防府市公会堂リニューアルオープン
10月3日、大規模改修工事により休館していた防府市公会堂がリニューアルオープンした。この改修計画の設計・監理は(株)佐藤総合計画、施工は(株)熊谷組・澤田建設(株)・山陽建設工業(株)共同企業体である。工事自体は、2020年4月に竣工したものの、コロナ禍により開館が順延されていた。
施設概要
防府市は、山口県の中南部、瀬戸内海に面し、古くから周防の国の国府として栄え、また、交通の要衝として発展した歴史のある街である。日本三天神の一つ防府天満宮の門前町としても有名である。
本公会堂は、佐藤武夫氏の設計による建築である。開館当時のパンフレットを見ると、「この公会堂は当時日本建築学会会長として、また音響の権威者である佐藤武夫博士の設計により、現代建築技術の粋を集めて建設し最新の施設をもつもので、1960年10月15日に開館しました。したがって、この公会堂は合理的な機能と完全な防音装置を備え、加えて舞台照明装置は、名実共に中国随一を誇るものでありまして、一般的会合は勿論のこと、音楽、舞踊、歌舞伎、演劇等の催しものには最適であります。」とある。
1612席の本公会堂は、当時この地域で最大規模のホールであり、舞台設備等も充実したものであった。打ち放しコンクリートによる水平線が特徴的な建物のファサードは、フライタワーまで含めて高さが抑えられている。このことから住宅街にありながらも周囲を圧迫する印象はなく、また、象徴的な時計塔との高さの対比が、シンボリックでありながらも街に溶け込んでいる。建設当時はおそらく周囲の建物の数も少なく塔も施設そのものも、街におけるランドマーク的な役割も担っていただろう。筆者が初めて訪れたのは、2017年の6月である。竣工から57年の年月が経ち、やはり汚れや傷みは随所に見られたものの、建築が持つ魅力は衰えを感じさせなかった。
施設前面には広場があり、来館者はこの広場を通って公会堂にアプローチする。そして、ピロティ空間を通ってホールのホワイエに至る。右の写真に見えるルーバーの背面には、木毛セメント板が設置され、適度に吸音されていた。そのため、ホワイエ内部は落ち着いた響きであった。コスト上の制限から、一般諸室の吸音の優先順位が低くなることが多いのが昨今の実情である。本施設も、潤沢に予算があって建設されたという印象はないが、随所に見られる音への配慮は、佐藤武夫先生ならではといったように感じる。
室内音響の改修計画
本公会堂は、講演会はもちろん、クラシック音楽、演劇等様々な催し物に利用される施設として古くから市民に親しまれている。1998年、防府駅前の防府市地域交流センター「アスピラート」(客席数602席、音楽専用ホール)(本ニュース131号(1998年11月))が完成してからは、クラシック音楽の公演はアスピラートで多く行われるようになったものの、客席数1500席クラスという規模は、やはり重宝されるようで、人気演奏家の公演やブラスバンド大会など、大規模な催しはこちらで行われてきた。しかしながら、昨今では、ホールの響きが短く、生音のオーケストラやピアノ、器楽、声楽には適さないという考えが根付いてしまっているようである。確かに、ホールを訪れた時に聴いた響きは短く感じられた。佐藤武夫先生が計画された側壁のスリットレゾネータと呼ばれる吸音パネルや有孔板など、響きを抑える要素がホール全体にちりばめられていたことからも、建設当初の方針としては、公会堂に求められる式典・講演会等利用時の明瞭な響きを目指して設計されたように思われる。
改修設計においては、耐震補強、現行法の適合化、ユニバーサル環境の構築がテーマでもあったが、時代に合わせて音響性能の向上も求められた。特に、要望のあった生音の音楽利用にも適した響きを得るために次のような検討を行った。
- 有用な初期反射音をより均一に得るために、天井及び側壁形状を変更
- 残響時間伸長のために、スリットレゾネータ/後壁/床等の吸音を反射仕様に変更
- 天井の波板スレート板による特定周波数での特異音軽減のために、大波と小波の2種類の仕様を採用し、これをランダム配置
- フラッターエコーを軽減するために、側壁下部にランダムリブを設置
- 客席椅子の数、仕様変更に伴う等価吸音面積の確認
既存の公会堂が持っていた、木の温かみと小叩きコンクリートの表情、独特な波形スレートの持つシャープなイメージを残しつつ音響性能の向上を図るのはなかなか難しいこともあったが、最終的には佐藤総合計画の意匠的な整理により、今までの防府市公会堂が持つイメージを継承しつつ音響性能の向上ができたのではないかと思っている。
舞台反射板設置時の残響時間としても、改修前の残響時間1.1秒/0.9秒(空席時測定値/満席時推定値)に対し、改修後の残響時間は1.7秒/1.4秒と、大幅な残響時間の伸長が達成できた。今回の改修では舞台設備の大規模改修にまでは及んではないが、舞台反射板の今後の改修によって更なる残響時間の伸長が期待できるものと考えている。また、舞台幕設置時の残響時間についても改修前の残響時間1.0秒/0.8秒に対して改修後は1.5秒/1.3秒と、伸びてはいるものの、式典・講演会など公会堂としての主たる催し物に適した響きの長さの範囲にあると考えている。
遮音性能の改修計画
本公会堂はホールの客席両側に楽屋、会議室等が3層にわたって隣接して配置されている。本改修計画ではホールと隣接会議室の同時使用に関しての遮音性能の向上も課題となったが、そのためには抜本的な改善が必要であり、構造的/コスト的にも大きく負担がかかる。ここでは、隔壁間に廊下を設けるなどの遮音区画の再設定と、各区画を構成している防音建具の更新、また、事前調査で判明した遮音性能の欠損箇所を補修することで、60~70dB程度(中音域)までの遮音性能の改善をはかった。
オープニングイベント
リニューアル後の開館の記念式典が、10月3日に執り行われ、式典後には、地元の小中学校の生徒による吹奏楽の演奏会が行われた。コロナ状況下で、我々は出席することはできなかったが、出席した方からは迫力、音の響き共に十分だったというお話を伺った。
また、翌日10月4日には「リニューアル記念 防府市公会堂の裏側(ほぼ)全部見せます!」と題し、舞台設備の操作体験等、公会堂すべてを開放した見学会が催され、感染症対策をとりながらの実施であったが、大変盛況であったと聞く。市民の新しい公会堂への期待が伺える。
1960年当時のパンフレットには「近代的な感覚にマッチする美しさと爽快な雰囲気を有する。」とあり、その継承、発展が実現できたものと考えている。
なお、防府市公会堂はこの度の改修計画が評価され、グッドデザイン賞2020を受賞した。昨今、改修案件が多くあるが、新築とは異なった”価値”の吹き込み方についても考えさせられるプロジェクトであった。(和田竜一記)
防府市公会堂HP:http://hcpf.sakura.ne.jp/
防府市公会堂グッドデザイン賞受賞概要:https://www.g-mark.org/award/describe/50991