1万人の音楽アリーナ「ぴあアリーナMM」 誕生!!
横浜みなとみらい21地区に、「ぴあアリーナMM」が誕生した。ぴあアリーナMMは、チケット販売業大手のぴあ株式会社が計画した最大収容人数12,141人の音楽アリーナで、1万人規模の会場を民間企業が建設と運営を含めて単独で手がけるのは、国内初である。
ぴあアリーナMMの建設の背景には、ライブ・エンターテインメント業界の急成長がある。ライブ・エンターテインメントの市場規模は、この5年で約2倍と急成長を遂げてきた。一方、大人数を収容できる大型ホールの老朽化に伴う大規模改修工事や閉鎖、東京オリンピックの開催にあたり、コンサート会場の不足が問題となっていた。そのような背景から、ぴあ株式会社は、自ら1万人規模の音楽アリーナの建設に踏み切った。
ぴあアリーナMMは、交通の利便性や、街と共生するアリーナ事業の展開を目指し、横浜みなとみらい21地区という市街地の中の、12,000m2という限られた敷地に建設された。この敷地内に1万人規模のアリーナを配置するのは、アリーナから隣地までが近いことから、客や搬入の動線計画、駐車スペースの確保、また施工段階における資材の搬入計画など、様々な困難を伴うものであったが、それらの課題がひとつひとつクリアされて実現されている。また、アリーナ以外にも、開演前や終演後のひとときを楽しむためのラウンジやレストランといった施設も備えられている。設計は佐藤工業株式会社、株式会社とお一級建築士事務所、施工は佐藤工業株式会社である。永田音響設計は、施主からの依頼により、設計から施工段階における音響コンサルティング業務、および竣工時の音響検査測定を担当した。
横浜みなとみらい21地区では、既存の横浜みなとみらいホール大ホール(2,000人)とパシフィコ横浜国立大ホール(5,000人)に加えて、新たに、ぴあアリーナMM(1万人規模)、KT Zepp Yokohama(2,000人規模)が今年春に完成し、さらに、2万人規模の音楽アリーナ(ケン・コーポレーション)の計画も進行中である。まさに、みなとみらい21地区全体が、ライブ・エンターテインメントの街として発展を遂げようとしている。
本アリーナは、平土間のアリーナ席を3層のスタンド席が張り出すように3方を取り囲み、客席ができるだけコンパクトに配置されている。スタンド席の最上段・最後部からでも、比較的ステージ側が近く感じられる。また、ステージが固定されている通常のホールとは違い、固定のステージや舞台設備(舞台装置、音響、照明)を持っていない。その代わりに、天井には132か所の吊りポイントが設けられ、キャットウォークで吊りポイントに容易にアクセスして、仮設で舞台設備をセットできる。ステージ・客席を含んだアリーナ全体を演出空間にすることが可能となり、自由な演出に対応できる計画となっている。また、すべての吊ポイントには荷重チェック装置が整備され、効率的かつ安全に配慮して舞台装置をセットできる。
本アリーナは、1万人規模の大空間であることから、音響的な課題も多くあった。音楽アリーナとして、大音量の発生音を伴うコンサートでは、施設周辺への音の伝搬に配慮する必要がある。特に、屋根の面積が大きいため、周辺への音の伝搬に対しては屋根の寄与が大きく、遮音性能の確保のためにはできるだけ重たい屋根としたいところである。一方で、構造的には、屋根の荷重負担が大きく、できるだけ軽い屋根としたい。本アリーナでは、壁まではコンクリート造であるが、屋根は構造面から乾式工法が採用された。設計段階において、アリーナ内で大音量のコンサートを想定した発生音を仮定し、施設周辺への音の伝搬をシミュレートし、屋根仕様の検討を行った。音響面からはできるだけ重たい屋根としたい思いはあったが、構造・コスト面から限界があり、高速道路や鉄道が敷地に近く、屋外の暗騒音も比較的大きい状況であったことも考慮し、高圧木毛セメント板25mmを主構造とする屋根仕様となった。壁については、コンクリート壁に設置される大型の搬入口や、客動線となる多数の客席入口扉の遮音性能とその仕様が課題であった。ステージ側に大きく開く搬入用のシャッターについては、アリーナから外部に対して、荷捌きスペースを介して3重の防音シャッターを設けた。また、荷捌きスペースは、音の伝搬途中での減衰を意図し、壁面を吸音仕上げとした。竣工時において、アリーナ内に大音量を伴うコンサートを疑似的に再現したスピーカを仮組みし、敷地周辺で透過音の確認を行った。地上レベルの敷地境界における透過音は、鉄道や道路交通騒音などの暗騒音に紛れ、意識しないとほとんど分からない程度に低減していることを確認した。
アリーナは大人数を収容するために、室容積が大きくなり、室容積に比例する残響時間は長くなりやすい。また、一般的にロック・ポップス等のコンサートでは、とくに低音域の拡声音が大きいため、低音域の残響をどう抑えるか、すなわち低音域の吸音をどう確保するかが重要となる。本アリーナでは、壁面については、2階以上の壁面の建具以外の面や、スタンド席下の天井面など、できるだけ多くの面積を吸音とし、天井は低音域の吸音のために、屋根の内側に、グラスウール25mmを背後空気層300mmほど確保して設置した。客席椅子については、客席での飲食を伴う使用に対して、その耐久性などに課題があるなか、アリーナ席・スタンド席とも、背と座をクッション貼りとし、快適性を確保するとともに、空席時にも吸音が確保できる仕様とした。残響時間は、1万人収容時において1.8秒程度(500Hz)であり、また、低音域の残響も十分に抑えられていることを確認した。
ぴあアリーナMMの当初のオープンは4月の予定であったが、新型コロナウィルス感染症による緊急事態宣言中であったため、大幅な延期を余儀なくされた。7月10日に、当初のこけら落しコンサートを予定していた”ゆず”による無観客の演奏動画が配信されオープンを迎えた。無観客の映像には寂しさを感じながらも、ゆずの「栄光の架橋」は素晴らしく感動的であった。コロナ禍はまだ収束を見せておらず、公演の延期や中止も続いている。我々も、いまだコンサートでの実際の音を聴くことができていないのが残念でならない。コンサートは、やはりライブで観て聴いて楽しんでほしいという思いがあるものの、感染症の拡大防止の観点からは難しい状況が続いている。コロナのできるだけ早い収束とライブ・エンターテインメントのこれまで以上の盛り上がりを切に願っている。(酒巻文彰記)
ぴあアリーナMM:https://pia-arena-mm.jp/