも老朽化が著しく進んでいた。新しい平塚文化芸術ホールは、旧市民センターの後継施設として、隣接する見附台公園の再整備とともに見附台周辺地区整備事業として計画された。施設は、PFI(Private Finance Initiative)法に準じて設計・施工から維持管理・運営等までの業務を一括して遂行するDBO(Design Build Operate)方式により、大和情報サービス(現:大和ハウスリアルティマネジメント)を代表企業とする特定事業者(設計:清水建設・安井建築設計設計共同企業体、施工:清水建設・エス・ケイ・ディ共同企業体、維持管理運営:ひらつか文化パートナーズ)が選ばれた。永田音響設計は、基本設計段階から、施工段階、竣工時の音響測定まで、文化芸術ホールの音響コンサルティング業務を担当した。施設名は、平塚信用金庫をネーミングライツパートナーとして、「ひらしん平塚文化芸術ホール」となった。

施設外観(公園から望む)
施設外観(公園から望む)
エントランスホール(奥に大ホール、左側に多目的ホールが位置する)
エントランスホール(奥に大ホール、左側に多目的ホールが位置する)

施設概要および遮音計画

施設1階平面
施設1階平面

 ひらしん平塚文化芸術ホールは、1200席の大ホールをはじめ、最大200人を収容できる平土間の多目的ホール、大・小練習室、その他、会議室や和室など様々な室からなり、各室は開放的なエントランスホールに面するように配置されている。大ホール以外の各室のエントランスホール側の壁はガラス面で構成されており、エントランスホールから各室での活動を知ることができる。このように開放的な建築計画の中で、各室を有効に利用するために、各室間の遮音性能の確保が重要な課題であった。大ホールの壁をコンクリートで区画した上で、大音量の発生が想定される多目的ホールと大・小練習室は防振遮音構造(Box in Box)とした。特に、多目的ホールについては、エントランスホール側と外部側の壁に大きな開口部が設けられ、開口部の建具を開け放つと、エントランスホールから多目的ホール、そして隣接する外部の公園までがひとつにつながる計画であった。そこで、エントランスホール側と外部側ともに、固定遮音区画にガラスパーティションを、防振遮音区画に移動間仕切りを設置して、建具で閉じることで防振遮音構造を構成した。開口部の建具を閉じたときには遮音性能を確保するとともに、ひらしん平塚文化芸術ホールでの活動が公園まで広がり、多くの市民を呼び込むことで、文化芸術の力でまち全体の活性化を促す設計コンセプトとなっている。

 各室間の遮音性能は、大ホール~多目的ホール、大ホール~大・小練習室、多目的ホール~大・小練習室間でいずれも85 dB以上(500 Hz)の遮音性能が確保されており、聴感的にも音源側の音を受音側でほぼ検知できず、ほとんどの催し物の同時利用が可能である。

大ホール(舞台反射板設置時)
大ホール(舞台反射板設置時)
大ホール(舞台幕設置時)
大ホール(舞台幕設置時)

大ホールの室内音響計画

 1200席の大ホールは、2層のバルコニー席をもつ多機能ホールである。舞台には可動式の舞台反射板を有し、舞台幕に転換することで、クラシックコンサートから式典や講演会、演劇など様々な演目に対応することができる。また、客席前方にはオーケストラピットを備え、オペラやバレエの上演も可能であるとともに、迫りを舞台面まで上げて前舞台として使用することで、舞台面を広く使うことも可能である。

 舞台反射板設置時のプロセニアム開口の高さは舞台床から約12mで、前舞台やオーケストラピット使用時に演奏者に反射音を返すために、舞台天井反射板から客席側へ連続するように曲面天井を設けた。さらに客席天井は、室容積を確保しながら天井からの初期反射音が均一に客席に到達するよう、大天井の下に浮雲状の曲面天井を設けた。

 客席の側壁は折板形状で、細かいザラツキのある塗装で仕上げられ、さらに平塚の名物である七夕祭りの短冊をモチーフとしたリブが設けられている。大きさの異なる凹凸を設けることで、壁からの反射音を適度に散乱させる計画とした。また、折板形状の段差部分には間接照明が仕込まれており、開演前などには壁がライトアップされ様々な表情を見せる。側壁には、バルコニー席やサイドスポット、テクニカルギャラリーなどを利用した水平面の音響庇を設け、側壁と音響庇を経由した2回反射音を客席に豊富に到達させている。客席後壁については、ロングパスエコーを防止するために、有孔板+グラスウールの吸音面とした。

 大ホールの残響時間(500 Hz)は、舞台反射板設置時で空席時2.2秒/満席時1.8秒、舞台幕設置時では、空席時1.7秒/満席時1.5秒である。舞台反射板を設置したクラシックコンサートでは長めの響きが、舞台幕設置時の講演会では響きが抑えられクリアな拡声が得られている。

大ホール客席
大ホール客席
大ホール客席天井
大ホール客席天井
大ホール側壁の折板形状
大ホール側壁の折板形状

多目的ホールの室内音響計画

 多目的ホールは、最大200人が収容できる平土間のホールである。矩形の平面形状の中に、壁の上部には技術ギャラリーとキャットウォークが設けられている。さらに、天井には昇降式のグリッドバトンが設けられ、照明や音響設備を設置することで、音楽や演劇、ダンス、講演会、レセプション等、幅広い催し物に対応できる。壁と移動間仕切りには反射面が対向しないように互い違いに吸音面を設け、フラッターエコーを防止した。

 多目的ホールの残響時間(500 Hz)は、空室時で約1秒であり、中庸な響きで様々な演目に適した響きが実現されている。

 3月26日(土)、ひらしん平塚文化芸術ホールは開館記念式典と神奈川フィルハーモニー管弦楽団によるコンサートで待望のオープンを迎えた。オープニングコンサートには多くの市民が来場し温かな歓迎ムードの中、ドヴォルザークの「新世界」や、七夕まつりで市民には馴染みの深い、都はるみの「七夕おどり」のオーケストラ編曲バージョンの世界初演が演奏されるなど、大変な盛り上がりを見せた。オーケストラは各楽器の音がたいへんクリアで十分な音量感で客席に届いており、大ホールの音を存分に楽しむことができた。

 ひらしん平塚文化芸術ホールが、市の新しい文化活動の中心になり、活発に利用されることを願っている。(酒巻文彰記)

ひらしん平塚文化芸術ホール:
https://hiratsuka.hall-info.jp/

写真提供:中山保寛写真事務所

多目的ホール(移動間仕切り設置時)
多目的ホール(移動間仕切り設置時)
多目的ホール(ガラスパーティションのみ設置時)
多目的ホール(ガラスパーティションのみ設置時)
大練習室
大練習室