No.387

News 20-03(通巻387号)

News

2020年03月25日発行
新しいとしま区民センターの外観

池袋に行こう!「Hareza池袋」に新しい区民センター誕生

 最近、豊島区が盛り上がりを見せている。豊島区は5年前から、まち全体が舞台の”誰もが主役になれる劇場都市”を目指して「国際アート・カルチャー都市構想」を推進している。その中心となるのが池袋駅東口から徒歩数分の場所に誕生した「Hareza(ハレザ)池袋」である。Hareza池袋は豊島区の旧庁舎・旧豊島公会堂・旧豊島区民センター跡地と中池袋公園からなる4つの街区が一体で整備されたものである。

 旧庁舎跡地には、低層階にシネマコンプレックス・高層階にオフィスを持つ「Hareza Tower」、旧豊島公会堂跡地には、「東京建物Brillia HALL(豊島区立芸術文化劇場)」が誕生し、旧豊島区民センターは新しい「としま区民センター」に生まれ変わった。またこれらの前に広がる「中池袋公園」もカフェが併設された公園として整備された。これらの内、Hareza Towerを除く3つの街区については昨年11月初めに先行してオープン。そして、この3月にHareza Towerが竣工し、今年の夏にはHareza池袋がグランドオープンを迎える。

新しいとしま区民センターの外観
新しいとしま区民センターの外観

生まれ変わった「としま区民センター」

 ここからはHareza池袋の内、弊社が関わった「としま区民センター」について紹介したい。新しく生まれ変わった区民センターは、昭和44年に建設された旧豊島区民センターの改築と隣接する旧生活産業プラザの大規模改修とが一体で整備された施設である。

 池袋駅からのルート上、このエリアの入口に位置する新区民センターは、エントランスホールに足を踏み入れると、豊島区の魅力やイベントの情報発信をする大型ビジョンが出迎えてくれる。本施設の1階~3階は、Hareza池袋のエントランスゲートとして、インフォメーションセンター、チケットセンター、カフェ、パパママ☆すぽっとやトイレ施設等が備えられ、誰でも利用することが出来る。そして、4階~9階の貸室施設には、多目的ホール、小ホール、スタジオ3室の他、和室、キッチンルーム、大・中・小の多数の会議室等、充実した施設が整っている。プロユースの劇場機能を備えた1,300席規模のBrillia Hallに対して、こちらはその名の通り、区民の方の様々な活動に利用しやすい規模の室が揃っている。

Hareza池袋の地図 (としま区民センターパンフレットより)
Hareza池袋の地図
(としま区民センターパンフレットより)

 この新区民センターの設計・監理は伊藤喜三郎建築研究所、施工(建築工事)は松尾工務店が担当した。永田音響設計は多目的ホール・小ホール・スタジオの音響コンサルティング(室内音響・遮音・騒音防止計画)を行った。(注:Hareza池袋全体のデザイン監修、区民センターを除く3街区の設計はKAJIMA DESIGNが実施。)

活発な活動を支えるための遮音計画

 新区民センター上階には、右図のように多目的ホール・小ホールとスタジオ3室が隣接、又は上下に重なって配置されている。

 多目的ホールは講演会・演奏会を始めカラオケ・ファッションショー・パーティ等の各種催し物に、小ホールはブランスバンド・合唱・ダンスの練習から講演会やカラオケ等の小規模な催し物に、それぞれ幅広い区民活動への利用を想定して設計されたホールである。その周辺には各種の音楽練習に使用できるスタジオが、小ホールと一部のスタジオの直下階には多数の会議室が配置されている。

区民センター上階の貸室施設エリア
区民センター上階の貸室施設エリア

 このように遮音的には厳しい配置条件の中で、各室の同時利用を出来るだけ可能にするよう遮音計画を行った。各室間の高い遮音性能を実現するために、小ホールとスタジオ3室には防振ゴム浮床+防振遮音壁・天井の防振遮音構造を、最上階の多目的ホールについては、防振ゴム浮床+防振遮音壁のみによる防振遮音構造を採用した。スタジオの内、バンド練習等による大音量の発生を想定したスタジオAについては、直下の会議室にも防振遮音天井を採用した。また本建物は鉄骨造であるため、カーテンウォールと各階の床スラブとの取合い部が遮音上弱点とならないような納まりを検討し、隙間を塞ぐ等の対策を行った。

 以上のような遮音構造により、多目的ホール~小ホール間、多目的ホール〜各スタジオ間、各スタジオ間の遮音性能は、いずれもDr-85以上の高い性能が得られた。また、小ホール~直下の会議室に対してはDr-70~75、スタジオA~直下の会議室(防振遮音天井有り)はDr-85の性能が得られた。

様々な利用パターンを想定した多目的ホール

 多目的ホールはバルコニーを持つ平土間形式のホールで、高さが可変の電動昇降式舞台が備えられている。舞台使用時には平土間に最大324席の移動椅子を設置でき、バルコニーの固定席を加えると約400席となる。移動椅子だけでなく、講演会利用時の長机、パーティ利用時の円卓等が備えられるなど、多くの利用パターンが想定されている。また舞台正面には、催し物の演出にも利用できるよう大型LEDビジョンが設置されている。

 ホールの内装には姉妹都市である秩父市の木材がふんだんに使われ、木の自然な色味と椅子や手摺に用いられた黒色とのコンビネーションが印象的な空間となっている。側壁や天井の音響的な反射面はフラッターエコーの防止を意図して折板形状とし、天井についてはその下に意匠性と高音の散乱効果を意図したルーバーが設けられている。バルコニー手摺にも存在感のある意匠のルーバーが設けられており、これらのルーバーは、規則的な配列のリブによる音響障害が生じるのを防ぐため、ランダムな配列となるように繰り返しデザインを検討していただいた。

多目的ホールの舞台
多目的ホールの舞台
多目的ホールの客席
多目的ホールの客席

 また前述のように、生音の催し物から舞台音響設備を用いる催し物まで幅広い利用が想定された本ホールでは、まず、クラシックコンサートなどの生音の演奏会時にも響きを感じられる空間とするため、固定の吸音面は出来るだけ少なくする方針とし、後壁の半分程度のみを吸音仕上げとした。その上で、それぞれの催し物に適した響きに可変するため、サイドバルコニー側壁に電動昇降式の吸音カーテンを設置した。わずかな時間でカーテンを設置/収納して、室の響きを変えることが出来るので(可変幅:0.2~0.3秒/中音域)、催し物に合わせた響きの調整やリハーサル時の響きの抑制等にぜひ積極的に利用して欲しいと考えている。

天井のランダム配列のルーバー
天井のランダム配列のルーバー
サイドバルコニーの昇降式吸音カーテン
サイドバルコニーの昇降式吸音カーテン

利用しやすい規模の小ホール

 小ホールも平土間形式のホールである。2段階の高さに設定できる組立式舞台が用意されており、舞台使用時には最大160席の移動椅子を設置出来る。このホールの内装にも、多目的ホール同様に秩父の木材が用いられ、側壁はランダムな配列の木製リブで仕上げられている。また電動昇降式の吸音カーテン、引戸で隠せる仕様の鏡を備えており、音楽やダンスの練習から各種催し物まで利用しやすいホールとなっている。

小ホールの舞台
小ホールの舞台
小ホールの客席
小ホールの客席
側壁のランダム配列の木製リ
側壁のランダム配列の木製リブ
側壁の昇降式吸音カーテン
側壁の昇降式吸音カーテン

もう一つの顔:子育て世帯や女性を応援する施設

 最後に、音の話からは離れるが、新区民センターの低層階に計画された子育て世帯や女性を応援する施設を紹介したい。

 2階にある「パパママ☆すぽっと」は、新区民センターの特徴となる室の1つで、子育て世帯の外出を応援する施設として計画されたものである。秩父の木材を使って”木の下でほっと一息”つけるようイメージされた休憩スペースは、おもちゃも並べられた和やかな雰囲気の空間で、授乳スペースも用意されている。家族で利用できるおやこトイレ、ベビーカー置場、赤ちゃん用品の自販機なども備えられ、子育ての味方となる施設である。

 その他、2階・3階には数多くのトイレ&メイクルームに加えて、フィッティングルームも用意されている。3階には隣のBrillia Hallからの連絡通路がつながり、トイレを共有できるように計画されている。観劇の際にはトイレの混み具合が気になることも多いもの。混雑を解消するこんな工夫は嬉しい。

 これらの充実したトイレ施設は、設備として整っているだけえなく、”日本一きれいな公共トイレ”を目指して、豊島区が花王とパートナーシップ協定を締結し、きれいに使い続けられる仕組みも整えられた。

 なぜ、豊島区がそこまで? その答えは、実は6年前に遡る。2014年、豊島区は東京23区で唯一「消滅可能性都市」に選ばれてしまった。日本創生会議が2010~2040年に20代・30代の女性人口が50%以上減少すると考えられる自治体をこう定義したのである。この衝撃的な発表の直後から、豊島区は高野区長を先頭にこの問題に取り組んできたという。「子供と女性にやさしいまちづくり」を目指し、保育・子育て環境の質の向上・充実に向けた取り組みは、豊島区の各所で進められている。

パパママ☆すぽっと
パパママ☆すぽっと
おやこトイレ
"日本一きれいな公共トイレ"を目指して
“日本一きれいな公共トイレ”を目指して

話題の絶えない豊島区

 昨年11月、Hareza池袋のオープニグと同じ日、中池袋公園では電気バス「IKEBUS(イケバス)」の出発式と試乗会が行われた。赤や黄色の可愛いデザインのバスは三戸岡氏のデザインで、Hareza池袋・池袋駅・区役所・サンシャインシティなどを結ぶ2つのルートで運行されている。同じく11月中旬には、池袋の西口、東京芸術劇場前の「池袋西口公園」が野外劇場や大型ビジョンを備えた劇場公園「GLOBAL RING」としてリニューアルオープンした。そしてこの春には、造幣局跡地の防災公園、トキワ荘マンガミュージアムもオープンする。楽しい話題の絶えない豊島区に、皆さんも足を運んでみませんか。(箱崎文子記)

IKEBUSの試乗会
IKEBUSの試乗会

としま区民センター:https://www.toshima-mirai.or.jp/center/a_kumin/