KDDI維新ホール「山口市産業交流拠点施設」
KDDI維新ホール「山口市産業交流拠点施設」は、山陽新幹線およびJR在来線の駅である「新山口駅」北口の駅前広場西側に位置し、イベント型の多目的ホールであるメインホールを中心とした新たなビジネスを創出する施設としてこの3月に完成を迎え、3月29日(日)に完成記念式典が行われた。新山口駅はかつての小郡駅で、地域の市町村合併に伴い「新山口」と改名、新幹線、山陽本線と山口線の通る山口市(山口県)の陸の玄関口であり、交通結節点としての機能を担っている。本施設は、新山口駅と自由通路で繋がる至便の敷地に計画された。
施設概要
本施設の整備にあたっては、公共施設の設計・建設・維持管理・運営および民間収益施設の整備・運営を一体的に担う事業者を公募型プロポーザルにより選定する方法で行われた。事業者として、森ビル都市企画(株)を代表企業とするグループ((株)アール・アイ・エー[設計・監理、プロジェクトマネジメント]、大成建設(株)[建設]、積水ハウス(株)[建設、民間施設の整備・管理運営]、(株)コンベンションリンケージ[運営・維持管理])が選ばれた。永田音響設計は、メインホール、メインスタジオ、音楽スタジオ等の室内音響、遮音、設備騒音防止について、設計から工事完了時の音響測定までの一連の音響コンサルティング業務を行った。この公共施設にはメインホール、会議室、スタジオ、音楽スタジオ、産業支援機能、シェアハウスなどのほか、メディカルフィットネス事業と、医療事業(クリニック)の健康産業支援施設、アカデミーハウスが、また民間収益施設として集合住宅などが計画提案され、多機能複合施設が実現されている。
施設の特徴
メインホールは、山口県内最大の約2,000席の収容能力を有するイベント型多目的ホールで、移動席の収納や固定席の後方を閉鎖することにより1,200席と1,500席の形式にも設定できる。また移動席をすべて収納することで、1,000平方メートル程度の平土間となる。利用目的としては、ポピュラーコンサートからミュージカル、セミナーや講演会、ライブビューイングなどが想定されるが、施設内の大小12の会議室等と組み合わせることで、各種学会や国際会議、コンベンションなど様々な用途に対応できるMICE施設となる。
メインスタジオは、音楽バンドの練習や演劇、ダンスのレッスン、小規模な発表会や市民の作品展示会などの市民活動の場となるとともに、メインホールの付属施設として、コンサートのリハーサル室、あるいは物品販売会場など、様々な利用が想定される。また、音楽スタジオ2室はバンドや個人での楽器練習などに利用されることを想定し、アップライトピアノ、ドラムセット、アンプ類を備えている。この音楽スタジオの2室だけで独立した建物となっており、ほかの施設に対する音漏れを気にすることなく利用することができる。
本施設は山口市の施設であるが、メインホールの舞台と3、4階で隣接するオフィスには、山口県の機関である「やまぐち産業振興財団」や国の機関である「山口新卒応援ハローワーク」などが入居している。
アカデミーハウスは、これまでの公共施設には見られなかった若い方々を対象とした居住型の人材育成施設(シェアハウス)で、ここで生活する1年間で山口地域を牽引する新しい時代のリーダーとなりうる自立した人材を育成するとともに、 地元の企業や起業家、大学、地域、行政等との人的な交流・コミュニティ作りを通じて、人材の地域定着を図っていくことを目的としている。
遮音計画
本施設の敷地は、新山口駅及び鉄道軌道に近接しており、新幹線も含むその騒音対策が課題であった。その対策の基本となる施設の配置計画として、最も静けさが必要なメインホールを鉄道から離れた位置に配し、手前(鉄道軌道側)に産業交流スペ−スや会議室の入る建物を配置した。さらにその間にエキスパンションジョイントを設けて1階床より上の構造体の縁を切ることとした。すなわち、鉄道側の建物にメインホールの防音壁の役目をもたせた。その結果、メインホール内では新幹線を含め鉄道走行音はほとんど聞こえない。産業交流スペ−スや会議室での鉄道走行音は、ピークレベルでNC-35程度であり、会議室としての機能に対し特に支障となるレベルではないと考えている。また、メインホール舞台に隣接するオフィスとの間にも同様の構造を採用した。これらの遮音計画により、いずれの室間においても遮音等級でDr-80~85の高い遮音性能が得られている。本施設の運営をされるコンベンションリンケージの担当の方は、竣工時の遮音測定でその効果を聴感的に確認され、メインホールでコンサートが行われていても、会議室で学校の入学試験にも利用できる、と確信を持たれていた。
メインホールの室内音響計画
メインホールは上記のような利用目的から、舞台音響設備からの音を最大限生かすべく、壁からの強い反射音を制御するために、スピーカの高さより下の壁面はすべて吸音面(グラスウール50mm貼)としている。また、スピーカより上の壁と天井については、吸音面と反射面を分散配置している。残響時間は、約2,000人着席時で0.8秒/中音域、移動椅子を収納した平土間の空室状態で1.0秒/中音域である。当初の計画からの使用目的に適した残響時間となっている。
今後の運営
日本各地の都市において、地域活性化の柱として多くのビジネスイベント会場となるMICE施設が計画されている。地元の活性化には単に観光客を増やすのではなく宿泊客数が重要で、その有効な策としてMICEの振興が考えられている。MICEで行われる各種大会やコンベンションへの参加者の大部分が宿泊することになる。新幹線停車駅前という地の利を生かし、MICEとしての機能を有する本施設を活用することで、新たな交流を生み出すとともに人と人とのネットワークを構築し、日常的なにぎわいが創出されていくことになろう。
3月29日の完成記念式典では式に先立って、地元山口高校の、牛島惇さんのピアノ演奏が行われた。牛島さんは、これまで様々な音楽コンクールで優秀な成績を収めており、これからの活躍が期待されている高校1年生である。この日聴いた牛島さんの演奏は、将来日本を代表する音楽家になることを想像させるような素晴らしい演奏だった。彼の名前を憶えておきたい。
本施設はポピュラー系コンサートを主体とする音響的にデッドな空間であり、この日のピアノ演奏は拡声されていたが、その拡声音は実に自然で、生楽器による演奏会の可能性を感じた。今後、KDDI維新ホールが多くの方に幅広く利用されることが期待される。(小野 朗記)
KDDI維新ホール:https://ishinhall.com/hall/