No.388

News 20-07(通巻388号)

News

2020年07月25日発行
開演前のステージ

新型コロナウィルスの社会的な影響に鑑みて、今年の4月から本ニュースの発行を中断していました。緊急事態宣言の解除後、ここにきてまた感染者数が増えつつある状況ではありますが、ニュースの発行を再開いたします。しばらくは不定期発行となる可能性がございます。

コロナ禍と演奏会

東京交響楽団 川崎定期演奏会 第76回

 6月26日、東京交響楽団にとって緊急事態宣言解除後の最初の定期演奏会がサントリーホールで行われた。そして1日おいた6月28日、同一の出演者・プログラムの川崎定期演奏会がミューザ川崎シンフォニーホールで開催された。いわゆる「3つの密」(密閉、密集、密接)を避けるための最大限の対策を行いながらのコンサートであった。ここではその様子を紹介したい。

前売りチケット

 密を避けるための座席変更、払戻、寄付の選択肢から座席変更を希望し、合わせていつもの正面2階席から1階正面席への変更もかなった。着席可能な席は、前後・左右ともに隣り合うことの無いように、上から見て市松模様に配置され、ゆったりとコンサートを楽しむことができた。

入場

やはり密を避けるということで、開場は開演1時間前からと案内され、マスク着用、ソーシャル・ディスタンシング用の床目印、サーモグラフィーによる体温チェック、迎える側のフェイスマスク着用など、様々な感染防止対策が行われていた。また、モギリとプログラム・ピックアップは聴衆自らが行うことを、いつもはモギリをしてくれるレセプショ二ストから案内され少し戸惑いを覚えた。

開演前のステージ
開演前のステージ

休憩時間

 いつものようにドリンクコーナーを利用したいところではあったが、密を避けるということで同コーナーお休み。またショップも閉じていて、やや手持ち無沙汰であった。化粧室入口前の通路はカーペット敷のため、ソーシャル・ディスタンシングの目印は壁に控えめに付けられていた。密を避けるという意味で少し困ったのは、コロナ対策で手洗いにかかる時間が長くなると順番を待つ列ができてしまうが、化粧室内にその余裕までは想定されておらず、混雑が目立ったことである。

演奏

 指揮は飯守泰次郎さんで、曲目は前半がベートーヴェンの「プロメテウスの創造物」序曲とピアノ協奏曲 第3番(ピアノ独奏 田部京子さん)、後半はメンデルスゾーンの交響曲 第3番 イ短調「スコットランド」であった。

 オーケストラは弦楽器5型、管楽器2管編成、打楽器の編成で、ピアノ移動のスペースを設けるためか、舞台先端から2mほどセットバックして配置されていた。また、コントラバス以外の弦楽器はフラットに配置されてオーケストラ全体が平面的で、ダイナミックな客席配置に比べて大人しいイメージを持った。

 指揮者とソリストはマスク着用、弦楽器もマスクを着用していた。互いの間隔は通常より30cm広くとったとのことであるが、2人で一つ譜面台を使っていたことからそれほど拡がっているようには見えなかった。さすがに管楽器はマスク着用では演奏できそうになく、足元には吸水シート(ペットシート?)が見えた。互いの間隔はやはり広めに見えたが編成が小さいのでオーケストラ全体の眺めに違和感はなかった。

 演奏前・後の奏者どおしの握手はいわゆるエアーと呼ばれる接触無しの挨拶で、聴衆からのブラボーも無し。拍手のみがこれまで通りで、久しぶりの生演奏に接したこともあり、長く熱い拍手が送られていたように思う。

退場

 終演後は階ごとに順番が案内されての退場となった。出口付近が混み合うこともなく整然とした退場風景であった。

 以上、緊急事態宣言解除後の演奏会の様子をお伝えした。まさに、“最大限の感染予防と拡大防止のための対策”を実施した上での演奏会であった。宣言継続中には様々なメディアを通して音楽を楽しむことはできたが、演奏者と聴衆が同じ空間にいて音楽を聴くライブの感覚は他に変えがたい。今回久しぶりにその感覚を味わったが、様々な制約の中いつもは感じない緊張を伴うものでもあった。以前のように純粋に音楽を楽しめる日が戻ってくることを願ってやまない。(小口恵司記)

退場に関する掲示
退場に関する掲示

新日本フィルハーモニー トリフォニーシリーズ 第622回定期演奏会

 7月10日、新日本フィルハーモニー(以下、新日フィル)の第622回定期演奏会が催された。イベント開催制限緩和ステップ3となりプロ野球の有観客試合も再開されたこの日、新日フィルは本拠地すみだトリフォニーホールに約5ヶ月ぶりに戻ってきた。この日のコンサートは2019-2020シーズン定期公演の最終公演で、指揮にラルス・フォーク氏を迎え、弾き振りでのベートーヴェンのピアノコンチェルト「皇帝」と、ブラームスの交響曲1番の予定だった。しかしフォーク氏は出入国制限により来日できず、プログラムはそのままで指揮は尾高忠明氏、ピアノは清水和音氏により公演が行われた。

 緊急事態宣言解除後、感染防止対策をとりながら徐々にコンサートが始められている。定期会員のチケットを持っていたのだが、公演に先立ち、出欠伺いの案内が届き、出席の返事をすると、新しいチケットが届いた。また、当日の注意事項(ソーシャルディスタンス確保やマスク着用、ブラボー等のかけ声の自粛、等々)や緊急時に備えた住所等の連絡先を提出する用紙も同封されていた。

 コンサート当日は、来場時の密を避けるため、開場時間はいつもより30分早く開演1時間前であった。入口での検温、手指消毒の用意、チケットは自分でもぎって箱にいれ、パンフレットもいつものような手渡しは避けて各自ピックアップするなどの対策がとられていた。聴衆間の距離確保のため、客席は前後左右に一席ずつ座らない席を設定し、座らない席には写真のような墨田ゆかりの北斎による図柄が用いられた使用休止の表示があった。定期公演ということで、聴衆同士で顔なじみの方もいらっしゃるようで、距離はとりつつも、しばらくぶりの再会を喜ぶような姿も見られた。筆者の席は1階の通路より後ろで、そこから見ると前方の両サイド席の聴衆こそ少し少なめであったが、そのほかは用意されていた座席のほとんどが埋まっていた。バルコニー席にも聴衆の姿は見えていた。後で、前述の住所を記載した用紙を提出する際に、今日の来場者はどのくらいですか、と聞いたところ、その日の来場者数は約500人とのことであった。ちなみにトリフォニーホールの客席数は1,800席である。

入口の様子
入口の様子
使用休止の席の表示
使用休止の席の表示

 この日の曲目は大きな編成ではなかったものの、オーケストラは舞台全体に拡がって配置されていた。普段であれば弦セクションの譜面台は2人に1台だが、この日は1人に1台。左右の椅子と椅子の間には1席の間隔があけられており、前後はさらに弓で前の人を突くことはできないぐらい間隔がとられていた。

 ベートーヴェンのコンチェルトが始まり、しばらくぶりに聞くピアノの生演奏に迫力を感じた。後半のブラームスではオーケストラの音に包まれる感覚、コンサート会場での醍醐味を久しぶりに楽しんだ。ただそれも、演奏が終わった後の拍手の音で、現実に引き戻された。拍手の音は大きかったが、それはいつものような大人数での拍手の響きとは違っていた。

 指揮の尾高氏は演奏終了後、聴衆の拍手に応え、袖から舞台に戻って「やっとトリフォニーに、新日フィルが戻ってきました。たくさんに“見える”お客さまで幸せです」と挨拶された。聴衆はそれに、さらに大きな拍手とスタンディングオベーションで応えた。終演後は一斉退場ではなく、アナウンスにしたがい分散して退場し、密を回避する対策がとられていた。

休憩時の舞台の様子
休憩時の舞台の様子

 トリフォニーでの定期公演は2日連続での公演となっており、10日が初日で翌11日にも同じプログラムが行われた。11日の公演はライブ配信もされており、直接ホールに行くことがかなわない人もライブ配信でコンサートを楽しむことが出来たようである。コンサート来場者には、11日の公演の録画を見ることができるおまけがついていた。動画配信では、リハの風景や団員からのコメントなども入っていた。その中でトロンボーン奏者の山口尚人氏は、「ソーシャルディスタンスをとった配置に関しての心配はなかったが、久しぶりのホールでの演奏で、こんな広いところで演奏できるかな、と心配だった。クローゼットの中で練習していましたしね。」と話されていた。

 話は変わるが、新日本フィルの“テレワーク”はニュースなどでも取り上げられたので、YouTubeで“パプリカ”をご覧になった方も多いのではないだろうか。筆者もSNSだったか、インターネットだったかでこの話題をみつけ、早速、YouTubeを見た。各セクション別の演奏から始まり、最後には全体演奏になった。クローゼットの中で演奏されていたかどうかは覚えていないが、演奏者の方々の自宅での演奏風景が映っており、こんなレッスン室を持っていらっしゃるんだとか、金管はやっぱり音を出す場所が大変だなぁとか、なかなか興味深く、それぞれの楽団員の方々に親近感も湧いた。

 定期公演の配信でも、会場で客席から見るのとは異なり演奏者に近いところからの映像がふんだんにあるなど、なかなか意欲的な映像で、演奏者への興味がかき立てられた。また、サントリーホールのようにポディウム席のないトリフォニーホールでの、舞台側から客席側を見たアングルなども興味深かった。配信サービスはかなり前からベルリンフィルハーモニーで行われている。現在の状況が配信サービスを広めることになったのは歯がゆいことではあるが、コンサートの配信サービスはこれからも増加しそうであるし、新たな楽しみ方にもなりそうである。

 このコンサートに行って、少しずつではあるがコンサートが私たちのもとに戻ってきた、と感じたのもつかの間、その週末には劇団公演でのCOVID-19感染クラスター発生の報道を聞いた。たいへん複雑な気持ちになった。感染防止に努めながら、コンサートや観劇などが、以前のように日常に戻って来る日を待ちたい。(石渡智秋記)