No.399

News 21-09(通巻399号)

News

2021年09月25日発行
施設外観1

やぶ市民交流広場「YBファブ」の完成

 2021年9月、兵庫県養父(やぶ)市に”やぶ市民交流広場”が完成し、オープンを迎えた。

 兵庫県北部の但馬(たじま)エリアを代表する都市である養父市は、2004年に養父郡八鹿(ようか)町、養父町、大屋町、関宮町の4町が合併し、現在の養父市となった。養父市の中心である八鹿地区には、これまで市民の文化芸術や生涯学習の拠点として親しまれていた八鹿文化会館と八鹿公民館があったが、これら2施設の老朽化により、その後継施設として”やぶ市民交流広場”が計画された。

 ”やぶ市民交流広場”は、古くから養蚕と製糸業により、市の産業を支えてきたグンゼ八鹿工場跡地に建設された。やぶ市民交流広場の基本理念である「人と文化と郷土をつなぎ、未来を創る学びと交流の拠点」を実現するために、文化芸術振興、生涯学習、情報発信、まちづくり、市民の憩いという5つの場として、ホール施設、公民館施設、図書館、公園の4つの機能を備えた複合施設となっている。

 施設は、ホール機能としての650席のホールやリハーサル室、音楽スタジオと、公民館機能としての大・中会議室や展示室などからなる”ホール棟”と、市立図書館や公民館機能としての小会議室、和室、調理室などからなる”図書館棟”から構成されている。ホール棟と図書館棟の間に、「小路」と呼ばれる外部空間を挟むことで、日常のさまざまな活動を市民が共有できる計画となっている。また南側には、施設から繋がるように広々とした公園が整備され、子供からお年寄りまでが気軽に立ち寄れ、夏まつりなど地域のイベントも行える場となっている。公園は、四季折々の遊びや活動が安全に行える十分な広さが確保され、水路を生かした親水空間など、緑に囲まれた憩いの空間が整備されている。施設の外観は、養父市の特徴的な景観である切妻屋根とし、屋根材には瓦が用いられ、地場製品である「八鹿瓦」が歴史的、景観的に継承されている。施設の愛称「YB(ワイビー)ファブ」は公募により選定され、ファブにはfabulous(素晴らしい)という意味と、建設地がグンゼ八鹿工場跡地であることにちなみ、fabric(織物)の意味も込められている。

設計は、佐藤総合計画関西オフィス、施工は鴻池組山陰支店である。永田音響設計は、基本設計段階から、施工段階、音響検査測定までの一連の音響コンサルタント業務を担当した。プロジェクトはECI(Early Contractor Involvement)方式が採用され、設計段階に施工者と請負契約を結び、設計に対し施工者が技術協力を行う方法がとられた。

施設外観1
施設外観1
施設外観2
施設外観2
施設外観3(施設南側の公園)
施設外観3(施設南側の公園)
リハーサル室 (外壁のガラスを開け放して南側の公園とつながる)
リハーサル室(外壁のガラスを開け放して南側の公園とつながる)
ホール棟と図書館棟をつなぐ小路
ホール棟と図書館棟をつなぐ小路
市立図書館
市立図書館

施設の遮音計画

 施設内のそれぞれの室を有効に利用するために、各室間の遮音性能の確保が重要である。ホールの周囲の壁をコンクリート壁で区画した上で、大音量を発生する使い方が想定される音楽スタジオについては、防振遮音構造を採用した。
 また、リハーサル室についても、当初は防振遮音構造を提案していたものの、コスト上の理由から防振遮音構造の採用には至らなかったが、リハーサル室とホールの間には4重の防音扉を設けた。

 ホール~音楽スタジオ間については、85 dB以上 (500Hz)の遮音性能が得られ、一般的な催し物の同時利用が可能な性能が確保されている。ホール~リハーサル室間については、防振遮音構造としていないものの、74 dB (500Hz)の遮音性能が得られており、ある程度の音量までの使い方に対しては同時利用が可能な性能が得られている。また、ホール棟と図書館棟の間には特別な遮音構造は設けていないが、別棟で外部空間である小路をはさむことで、75 dB以上(500Hz)の遮音性能が確保されており、図書館における暗騒音に紛れてホールからの透過音はまったく聞こえない状況である。

施設平面
施設平面

ホールの室内音響計画

 650席のホールは1スロープの客席をもつ多目的ホールである。舞台上の音響反射板は、固定壁として仕上げられた正面反射板、観音開き方式で正面から大きく開閉する側方反射板、吊り下げ式の天井反射板から構成されており、動力が必要な舞台機構を最小限とすることで、コストを抑えながら、より良質な音響空間を実現する計画としている。

 舞台側方反射板から連続する扇型に開いた客席側壁は、コンクリート壁がそのままホールの内装壁とされており、細長い凹み部分には間接照明が仕込まれている。また、コンクリート壁には型枠の段差を利用した凹凸が設けられており、側壁からの反射音を高音域において適度に散乱させることを意図した。

 ホールの断面形状については、プロセニアム開口の高さが舞台床から約11.5m、客席の天井は最も高いところで舞台床から13.5mである。この規模のホールとしては余裕のある天井高が確保されており、室容積も客席数に対して比較的大きく確保できている。客席後壁については、ロングパスエコーを防止するために、背後空気層を設けたグラスウールを有孔板で仕上げた吸音構造とした。完成したホールの残響時間は、空席時2.3秒/満席時推定値1.9秒(500 Hz)であり、生音に適した比較的長めの豊かな響きが得られている。また、舞台反射板を収納し、舞台幕を設置した講演会等で使用する形式では、空席時1.4秒/満席時推定値1.2秒(500 Hz)と、十分に響きが抑えられ、音響的に必要な明瞭さが実現されている。

 7/26、養父市の芸術監督を務める文筆家でピアニストの青柳いづみこさんの就任会見が開かれ、午後には指揮者の佐渡裕さん率いるスーパーキッズ・オーケストラ(SKO)による、ホールの音響チェックを兼ねた夏季集中トレーニングが行われた。

 SKOは、兵庫県立芸術文化センターのソフト先行事業として2003年に始まったプロジェクトで、小学生から高校生までの弦楽器オーケストラである。毎年春行われるオーディションで新たなメンバーが加わり、アンサンブル形成の期間を経て晩夏の定期演奏会に望み、その後は様々な演奏会に参加する活動を行っている。国内だけではなく、近隣アジアから通ったメンバーもいたという。今回の合宿は、兵庫県立芸術文化センター楽団部プロデューサーで、やぶ市民交流広場の整備の専門委員を務められた横守稔久さんのアレンジによる。

 この日は、バーバーやレスピーギなど、今年の定期演奏会で披露予定の弦楽合奏の名曲のトレーニングが行われた。低音から高音までバランスの良い暖かい音が客席の隅々まで響き渡り、心地よい時間であった。休憩中に行われたメディア取材で佐渡さんは、「音の色や質が良好で、豊かな響きが感じられる。ネット動画ではなく、空気の振動を感じて、生演奏が楽しめるホール」と語っておられた(7/27付神戸新聞)。

ホール(舞台音響反射板設置時)
ホール(舞台音響反射板設置時)
ホール(舞台幕設置時)
ホール(舞台幕設置時)
客席側壁のコンクリート壁と間接照明
客席側壁のコンクリート壁と間接照明
SKOの夏季集中トレーニング
SKOの夏季集中トレーニング

 養父市には、チェロコンクールで有名なビバホール他、4町合併前のそれぞれの街に特徴的なホール・劇場がある。新たに、やぶ市民交流広場も加わり、地域に根ざした今後の活動に期待したい。(酒巻文彰記)

やぶ市民交流広場(YBファブ): https://www.city.yabu.hyogo.jp/bunka/index.html

(写真提供:荒木 義久)