No.395

News 21-05(通巻395号)

News

2021年05月25日発行
施設外観(石巻市提供)

石巻市複合文化施設「マルホンまきあーとテラス」オープン

 東日本大震災から10年を迎えた今年3月、石巻市複合文化施設が完成し、開館記念式典と柿落とし公演が行われた。

 宮城県石巻市は、東日本大震災において津波により市の中心部が甚大な被害を受け、市民の文化の中心でもあった旧石巻市民会館と石巻文化センターもまた大変な被害を受けた。新しい石巻市複合文化施設は、これらの2施設の機能を統合した後継施設として計画された。

施設概要

 石巻市複合文化施設は、津波被害の及ばなかった市街地の北東部、既存の総合運動公園などが立地する地区に計画された。芸術文化センター機能と博物館機能が集約されている。

 前者は、大・小ホールとその付属室、および活動室(練習室)・研修室・創作室などの生涯学習施設で構成されている。後者は石巻文化センターの後継施設として、常設および企画展示室、市民ギャラリーなどからなり、石巻の文化、歴史、震災の記憶を伝えるほか、地元出身の彫刻家高橋英吉の作品や、民俗・考古資料の毛利コレクションを常設展示している。

 施設外観は、旧北上川に沿って三角屋根の建物が立ち並ぶ昭和初期の風景をモチーフとし、背後の山並みと調和して遠くからでも目を引かれる。

 設計は藤本壮介建築設計事務所、施工は大成建設・丸本組特別共同企業体である。永田音響設計は、基本設計から竣工時の音響設計まで一連の音響コンサルティング業務を担当した。

 施設の愛称は公募により「まきあーとテラス」が選定され、施工JVを構成した地元の建設業(丸本組)のネーミングライツとともに「マルホンまきあーとテラス」となった。

施設外観(石巻市提供)
施設外観(石巻市提供)
施設外観(夜景)(石巻市提供)
施設外観(夜景)(石巻市提供)
施設1階平面図
施設1階平面図

施設の遮音計画

 芸術文化センターには、大・小ホールや活動室といった様々な室が収容されている。それぞれの室を有効に利用するためには、各室間の遮音性能の確保が重要である。平面的に大・小ホール間の距離をできる限り離すため、コンクリート造である両ホールの間に、鉄骨造の楽屋や、活動室などの生涯学習センターの諸室が配置されている(大・小ホール間の離隔距離30m強)。どちらにも防振遮音構造を採用していないものの、大~小ホール間において一般的な催し物の同時使用が可能な80dB以上(500Hz)の遮音性能が得られている。

 4つの活動室には、大・小ホール、他の活動室や研修室との同時使用ができるように、防振遮音構造を採用した。この内3室は、大きなガラス窓を介してロビーと接する開放的な空間である。さらに2室は大きなガラス窓で南側外部にも開いている。これらのガラス面は、コインシデンス効果による遮音性能の低下を防ぐために厚さの異なる3重ガラス(固定遮音層側に2重、浮き遮音層側に1重)とした。活動室~大・小ホール間で80dB以上、活動室~活動室相互間で85dB以上(いずれも500Hz)の高い遮音性能が得られている。

ロビーに面した活動室のガラス(活動室内より)
ロビーに面した活動室のガラス(活動室内より)
夕景(手前連窓が活動室)(石巻市提供)
夕景(手前連窓が活動室)(石巻市提供)

大ホールの室内音響計画

 大ホールは、1層のバルコニー席を持つ1254席の多目的ホールである。舞台には大型の音響反射板を有し、舞台幕に転換することで、クラシックコンサートから演劇や講演会等まで幅広いジャンルの催し物に対応できる。さらにバルコニー先端ラインに沿って電動のカーテンを引き出すことで、1階席のみを使用した812席の中ホールとしても利用でき、市民がより使いやすいホールとなるような配慮がなされている。このカーテンを設置した際も、ピンスポットの照射に支障がない位置にカーテンレールおよびその支持部材が設定されている。

 客席の壁と天井は黒色仕上げで、サイドスピーカや舞台照明器具も同系統色で目立たず観客は舞台に集中できる。逆に、”こもれび”と呼ばれる演出用の照明を壁に照射することで、様々な表情を作り出すことができる計画となっている。

 音響反射板設置時には、天井反射板と客席天井を曲面で滑らかにつなげることで、上方からの反射音を客席に有効に届け、また客席側壁は折板形状とし、その中にいくつかの音響庇を設置することで、壁からの反射音をより多く客席に届ける計画とした。また、客席側壁と天井については、ざらつきのある塗装とすることで高音域において反射音を適度に散乱させることを狙った。ロングパスエコー防止のために、2階バルコニー席の後方壁に背後空気層を設けてグラスウールを設置した以外は、壁・天井とも反射性の仕上げとした。前述の客席カーテンは、できるだけ薄地で音響的に透過性のあるものとし、収納/設置の条件でホールの音響性能が大きく変わらないように配慮した。

 音響反射板を設置した状態の残響時間は、カーテン収納時で2.0秒/1.7秒、カーテンを設置した中ホール利用時で1.9秒/1.7秒(いずれも空席時/満席時、500Hz)である。

大ホール客席側(客席カーテン収納)
大ホール客席側(客席カーテン収納)
大ホール客席側 中ホール利用時(客席カーテン設置)
大ホール客席側 中ホール利用時(客席カーテン設置)
大ホール舞台側(舞台反射板設置時)
大ホール舞台側(舞台反射板設置時)
大ホール側壁の音響庇
大ホール側壁の音響庇

小ホールの室内音響計画

 小ホールは、移動観覧席を持つ300席の多目的ホールである。矩形の基本形状の中に、天井にはキャットウォークを露出で設け、そこに照明やスピーカが取り付けられている。客席の前方席は、客席椅子を取り外し、手動でユニット床を組むことで、平土間のホールとして利用することも可能である。舞台については、側壁を手動で開き簡易的なプロセニアム形式を作ることができる。側壁は折板形状とし、側壁間の往復反射によるフラッターエコーを防止している。

 客席後壁には、ロングパスエコー防止のため、背後空気層を設けてグラスウール25mmを設置したほか、平土間利用の場合の響きの均一化を意図して天井にもグラスウール25mmを分散的に配置した。上手側壁のキャットウォークの上部には厚手の吸音カーテンを設置し、それを引き出すことで響きを調整することができ、長い響きが求められるクラシックコンサートから、短めの響きが求められる講演会まで、多目的な利用に対応できる。

 移動観覧席設置時の残響時間は、吸音カーテン収納時の最も響きの長い状態で2.1秒/1.7秒、吸音カーテンを設置し舞台の側壁も開けた最も響きの短い状態で1.6秒/1.4秒(いずれも空席時/満席時、500Hz)である。響きの長さの点でも様々な演目に利用しやすいホールとなっている。

小ホール舞台側(石巻市提供)
小ホール舞台側(石巻市提供)
小ホール舞台の壁を開く
小ホール舞台の壁を開く

ロビー空間

 この施設のもうひとつの特徴は様々な室を結ぶ南側の長いロビー空間である。その東側に位置する大ホールのロビー階段は、天井が高く、外光が入るとても気持ちのよい空間である。一般的にロビー空間は吸音して響きを短めとすることが多いが、ここでは特に吸音は設けていない。天井が高いこともあって響きは長めだが、とくに違和感はなく気持ちのよい響きである。この大ホールロビーでは山形交響楽団のメンバーによる金管アンサンブルのコンサートなども行われ、その気持ちのよい響きが活かされている。

 また、小ホールロビーは、壁・天井をあえて仕上げず下地材を表しとすることで、展示などにも利用しやすい空間となっている。

 長引くコロナ禍ということもあり、いまだ実際の公演における響きを確認できていないのが残念でならない。市民の文化と憩いの中心として、”まきあーとテラス”が活発に利用されることを願っている。(酒巻文彰記)

大ホールのロビー階段(石巻市提供)
大ホールのロビー階段(石巻市提供)
小ホールロビー(石巻市提供)
小ホールロビー(石巻市提供)

マルホンまきあーとテラス: https://makiart.jp/